場所も時代もバラバラな偉人や英雄が集う異世界「メモリア・テラ」で、軍を率いるプレイヤーたちが世界統一をかけて戦うリアルタイム戦略シミュレーションゲーム『異世界で始める偉人大戦争(通称:いじばと)』。シシララTVでも実況プレイをお届けするほどのめり込み、応援してきたこの作品が、ゲームタイトルを『超偉人大戦(すーぱーいじんたいせん) ー異世界で始める偉人大戦争ー』に変更するという衝撃のニュースが飛び込んできた。
群雄割拠の戦場でプレイヤー同士が争ったり、同盟を組んで同じ道を歩んだりするのが楽しい本作。偉人たちのなかに史実と性別が逆転した美少女武将が登場したり、プレイヤーを見守る女神たちといきなり「野球拳」を楽しめたりと、カオスな世界観が大きな話題を呼んだ本作。
そんな『いじばと』が、リリースから1カ月半であえてタイトルを変更するという……。前代未聞の舵の切り方に、はたしてどんな意図が隠されているのか? 気になって仕方がなくなった我々は、本作の仕掛け人である伊藤ディレクター(以下、伊藤D)への直撃取材を敢行。結果、「本作がこのような“カオスな状況”を生み出すことになったのは、ゲームを手掛ける伊藤Dその人の個性によるものである」と強く認識することになる……。
そこで今回は、そんなカオスな取材模様をドキュメンタリー形式で、2回に分けて掲載することにした。前編では、伊藤Dがパチスロから受けたインスピレーションが、ゲームそのものに影響を及ぼしていくお話が展開してするのでお楽しみに!
■取材の待ち合わせ場所はパチンコホール!? 伊藤Dの常勝理論
伊藤Dに取材交渉を行い、待ち合わせ場所に指定されたのは都内の有名なパチンコホールだった。……取材の待ち合わせでパチンコホール? 思わず、届いたメールを2度見する状況、半信半疑で向かってみると……いたいた。『真・花の慶次2 漆黒の衝撃』のシマに、見慣れたあの人がいたーッ!
──伊藤D、お疲れ様です。今日はお時間をいただきありがとうございました。取材のほう、ぜひよろしくお願いします。さっそくですが……。
伊藤D「あ、ごめんなさい! ちょっと今は話しかけないでもらえますか? 大事なところだから集中力を乱されるのは困るので……ホントにごめんなさい!」
──えぇ? あ、そうなんですね。こちらこそ邪魔をしちゃってすみません!(汗)
どうやら、今は連チャンがかかった真剣勝負の局面である模様。仕方なくホール内をぷらぷらしながら待つこと30分。伊藤Dが満足気な顔をして声をかけてきた。
伊藤D「いや~、申し訳ありませんでした。おかげさまで「一騎駆RUSH」で負債を取り戻せましたよ。今日は『ディスクアップ』が振るわなかったので、一か八か『黒慶次』に座って正解でした。座って30回転で赤保留からキセル予告が来ましてね~。それがストーリーリーチに発展して……(中略)……最後はなんとかマクれたんですよ! やっぱり『黒慶次』はサイコーです」
すでに「ひと仕事終えたった~」と満足げな様子の伊藤D。ホールから移動しながら、トークは「連チャンを伸ばすためのマイオカルト」に発展しそうになったのだが(ある意味興味深い)、しかし、我々が聞きたいのはそんなことではなかった。
ちなみに、伊藤Dのパチンコ・パチスロ収支は黒字とのこと。得意の目押し力を生かし、『ディスクアップ』でビタ押しを決めて勝利を手にしている模様。Twitterでパチンコ・パチスロの収支も報告しているので参考までに。
伊藤D Twitterアカウント→伊藤D@ItoDiskUpper
──勝利の余韻で興奮しているところにすみません。今日は伊藤Dに「なぜ『いじばと』のタイトル名を『超偉人大戦(すーぱーいじんたいせん)』に変更することになったのか」、そこらへんを聞かせてもらいたくてアポを取ったんです。
伊藤D「そうでしたそうでした。だからわざわざパチンコホールに来てもらったんでしたね」
いやいやいや、すでに意味がわからない! なんでゲームのお話を聞くのにパチンコホールが待ち合わせ場所なのか? こんなこと、17年目に突入した自分のライター人生でも初めての経験である。
伊藤D「そんなに「ワケがわからないよ」って顔をしないでください。某機種なら低モード濃厚な挙動……って、その話はもういいか(笑)。そもそも『いじばと』の最初のタイトルである『異世界で始める偉人大戦争』は、僕がパチンコホールで思いついたものなんです。それどころか、ゲーム性にも大きな影響を受けているので……『いじばと』の因果はある意味、あそこから生まれているんですよ」
──あっ、そうだったんですか。そこからお話を聞かせてもらえるならありがたいです。仕事に煮詰まったからリラックスがてら遊戯しに来たら、ふっとアイデアが浮かんできたとか、そんな感じですかね?
