「VR×RPG」そして「VR×エロ」が世界を変える!? ──元スクウェア・エニックスの山岸功典&安藤武博が語るゲーム論
2017年にスクウェア・エニックスを退社して、モノビットでVRのRPGを手掛けることになった山岸功典氏と、2015年にスクウェア・エニックスを退社してシシララTVを立ち上げた安藤武博が久々に邂逅! ともに「新しいものが大好き」である2人のゲームプロデューサーが、これまでのゲームプロデュースワークを振り返りつつ、なぜ今新しいことに挑戦するのか、その意義についてを語り明かす対談記事。
後編では、山岸さんが「VRのRPG」を足掛かりに思い描く未来予想図について、お話をお聞きしていきます。

前編はこちら→ 「同人誌的な作り方」が人気作品の屋台骨になる
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山岸功典氏(写真左)
エニックス時代から『スターオーシャン』シリーズや『ヴァルキリープロファイル』といった、名作RPGのプロデュースを手掛けてきたゲームクリエイター。現在はスクウェア・エニックスを退社し、モノビットでVRのRPG制作を手掛けている。

■“エロ×VR”も実現!? 山岸さんがスクウェア・エニックスを退社してモノビットに移籍した理由

安藤武博(以下、安藤):前編ではエニックス、そしてスクウェア・エニックス時代の山岸さんのお仕事についてお聞きしたわけですが、率直にお聞きして、どうしてスクエニを辞める決意をされたんですか? それまでは山岸さんというと、スマホゲームの『ヴァルキリーアナトミア』のプロデューサーをされていましたよね?

山岸功典さん(以下、山岸):そうですね。ただ、元々がコンシューマー屋なので、ソーシャル屋には結局なりきれなかったんですよ。『ヴァルキリーアナトミア』も、企画段階でいろいろ考えているときは楽しかったんだけど、いざ運営に回ったとき、自分としても息が詰まるような感覚があって、あまり向いていなかったんだよね。

安藤:そうだったんですね。

山岸:たとえばソシャゲのプロデューサーって、ガチャの排出率とかを決めて、それによってどういった売上曲線を描くのか……みたいなところに気を配る必要があると思うんだけど、自分はそういうところはあまり得意ではなくて(苦笑)。

安藤:なるほど。ご自身のやりたいこととソーシャルゲームをヒットに導くということが、必ずしも一致しなかったわけですか。

山岸:そんなとき、VRのRPGを作らないかとモノビットに誘われて。モノビットはVR用の「モノビットエンジン」を作っていたりして、こっちの業界ではかなり老舗の部類に入る会社なんだけど。いざ「VRでRPGを作ろう」ってなったときに、RPGを作った経験があるプロデューサーが会社にいなかった。それで自分にお声掛けいただくことになったわけです。
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安藤:RPGとアクションゲームは特有のノウハウが必要ですもんね。作ったことがある人がプロジェクトにいるのといないのとでは、完成度に大きく差が出る。

山岸:単刀直入に言ってしまうと、そのお誘いにとても魅力を感じたわけですよ。スクエニ内で何かいざこざがあったとか、そういったことは一切なかったんだけど、単純に「VRのRPGを作るのって面白そう!」って思っちゃって。最終的には世界を作れるのかも……って可能性を感じたんだよね。

安藤:「世界」ですか。

山岸:極端な話になるけど、「VRのRPG」というのはステップでしかなくて。そのRPGで作り上げたVRのシステムやインターフェイスがあれば、色々な面白いことに応用が効くんじゃないかと思ったんですよ。ゲームのインターフェイスって、子どもからおじいさんまで使いこなせるように意識して作っているだけあって、ものすごく完成度が高い。

VRにとって、RPGのインターフェイスというのは最適な選択肢である可能性もある。だったら作ってみる価値はあるだろう、と。そこから新しい世界を作るのはとても新しいし、楽しそうだなと思ったことが、転職の最大のきっかけです。

安藤:山岸さんは昔から徹頭徹尾、新しいことや新しいものが大好きでしたから、今の理由を聞いてものすごく納得しました。わたしがエニックスに入社した1998年当時に、山岸さんがPDA(※)を使っていたのを思い出します。シャープの「ザウルス」。

