「音楽劇ヨルハver.1.2」観劇レポート──罪深きは絶対領域……目を奪われ、耳を奪われ、ココロ奪われ、壊されても本望だ
2017年の2月にリリースされ、間もなく発売1周年を迎えようとしているスクウェア・エニックスの人気アクションRPG『NieR:Automata(ニーア オートマタ)』。全世界で200万本のセールスを達成したこの人気タイトルの世界観をベースにしたオリジナルストーリーが、このたび舞台化されました。それが「少年ヨルハ」と「音楽劇ヨルハ」です。
前回の「少年ヨルハ」に続き、今回は女性だけによる舞台「音楽劇ヨルハver.1.2」のゲネプロレポートをお届けします。

舞台「少年ヨルハ Ver.1.0」ゲネプロレポート──「私は、この舞台で、泣けなかった」
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「音楽劇 ヨルハver1.2」 2月12日夜公演ネット視聴チケット (本編+タイムシフト)

■そもそも「音楽劇ヨルハver.1.2」とはなんなのか?

『ニーア オートマタ』のディレクターであるヨコオタロウ氏が脚本を手掛けたこの舞台「ヨルハ」は、元々『ニーア オートマタ』の発売以前から上演され、キャストや演出を変えながら再演もなされた人気作です。もちろん、『ニーア オートマタ』を知らなくてもなんの問題もなく観ることができますが、知っているとより味わい深く楽しめるのが特徴。下記はそのストーリーラインとなります。

「遠い未来。突如襲来したエイリアンと彼らが繰り出す兵器『機械生命体』によって地球は侵略され、人類は月へと逃れた。人類はアンドロイド兵士を開発して、抵抗軍を組織。長きにわたる戦いが続いていた。

西暦11941年。膠着した戦況を打破するべく、新型の女性アンドロイド型決戦兵器による部隊「ヨルハ」が編成され、地球の前線へと降下した。人類のために地球を奪還する……その目的遂行のためだけに戦う自動歩兵人形の未来とは――?」


なんといっても今回は初の「音楽劇」。その名のとおり、バンドと歌姫たちによる生演奏と生歌が演出として盛り込まれ、とても豪華に物語と融合し、さながらミュージカルと演劇とコンサートのおいしいとこ取りのような構成へと進化を遂げました。
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会場となっている北千住の「シアター1010」は、クラシックコンサートやミュージカルも上演される本格的なホールなので、音響に関しての環境はピカイチです。バツグンの環境で、このうえなく豪華にバージョンアップした「音楽劇ヨルハ」の魅力とは? ゲネプロで確認できた「心奪われすぎるポイント」の数々をここから怒涛のように並べてまいります!!

■目隠し、黒革、ニーハイソックス……この衣装デザインは、かわいすぎる!

幕が上がって真っ先に目が行ったのは、主要キャスト4人が身にまとっているヨルハ部隊の衣装でした。全身黒を基調として、目隠しのゴーグルを装備し、体にフィットするように革でデザインされたそのコスチュームは、ヨルハ部隊を象徴するデザイン。ですが、戦闘で動きやすいように(設定的にはアンドロイドの義体の排熱を効率よく行うために)全員が……ものすごくミニスカートなのです!!

このデザインがとにかくかっこよくて、かわいい! ミニスカートにニーハイソックス……とてもズルい。実際に舞台で見ると、特にスカートの種類や裾の部分にまで細かくこだわりが見受けられて、タイトスカートだったり、フリルだったりプリーツだったり……何を言ってるかわからないと思うが、とにかく言葉じゃ伝わらないから写真を見てくれ!! かわいいは正義です!!
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■個性あふれるそれぞれの「絶対領域」がヤバすぎる!

こんなことを書くとあざといと思われるかもしれませんが、とにかく見ているこちらがドキドキするほど「絶対領域」のオンパレードで、生で見るだけでも眼福、ものすごい満足度に襲われると思います。

衣装の採寸時からメジャーで測るほどこだわり抜かれたという最高のバランスでの「絶対領域」が、劇中ずっと視覚とハートを直撃してきて、女性の私ですら完全に心を奪われました……。全身黒や白の衣装のなかに、そこだけ肌色……人間を模したアンドロイドなのに、生きている温度や命を感じさせる「絶対領域」は究極の演出なのではないか。いや、それは考えすぎなのか……。いずれにしてもズルい、ズルすぎる、ヤバい。
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■そんなかわいい女優たちが大剣や刀を振り回し、銃をぶっ放し、殺し合う殺陣のギャップが素晴らしすぎる!