伊藤D「ああ、まさにそんな感じです。仕事でボロボロに打ちのめされて、泣きそうになりながらパチスロを打っていたら、僕に女神が降臨したんですよ」
──微妙に話が重くないですかそれ。リラックスとかそんな雰囲気じゃないような……。
伊藤D「順を追って説明しますね。そもそも『いじばと』は最初は『いじばと』ってタイトルですらなくて。『俺は英雄王になる』というタイトルでクローズドβテストを行ったんですよ」
──ごめんなさい。それ、番組で聞くまで初耳でした。
伊藤D「知らないのも無理はないですよ。だって、人が全然集まらなかったんですもん。どれくらい人がいなかったかって、公式Twitterで“このツイートをRTしてくれた人のなかから、抽選で300名の方にギフトカードをプレゼントします”というプレゼント企画を実施しても、ぜんぶで130RTくらいしかされなかったほどヤバかったです」
──結果的に全員プレゼントになっちゃったわけですよね。あまり広告の意味がないというか……(汗)。
伊藤D「ええ、もう本当にからっきしで。あまりに人が集まらず、会社の上層部からは“いったいどうなっているんだ!?”と問い詰められる毎日でした。かなりしんどい時期が続いたんですよね」
『俺は英雄王になる』のCBT失敗という大きな逆風にさらされた伊藤D。しかし、自身はそのゲーム性に確かな手ごたえを感じていたという。
伊藤D「そもそも僕は昔からシミュレーションゲーム(SLG)が大好きなんです。コーエーテクモゲームスさんの歴史SLGシリーズや『シヴィライゼーション』シリーズ、オンラインのSLGまで、今までにさまざまなタイトルを遊んできました」
──そんな伊藤Dの目から見ても『俺は英雄王になる』は商品として手ごたえを感じた……そういうことですよね?
伊藤D「ええ。現在進行形で、歴史もののSLGが好きな人ならばっちりハマれる要素が盛り込まれていると確信しています。しかし、ゲームっておもしろいだけではなかなか浸透しないんですよね……。何かフックになるポイントがないと、市場に出したところで人の目に止まらない。これはマズイぞと思って、現実逃避に向かったのがパチンコホールだったんですよ」
──現実逃避!? 今、現実逃避って言いましたか? 新しいアイデアを探しにいくとか、そんなことではなくて、現実逃避でパチンコに!?
伊藤D「ああ、アイデア出しとかそんな感じで言ったほうが体裁がいいですかね? じゃあ、アイデア出しってことでいいです」
──いやいやいや、記事の体裁ってそんなあけすけな(笑)。
伊藤D「実際、あの頃の僕は本当に打ちひしがれていまして。そんな僕に、ある日女神が微笑んでくれたんですよ。『Re:ゼロから始める異世界生活』という台に登場する、レムって女の子なんですけど」
『Re:ゼロから始める異世界生活』。長月達平氏によって執筆されているライトノベルで、コミックやアニメ、そして映画もヒットした人気コンテンツであり、昨年にはパチスロ化もはたしている。とりわけ、主人公のスバルを献身的に支えるヒロインの1人・レムの人気はすさまじく、記事を読んでいる読者のなかにも彼女のファンである方は少なくないのではないだろうか。
伊藤D「忘れもしません。どん底だった僕が白鯨攻略戦に勝利したとき、ボタンプッシュでレムが口にした「ごちそうさまです♪」のひと言。あのセリフ、そして「ゼロからっしゅ」中の彼女の笑顔に、会社から詰めに詰められてささくれ立っていた僕の心がどれほど救われたことか……(遠い目)」
──は、はぁ……。むしろそれだけ詰められながらパチスロに通う伊藤Dの心臓も、なんだかんだでそれを許容する会社もスゴいと思いますけどね……。
伊藤D「そこからあれよあれよとメダルが出て、心も懐も温かくなった僕は閃いたんです。“そうだ、「俺は英雄王になる」にもかわいい女の子を出せばいいんじゃね?”って。まさに天啓……例えるなら、白鯨を倒したときのボタンが降りてくるかのごとしでした」
──例えがわかりづらッ! 整理すると、『リゼロ』のレムに癒されたからゲーム内にかわいい女の子を実装しようと思ったわけですね?
