シューティングゲーム開発の雄・ガルチの魂は消えず!! 新生「ガルチ」の本音を中の人に訊いてみた(前編)
アーケードで一世を風靡した2D縦シューティングゲーム『雷電』シリーズの系譜を引き継ぎ、最近ではNintendo Switchで『RXN -雷神-』を発表。今なお「2D縦シュー」の魅力を発信し続ける開発会社ガルチ。古くからのゲーマーの間では、トレジャーなどと並んで「硬派」で「シューティング」なイメージが強いこのガルチが、この春から新体制となって再出港します。
シューティング開発の分野ではその名を知られたガルチ代表取締役の茶谷修さんが、この体制変更をきっかけに代表取締役の座から退くという点でも波紋を呼んでいるこの案件。

「えっ、いったい、あのガルチに何が起こってるの?」
「茶谷さん、どうなっちゃうの?」

にわかにざわつく界隈……この体制変更と退任劇の真相とは? 退任を決めた茶谷修さん、そして、あとを引き継ぎ代表取締役に就任する貝畑政徳さん両名を直撃し、ここに至るまでの経緯と「新生ガルチ」の未来についてうかがいました。

取材:安藤武博(ゲームDJ) テキスト:サガコ

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面白法人カヤック 代表取締役 CTO
ガルチ 新・代表取締役
貝畑政徳さん(写真右)

ガルチ 元・代表取締役社長 兼 CTO
茶谷 修さん(写真左)


■一度背負っているものを下ろして、グループ全体を見渡したくなった

──茶谷さんが引っ張ってこられたこのガルチは、秋葉原に拠点を構えて約10年。新体制となり、茶谷さんは退任されると聞いてとても驚いているのですが、どんな理由があって今回の人事となったのでしょう?

茶谷修さん(以下、茶谷):いろいろと各方面からご心配をいただいたりもしたのですが、これといった揉めごとやよくないニュースがあるわけではないんです。このお話し自体は、去年の12月に僕のほうから自発的に貝畑さんへ相談しました。

ゲーム業界がすごい勢いで変わっていくなかで、このガルチという会社をどうしていけばいいのか? ガルチが「面白法人カヤック」の子会社になってからちょうど2年。ようやく組織としてうまく動き始めてきて、去年には『RXN -雷神-』も発売できましたし、僕自身もとても手応えを感じているところでした。

──そう聞くと、ますます退任の理由がないように思うのですが……。

茶谷:組織としてうまく機能しているからこそ、会社のなかで新しいことにチャレンジしづらくなっている部分もあったんです。僕個人としてやりたいこと、チャレンジしてみたいこともありますが、それを今、会社のトップとして社内で企画してやり始めるには、バランスを大きく乱しかねない。

だから退任という形で一度自由になりたいと自分から申し出ました。代表取締役という形で背負ってるものを一度全部下ろして、経営者としての立場から見るのではなく、一人の開発者としてやってみたいことを実現しながら、グループ全体を見渡せたらいいなと。

──では、茶谷さんがゲーム開発をやめてしまうとか、そういったことではないんですね。

茶谷:そこは安心していただければと。変わらずこちらの開発チームに参加したり、このスタジオに来たりするんじゃないですかね。まだ何も決まっていませんけど(笑)。

──貝畑さんは、茶谷さんから「辞めたい」というお話が出た時、かなり驚かれたのでは?

貝畑政徳さん(以下、貝畑):びっくりしましたよ(苦笑)。カヤックとガルチが資本提携を結んでまもなく2年となりますが、僕はカヤックからこちらの秋葉原へやってきて、どちらかというと外側からガルチのみなさんを見ながら少しずつ仕事の仲間になってきた経緯があります。

その立場から見てよく分かったのが、茶谷さんはガルチのスタッフにとって精神的な柱だということ。シューティングの名作を数々手がけてきた彼についていきたいという気概で入ってきた社員も少なくないので、彼がトップを退くということは、正直、会社にとっては影響が大きいです。
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──それでも、茶谷さんの申し出を受け入れたわけですよね?

貝畑:ええ。彼のチャレンジ精神もわかるものですから。新しいチャレンジを気持ちよくやってもらうために、ここは前向きに送り出そうと決めました。茶谷さんを中心にして、カヤックとガルチの共同開発で『RXN -雷神-』というコンシューマータイトルも出せた。一緒にひとつのことをやれたという充実感は強いので、そこについてはとても満足しています。

──ガルチのメンバーは茶谷さんの退任劇をどう思われているんでしょう?