とはいえ、物語は残酷にして苛烈のひとことに尽きます。戦場という救いのない極限状態のなか、圧倒的な数で押し寄せる機械生命体に、たった数人の仲間とレジスタンスたちとで戦わなければならない……。女性型のアンドロイドがその細い体躯で、大剣を振り回し、刀で切り裂き、銃を撃ちまくって戦う姿はなんともいえず滾るものがあります。

随所で繰り広げられる殺陣アクション。生演奏も相まって息を飲むシーンも……そして涙を誘う場面もありました。
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攻撃してくる機械生命体など、さまざまな役柄を演じるアンサンブルの活躍も見逃せない。当然全員女性なのですが、ダンスはもちろん、力技のリフトにド派手な受け身まで。見どころ満載で、片時も目が離せませんでした。

■エミ・エヴァンスさんと河野万里奈さんの歌声が、生の迫力で涙を誘いすぎる!

そしてあらゆる場面を彩るのが、ハイクオリティな生演奏と歌です。「音楽劇」と冠されるだけあって随所で演奏され、歌われる『ニーア』シリーズの名曲の数々。なんと今回の音楽劇では二号役の石川由依さんや、二十一号役の花奈澪さんが、新たに日本語歌詞を追加してミュージカル的に心情を歌い上げる楽曲も用意されていて、従来のシリーズファンの方にはとても新鮮に胸へ届くことでしょう。
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個人的には『ニーア レプリカント/ゲシュタルト』でも印象的だった名曲「オバアチャン」が聞こえてきた時に、それだけで涙がこぼれそうになりました……。

さらに絶対に絶対に見ていただきたいのが、レジスタンスからアンサンブルまで演者全員勢揃いでダンスを披露する「ガタルカナル」の場面! 四号を演じる田中れいなさんが、モーニング娘。時代に磨き上げられた歌とダンスの実力を遺憾なく発揮してソロ歌唱、それからエミさんや河野さんの歌声も重なり合い、全員で複雑な振り付けを披露して群舞となるこの数分間は本当に本当に圧倒されました!! 指先まで美しく、揃ったダンスは音楽劇の真骨頂ともいうべき盛り上がりをみせます。見逃し厳禁です。
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では、ここからは主要キャストとなるヨルハ部隊の4名について、個人的な見どころをザックリとお伝えします。

■二号……存在感が終盤に近づくにつれ高まり、切なすぎて泣く!

ゲームでは主人公の2Bを演じていた石川由依さんが、物語中では敵として対峙することになる「A2(=今回の二号)」を演じる……このちょっとした違和感こそが、本作最大のスパイスであり、また「ヨルハ」という一種のシステムの本質ではないかと感じました。A2の過去に何があったのかがわかるこの舞台では、おそらくゲームをクリアした誰もが「え? これがあのA2なの?」と思うことでしょう。

やさしく、頼りない彼女がどうして脱走兵と呼ばれ、機械生命体の殺戮を続ける「A2」となるに至ったのか? 終盤に近づくにつれ、どんどんと存在感を増していく彼女の切ない生き様を、どうか目に焼きつけてください。
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■四号……女子高生のようなキュートさと「あれれ~?」ポーズがあざとかわいすぎるのに、最終的にはかっこよすぎて泣く!

キュートで朗らかといえば聞こえはいいけど、ちょっとおバカでなんにも考えてなさそうなのが四号。演じる田中れいなさん本人の持つ雰囲気ともどこかシンクロしていて、特に腰をくいっと上げて相手に顔を近づけ、小馬鹿にしたように語りかける「あれれ~?」のポーズは、もはやあざとかわいすぎて困るほどの破壊力!

スカートのフリルとニーハイのソックスガーターを見せつけるような動きはもう「あ、あ、あざといかわいいあざといかわいい」と壊れた呪文を呟いて頭を抱えるしかないほどにかわいいのですが、それらはすべて、やがて訪れる結末へのフラグとなっていきます……。ただかわいいだけじゃない、何も考えていなかったわけじゃない。彼女のうちに秘めた輝くような「強さ」に触れたとき、あなたはきっと、もっと四号を好きになっていると思います。
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■十六号……ガサツな男っぽさとタイトスカートのギャップに萌え、その粗暴な態度に隠された仲間への想いに泣く!