(※)PDA……Personal Digital Assistant(Personal Data Assistantと表現されることもある)の略。いわゆる「携帯情報端末(個人情報端末とも)」で、スケジュールやToDo、メモなどの情報を管理できる小型機器。電子手帳よりもカスタマイズの幅は広く、スマホの先駆け的な存在ともいえる。

ようやく個人に携帯電話やデスクトップPCが普及したかなって時代に、PDAをバリッバリに使いこなしていてちょっと憧れたんですよ。打ち合わせの際にはタブレットにタッチペンでメモを書き込んでいく姿に、「おお、山岸さんは未来に生きているな」と思いました。

山岸:PDAとかのガジェットも含め、とにかく新しいことや新しいものが好きなのは昔から変わってないかもね。そこらへんはトライエースの五反田さん(※)とものすごく波長が合って、色々とやりやすかった部分もあった。彼もものすごく新しいもの好きだから(笑)。

(※)五反田さん……五反田義治氏。現在のトライエースの代表取締役社長。『スターオーシャン』シリーズや『ヴァルキリープロファイル』シリーズの制作に深くかかわってきたクリエイターの1人。

安藤:VRって、少し前まではまだまだ未知の技術だったわけですけど、昨年は「VR元年」といわれるほど花が開き始め、今年はより躍進が見られるコンテンツになりました。たぶん、山岸さんはそんなVRをずっと「やってみたいな」って思ってらしたんでしょうね。

山岸:うん、ずっと面白そうだと思ってた。
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安藤:もしかすると、『SO』や『VP』のファンのなかには、山岸さんがスクエニを辞めたことは何か突拍子もないことのように思っている人もいるかもしれませんが、わたしとしてはものすごく合点がいきました。転職はただの結果でしかなくて、まだまだゲームを、それこそまだ誰も作ったことがないようなものを作りたいだけなんですね。

山岸:まだVRの技術って新しいものだし、モノビットも大きな会社というわけではないので、方向性を一点に定めるのではなく、色々なことに目を向けられることも大きいですね。幅が広げやすいというか、興味を惹かれたものはなんでも取り込めるというか。それこそ、VRでエロを作るというのも面白そうだし(笑)。

安藤:山岸さんは本当に雑食というか、貪欲ですよね。興味があるものに対しての食いつき方が半端じゃない。そこがクリエイターとしてかっこいいです。エニックス時代から、よく飲み会とかでみんなと「エロゲーを作ってみたいけど、今の会社にいる限りは無理だよね」って話をしていましたよね。

山岸:してたね、そんな話もね(笑)。

安藤:わたしも、新しいものを開拓していくにあたって「エロ」というものはとても刺激的なものだと思っています。じつは昨年、「R-18のゲームを生放送で実況する」という、ほかのメディアではちょっとやらないこと……というよりできないであろうことに挑戦してみたんですけど。スタジオも見ている視聴者さんも、ものすごく盛り上がったんですよ。「エロゲー」って一括りにされているところもありますが、なかにはコンシューマーでも通用するレベルのしっかりしたシステムやゲーム性を実現しているものもありますし、ゲームというカルチャーにR-18のゲームは確実に寄与しているなと、そのときあらためて感じました。個人的に、山岸さんなら一体どんなエロゲーを作るのかちょっと興味はありますね。

山岸:もしかしたら、本当に実現させちゃうかもしれませんよ?

安藤:そのときはぜひシシララTVで実況させてください(笑)。もちろん、エロだけにとどまらず、山岸さんが手がけた作品が世に出たら、真っ先に出演オファーをさせていただきますけど。
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■“VRのRPG”のインターフェイスが切り開く未来

安藤:じつはわたしたちシシララTVは、これまでにいくつものVRゲームを生実況してきているんですよ。そのうえで感じているのは、思っている以上に身体を動かすゲームばかりであること。遊んでいると腕が上がらなくなったり、目が疲れたりとかして、長時間プレイするのには適していないジャンルだとは思っているんですよ。

あと、長時間遊んでいると「酔ってしまう」リスクもありますよね。RPGというジャンルは、どうしても長時間のプレイが前提になると思うので、ここらへんはものすごく大きな課題として立ちはだかることになるのでは?

