「ゲームでしか味わえない最高の体験」を届けるために/和田康宏×原 浩×安藤武博クリエイター鼎談【後編】
多くの熱狂的なファンを獲得し、「箱庭ゲーム」に新たな革命をもたらした『Birthdays the Beginning(以下、Birthdays)』。その開発を手掛けたトイボックス・和田康宏氏とアークシステムワークスの原浩氏、そしてプロデューサーでありながらゲームDJとしても活躍する安藤武博。「新しいことへの挑戦」を恐れず、常に前を向き続ける3人のクリエイターがそれぞれの「クリエイター論」をぶつけ合う鼎談企画をお届けする。
後編では、安藤が「プロデュースしてみたい」と感嘆する2人の発想力など、より深いトークが展開。現職のクリエイター陣へのメッセージもお見逃しなく!

前編はコチラ→会社の窮地を救うのはいつも「破天荒な作品」
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和田康宏氏(写真中央)
トイボックスの代表取締役社長。『Birthdays the Beginning』ではプロデューサーとして開発の指揮を執った。『牧場物語』シリーズのディレクションなどを手掛けてきたことでも有名。

原 浩氏(写真左)
アークシステムワークス所属のゲームクリエイター。『Birthdays the Beginning』では、アークシステムワークスのプロデューサーとして開発に取り組んだ。代表作に『アルカナハート3 ラブマックス!!!!!』アークシステムワークスサイドのディレクション担当、『どぎめぎインリョクちゃん』企画開発、その他、家庭用からスマホまで参加タイトル多数。
■それぞれが考える「クリエイター論」
安藤武博(以下、安藤):お2人はゲーム業界に関わらず一緒に仕事をしてみたい方はいますか? もしくは逆に、仕事したくない人でもいいですが(笑)。

和田康宏氏(以下、和田):木村大作さん(※1)という、大御所のカメラマンでしょうか……。海でカモメの画が欲しいときにトンビで妥協したりせず半日以上も「カモメ待ち」をするようなかたです。結局出来上がったフィルムにはトンビも映り込んでいたそうですが(笑)、そのこだわりはすごいですね。

(※1)木村大作さん……、日本の撮影技師、映画監督。カメラマンとして数多くの映像作品に携わってきたほか、2009年からは映画監督としても活動している。

安藤:その木村さんと組んでみたいと?

和田:いや、逆です。組みたくないほうです(笑)。大作さんのスタンスは素晴らしいですが、きっといっしょに仕事をしたらたいへんだと思いまして。

安藤:(笑)。では、原さんはいかがですか? 『Birthdays』で和田さんのような個性的なクリエイターと仕事をしましたが、次はどんな方とお仕事をしてみたいですか?
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原 浩氏(以下、原):わたしはまだ自分の名刺代わりとなる作品が少なすぎて、組んだ人の色に染まっていってしまうんです。そのため、まずはしっかり自分自身のタイトルを手掛けたいです。

安藤:こんなタイトルを手掛けてみたいといった具体的なビジョンはありますか?

原:好きなゲームは『バトルフィールド 1942』や『ディアブロ1、2』なのですが、作りたいゲームとなると別ですかね。というもの、いちどハクスラ系のゲームを試作したら『ディアブロ』そのものになってしまった過去がありまして(苦笑)。ストーリーや設定、イラストでオリジナリティを出すことも考えたのですが、それはお金もかかるし、ほかの人の力を大きくお借りすることになるので、自分の作品とは言えなくなってしまうと思い、諦めました。

安藤:最優先にしたいのは、自分の代表作になるような作品を作ることなんですね。

原:ええ。できればプレイをはじめてキャラクターを動かした瞬間に「これは新しい」と感じてもらえるようなアクションゲームを作ってみたいですね。

和田:と、なると……過去の作品でいう『ジャンピングフラッシュ』や『塊魂』の系譜ですね。

原:はい。変な切り口の作品が好きなんです。わたしはニンテンドー3DS用のゲーム『どぎめぎインリョクちゃん』という作品を手掛けたんですけど、この作品にも「引力を使ってなんでもくっつけて、キューピッドにしてしまう」というおかしなシステムを取り入れました(笑)。

安藤:そのトンデモ設定は、ちょっとむかしのエニックスっぽくてシンパシーを感じます(笑)。原さんはこれまで、ずっとプランナーやディレクターを請け負ってきた感じですか?