持田千妃来(ちひら)さん演じる十六号は、キュッと引き締まった胸元のデザインとタイトスカート、そしてボーイッシュさとセクシーさを合わせ持つキャラ。とにかくガサツで乱暴者なのですが、私は彼女のバトルシーンに一番グッときてしまいました。

なんとしても作戦を遂行するため、絶望的な戦況で彼女がとった選択と、それに同意して協力したレジスタンスの仲間たちと……。乱暴な言葉づかいのなかに、隠しきれない優しさと強さがみてとれたから。仲間思いな十六号の戦いは、CG映像を駆使した派手な演出とも合わさって、きっと客席を圧倒することでしょう。装飾が少なく、ピッタリとしたIライン衣装のスマートなイメージもあって、小柄に見える持田さん。しかし十六号として巨大な敵に立ち向かい、大きな銃を構えた時……その姿はひときわ大きく、輝いて見えました。
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■二十一号……冷静沈着な二十一号が胸に秘めた愛情と静かな戦いが、胸を締め付けてきて泣く!

花奈澪さん演じる二十一号ですが、部隊内では情報収集を専門とする後衛のスキャナー型で、唯一武器を所持していません。しかし、彼女の戦いもまた力強く展開していきます。

二十一号が操るのは端末類。見えないキーボードを操り、機械生命体の論理ウイルスやプロテクトと格闘するのです。端末へとアクセスする際の鬼気迫る演技……頭からフードを被っていて尚、指先から、足の構えから、その緊張感や追い込まれる感じがひしひしと伝わってくることに驚かされました。しかも、そんなにかわいくて短いミニスカートを履いているのに、だ!! 
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そして、なんといっても宝塚歌劇団で鍛え上げられたその歌声は、歌唱シーンの状況的な絶望感もあり、もう聞いて、見て、胸を痛めるしかありませんでした。

■そして忘れちゃいけない、レジスタンスの面々がスゴイ!!

まだ書くのかよって言われそうですが、レジスタンスのことも語らねばなりません。衣装に派手さはないものの、そのぶん個性でどんどん迫ってくる感じのレジスタンスメンバー。「ヨルハ」と銘打たれている舞台ながら、むしろシナリオの半分は彼女たちの物語であることに気付かされることでしょう。
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雛形羽衣さん演じる、隊長ローズのたくましさに惚れてください。レジスタンスメンバーを引っ張っていくリーダーらしい強さと優しさが、声音からもびしびしと伝わってくるようでした。

橘杏さん演じるアネモネは、『ニーア オートマタ』にも登場したあのアネモネです。フードの向こうから覗く強いまなざし。言葉少なくとも迷い悩む姿。終盤での絶叫には思わず涙し、ぞくりと背中が震えました。

内田眞由美さん演じるダリアは、十六号との喧嘩っ早い単細胞対決がなんといっても見どころのひとつ。相容れないヨルハと仲良くなれそうな雰囲気を真っ先に観客に感じさせてくれる素敵て大事なポジションでした。

清水凜さん演じるマーガレットはダリアのブレーキ役として、だけどちょっぴり序盤は地味なイメージで。ところが……それゆえの……終盤の……。ローズとのあの場面……ネタバレ控えますが、なかなかに最悪で最っ高でした。

野村真由美さん演じるガーベラは、「少年ヨルハ」でのロータスよろしくコミュニケーション難ありのオタクタイプ。しかし彼女がいるからこそ物語はグッとわかりやすく伝わりやすいのです。ナイスがに股!

黒木美紗子さん演じるリリィは弱虫キャラ。序盤から鬱陶しさとかわいらしさをいったりきたりするのですが、これが本当に絶妙。誰よりも成長を遂げた姿は逞しく、終盤にデイジーの名を呼ぶ瞬間たるや、最高でした。

マリアユリコさん演じるデイジーは、本バージョンの新キャラで登場。失礼ながらなんという軽快な動きかと随所で驚き、終盤では「まさか」と。ある種「あってはならない」活躍ぶりに「それはダメ…つらすぎる…」と客席で素で呟きました。
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■バンカーの司令官&オペレーターズと、赤い少女もあらゆる意味でヤバすぎる!

