名作ゲームに触れ続けることで培われるクリエイター魂/高木謙一郎vs安藤武博ロング対談【前編】
爆乳の女の子たちが忍の世界で命がけの戦いを繰り広げる『閃乱カグラ』シリーズを世に送り出し、爆乳プロデューサーを自称する高木謙一郎氏。そして、『鈴木爆発』や『疾走、ヤンキー魂。』『ヘビーメタルサンダー』などの前衛的なゲームをプロデュースし、ゲームDJを名乗る安藤武博。そんな異色のクリエイター対談がここに実現した。はたして、2人の自由で柔軟な発想はどこから生まれているのか? 原点となるゲーム体験を振り返ってもらいつつ、普段はあまり表で語ることのない仕事論や現状のゲーム業界への進言を包み隠さずに語ってもらった。
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■ゲームと一緒に歩んだそれぞれの人生とは?
安藤武博(以下、安藤):高木さんと初めてお会いしたのはもう3年ほど前。当時わたしが手掛けていた『拡散性ミリオンアーサー』と、高木さんの『閃乱カグラ』シリーズがコラボさせていただいたときですね。じつは高木さんとは、ずっと仕事とは関係なく、ゲームの話がしたいなと思っていたんです。

高木謙一郎さん(以下、高木):いいですね。仕事のことを真面目に語るとどうしてもブラックな部分が出てきてしまいがちですし。今日も出来ればお酒を飲みながらやりたかったです(笑)。

安藤:お酒はありませんが、楽しくいきましょう(笑)。高木さんとは生まれた年代が近いこともあって、触れてきたものもほぼ同じだと思います。高木さんは1976年生まれで僕は1975年。ゲームが好きな人にとっては、すごく幸せな生まれ年ですよね。

高木:僕もそう思います。

安藤:物心がついたときには『スペースインベーダー』のブームがありました。小学生のときにファミリーコンピュータ、中学生のときにスーパーファミコン、大学生のときにプレイステーションやセガサターンって感じでゲームハードが変遷していくわけですが、高木さんの最初のゲーム体験はなんでしたか?

高木:僕は幼稚園のときにプレイしたゲームウォッチですね。先にいとこが『ドンキーコング』を親に買ってもらっていて「すげー! すげー!!」と騒いでいたのを横目で見ていて、とにかくうらやましくて。それをきっかけに、自分も親にねだって買ってもらいました。

安藤:わたしは小1のときにゲームウォッチを買ってもらいました。はじめて買ってもらったのはマルチスクリーンのものでしたね。当時は団地に住んでいたので、そこに住んでいる友達と『ドンキーコング』や『オイルパニック』、『ミッキー&ドナルド』や『グリーンハウス』など、交換しながらプレイしていました。

高木:わかります。わざと友達が持っていないものを買ってもらって、みんなで回して遊ぶんですよね。当然ながら、当時は自分で買うお金がありませんでしたから。週刊少年ジャンプも回し読みでした(笑)。自分は親にファミコン本体を買ってもらえなかったので、『ドラゴンクエストIII』のソフトだけ手に入れて、友達の家でプレイさせてもらったりしました。

安藤:RPGを友達と一緒に遊ぶという文化は、今の若い人からすれば信じられないかもしれませんね。ちなみにわたしは、「これはゲーム機ではなくてパソコンだから、頭が悪くなったりしないよ」と親を説得して、MSXを買ってもらいました。我々世代の親って「ゲームをすると頭が悪くなる」と思い込んでいた節がありましたが、うまいこと丸め込んだわけです(笑)。

高木:ずるいなぁ(笑)。いや、でも頭がいいともいえますねそれは。
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安藤:こざかしい子どもだったと自分でも思います。MSXはメディアがカセットテープだったので、いろいろなゲームをダビングして団地のみんなで遊んでいました。

高木:自分の周囲には、MSXをプレイしている人間はいなかったですね。MSXはちょっと大人向けな印象でしたし、どちらかというとファミコンやゲーセンがメインでした。『ディグダグ』や『パックマン』をずっと飽きることなくプレイしていましたよ。ただ当時のゲーセンは本当に不良の溜まり場でしたけど(笑)。

