美少女×霊×カメラ──和風ホラーゲームの最高峰『零』の思い出【御簾納直彦のホラーゲーム百物語/第2回】
9月に入り、暑さもひと段落してきた今日このごろ。そうは言っても、日中は家に閉じこもって仕事するか、ゲームをするかの二択でしか生きるすべを持てなくなっているインドアライターの御簾納です。
夏の風物詩ともいえるホラー企画ですが、今回は秋の足音を聞きながらお届けしたいと思います。前回はサウンドノベルの始祖とも言える『弟切草』と私の馴れ初めを紹介しましたが、第2回となる今回も『弟切草』に負けないくらい個性的なタイトルをピックアップしてみました。

■人間の根元的な恐怖を刺激してくる『零』の魅力

テクモ(現コーエーテクモゲームス)が産み落とした、日本が誇るジャパニーズ・ホラーゲームの雄『零 zero(以下、零)』です。国内では2001年にPlayStation2でリリースされたタイトル。処女作のヒットを受けてシリーズ化し、続編も多数登場しています。
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本作は、3Dで描かれたマップ内を探索するアクションアドベンチャーゲーム。正直、システムだけでいえば似通ったタイトルは幾つかありますが、『零』シリーズがほかのタイトルと一線を画す部分は、その練り込まれた世界観とゲーム性にあります。

先述していますが、『零』は日本を舞台にしたジャパニーズ・ホラーゲーム。『バイオハザード』のブレイク以降、閉鎖された建物内を探索するアクションアドベンチャーは爆発的に増えましたが、それらはいずれも洋風の世界観をベースにしたものが主流でした。

そんな趨勢のなかで『零』が打ち出した、他の追随を許さない圧倒的な「和の恐怖」。第一作目の『零』は氷室邸という屋敷が舞台なのですが、おどろおどろしさと美しさを併せ持つ、質の高い和風建築の造形には、思わず見入ってしまう凄みがありました。

室内には日本人形がたくさん並べられていたり、絶対に近づきたくない不気味な古井戸があったり、歩くだけで床板が不安な軋み音をあげたりと、すべての演出が「恐怖の喚起」につながっています。

そう、この「恐怖の喚起」こそが『零』の真骨頂。端的にいえば「恐怖の質」が違うんです。洋風ホラーのゲーム性は、どちらかというとイベントなどで「パニックを喚起」することが多く、それがゲームの魅力となっています(例:大量のゾンビが四方から襲ってくる など)。

その点、ジャパニーズ・ホラーたる『零』は違います。霊がそこかしこに存在しているわけではなく、襲ってくるのは(基本的に)要所だけです。ただし、世界観が練り込まれているからこそ、その場を歩くこと自体に恐怖を感じるのです。

古井戸から何か出て来るかもしれない……床音が軋む廊下では、後ろから霊がついてきているのかもしれない……あの角を曲がった先に何があるかわからない……。この「常に心にノイズが走っているような感覚」がたまらない! 舞台の薄暗さなどもあいまって、これぞまさにジャパニーズ・ホラーゲームの到達点とも言える内容に仕上がっています。洋館とは明らかに違った質の恐怖は、スクリーンショットからも伝わってくるはず。
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▲『零』の物語の舞台となる氷室邸。
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▲歩くだけで不気味極まりない……。
『零』の独自性はこれだけではありません。「射影機」と呼ばれる古めかしいカメラが、プレイヤーの命綱であり武器となるところが、じつに新鮮でした。

簡単に言うと、射影機で敵の霊を撮影して倒すことが『零』の基本的な戦闘システムとなります。ニクイのは、ファインダーを覗き込んだ瞬間、一人称視点になるその演出。眼前に迫りくる霊と嫌でも向き合わなければならず、三人称視点での対峙とは質の異なる恐怖を味わえるのです。

ゆらりゆらりと移動しながら少しずつ接近してくる霊の動きはつかみどころがなく、精神的な焦りや恐怖はかなりのもの。しかし、見事霊をとらえ「ZERO SHOT」と呼ばれるクリティカル攻撃を決めたときの爽快感は、筆舌に尽くしがたいものがあります。思わず、「おっしゃー!」と叫んだことも一度や二度ではありません。霊が手強いからこそ、そして死の恐怖から解放され生を実感できるからこそ得られる、確かな手応えですね。
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▲カメラで霊を撮影して攻撃するという斬新なシステムが話題に。
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▲一人称視点で迫り来る霊と真っ向から対峙。この恐怖と、そこから解放されたときの安心感のカタルシスが素晴らしい。
そして『零』といえば忘れてはならないのが、主人公である美少女たち。基本的に、シリーズ通して主人公は女性なのですが、なかでも第一作『零』の主人公たる雛咲 深紅は、いまだにファンが多いシリーズを代表するヒロインです。美しい……のだけれど、触れると消えてしまいそう……そんな危うい透明感を持つキャラクター。幸薄そうな顔も、これまたポイント高し。兄を探すため、単身氷室邸に足を踏み入れるという行動も健気で、応援したくなります。これぞまさに、理想のヒロイン!
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▲『零』の主人公・雛咲 深紅。彼女はシリーズ第三作『零 -刺青ノ聲-』にも登場します。
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▲背後には……。
■『零』と私の思い出