ヨルハ部隊を指揮する司令官ホワイトを演じるのは、舞川みやこさん。ゲームから抜け出してきたんですか? と言わんばかりの存在感で、白の衣装も眩しい限り。ゲームの時系列に至るまでに司令官にどんな苦悩があったのか、今回じっくりと描かれている。終盤のアレを投げるとこ、最高なので見逃し厳禁です。

そんな司令官の下で働くのは、石川凜果さん演じるオペレーターのフタバと、兼田いぶきさん演じるヨツバ。双子のような2人にも違いはあり、ヨルハ部隊の戦いを通して生じる葛藤が……。疑問を正直に口にするフタバと、思ったことがあっても黙って口にしないヨツバの対比。登場する場面がとても多いというわけではないのに、ラストに鮮烈な印象を残す2人にもご注目を。

そしてそして。あまりにも怪しすぎる2人の赤い少女、鈴木桃子さん演じるタームαと荒井愛花さん演じるタームβは、ただでさえ初っ端から印象強いのに、最後の方はもう印象が強すぎて強すぎてスゴイ。彼女たちの重なり合う笑い声が最高すぎて、夢に出てくるんじゃないかと思うほどに。強烈、ここに極まれり。ぜひこれは生で聞いて、いろんな意味で震えていただきたいです。
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■……というわけで正直な感想は「2回以上観たほうがいい!」です!!

そんなわけで、またお前そんなこと言って天丼ネタじゃないか、と思われるかもしれませんが、ガチでこの「音楽劇ヨルハ」は2回以上観たほうがいいと思います。どうしてかっていうと、もう本当に正直に申し上げると……

「絶対領域に目がいきすぎて、かなりの時間、ストーリーが頭に入ってこなかった!!」

……んです。

だってふとももが! 衣装が! かわいくて!

みんなかわいくてッ!

見るなっていうほうが無理でしょってくらい、かわいくて──!!


歌はスゴいし、ギターもバイオリンもピアノもスゴいし、ダンスもスゴいし!! そんなこんなでうっとり見とれてたら、後半になるにつれて、物語が怒涛の展開で絶望で!!
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そしてゲネプロが終わったあとには、周りの男性陣がこぞって

「ブロマイド……パンフ……」
「ブロマイド買う」
「やべえやべえ」


を繰り返しており。完全に何かのウイルスに感染して、震える手に諭吉を握りしめており。

あ、私、これ知ってる。種類はちょっと違うけど「少年ヨルハ」見たあとの、女性陣の反応だ(にっこり)。

よーし、私もブロマイド買おう。できれば全身写ってる、絶対領域の写ってるやつを。次は二階席から全体見られるかな。当日券もあるっていうし、オペラグラス持参だなー。

そんなわけで、私たちはぞろぞろと物販エリアに吸い込まれていった……。

この日。あまりにも罪深い「ヨルハ」が、またひとつ爆誕してしまったのです。
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じつはこの記事が掲載される2月12日にはニコニコ生放送で有料配信されますので、もし劇場に駆け付けられない方は、ぜひこの配信をみてください。男とか女とか関係ない! 素晴らしいものは素晴らしい。ふとももも、膝も、正義だ!!

「音楽劇 ヨルハver1.2」 2月12日夜公演ネット視聴チケット (本編+タイムシフト)

そして『ニーア オートマタ』から連なる一連の流れを深掘りしたい方には、観劇後の台本とパンフレット購読をオススメします。知っていれば楽しめる、知らなくてももちろん楽しめる。情報の取捨選択はもちろん自由ですが、知れば知るほど深くなるヨコオタロウワールドという名の沼はこれからもどんどん深く、広がっていきそうです。
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そしてこれは予感にすぎませんが、おそらく「音楽劇ヨルハ」はお客さんのチカラと熱量を受け止めて、借りながら、急速に成長するエンターテイメントのように感じました。どんなお芝居だってそうだよ、と言われればそれまでなのですが、そういう常識以上に「そのようなものである」と直感したのです。

ですから、千穐楽にむけてどんどん良くなり、どんどん仕上がって、一体感を増していき、爆発的にスゴいものになっていく……そんな気がしました。ですので、ファンの方には何度も体感して、見比べるおもしろさが生じるような気がします。

いやー、長くなりました。「少年ヨルハ」のレポと読み比べて、私の中にある「熱は熱でも種類の違う熱」の違いを比較していただくのもおもしろいかと存じます。

では、私はレポートを書き終えましたので、これからヨルハブロマイドをアルバムに収める幸せな作戦任務にとりかかります。人類に、膝とふとももあれ……!
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テキスト:サガコ(Sagako) フリーライターときどき小説家。ゲームやアニメ、テレビが好きだけど腐女子にもなりきれず夢女子にもなれず、すべてにおいてハンパな人生を謳歌中。「少年ヨルハ」ではパンフレットのテキストを担当。不思議なご縁で「水曜どうでしょう」関連の書籍も手がけています。
ツイッターアカウント→サガコ@sagakobuta

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舞台「少年ヨルハ Ver.1.0」ゲネプロレポート──「私は、この舞台で、泣けなかった」
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