安藤:カツアゲとか普通にありましたよね。これも今の若い人からすると信じられないことかもしれません。

高木:たしかに。駄菓子屋にも筐体があって『ロードファイター』などをプレイしていましたね。自分の少年時代は、押切蓮介さんが描かれているマンガ「ピコピコ少年(※1)」に出てくるキャラクターそのまんまですよ(笑)。

(※1)ピコピコ少年……作者である押切蓮介さんの、幼少時からのゲーム体験をコミック化した自伝的内容のコミック。現在は太田出版より「ピコピコ少年」、「ピコピコ少年TURBO」、「ピコピコ少年SUPER」が単行本化されており、この3月からは続編「ピコピコ少年EX(ohta web comic)」が連載中。

安藤:高木さんが小学校時代にハマったゲームってなんですか? ちなみにわたしはMSXだったので、任天堂のタイトルはほとんど遊んでいなくて、コナミのゲームばかり遊んでいました。いちばん好きなのは『F1スピリット』。エンジンやギアをカスタマイズできたりピットインがあるなど、レースゲームとしてはわりと本格的でした。わたしはコナミの拡張音源『SCC音源』を用いたサウンドが好きだったんですよ。あとは『イー・アル・カンフー』の続編『イーガー皇帝の逆襲』も印象に残っています。MSXでしかリリースされていない作品です。ザコを倒すとボスが出てくる『スパルタンX』風の内容なんですけど、ビックリするぐらい難易度が高くて。小4のときに買ってもらったんですけど、たしかクリアできたのは小6のときだったと思います(笑)。

高木:僕はアーケードで遊んでいたので『ダブルドラゴン』などのアクションゲームが印象に残っています。だから自分が作った『一騎当千』シリーズや初期の『閃乱カグラ』シリーズは、ベルトスクロールアクションなんですよね(笑)。

安藤:なるほど。高木さんの原風景なんでしょうね、ベルトスクロールアクションは。やはり、幼い頃に刷り込まれたゲームの印象って大きいと思います。シシララTVのオフィスには「ニンテンドークラシック ミニファミコン」が置いてあるんですが、仕事の打ち合わせに来た方がこれで『イー・アル・カンフー』や『ダブルドラゴン』を遊ぶと、大概夢中になっちゃうんですよ。「昔はこんなだったよね」って振り返りながら、ついノメり込んでしまう。これはゲームがよくできているのはもちろん、当時の思い出が強く焼き付いているからこそだとも思うんですよね。

高木:小学生の頃に遊んでいたゲームって、今でも色褪せずに覚えていますよね。安藤さんがついつい当時のハードを集めてしまうのも頷けます。
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安藤:そういう高木さんも、かなりのゲームコレクターじゃないですか。

高木:先日、自宅にアーケード筐体も買ってしまいました。アストロシティなんですけど、これで昔からの夢が1つ叶いました(笑)。

安藤:素晴らしい。まさにゲーマーの夢じゃないですか。いつかご自宅にお邪魔してみたい。

高木:ちなみに、安藤さんの中学時代はいかがでした?

安藤:『水滸伝 天命の誓い』や『信長の野望 戦国群雄伝』といった歴史シミュレーションばかり遊んでいましたね。『三國志』も含め、光栄(現・コーエーテクモゲームス)の歴史もののゲームは、ゲーマー男子なら1度は通る道ではないでしょうか。

高木:自分は世間が対戦格闘ゲームのブームだったこともあって、ゲームセンターでSNKのゲームばかり遊んでいました。自宅ではゲームボーイが主流でしたね。『Sa・Ga2 秘宝伝説』を延々と遊んでいました(笑)。

安藤:『サガ』シリーズの産みの親である河津秋敏さん(※2)は、会社からは「パズルゲームを作れ」と言われていたのに、「当時の子供たちは長く遊べるものを求めている」という信念のもとに、RPGである『魔界塔士Sa・Ga』を作ったという話をうかがった記憶があります。でも、さすがに普通のRPGを作ったら会社に怒られるから、“塔を登る”というパズル的な要素を残したんだったかな(笑)?

