シシララTVのタダツグです。もう先週のお話になりますが、新宿バルト9で公開された『COCOLORS (コカラス)スペシャルコラボLIVE』に取材でおうかがいしてきました。本日は、その観劇レポートをお届けしたいと思います。
そもそも『COCOLORS』とは何か? というところから説明しますと、こちらは2016年の10月に徳島で開催された「マチアソビ vol.17」にて初お披露目された「VvsS式ライブ上映作品」になります。
こう書くと、今度は「んー? “VvsS”ってなんぞ!?」と思われるかもしれませんね。「VvsS」とは「Voice Actor vs Silent Movie」の意味。端的に言うと、声優さんとミュージシャンがスクリーンの前で生の演技、生の演奏を披露しながら、サイレント映像にリアルタイムで音をつけていく上映形式を指します。
どうです? 文字にするとサラッと読めてしまうかもしれませんが、つまるところは生アフレコ+生ライブで、無音映画に彩りを与えようって企画ですよ。すべてが生。それだけでものすごいことだと思いませんか?
公式サイトによると、こちらは1938年に日本で姿を消してしまった「サイレント映画に活動弁士が声をあて、生オーケストラが演奏する」というかつての上映方法を、現代に合わせてブラッシュアップし、アニメというコンテンツでは不可能とされていた「ライブ」を実現可能とするひとつのアプローチとしてチャレンジされた企画とのこと。
観劇する前から「これはスゴそうだぞ……」とワクテカしていたのですが、いざ、実際に公演を目の当たりにすると、その迫力に一瞬で心を奪われました。とにかく、音の広がりが半端じゃない! 劇場のスピーカーではなく、今、目の前にある楽器から奏でられる音色の数々が、声優さんたちの熱のこもった演技にシンクロし、それが本来無音で作られている動画に命を吹き込んでいく……。おそらく、演者さんにも奏者さんにも多大な負担を強いるであろうこの試み。それだけに、そのパフォーマンスがシンクロしたときの感動は、想像を絶するものがありました。
そもそもにして、神風動画が精魂込めて制作した無音の動画のクオリティが素晴らしい。『COCOLORS』というタイトルどおり、さまざまな「色」をテーマにして描かれているこの作品。物語の舞台は、人体を融解させるというバクテリアを含んだ有害な灰が降り続き、空と地上を覆ってしまった世界。主人公は、巨大なマスクと防護服で全身を覆い、地下深くに作られた街で暮らす少年、アキとフユ。地下に暮らしながらも外の世界を空想し、いまだ見たことのない空に憧れを抱く2人の物語が展開していきます。
閉塞感に満ち、絶望的なシチュエーションに放り込まれた人々、そりゃあもう精神的にも肉体的にも追い詰められていますよ。つまるところ、お話は結構ダークで重め。でも、そんな状況に置かれてなお絶望に抗い、仲間たちを憂い、手を取り合って生きるためにあがく。そんな儚い物語にたくさんの音が共鳴し、我々観客を魅了してくれたわけです。
この物語では、キャラクター達は「灰」を吸い込まないよう、みんなマスクを被っているのが特徴。そのため、見ている我々はそんな彼らの顔を、そして「顔色」を想像しなければなりません。プレスリリースには“見えない「顔色」の手がかりは「声色」、「音色」、そして「映像の色」となり、見る人の想像力によって完成される作品”と書かれていたのですが、まさにその通り。映像の中には描かれていない“答え”は、我々鑑賞している側にこそ委ねられる……そんなこちらの想像力を刺激される演出が数多く盛り込まれていて、45分という時間はあっという間に過ぎ去ってしまいました。まさに圧倒的で濃密な時間でございました。
すべてが奇跡のように素晴らしかったのですが、僕がもっとも印象に残っているのは、この公演で初めて見かけた「ハンドパン」という楽器。ドラ焼きのような形をしていて、叩く場所や叩き方の強弱によって奏でられる音が変化するという、独特な金属打楽器です。これを用いて奏でられる音色が、我々観客をより深く物語の世界へとダイブさせてくれました。音色こそまったく違えど、フユが劇中で用いていたオカリナのように、とても味のある音を奏でていたのが今でも思い出されます。
声優陣の息のあった演技にも胸を打たれました。とくに、アキを演じた高田憂希さんの魂を揺さぶるような叫び声と、フユを演じた秦佐和子さんの弱々しく儚げながらも芯の通った心の強さを感じさせる演技は秀逸! また、そんなアキとフユの兄貴分として彼らを支えたシュウ役の岩中睦樹さんの、感情がほとばしるような演技も見もの。これをすべて生演技で楽しめるんですから、なんとも豪華な内容であるといわざるをえません。
結果として、マチアソビに続いてこの東京公演も大盛況となったこの『COCOLORS』。その特性を考えると、Blu-rayといった映像メディア化はもちろん、再演もなかなか大変だとは思います。
より多くのみなさんにこの感動を知ってもらいたいのもまた事実。さらなる追加公演が日本全国に広がっていくことを期待してしまう自分がいます。もっと、もっと多くの人にこの感動を体験してほしい。もしまた再演が決まった暁には、ぜひシシララファミリーのみなさんにもご覧いただければうれしいです。
遠くない将来、そんな日が来ることをアキやフユのように夢見つつ、本日はこのへんで。
【作品概要】
タイトル:『COCOLORS』
予定尺:45分
脚本・監督:横嶋 俊久
エグゼクティブ・プロデューサー:水崎 淳平
アニメーション制作:神風動画 弐式スタジオ
【出演者】
高田憂希、秦佐和子、岩中睦樹、市来光弘、桑原由気、高井舞香
【演奏者】
阿部隆大、持山翔子、小山尚希、工藤明、栗林スミレ、野崎心平、Uyu
テキスト:タダツグ(Tadatsugu) シシララTV編集部、電撃編集部などで活動中のゲームライター/編集。生放送にも出演中。いつまでも少年の心を忘れないピーターパン症候群を自認するケツ合わせ系テキスト書き。好きなゲーム:『ニーア』シリーズ、『ヴァルキリープロファイル』シリーズ、『ペルソナ』シリーズ、『パズル&ドラゴン』など多数。
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