『ペルソナ5』 × 「2016年」【大切なことはゲームから学んだ】
TV、映画、音楽、漫画、そしてゲーム。私たちの生活は娯楽に満ち溢れています。スマートフォンの登場により、私たちは知らず知らずと娯楽に触れていて、日々、笑ったり、怒ったり、泣いたり、楽しんだりと感情を揺さぶられています。音や映像・インタラクティブ性を兼ね備えたコンピュータゲームも例外ではありません。なかにはゲームを遊んでその後の人生観や学べたことなど、忘れられない刺激的な瞬間も得られたのではないでしょうか。
本企画「大切なことはゲームから学んだ」では、そんなゲームと、書き手の私生活や考え方、繋がりに重きを置いたコラムです。毎回記事では『対象ゲームタイトル』×「キーワード」という括りのなかで、レビュー記事とは少し毛色の違う、ゲームから学んだことをつづっています。さて、今回のゲームとキーワードは……。
企画:Pick UPs!(Twitter)
文:神谷 美恵(Twitter)
■『ペルソナ5』×「2016年」
Package
タイトル:『ペルソナ5』
ジャンル:RPG
対応機種:プレイステーション3、プレイステーション4
発売・開発:アトラス
発売日:2016年9月15日
アトラスの人気RPG『ペルソナ』シリーズ待望の第5作。今作の舞台は、大都会“東京”。プレイヤーは、ある出来事がきっかけで“ペルソナ”使いとして目覚めた主人公の少年となり、昼は普通の高校生、放課後は悪いオトナの心から“歪んだ欲望”を盗み出す怪盗となって、痛快な世直し劇を始めることに。
■2016年の日本社会を丸ごと舞台にした本当のJRPG
2016年が間もなく過ぎ去ろうとしている師走の某日。
振り返ってみれば、今年は殊更騒がしい1年でした。テレビも雑誌も、誰それが不倫をしたとか、感じの悪い発言をしたとか、業界の内輪揉めで勝手に解散するアイドルとか、オトナたちの茶番劇ばかりを報じ、うんざりするような毎日です。
その一方で、過労やいじめを苦にした自殺、差別や格差といった現実があり、社会の理不尽に心を痛める人も多かったのではないでしょうか。
そんな2016年に生まれた、ファン待望のペルソナシリーズ最新作『ペルソナ5』。55万本というシリーズ最高の出荷数を記録し、今年を代表するタイトルとなりました。
既に多くのレビュアーによって絶賛されていますが、あらためて、本作がプレイヤーに与えるものとは何だったのか、これからゲームはどう在るべきなのか、ということを考えてみたいと思います。
ゲームの冒頭、主人公は(シリーズのファンにはお馴染みの)青い蝶々の幻を見ます。そして、少女のような不思議な声で「極めて理不尽なゲーム」であること、また、「それに勝たねばならない」ことを告げられます。実は、ここで言われる「理不尽」はストーリーの重大な秘密に通じており、本作を貫くキーワードとなります。
私たちの世界は理不尽に溢れています。そして、皆、多かれ少なかれ理不尽の犠牲者です。しかし、誰も助けてはくれませんし、理不尽を指摘するために声を上げることもありません。なぜなら、誰もが(私自身を含めて)「世の中」という名の巨大な同調圧力によって押し潰され、見て見ぬふりをしたほうが楽だと思ってしまうからです。
『ペルソナ5』は、この同調圧力を「メメントス」という広大なダンジョンとして表現しています。
01
▲『ペルソナ5』公式サイトより
メメントスは渋谷駅の地下鉄のように見えますが、中は暗く、階段を降りても降りても不気味なフロアが続きます。時折、妖しく光る地下鉄が通り過ぎます。主人公たちのほかには誰もいないのに、現実と同じように地下鉄が走っていく光景は異様でありながら、何かむなしさも感じます。毎日寿司詰めになりながら、文句も言えずに、通勤・通学をただ機械的に繰り返す現実世界の私たちを反映しているように思えてならないのです。
一方、主人公たちは、ひとりひとり様々な苦悩を抱えています。主人公自身は、とある人物の権威のために無実の罪を問われ、ある者は教師の横暴に、またある者は育ての親による搾取に傷つき、皆、肩身の狭い立場に置かれています。しかし、ひとたび認知世界(異世界)に降り立てば、ペルソナの力を駆使して華麗な活躍を見せてくれます。
02
▲『ペルソナ5』公式サイトより