原:最初はドッターでしたね。

安藤:グラフィックもお得意だったんですね。でも、原さんのお言葉を聞いていると「生粋のディレクターだな」と感じます。わたしは最初からプロデューサーとして仕事をしているため、原さんのようなアプロ―チはできないんですよね。普段はテーマやプラットフォームを決めたあと、ディレクターさんに企画を考えていただくことが多いので、原さんの発想は新鮮です。

原:昔からアクションゲームを遊ぶのが大好きだったんです。まだ容量的に物語や映像をゲームに乗せることができない時代から、キャラクターを動かしているだけで幸せでしたから。
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安藤:お話を聞いていて、原さんの作るゲームをプロデュースしてみたくなってきました。

和田:おぉ、素晴らしい。それはおもしろそう。

原:光栄です! 自分には師匠のような人間がいないので、安藤さんとご一緒させてもらって、いろいろと勉強させてほしいです。

安藤:いつか機会があれば、ぜひよろしくお願いします。続いて和田さんはいかがでしょう。『Birthdays』でひとつの夢は叶ったと思いますが、ほかにも作っておきたいゲームはありますか?
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和田:シミュレーションゲームが好きなので、これまでにいろいろな作品を作ってきましたが、次は星を開拓するようなゲームを作ってみたいです。わたしはプレイヤーが存在するゲームしか作らないというこだわりがあるので、きっとこのゲームにも何かしらのプレイヤーが存在すると思います。だからきっと、変なゲームになるでしょうね(笑)。あとは人間の体内を探検するシミュレーションゲームとか、“頭のなかでは想像は出来るけどゲームじゃなければ体験できない”作品を手掛けたいです。

安藤:……今、わたしのなかのプロデューサー脳がふたたび動き出して、和田さんの作品をどう売ろうか考えてしまいました(笑)。そこにプレイヤーが登場する以上、冒険する舞台が宇宙にしろ体内にせよ、RPG作品として発表したいな、と。

和田:なるほど。その発想でいけば『Birthdays』のRPGも作れそうですね。
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安藤:人類を進化させるRPGというと『46億年物語』を思い出しますね。でも、『No Man's Sky』というよりかは『Mass Effect』とでもいうか、ストーリー性のあるゲームのほうが日本のプレイヤーには合っていると思います。
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和田:確かに。

安藤:ぜひ、機会があればお2人の作品をわたしにプロデュースさせてください。では、最後にこれからクリエイターを目指す人や壁に当たって悩んでいるクリエイターの方に応援のメッセージをいただけますでしょうか。

原:ではわたしからはクリエイターを目指している人に。頭の中で空想することも大切ですが、それだけではなく、いろいろなことを実際に体験してみてください。そうすれば「こうすることで、こういう結果が生まれる」という説明がうまくなり、多くの人に感動を伝えることができるようになると思います。あとはマルチプレイのゲームをたくさん遊んで、いろいろなプレイヤーを知ったり、自分自身も壁にぶつかったり乗り越えたりという、リアルのスポーツ的な体験をしてほしいですね。

安藤:お客様に喜んでもらうことこそが、我々の仕事の本懐。難しいだけのゲームを作って自己満足しているだけではダメです。では、和田さんにはゲームクリエイターを続けるコツをお聞かせ願えれば。

和田:まずは何より、健康でいることですね。わたしが20年以上いっしょに仕事をしている人は、やっぱり心も体も健康なんですよ。逆に才能がある人でも心や体を病んでしまうと辞めてしまうんです。ストレスがたまりやすい仕事ではあるのですが、運動をしたり、しっかり睡眠をとったりして、自分自身を維持、コントロールしてもらいたいですね。
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安藤:制作を長く続けるには、何よりも心身ともに健康であることが重要。わたしもまったくの同意見です。今日は最後までシンパシーを感じっぱなしです。とてもおもしろいお話を聞かせていただき、ありがとうございました。


テキスト:カワチ(Makoto Kawachi) 1981年生まれ。ライター。ビジュアルノベルに目がないと公言するが、本当は肌色が多けれななんでもいい系のビンビン♂ライター。女性声優とセクシー女優が大好き。
ツイッターアカウント→カワチ@kawapi

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