茶谷:じつはこの取材日の段階(3月下旬)では、まだ僕の退任について公にしていないんです。3月の末日に伝達することになるのかな。でも、2016年にカヤックにジョインした時にも伝えたんですよ。「ガルチは自分ひとりの会社じゃない。みんなの会社だから」と。あれから約2年で、スタッフそれぞれ、そしてチーム全体にしっかりとした開発力は備わってきたと自負しています。新たなガルチとしてもっともっと上を目指すという趣旨には、きっと納得してもらえるんじゃないでしょうか。

貝畑:ガルチの魂は変わらずに残しながら、新体勢でスタートを図ることになります。そもそも面白法人カヤックは、いろいろことを片っ端からやる変な会社とは思われているけれど、ゲームを開発している会社だとはなかなか認識してもらえていないんですよ。僕はゲーム事業をメインにやってきましたが、なにせほかにたくさんの事業があるので、ゲーム開発を目的に就職したからといって、ゲームだけを作れるわけでもない。

──会社という組織である以上、ゲーム開発志望で入社してきた人も、別のセクションに配属される可能性が出てきてしまうわけですか。
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貝畑:そうなんです。その点でいうと、カヤックで優秀な開発者を採用することに不自由な部分はありました。けれども、今後はガルチというゲームに特化した会社にスタッフを集めることができます。そこにとても期待しているんです。

──ガルチといえば「硬派」な印象があります。そしてシューティングゲームのイメージが強いのですが、これは新体制になっても踏襲していくのでしょうか?

茶谷:その2つのイメージはこれまでのガルチの本質であり、強みであると同時に弱みでもあったんですよ。ガルチはシューティング以外のゲームもRPGもソーシャルゲームも開発しているのに「ガルチ? シューティング特化で、ソシャゲやRPGは苦手なんでしょ?」と思い込まれている側面がある。「ガルチ=シューティング」のイメージが強すぎて、幅広い人材を集められていないのではないかと。だから今回の新体制により、そのイメージから解放されてもっと自由にゲームが作れるようになるんじゃないか……そういう期待は僕のなかにもありますね。

■ゲーム開発者として「聖地・秋葉原」にこだわり続ける理由

──茶谷さんはガルチの創設時から、秋葉原にこだわってらしたんですよね。
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茶谷:ゲーマーにとってはじつに「聖地らしい聖地」なんですよ、アキバって。街自体が刺激的で、広告も街を歩く人ですらまるでほかの街と違う。10年経って、店の傾向が変わったり、海外からの観光客が増えたり、アキバ自体にも様々な変化はありますが、それでもゲーム・アニメ文化の聖地としてのアキバというのは不動のイメージが合って、この街に通うだけで目にして取り入れる情報量がまったく違ってきます。

たとえば「この場所の看板、今度はここの会社がとったんだ」とか「最近、コンシューマタイトルの広告が増えたな」とか、日常的に流行やゲーム・アニメ業界のパワーバランスに触れていられる。これは開発者にとってかなり重要なことだと思うんです。ガルチの設立時からずっとアキバにこだわってきましたし、カヤックと資本提携する際にも、秋葉原からは動きたくないと言い張りました。

──カヤックとしては、それはどのように受け止めたのですか?

貝畑:カヤックの母体は鎌倉にあるので、ゲーム開発も横浜や鎌倉に集約したほうが効率的だという意見もありましたが、今となってはガルチを移すという考えはすっぱりなくなりました。マンガ・アニメ・ゲームが、街に完全に散りこまれているこの場所は、開発者にとってすごく居心地がいい。この街であればたとえば昼間のカフェで、いい大人がNintendo Switchを遊んでいたって白い目で見られることもないわけです。

茶谷:それがもう風景なんですよね、この街独特の。

貝畑:これはいい悪いというお話しではなく、土地柄として当たり前のこと。それを考えると、24時間ゲームのことを考えている開発者にとっては、アキバほど居心地のいい場所はないと思います。

──今のアキバは、手早くて美味しい食べ物がたくさんありますよね。オタクは忙しい。ご飯にあまり時間を使えませんから、これまたアキバ独特の食文化が生まれている気がします。

茶谷:鎌倉や横浜のオフィスに行く機会もありましたが、お昼休みの過ごし方が秋葉原とまったく違うんです。サッとご飯を食べて、そのままゲーセンに行ってクレーンゲームにいそしんだりとかができちゃうのが秋葉原のいいところですね。
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──子どもが給食を急いで食べて、教室を飛び出して校庭に向かうようなものですね。それだけで楽しそうです。

貝畑:アキバは時間の流れそのものが、ほかとは違う気がします。そんななか、開発スタッフは気分に合わせて今日は秋葉原のオフィスへ、今日は鎌倉のオフィスへ……と臨機応変に変更も可能です。もちろんその時の仕事の状況にもよりますけどね。こんなに自由な会社はそうそうないんじゃないかな。ここもカヤック、そしてガルチならではの強みになると考えています。

(新生ガルチが求める人材像とアキバという街そのものの魅力とは? 後編につづく)

後編はコチラ→カヤック×ガルチの新たなるビジョン


テキスト:サガコ(Sagako) フリーライターときどき小説家。ゲームやアニメ、テレビが好きだけど腐女子にもなりきれず夢女子にもなれず、すべてにおいてハンパな人生を謳歌中。「少年ヨルハ」ではパンフレットのテキストを担当。不思議なご縁で「水曜どうでしょう」関連の書籍も手がけています。
ツイッターアカウント→サガコ@sagakobuta

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