山岸:それは間違いないですね。目や身体への負担とか、VR酔いへの対処とかは、最優先で考えなければならない問題です。現在、市場に出ているVRゲームの移動方法って、ポインターを合わせたところに瞬間移動する、いわゆる「ワープ形式」のものが主流だと思うんだけど。

個人的にはこれが最適解だとは思えないんですよ。インターフェイスとして、やっぱり違和感が大きい。それをちょっとRPGっぽいやり口でできないか……とか、色々試行錯誤している段階ですね。

安藤:なるほど。

山岸:ゲームである以上、没入感も重要じゃないですか。もともとRPGはごっこ遊びというか、なりきりプレイを楽しむものなので、VR化するにあたって、インターフェイスはすごくシンプルにしても成り立つんだよね。たとえば魔法を唱えるにしても、ポインターをコマンドに合わせたりして発動するのではなく、目の前の空間に特定のスペルを書いて発動させたりしてもいいわけで。

安藤:それはすごく面白そうですね。VRならではの新しいインターフェイスなのに、なんだかお話を聞いているだけで操作感が思い浮かぶし、違和感なくしっくりくるのがすごい。

山岸:スペルじゃなくて指で特定の軌跡で陣を描いて発動させたり、それこそ「ファイアーボール!」って呪文を口にすることで発動させたりとか、これまでにないインターフェイスを実現したいんですよ。でも、今安藤が言ってくれたとおり、こうやって話しただけで誰もがその操作感を思い浮かべることができる。

それはすなわち、これまで1人称視点で展開していたRPGの戦闘シーンから印象が大きく変わることはないってことであり、VRとRPGの親和性が高いって証明でもあるんだよね。

だから、没入感という問題はいくらでも解決できるし、それによって酔いや疲れが感じにくくなる側面はあると思うんだけど。正直なところ、今のVR機器ではこと疲労を軽減するのは限界があるよね。だって大きいし、とにかく重たいから(苦笑)。
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安藤:ハード側の問題は、さすがに簡単に解決できませんよね。

山岸:でも、おそらくは今年中にでも、ものすごく軽量化したVR機器が発売されて普及していくことになると思っていて。そうなると、単純に負荷は大きく軽減されるから、作り手としては楽になっていきますよね。

安藤:サングラスレベルのVR機器も実現しているようですし、それこそ近い将来、『ソードアート・オンライン』のナーヴギアのように、ずっと装着していても疲れないし、配線などの煩わしさも解消されたモデルは出てきそうですよね。

山岸:きっとそうなりますよ。なので、それを見越したうえでインターフェイスを構築していければベストです。VRのRPGでも違和感なく使えるインターフェイスを作り出すことが出来れば、たとえばみんなで遊べるパーティゲームとかにもすぐに応用が効くし、ほかにもさまざまな分野に利用していける汎用性を持たせられると思うので。
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安藤:先ほど山岸さんは「ゲームのインターフェイスはものすごく優れている」とおっしゃっていましたが、まずはその優れたインターフェイスを構築し、作り上げたものを応用することで、さまざまな技術に転用・拡大させていこうとお考えなんですね。

山岸:そうですね。モノビットがやろうとしていることは、ゲームだけにとどまることではないです。たとえば宇宙飛行士がヘルメットにカメラを取り付けて、それを360度映像としてリアルタイム配信できれば、コンテンツとしてとても需要があるのではないかと。

安藤:自宅にいながらにして、宇宙での生活や眺めを体感できる映像コンテンツですか。それは面白そうです。

山岸:宇宙旅行に2000万円は出せないけど、その疑似体験を1万円でできるとなればぜひやってみたい人間って、世界規模で考えると数百万人規模になると思うんですよ。そうしたコンテンツが全世界で受け入れられれば受け入れられるほど、それだけスペースシャトルの開発費用や発射費用の補填につながるわけだから、人類にとってもものすごく前向きなことなんですよね。

安藤:それを爆発的に普及させようと思ったとき、世界中のどんな人間にもわかりやすいインターフェイスが必要不可欠というのはよく理解できる話です。それをRPGのインターフェイスを発展させて作り上げようというのが、じつに山岸さんらしい発想。山岸さんのプロデュースワークは、そういう次元にまで達しておられるんですね。
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■温故知新!? 山岸さんのVR・RPGで『ドラゴンクエスト』の足跡を歩むことに

安藤:では最後に、山岸さんが今開発を手がけられているRPGの「ゲーム的な側面」についても、可能な範囲でお聞きしたいと思います。やはり、ネットワークを介したMMOのような形態になるのでしょうか?

