安藤:今の話を聞いて、ちゃんと自分たちが楽しいと思えるもの、こだわりを盛り込んだもので世界と渡り合いたいというのが、いかにも福士さんらしいなと思いました。
福士:それこそが根っこというか、大切にしていきたいところですね。自分たちが笑えないと何も意味はないというか。むしろそうじゃないと、真の意味で楽しいエンターテインメントなんてできないんじゃないかと思います。
安藤:楽しいもの、笑えるもの、好きなものだからこそのめり込めるというのは、福士さんはすでに体現してこられてますから。説得力がありますね。ただ、それをさらに下の世代に継承していこうと思うと、なかなかたいへんだとも思いますけど(苦笑)。
福士:簡単じゃないですね。我々世代と今の若者世代では、そもそも触れてきたコンテンツからして違いますから、そこから学んでいることも全然違いますし。じつは最近、爆発的にブレイクしているジャンプの『鬼滅の刃』という作品があります。その主人公である竈門炭治郎(かまど たんじろう)というキャラクターは、どんな逆境でも挫けずにひたすら前を向き続ける、今の時代にはとてもめずらしいタイプの主人公で、僕はすごく好きなんですよ。
安藤:ひと昔前のジャンプ主人公って感じですね。
福士:この前、スタッフたちを集めて「炭治郎のような精神でクリエイターになれば、お前たちは無敵のクリエイターになれる! そんな気持ちで仕事に取り組んでもらえるとうれしいです」と標語を出したら、1人辞めました(苦笑)。
安藤:ええっ! そうなんだ……。
福士:責める気持ちはまったくないですが、僕なんかは物語の主人公にひたすら憧れて、彼らのように強くなりたくて、その背中を追いかけて生きてきました。何か辛いことがあっても「たしかに今はキツイけど、星矢たち青銅聖闘士(ブロンズセイント)は絶対に勝てないというレベルの差がある黄金聖闘士(ゴールドセイント)にがむしゃらに立ち向かっていった。俺もこんなところで負けるわけには絶対にいかない」って、歯を食いしばれたりしたんです。
安藤:そうですね。我々世代が触れてきた主人公たちは、才能に恵まれていようがいまいが関係なく、みな壁にぶつかっても弱音を吐かずに努力していました。それがエンターテインメントの柱だった。たいして、最近のエンターテインメントは最初から主人公がチート級の強さを持っていたり、異世界に転生することでいきなり能力に覚醒したりと、逆境に直面しても歯を食いしばって耐え抜く描写は少ないですね。
「人生とは自分で勝ち取っていくものなんだ」という、我々がかつてマンガやアニメ、ゲームで教えてもらったことに、今の若者たちは触れたくても触れられない可能性がある。となると、それを理解してくれというのはなかなか難しい話ではありますね。
福士:まさにそのとおりだと思います。修羅場をくぐっている人間たちの会話って、それを聞くだけでしんどい人もいるようですし。でも、実際のところ世界はそんなに優しくはないし、残酷なことだってめちゃくちゃある。そこで危機に直面したときに、諦めても何も生まれない。歯を食いしばって、ピンチの時こそニヤリと笑って立ち向かったり耐え忍んだりしていくしかないじゃないですか。
そういうことを、僕たちはアニメやマンガで教わってきましたから。この考え方は古いとか、流行じゃないと言われるかもしれませんが、今一度エンターテインメントで「逆境を乗り越えていくカッコよさ」を伝えていくことも、僕たち世代の使命なのかもしれませんね。
安藤:音楽やファッションだってそうですけど、いずれは一周回って今古いと思われているものにスポットが当たる瞬間は来ると思います。我々はブレずにやっていくことしかできませんよね。少なくとも、福士さんには自分が楽しいと思えるもの、やりたいことを貫きとおしてもらえればと思いますよ。
福士:そうですね。僕にはそれしかできませんし、ずっとそうやって生きていくつもりです。
安藤:今日はお話が聞けて楽しかったです。本当にありがとうございました!
テキスト:タダツグ(Tadatsugu) シシララTV編集部、電撃編集部などで活動中のゲームライター/編集。生放送にも出演中。いつまでも少年の心を忘れないピーターパン症候群を自認するケツ合わせ系テキスト書き。好きなゲーム:『NieR』シリーズ、『ヴァルキリープロファイル』シリーズ、『スターオーシャン』シリーズ、『メギド72』など。
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