(※2)河津秋敏さん……スクウェア・エニックス所属のゲームクリエイター。『ファイナルファンタジー』シリーズや『サガ』シリーズの開発に携わってきた業界のレジェンド。

高木:さすがです(笑)。それにしても、ゲームボーイというハードは本当に画期的でしたよね。発売された瞬間に「俺が求めていたのはこれだ!」って強烈に思いました。

安藤:いわば自分専用のテレビ&ゲームでしたからね。親に文句を言われる心配もなく、延々と遊べるというのは本当に画期的でした。あとはやっぱりスーパーファミコン。わたしはレースゲームが好きなので『F-ZERO』を買ってもらったのですが、なぜか一緒に『アクトレイザー』が付いてきたんです。

高木:ああ(笑)。いわゆる抱き合わせ商法ですね。

安藤:それがめずらしくもなんともない時代でしたから(笑)。当時、好物は後に残しておこうとでも思ったんでしょう。わたしは本命の『F-ZERO』は後に取っておいて、先に『アクトレイザー』をプレイしたんです。これがまた、とんでもない名作でビックリしました。ゲーム性、世界観、音楽のどれもがとにかく素晴らしい。
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高木:横スクロールのアクションゲームと、世界を発展させていくシミュレーションゲームを組み合わせるってすごい発想ですよね。『アクトレイザー』は僕も大好きなゲームです。

安藤:当時、同級生だった柴貴正さん(※3)がアクションゲームが得意だったので、彼にアクション部分を任せて自分がシミュレーション部分を担当して、たったひと晩でクリアした記憶があります。まさかその柴さんとわたしが、のちにエニックスに就職することになるとは思ってもいませんでしたけど(笑)。

(※3)柴貴正さん……スクウェア・エニックス所属のゲームクリエイター。ゲームDJ安藤武博とは四半世紀をともにした盟友。代表作は『ドラッグ オン ドラグーン』シリーズや『ドラゴンクエストモンスターズ スーパーライト』など。

高木:安藤さんは抱き合わせでゲットされたとのことですが、自分は最初から『アクトレイザー』狙いでしたよ。父親に「毎日ちゃんと勉強します」という誓約書を書いて渡し、満を持して手に入れたソフトです。思えば、このときからゲームをメーカーやジャンルだけではなく、クリエイターを意識して遊ぶようになった気がします。

安藤:生粋のゲーマーですね。高木さんは小学生のときから今まで、ずっとゲームをプレイされてきた感じですか?

高木:ええ。ゲームを遊んでいない時期はほぼありませんね。安藤さんは違うんですか?

安藤:わたしも基本的にはずっとプレイしていたのですが、中2の時に「東京・埼玉連続幼女誘拐殺人事件(※4)」が起きて、世間的にオタクへの風当たりが強くなった。そのときはまるで隠れキリシタンのように、オタクであることを隠して生きていました。世間の目というものを気にしてしまったんですね。

(※4)東京・埼玉連続幼女誘拐殺人事件……1988年から1989年にかけて東京都北西部および埼玉県南西部で発生した、幼女を対象とした一連の事件。この事件の犯人である宮崎勤がいわゆる「オタク」として報道されたことから、同様の趣味を持つ者に対し強い偏見が生じたとされる。

高木:なるほど。多感な時期でしょうし、わかる気はします。

安藤:オタクってだけでのけ者にされそうって思い込みがありました。実際、そういう風潮はあったように思います。ただ、柴さんはそういうことを臆面もなくオープンにしていて、コイツはすごいなと。向こうからすると「安藤もオタクのくせに何をカッコつけてんねん」って思っていたでしょうね(笑)。
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高木:自分もとくに、オタクであることを隠してはいなかったですね。高校生の頃はPCエンジンをガッツリとプレイしていました。日本テレネットの『天使の詩』というRPGが大好きで、これは自分が手がけた『勇者30』でも影響を受けています。なるけみちこさん(※5)の曲がいいんですよ……。

(※5)なるけみちこさん……元日本テレネット所属で、現在はフリーランスとして活動している作詞家、作曲家、編曲家。代表作は『天使の詩』、『ワイルドアームズ』シリーズなど。高木さんがプロデュースした『勇者30 SECOND』にも楽曲を提供している。

