舞台「君死ニタマフ事ナカレ零_改」赤から見るか? 黒から見るか? ──『ニーア』シリーズのファン視点からバカ正直な感想を書いてみた
ブラッディ・クリスマスが今年もやって、狂う──。
オハヨウゴザイマス!! 「冷静にお芝居やコンサートの取材メモをとる」……そんな特殊能力がそろそろ発動してほしい、ライターのサガコです。今回の記事では11/29~12/9まで、渋谷の劇場「CBGK シブゲキ!!」で公演中の舞台「君死ニタマフ事ナカレ零_改(以下、君死ニ零_改)」の、ゲネプロ観劇レポートをお届けしたいと思います。ちなみに冒頭の元気な朝の挨拶は、観劇された方であれば、どんなテンションで発声すればいいかおわかりいただけると思います。
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■そもそも「君死ニ」って、どんなお話? 「笑いあり、涙ありの青春群像劇です」ってヨコオさんが言いました

さて、まずはカンタンに舞台「君死ニ零_改」の成り立ちについて、少しおさらいしておきましょう。

くわしいストーリーにはあえて触れずにおきます。何も知らない、いわゆる「ミリしら」の状態で見に行っても、まったく問題なく楽しめる舞台ですので、予備知識はなくても構わないかなと思います。

あえてアドバイスをするとすれば、登場人物がちょっと多めです。そして名前やコードネームがやや複雑な響きのキャラもいます。公演前にパンフレットをサラリと読んで、ハジゾメやクチバ、潤(うるみ)や洗柿(あらいがき)などの名前を目にしておくと、本番で耳にする名前の響きと表記が一致して、結果的に感情移入しやすくなるかもしれません(と、サラリとパンフレットをオススメする販促)。
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さて、舞台「君死ニ零_改」は、現在もビッグガンガンで連載中のコミック「君死ニタマフ事ナカレ(君死ニ)」の前日譚となる物語です。とはいえ、コミックを読んでいない人でもばっちり楽しめます。むしろ、この舞台をきっかけにコミックを手に取る……そんな逆輸入もオススメです。

タイトルに「改」とついているのは今回の舞台が再演であり、エンディングの追加なども含めて、さまざまな部分がバージョンアップしていることに由来しています。

原作は『ニーア』シリーズや『シノアリス』を手がけたヨコオタロウさん。音楽には同じく『ニーア』シリーズや『シノアリス』のコンポーザーである岡部啓一さん(MONACA)。そして演出は『ニーア オートマタ』と同じ世界観でつづられた舞台「音楽劇ヨルハ」などを手がけてきた松多壱岱さん。豪華な主要スタッフに加え、しかもキャスト陣にも「少年ヨルハ」や「音楽劇ヨルハ」に出演したメンバーが多数集結しているとあって、『ニーア』ファンやこれら「ヨルハ」の舞台のファンには、とくにたまらない要素がてんこ盛り。 
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舞台を見てからコミックを読むもよし、コミックを読んでから舞台を見るもよし! ヨコオさんいわく「笑いあり、涙ありの学園青春群像劇」ということでした!

そう、「笑いあり、涙ありの学園青春群像劇」!

……「笑いあり、涙ありの学園青春群像劇」……?

一応そういうことにシ…………して、いいんでしょうか?
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■『ニーア』シリーズや『シノアリス』の楽曲があちこちに! 繋がっているのかいないのか……妄想がはかどりますなあ!

普通にご覧になってももちろん楽しめる本作ですが、ヨコオさんが関わっているこれまでの作品に触れている方にとっては、いろいろと気になる要素が随所に散りばめられています。

まずは先にも触れましたが「キャスティング」です。

「少年ヨルハ」と「音楽劇ヨルハ」を知っている人にとっては「おっと、「ヨルハ」であの役だった人が、今回はこの役で……これは既視感といえばいいのか、なんといえばいいのか……」という点がところどころに見受けられるのです。
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何も明言されていませんので、もちろん妄想でしかないかもしれないし、でもそうじゃないかもしれないし……一度考え出すとわりと気になって、なんだか心がザワザワする感じを味わうヨコオファンも少なくないのでは。

それに輪をかけるのが、使用されている楽曲です。『ニーア』シリーズや『シノアリス』の楽曲が演出に多用されているので、知っていると「あ、この曲…!」って、これまたソワソワしちゃうはず。物語の中ではソシャゲにドハマりしているキャラも登場し、過剰に詳しくゲームのことに触れるシーンもあったりして、メタすぎる楽しさに会場から笑いが聞こえてくる瞬間もありました。

個人的なことを言えば、私は『ニーア』シリーズの楽曲を聞きすぎているあまり、知ってるイントロがかかった瞬間に『ニーア』や「ヨルハ」の舞台を思い出してしまって、頭のなかが大忙しでしたよ。

そして何よりも気になるのは、やはり世界観設定です。特殊な能力を引き出された少年少女たちが刀を振るったり、超能力で遠くのものを動かしたり、バリアを張ったり、索敵したり……似たようなことを、まったく時代の違うあの作品でも別のキャラがやっていたような? だけどあれは魔法だったっけ? 似たような言動や行動をしていたような? いやいや、シンクロしているようだけど、でもアレはアレだし、コレはコレだし……?