伊藤D「そうです。それまではリアルな筆致の英雄たちしか登場していなかったので、どうしても地味な印象になってしまっていたんですけど、絵ヅラが一気に華やかになりますから。これはイケる……と。結果的に世界観がものすごくカオス化してしまったんですけど、そこは見て見ぬフリというか、むしろこれこそ個性だろうと割り切りました」
──ちょっと待ってくださいよ。じゃあ、タイトルも……。
伊藤D「あ、気づかれましたか。リアルテイストな英雄たちと美少女武将たちが混在する世界に『俺は英雄王になる』というのもちょっとそぐわないと思いまして。あるタイミングで方向転換しました。それが『いじばと』、すなわち『異世界で始める偉人大戦争』なんですね」
それって『リゼロ』の影響受けまくりですよね……とはあえて口にしない取材班なのであった。
伊藤D「いやぁ~、レムには本当に感謝しています。僕に“萌え”を教えてくれたんですからね」
──な、なるほど。なかなか奥が深いですね……。
■オタク文化を学ぶために訪れた秋葉原のメイド喫茶で「野球拳」のアイデアが!
──しかし、伊藤Dがパチスロを打ったことでここまでゲーム性、そしてタイトルの方向性に変化が出てきたというのはおもしろいです。
伊藤D「パチンコやパチスロに対して、世間がネガティブに見ている側面もあるとは思います。でも、自分としては“何事にもマーケティングリサーチが重要である”ということを実体験で教えてもらった、とても大切な趣味なんですよ」
──マーケティングリサーチの重要性、ですか?
伊藤D「ええ。じつは僕、大学を卒業してサラリーマンをしていたんですけど、一身上の都合で退職してしばらくはパチンコ、パチスロに勝つことで生活していたんですよね」
──パチンコやパチスロの収支がずっと黒ってことですよね? それってかなりすごいことなのでは。
伊藤D「上には上がいると思いますし、時代がよかったという側面もありますが、食べていくのに困らない程度は黒でしたね。もちろん、運だけで勝っていたわけでもなんでもなくて。ぶっちゃけ最初は勝ったり負けたりの繰り返しだったんですけど、目押しはもちろん、収支につながる期待値やデータを徹底的に調べて勉強したんですよ。生活がかかっていたので、それはもう必死に。今思えば、あのときなんでそのリソースを再就職のほうに向けなかったんだと感じることもありますけどね(苦笑)」
──そのとき培ったのが「マーケティングリサーチの力」ってことですよね?
伊藤D「そうです。知識やデータの有無が勝敗に大きくかかわってくることは、パチンコやパチスロで学びました。同時に、机上の空論ではなく実地体験することがどれだけ大切であるかも」
──なるほど。伊藤Dが待ち合わせにパチンコホールを指定してきたときは焦ったものですが、今のお話を聞いてちょっと納得しました(笑)。
伊藤D「“レムに癒されてゲーム性やタイトルに変化が出る”なんていうのは、まさに実地体験からの影響なんですよね。そういう意味では「女神様との野球拳」という要素についても、秋葉原のメイド喫茶を訪れたうえでの実地体験によるものですし」
──ちょっと待ってください。またサラリとすごいことを言いましたね? 秋葉原のメイド喫茶で野球拳を実地体験したんですか? したんですよね!? そこらへん、くわしくッ!
