安藤:やはり! 戦略的に考えておられるんですね。素材を料理してるとき、切り方とループによって当然、再生した時の音は変わる。それをいっぱい試してみて、「これは空耳に聴こえるな」と思えるものを見つけていくわけですか?
細江:そうなりますね。
安藤:アップされた動画を楽しんでいる人たちは、その細江さんの戦略に見事にハマっているわけですね(笑)。では、曲のドラマチックさで言うとどうでしょう? 細江さんの曲は激しいBPMの曲の中でも必ず緩急があって、力押しだけではないと思っているんです。
通常のダンスミュージックは1回リズムがはけて、そこからバスドラが倍々になっていって、ブリッジが終わってドーンと盛り上がるってパターンがありますけど、細江さんの場合は普通の楽曲に存在するシーンが突如挿入される場合が結構ある。そこが普通のダンスミュージックと違うなと思って聴いていました。緩急のつけ方とか起承転結みたいなことで言うと、何か気を付けたり意識的にやられているのかなと。
細江:アーケードの頃のクセなんでしょうね。アーケードの楽曲って「何分間でループしないといけない」とか、家庭用のスパンとは違ったセオリーがありましたから。
安藤:インカムの中で美味しいフレーズが来る前にゲームオーバーになったりしないようにっていう意味での制約があったわけですね。
細江:制約っていうか、展開を早くしてどんどん回していかないと、このフレーズや曲はずっと聴かれることがないなっていうのが出てくるんですよ。だから、コンパクトに作るクセができちゃいましたよね。
安藤:スペック的にはたくさん流すことができるけど、美味しいところに行く前に終わられちゃったら嫌だしっていうところですね。いわゆる3分間とか1分半とかの中で、起承転結をつけられるクセみたいなのができた。
細江:そうですね。クラブミュージックみたいに長回ししようと思って作っていっても「このフレーズはいらないな」って感じでどんどん切って短くしちゃったりするんですよ。
安藤:クラブ系のイベントとかに行くと、だいぶ長く同じところをくり返すなと思うことがあります。ゲームの音楽に慣れていると特に思います。ゲーム音楽はハードコアやテクノが単純に入ってきたと思わせておいて、実はコンポーザーによって無駄なぜい肉が切り落とされ、プレイに最適な尺でループするように計算されて作られている。これはゲームサウンドならではの進化だと言えそうです。
(後編に続く)
テキスト:風のイオナ(FLOOR25) ゲームと音楽と旅と自転車が好きな東京在住フリーライター&エディター。最近は地下アイドルグループDORCAのプロデューサー業もやってます。
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