03
▲『ペルソナ5』公式サイトより
04
▲『ペルソナ5』公式サイトより
やがて、怪盗団に絶体絶命のピンチが訪れたとき、彼らはこれまでの経験から知恵を振り絞り、逆転の一手を見つけ出します。それは、怪盗団を絶賛したりバッシングしたりする大衆とは対照的でもあります。怪盗団のメンバーは考え抜いた末に、大きな賭けに出ることを決めます。そして、逆転を信じ、主人公は自らの命を仲間に託すことになるのです。
『ペルソナ5』は、すべての要素において卓越した出来映えでした。キャラクターはもちろん、メニュー画面一つとっても世界観に沿ったスタイリッシュなデザインになっています。音楽は都会的な落ち着いた曲調で、けだるげな感じもあり、まさに東京の雰囲気を表しています。
05
▲『ペルソナ5』公式サイトより
さて、あらゆる面でクリエイター魂を感じる本作ですが、傑作という評価を決定づけたものは何だったのでしょうか。
それは、東京の街並みだけでなく、そこに横たわる社会意識までも写し取ったことだと私は思うのです。日本に住む人が感じる理不尽、閉塞感、流行、生活感、そして暦までも、社会を漂う目に見えないものをゲームに取り込み、2016年の日本社会を丸ごと舞台にした本当のJRPGと言えるのではないでしょうか。
アトラス作品の中でも、ペルソナシリーズは特に社会派で、現代に警鐘を鳴らすメッセージが多分に含まれていました。本作では、八頭身のキャラクターと圧倒的な量のセリフによって説得力に磨きがかかり、体罰、差別、違法薬物、労働問題、そして、大衆とポピュリズムといった様々な社会問題が、今まさに、私たちの世界の日本で起きているのだ、ということを実感させてくれます。
06
▲『ペルソナ5』公式サイトより
『ペルソナ5』は、ゲームという形態でありながら、現実の社会で起きていることを伝え、批評するというジャーナリズムを実践した初めてのタイトルといっても過言ではないでしょう。ゲームは元々、娯楽であり、商業製品としての域を出ることは殆どありませんでした。しかし、本作によって、ゲームとしての楽しさを保持しつつ、社会に鋭く問いかけることができるということが証明されました。今後、ゲームは更に語られることにより、単なる娯楽ではなく、「文化」となり得る新たな可能性が示されたように思います。
2016年、同調圧力が支配するこの世界で、あなたは牢屋を出て、立派な「賊」に更生できたでしょうか。誰かに与えられた場所で安住することなく、権威や搾取に抗い、自分の足であるべき場所に歩むことはできたでしょうか。
きっと来年も「極めて理不尽なゲーム」が私たちを待っています。そして、そのゲームに勝たなくてはなりません。勝てそうにないと、もう諦めている人もいるでしょうか。それでも、誰の心の中にも、不遜な笑みを浮かべる怪盗団がいるものです。「賊」は時に罵られ、大衆から疎外されることもありますが、リスクと知恵を分かち合う仲間がいれば、逆転の勝機は必ず巡ってきます。
07
▲『ペルソナ5』公式サイトより
さあ、2016年とはもうすぐお別れです。
世間は冴えないニュースばかりの1年でしたが、日本のゲーム業界は変革を迎えつつあります。本稿が、あなたの理不尽を少しでも奪い去るための予告状となればと祈っています。それでは皆様、よいお年を!
テキスト:神谷 美恵 1984年生まれ。立教大学 社会学部 卒業後、富士通マーケティングに新卒で入社。その後、ITインフラ・クラウド事業を行う企業でサービス企画、 プロジェクトマネージャーに従事。趣味はガンダム研究とゲーム全般。
ツイッターアカウント→KAMIYA_hr@Amk1Hara
■企画:大切なことはゲームから学んだ
ゲームと、書き手の私生活や考え方、繋がりに重きを置いたコラム。毎回記事では『対象ゲームタイトル』×「キーワード」という括りのなかで、レビュー記事とは少し毛色の違う、ゲームから学んだことをつづっています。

「シシララTV」のTwitter登録・ログインを介せば、気軽にコメントやツイートが投稿できますので、ぜひみなさんの「大切なことはゲームから学んだ」を教えてください!
(C)ATLUS (C)SEGA All rights reserved.
シシララTV オリジナル記事