伊藤D「もちろんいいですけど、ちょっと取材の趣旨が変わってきてませんか?(笑)」
──いいんです。『いじばと』がタイトル変更に至った背景には、伊藤Dの人となりが大きく関わっていることがここまでのお話でよくわかりましたから。こうなったらこの記事は、伊藤Dにスポットを当てる記事に方向を微調整しましょう。これもひとつの実地体験です!
伊藤D「そういうの、嫌いじゃないですよ(笑)。とはいえ、お話はじつのところシンプルです。今お話ししてきたとおり、僕は実地体験が何かを生み出すと考えている人間なので、ものすごく安直に考えたんですよ。“萌え”を実地体験するのなら、秋葉原しかないよな……って」
──おお、ここでも安直ッ!(笑)
伊藤D「ええ(笑)。実際は秋葉原以外にも“萌え”の文化を体験できるところはあると思うのですが、僕はストレートに秋葉原を、しかもとくにディープであろうメイド喫茶をチョイスして訪れてみたわけです」
──当然、メイド喫茶は初体験だったわけですよね? 訪れてみていかがでしたか?
伊藤D「まさに異世界でした。そこでは我々お客さんを“ご主人さま”と呼んでお世話をしてくれるメイドさんたちがたくさんいて」
──な、なるほど(ゴクリ)。
伊藤D「ぶっちゃけ、僕は初めてお店を訪れたので、相手のメイドさんが導いてくれるままに注文して、気ままにおしゃべりをしていただけなんです。でも、それだけで世界が本当に輝いて見えたんですよ!」
──ある意味、パチンコホールとはめちゃくちゃ落差がありますけど、なんか納得です。とても夢がある!
伊藤D「そう、夢です。まさにメイドさんたちと夢について語り合ったりもしたんです。彼女たちは「アイドルになりたい」とか「将来的に自分のお店を持ちたい」といった夢を、キラキラとした瞳で語ってくれまして。僕はただ聞き役に回ってその輝く時間を満喫しているだけで幸せでしたが、なかにはメイドさんと「野球拳」を始める猛者もいたんですよね」
──ほ、本当ですか! いや、ほんとマジでそんなサービス、大丈夫なんですかッ!?
伊藤D「……ごめんなさい、めちゃくちゃ盛りました。実際は服を脱ぐとかそんな過激なものではなくて、ミニゲームで負けたほうが罰ゲームを行う……といったソフトなサービスなんですけどね。あ、何か別のことを期待されました?」
──し、してないですッ!(がっかり) ……つまりは、メイド喫茶を実地体験して、そこでサービスを受けたことで「野球拳システム」を思いついた、と。
(※編集部注)イメージ写真を撮影させていただいた「ハートオブハーツ秋葉原」さんでは、野球拳のようなサービスは行われておりません。
伊藤D「そういうことです。単純に、プロモーション戦略としてアリだなあと感じたんですよね。ただ、さっそく帰社してチームメンバーに提案したところ、想像以上の反発を受けまして……」
──うん、そりゃあそうですよね。だって、肝心のリアルタイム戦略シミュレーション部分とまったく関係ない要素ですし(汗)。
伊藤D「今考えると、正直どうかしていたと自分でも思いますが(苦笑)。ただ、そのときの僕はあの輝かしいインスピレーションに突き動かされ、チームの反対をなんとか押し切ってシステム実装にこぎつけたんです。じつは、会社に仕様書を提出しても承認を得ることは難しいと思いましたので、自己責任でシステムを搭載することにしたくらいで。結果、のちに大目玉を食らうことに……」
▲『いじばと』では、女神との野球拳要素も楽しめる。しかし、まさかそのアイデアがメイド喫茶で生まれたものだったとは……。
──そりゃそうですよッ! 会社に内緒って……またとんでもないことを小声でサラリと言いますね。
伊藤D「読んでいる方がドン引きしますかね? じゃあ、ここはカットしといてください」
ごめんなさい。カットしませんでした……。
(後編に続く)
テキスト:タダツグ(Tadatsugu) シシララTV編集部、電撃編集部などで活動中のゲームライター/編集。生放送にも出演中。いつまでも少年の心を忘れないピーターパン症候群を自認するケツ合わせ系テキスト書き。好きなゲーム:『ニーア』シリーズ、『ヴァルキリープロファイル』シリーズ、『スターオーシャン』シリーズ、『メギド72』など多数。
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