作品についての知識がある人ほど、そんな感じで「まさか」と「ひょっとして」がいったりきたりするのを楽しむことができる……こんな舞台、なかなかない!
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■再演の今回追加された、新たなエンディング。「Black」と「Red」のどちらを見れば?

とはいえ私個人は作品同士の関係性ではなく、ただ純粋に「君死ニ零_改」というこの舞台と世界に圧倒され、魅力を感じました。始まる前には「舞台の「ヨルハ」であのキャラを演じてた〇〇さんが、今回はこのキャラだから~」などと細かく考えていたのですが、実際に幕が開いてみれば、そういう考察の部分がものの見事にどこかへ吹っ飛んでしまったのです。それほどにハードで、暴力的な引力を秘めた舞台でした。

本作は「Black END」と「Red END」、2つのエンディングが用意されていることも話題を呼んでいます。この黒と赤の物語は、大枠こそ同じものの、細部の展開や結末がそれぞれ異なるわけですが、正直なところどちらから見ても問題ないと思います。
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片方を見終えると、それはそれとしてきちんと完結しているにもかかわらず「もう片方がどうなってるのか気になる!!」という状況に陥ることになるでしょう。そして2つとも見比べたあとには「えっ……もう1回あっちのほうが見たい。今なら別の視点から見られそうな気がする」と、最初に見たほうを再び見たくなると思います。いやあ、上演期間が長くて、当日券も出ててよかったなあ。千穐楽をニコ生で中継してくれて助かるなあ(ダイマ)。

舞台「君死ニタマフ事ナカレ 零_改」12月9日12時~ RED END
舞台「君死ニタマフ事ナカレ 零_改」12月9日16時30分~ BLACK END

チケットを購入しておけばタイムシフト視聴もできるようなので、自分のペースで「君死ニ零_改」を楽しんでみてください。
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■ここから先は、私の包み隠した感想文をお届け!

※注意※
少し本音と湿度が高めの文章なので、ニガテな方は注意しながら読み進めてください。


さて、私は2日に分けてゲネプロを拝見させていただきました。上演時間が長いとかそういうことではなく、「週末の劇場で、立て続けに黒と赤の2公演を見るとなると、HP(体力)はともかくMP(精神力)が尽きるだろうな」と感じました。

世界観もさることながら、物語の後半が勢いがありすぎて、率直なところ「しんどい」のです。休憩もなければ、容赦もない。初演、再演と見てきた身からしても、今回が劇場の規模的にもシナリオの密度的にも相当キツいと感じました。
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おかしな日本語を使ってもいいといわれたら、正直にこう言いたい。

「しんどみがしんどすぎて、つらみがひどい」。

よくこんなにも全方位に向かって酷い話にしてくれやがってー! と、原作の人をロッカーに入れたい気持ちが沸々とわいてまいります。

そうやって強い感情を覚えるほどには、登場人物達に入れ込んでしまうような内容でした。それだけのお芝居、それだけの舞台を、演者とスタッフのみなさんが作り上げてらしたのではないかなと思います。
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とくに今回、私が心を動かされたのは自衛隊の面々です。昔よりも歳をとって、大人になったぶんだけ大人のキャラクターに目がいってしまうという側面は否めませんが、まるで現代社会への皮肉も込めたかのような彼らの半端な立ち位置には、多くのことを考えさせられました。
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物語が進むにつれ、研究者の蘇芳にしても、中間管理職にあたる赤住にしても、千草にしても、洗柿にしても、彼らなりの理屈はあって、たとえそれが狂っていたとしても「それほど間違っていないんじゃないかな……」という感情で見てしまうようになっていく。だんだん自分の中にある「規範」がぐらついていく感覚に、たまらなく精神力を削られました。

そんななかにあって、特筆すべきは教官の新橋だと思うんです。大人たちの狂った思惑が交錯するなかで、生徒たちを守ろう、せめて正しくあろうとする。

比較的シンプルで、素直な役割を担っているキャラクターだからこそ、ラストがとてつもなく切なくて「しんばしせんせええええええええええっ!!」って叫びたくなりました。
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あとはですね……学生の面々についてはもちろん、演者のみなさんの飛び散る汗や涙、唾液まで見ていただきたいという思いでございます。客席と舞台の距離感が近いので、ライティングを受けての「汁感」がよく見えて、これがたいへんよいなと感じました。