山岸:最終的にはそうだけど、最初はやっぱりスタンドアローンで楽しめるものから作っていくことになると思います。まずは1人で楽しめるものを作って、そこから少しずつマルチプレイに適したシステムを構築していくことになるかな。

安藤:ソロプレイから始まってマルチプレイへと拡散していく。こうやってお話を聞いていると、なんだか『ドラゴンクエスト』が歩んだ道を、山岸さんはまた最初から歩き直そうとしているのかもしれませんね。もともと、山岸さんは『ドラゴンクエストV 天空の花嫁』にも関わられいるわけですし、その経験が四半世紀を経て新しいコンテンツに帰結するというのは、ものすごく素敵なことだと思います。モノビットは面白い会社になりそうですね。

山岸:たぶん、モノビットはこれからいろいろなところでその名を目にするようになると思うよ(※)。ゲームとかそういう垣根を越えて、さまざまなことに手を広げていこうとしている真っ最中なので。VRというジャンルは、まだそれだけでペイラインを超えるのが難しいというか、先行投資という側面も強いんだけど、ハードウェアの小型化、軽量化が実現したら爆発的に普及していく可能性を秘めているので面白いです。

(※)このインタビューの収録時点ではまったく話はなかったのだが、記事掲載のタイミングで、突然「モリカトロン株式会社」設立の話が発表された。まさに、モノビットがさまざまな分野に手を広げていこうとしている現れといえる。

モリカトロン株式会社……2017年8月16日付けで設立された、日本初のゲームAI専門会社。キャラクターの自然会話を自動で生成したり、武器やアイテムのパラメータを最適な値に自動調整したりするなど、さまざまなゲームAIの開発を手掛ける。代表取締役/モリカトロンAI研究所所長を森川幸人氏が、代表取締役社長をモノビットの代表取締役でもある本城嘉太郎氏が務める。

安藤:モノビットでのお仕事、そしてVRというコンテンツはじつに刺激的ですね。

山岸:近い将来、すべてのスマートフォンでVRが楽しめるようになるのではと考えていて、そうなると市場はいよいよ広がっていくと思うんだよね。今は映像を2画面にして表示しているだけなんだけど、それはスペック的な問題でそうなっているだけ。今後、スマホの性能がどんどん上がっていけばできることはそれだけ増えるわけだから、作り手としても刺激的ですよ。
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安藤:今考えてみると、先ほどから山岸さんが語ってくれていることって、すでに数年以上前に山岸さんが思い描いていた未来予想図に近いんじゃないですか? 昔、山岸さんが飲みながら「未来はこうなると面白いよね。きっとこうなるんじゃないかな」って我々に語ってくれていたことが、着々と実現されてきているように感じます。ようやく時代が山岸さんに追いついたというか……。

山岸:たしかにそうかもね。かなり昔に「やりたいなぁ~」って思っていたようなことが、ようやく実現させられる世の中になってきている感覚はあります。

安藤:そんな時代を迎えて、山岸さんがまだまだ現役にこだわり続けているってところも、わたしにとってはものすごく刺激的ですよ(笑)。山岸さんのような大先輩が、まだまだその才能を枯らすことなく新しいものを貪欲に求め続けている。それを目の当たりにできたことは、自分にとっても意味があることです。率直に言って、「俺も負けてられん!」って燃えてきました。山岸さんのそういうところ、ずっと変わってほしくないですね。

山岸:大丈夫。変わりたくても変われないから(笑)。

安藤:エニックスの先輩に、何よりクリエイターの先輩にこうしてお話しを聞けて楽しかったです。今度はぜひ、生放送でご一緒させてください。本日はどうもありがとうございました!
テキスト:タダツグ(Tadatsugu) シシララTV編集部、電撃編集部などで活動中のゲームライター/編集。生放送にも出演中。いつまでも少年の心を忘れないピーターパン症候群を自認するケツ合わせ系テキスト書き。好きなゲーム:『ニーア』シリーズ、『ヴァルキリープロファイル』シリーズ、『ペルソナ』シリーズ、『パズル&ドラゴン』など多数。

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