少々鼻息が荒くなってしまいましたが、ゲームの紹介はこんな感じです。そして、私が『零』シリーズを知ったのは、某有名ゲーム雑誌の紹介記事がきっかけでした。

もともと日本を舞台にしたホラーがお気に入りだったこともあり、第一報を読んだ瞬間から『零』には注目せざるをえませんでした。もちろん発売日と同時に購入し、PS2にディスクをセットしてさっそくゲーム開始。予告編などで断片的な内容は把握していたのですが、いざ実際にプレイしてみると、想像以上の閉じた世界が待ち受けていました。

氷室邸を一歩また一歩と進むたびに、じっとりと迫ってくる恐怖感。霊が廊下をすう~っと通り過ぎただけでビクッとしまう。クリーチャーの恐怖とは別質な、少しずつ侵食してくる恐怖とでもいいますか……。

射影機での戦いも、恐怖を助長する要素として機能しています。霊って、姿形があやふやなので、とにかくとらえづらいんです。気がついたら目の前まで迫ってきていたなんてことも一度や二度じゃありません。ビビりますよ、まじで。いきなりドアップの霊が画面を覆い尽くしているんですから……。
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▲階段を登る謎の人物の正体は……?
真っ暗な屋敷内を懐中電灯一つでか弱い少女が歩いている、そんな絵面(えづら)。『零』発売当時、私は実家暮らしだったのですが、ゲーム画面を見たうちの母親が「こんな女の子にお化け屋敷を一人で歩かせるなんてヒドイ」と口にした言葉が、何故か今でも心に残っています。

ま、まあ深紅は、自らの意思で屋敷内を探索していいるので、別に強制的に歩かせてるわけじゃないんですけどね。ただ、ゲームをまったく知らないうちの母親から見ても、『零』のインパクトは凄かったということなのでしょう……たぶん。
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▲プレイヤーに襲いかかる容赦ない恐怖の描写!
本稿執筆のために『零』を再びプレイしてみたのですが、やはり今でもその恐怖感は格別でした。はっきりいって、怖かったです。おもな目的なスクリーンショットの撮影だったのですが、そんな時に限ってドアがガタガタと揺れたり、天井から「ドンドン!」と音が聞こえてきたりするんですよ。おいおい、プレイする前はそんな音してなかったじゃねーか! ご近所さんや突然のいたずらな風には自重してもらいたいものです。

そもそもスクショの撮影……? 射影機じゃないんだけど、う、うん。『零』の霊たちは「撮影」とか「撮る」といった言葉に反応するんですかねえ。いや、考えるのはよそう。頭がおかしくなりそうだ……。

最後は変な感じになってしまいましたが、『零』シリーズの魅力を少しでも多くの人に知ってもらえたらうれしいです。

ちなみに本シリーズは、2014年9月にWii Uでリリースされた『零 濡鴉ノ巫女』を最後に新作が発売されていませんし、過去作のオンライン配信もないので、現行機でプレイする手段もありません。ファンとしては寂しい状況ではありますが、海外では『FATAL FRAME』というタイトルでリリースされ、世界中でその名を知られている大人気シリーズなので、何かしらの新作が準備中であることを期待したいところですね。

それでは、今回はこのへんで!
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▲筆者の私物の『零』シリーズを並べてみた。Xboxの『FATAL FRAME』は『零』の海外でのタイトル。ニンテンドー3DSの『心霊カメラ』は『零』と世界観を共有する外伝的な作品となっています。

テキスト:御簾納 直彦(Misuno Naohiko) 1981年生まれ。文章を書いたり写真を撮ったり動画を編集したり、最近は興味のあることはなんでもやってる自由人。一番の好物はホラーゲーム(特にJホラー)だが、斬新さを感じるものであれば基本的に雑食。あと最近涙腺緩めで、すぐに泣く。

ツイッターアカウント→御簾納 直彦@MisunoNaohiko

第1回目のコラムはコチラ→『弟切草』