安藤:なるけさん。いいよなあ!わたしは金子彰史さん(※6)の『ワイルドアームズ』が大好きで、『ワイルドアームズ』をプレイしてから、さかのぼる形で『天使の詩』もプレイしました。どちらもなるけさんのサウンドが、ものすごくいい味を出している。のちに『星葬ドラグニル』というスマホ向けのRPGタイトルでご一緒した時はうれしかったですね。

(※6)金子彰史さん……ウィッチクラフト所属のゲームクリエイター。代表作は『ワイルドアームズ』シリーズ、『魔法少女リリカルなのはA's PORTABLE』シリーズ、『戦姫絶唱シンフォギア』シリーズなど。

高木:安藤さんってRPGはお好きなんですか?

安藤:大好きですよ。わたしは『鈴木爆発』や『疾走、ヤンキー魂。』をプロデュースしたこともあってか、バカゲーや奇抜なメディアアートのようなものにしか興味がないと思われがちなのですが、実際のところは、王道RPGもすごく好きなんです。そのRPGへの思いが爆発したのが『ケイオスリングス』なんですよ。

高木:僕はRPGだと『天外魔境』シリーズが大好きで、先日発売された辻野寅次郎さん(※7)の画集も購入しました。最近はイラストレーターさんのことを「絵師」と表現したりもするようですが、自分のなかで「絵師」といえば、辻野寅次郎さんしかいないんですよね(笑)。
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(※7)辻野寅次郎さん……日本のキャラクターデザイナー、アニメーター、漫画家。辻野芳輝名義でも活動していた。『天外魔境』シリーズのキャラクターデザインを手掛ける際、世界観に合わせて「絵師」という肩書きを用いた。

安藤:わかります。辻野さんの肩書きは「キャラクターデザイン」でも「イラスト」でもなく「絵師」でしたもんね。わたしも大好きでした。『天外魔境』は本当に素晴らしいシリーズで、わたしも広井王子さん(※8)のマルチな才能がいいなと思っていました。

(※8)広井王子さん……レッド・エンタテインメント所属。マンガ、アニメ、ゲームの原作などを手掛けるマルチクリエイター。代表作は『魔神英雄伝ワタル』シリーズ、『天外魔境』シリーズ、『サクラ大戦』シリーズなど。

高木:あとはPCエンジンでいうと『銀河お嬢様伝説ユナ』が好きでした。今でもゲームショップで『ユナ』を見つけると、ついつい購入してしまいます。

安藤:えぇ?持ってるのにまた購入するんですか?

高木:はい。『ユナ』はちょっと特別というか、何本持っていても困らないゲームなんです。『閃乱カグラ』の「カグラ」というタイトルは、あとから考えてみたら『ユナ』の主人公である「神楽坂ユナ」から発想がきていたのかなぁ、と思ったり。『VALKYRIE DRIVE -BHIKKHUNI-』の主人公も神楽坂という苗字ですけど、これなんてぶっちゃけモロですよね(苦笑)。

安藤:なるほど。先ほどのベルトスクロールアクションにならんで、『ユナ』も高木さんにとっての原点でしたか……。そうして時代は進み、プレイステーションやセガサターンの時代になって、我々も社会人、そしてゲームクリエイターとしての道を歩み始めることになるわけですが……。そんな高木さんのクリエイティブについてのお話は、ぜひ後編でお聞かせいただければと思います。
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まさにゲームにまみれた人生を送っていた安藤氏と高木氏。そんなふたりが遊ぶ側から作る側へと至った経緯とは? クリエイティブな話が飛び交う後半もお楽しみに!

後編→クリエイターは満足したら死ぬ……“無意識の渇き”に秘められた一流の魂


テキスト:カワチ(Makoto Kawachi) 1981年生まれ。ライター。ビジュアルノベルに目がないと公言するが、本当は肌色が多けれななんでもいい系のビンビン♂ライター。女性声優とセクシー女優が大好き。

ツイッターアカウント→カワチ@kawapi
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