待って待って、ナニ言ってるのと思わずに聞いてほしい。しるかん、汁感ですよ。

「ヨルハ」の舞台の時、演者のみなさんはアンドロイドでした。どこまで感情が発露しても「アンドロイドであること」自体が切なさであり、物語のアクセルであると同時にブレーキでもありました。
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ですが今回のキャストが演じるのは生身の人間……終盤に近づいて追い込まれるにつれブレーキが完全に壊れていくような実感がひしひしと伝わってきます。全身を使って「生き」、全身を使って「死ぬ」――演技の強度がそのまま「汁感」で伝わってくる印象です。汗も出る、涙も出る、唾液も飛ぶ……綺麗も汚いも、全部含めての「汁感」。見えない血が見えてしまうかのような、体液の輝きがリアルです。

終盤のアクションシーンほどこれがすごくてすごくて……あ、今、ふと冷静になってしまった。すまない!! 本当にごめんなさい!! フェティッシュ&HEMTAIみたいなコメントで本当に申し訳ないと思うけれどもだ!! でもそういうところまで含めて見える距離感だからこそ、ナマの芝居ってホントに誤魔化しがきかなくて魅力的なものだと思うんです。
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男前くんの顔がぐちゃぐちゃに歪んで叫びたてる場面も、美人さんの顔が醜いほどに歪んで苦しむ場面も、アクションする爪先からパッと一瞬だけ散る埃の光に至るまでも……何もかもはそこで彼らが生きているからこそのもの。だって死んだら全部止まって、冷たくなってしまうんだもの。舞台上で遠慮もなくいろいろなものがほとばしる姿は、本当になんともいえない「生」への執着とみっともなさであり、だからこそ、とても美しいものでありました。

随所の戦闘アクションもじつに見ごたえがあるので、ぜひ演者の本気を細部まで見逃さないでください。 

そして演者の本気という意味では、私はおそらく「本気」に触れないまま、この記事を書いている気がします。職業柄仕方のないことですが、私が鑑賞したのはゲネプロでの取材枠です。もちろんみなさんプロですから、ゲネプロもどの公演回も「本気」で臨まれている。ですがやっぱり芝居というのは公演の回数ぶんだけ成長したり、都度都度で揺らぎがあるものだと思うのです。

演じれば演じるほど、重ねれば重ねるほど、きっと見えてくるものがあって、それこそ上演中の約2時間半のなかでさえ、リミッターが外れるタイミングというのが演者さんごとにあるのかな、と。
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そしてそういう要素によって化学反応が起こり、公演そのものが「今日はとくにすごくよかった!」という形に仕上がることもまたあるのかな、と。私はお芝居素人なので推測しかできませんが、多分もっともそのような極みに到達する可能性が高いのが千穐楽、いわゆる楽日なのではないでしょうか。ですので、楽日のニコ生中継はぜひオススメしたいです。初日をご覧になった方なら、いろんな成長、いろんな進化を発見できるかもしれませんから。

最後に。書くべきか迷いましたが、賛否があるかなと感じたのは音楽についてです。前述したとおり、ゲームの楽曲が多数使用されているので、曲が流れた瞬間にゲームのイメージが頭をよぎり、芝居への没入感を削がれる人もいるのではないかと。

「ヨルハ」に『ニーア』シリーズの曲が使用されていたことについては、世界観の繋がりを意識できているので拒否反応はありませんし、理解が及びました。ですが、私の場合は今回、ゲームが大好きな自分の強い気持ちや知識、思い出が仇となった形といえます。目の前の「君死ニ零_改」に入り込みすぎるあまり、『ニーア』と『シノアリス』の音楽がノイズとして感じられてしまい、音と情景を切り分けるのに少し時間を要しました。
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無論、私のようなゲーマーばかりが「君死ニ零_改」を見に来るわけではないでしょうから、少数派の意見かもしれません。逆に『ニーア』の曲が使われていてうれしい、『シノアリス』の曲や話が出てきてうれしい、という方もいらっしゃると思います。

ただ、私は「君死ニ零_改」そのものを好きになればなるほど、ぜひ『ニーア』や『シノアリス』から離れた独自の楽曲演出で、「君死ニ零_改」の閉じた世界観をがっつり味わいたいなという気持ちが強まりました。

いずれにせよ「これは『ニーア』じゃないからいいや」とか「演者さんは同じだけど「ヨルハ」じゃないからいいや」という感じでスルーしている、ヨコオ作品のファンの方がいらっしゃいましたら「もったいないから!!」と全力で袖をつかみ、渋谷の劇場に向かってダイレクトに放り投げるスタイルでもってオススメしたいと存じます。

ぜひ、哀しすぎるブラッディ・クリスマスを存分に味わって、打ちのめされてくださいね。
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テキスト:サガコ(Sagako) フリーライターときどき小説家。ゲームやアニメ、テレビが好きだけど腐女子にもなりきれず夢女子にもなれず、すべてにおいてハンパな人生を謳歌中。「少年ヨルハ」や「NieR Orchestra Concert 12018」、そしてこの「君死ニタマフ事ナカレ零_改」でパンフレットのテキストやインタビューを担当。不思議なご縁で「水曜どうでしょう」関連の書籍も手がけています。

ツイッターアカウント→サガコ@sagakobuta
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