世界に目を向ければ天才でなくてもマンガ家として食べていける/イラスト制作・漫画制作の株式会社フーモア代表・芝辻幹也さんvsゲームDJ安藤武博対談【後編】
名刺の肩書に「CEO 兼 漫画家」と入っている、株式会社フーモアの社長 芝辻幹也さん。前編では、マンガ家を目指したきっかけから、フーモアを立ち上げ、イラスト制作事業での成功を足がかりに、いよいよマンガ制作事業を立ち上げたところまでのお話をうかがいました。マンガは分業制にすれば、一部の天才だけでなくもっとたくさんのクリエイターがヒット作を作れるようになる、と語る芝辻さん。世界進出のその先にある野望を、ゲームDJ安藤武博が聞き出します。
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▲安藤武博(写真左)、芝辻幹也さん(写真右)。
前編はコチラ→夢中になれることが才能……「情熱」こそがヒットにつながる

■マンガの読み方が変化する? 縦スクロールマンガで世界を狙う成長戦略

芝辻幹也さん(以下、芝辻):マンガを制作するにあたり、分業制に加えてもう一つ導入したいと思っているのが「縦スクロール形式」です。この形式だと、世界に受け入れられるマンガが作れる。これは、フーモアという会社を立ち上げる前からずっと思っていたことなんですけどね。日本ではあまり出てきていませんが、韓国では2000年頃から縦スクロールマンガが制作されていて、映画化されるヒット作も生まれています。

安藤武博(以下、安藤):日本ではCMもやっていたマンガアプリ「comico(コミコ)」が有名ですよね。そうか、だからコミコは韓国企業のNHNの子会社が運営しているんだ。

芝辻:そうなんですよ。韓国のウェブ漫画は「Webtoon(ウェブトゥーン)」と呼ばれていて、世界中で人気があります。日本の漫画は見開きで、右ページの右上から左下、左ページの右上から左下、と読んでいきますよね。でも、これは日本独特の文法であって、じつは海外の人にとっては読みにくい。縦スクロールなら、左上から右下に見ていくことができる。これは世界標準の文法のマンガなんです。

安藤:納得です。

芝辻:今はスマートフォンでマンガを読む人も多くなってきています。ユーザーの読み方が変わったのなら、そこに合わせた文法でマンガをつくるべきだと思っているんです。「マンガは見開きの本で読む」って常識は、じつは世界の非常識なんじゃないかと。そういう「常識という名の非常識とは何か」ということを、よく考えているんですよね。
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安藤:「常識という名の非常識」、とてもおもしろい考え方ですね。たとえば、文法以外にどんなものがあるんでしょう?

芝辻:マンガでいうと「絵の描き込みは本当に必要なのか」とか。それを確認するために、マンガの分散型メディアを運営していたときに、実験したんですよ。その分散型メディアでは、TwitterやFacebookなどいくつかのソーシャルメディアに、マンガ作品のポイントをまとめた動画を配信していたんです。そのなかで同時期に、絵の描き込みがほとんどないネームのような作品と、作画をしっかりやった作品を配信しました。そうしたら、ネームのような作品のほうがよく閲覧されたんですよ。

安藤:そのデータは興味深い。

芝辻:そもそも内容がおもしろかったというのもあると思うのですが、評価もネーム作品のほうが高かったんですよね。だから、マンガを楽しむのに絵の描き込みはじつは必要ないんじゃないかなと。『HUNTER×HUNTER』もネームみたいな状態で連載していた時期もありましたが、それでも私たちはしっかり楽しみながら読むことができた。これは、脳内でキャラクターの絵を補完していたからです。だから極端な話、キービジュアルさえちゃんと作れば、あとはネームでも伝わるんじゃないかと考えています。

安藤:それが実現したら、どうなるか気になる試みですね。

芝辻:これはあくまで実験ですし、今すぐネーム状態のマンガを出してヒットするとは思っていません。でも、それでもいいんだということがわかったら、どういうビジネスモデルだったら収益が出るのかということも考えられるでしょう。そういった思考錯誤は常に心がけています。
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■前提を疑うと、違う角度から物事が見えてくる

安藤:芝辻さんのそういう独特な発想って、いったいどこからでてくるんですか? いろいろな人と話し合って生まれてくるものなのでしょうか?

芝辻:いえ、一人で考えています。子どもの頃から自分のロジックに反していることが、どうしても納得できないんですよ。親に「夜に爪を切ると親の死に目に会えないからやめろ」と言われたんですけど、それって何の裏付けもない迷信ですよね。たぶん、昔は電気が普及していなくて家が暗かったから、夜に爪を切ると危ないがゆえに言われていたことなんだと分析していますが、今は明るいからそんなのまったく関係ない。でもそうやって説明すると、「屁理屈言うな」と言われたりしがちじゃないですか。学校の勉強だって、なぜ頑張らなければいけないのかが自分のなかで納得できないと、全然手を付けられませんでした。

安藤:幼い頃から前提を疑って、盲点を指摘することができるタイプだったわけですね。みんながなんとなく従っていることでも、「それはおかしい」と言える。童話「裸の王様」で「王様が裸だぞ!」って言っちゃう子どもみたいな。

芝辻:そうそう。とはいえ最近では、これはおかしいと思っても、あんまり言うと引かれそうなことは黙って従うようにしています。私、夏場にビジネスマンがスーツを着ているのもおかしいと思っていて、半袖半ズボンのフォーマルスタイルを作ればいいと考えたんです。でも、まじめに主張しても「何言ってんだ」と言われるので、普通にスーツを着ていますよ(笑)。

安藤:なるほど(笑)。優れたサービスを提案できる人って、新しい見方を提案できる人だと思うんです。だから、芝辻さんのその考え方は起業家としてはすごく合ってるんじゃないでしょうか。

芝辻:そうですね。事業やマンガ制作においては、自分独自のロジックがネタになることもあるので、活用しています。

安藤:サイトの自己紹介に、「趣味は理論物理学(最近は専ら超ひも理論)」とあるのも、おもしろいなと思っています。

芝辻:いやあ、超ひも理論も完全に「俺ロジック」ですよね。人間の想像で作った理論なので、すごく適当なんですよ。「え、あなたのその考え、万物に当てはめちゃうの?」みたいな(笑)。でもロジックとしては通っていたりもしますから、そこがおもしろい。
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安藤:サイトに2016年からフーモアは第二創業期に入ったとありましたが、これからのフーモアが目指すところは?

芝辻:やっぱり、海外進出ですね。今、アプリのチームでマンガを制作しているんです。その翻訳版を海外に出して、広告モデルで収益化をはかろうとしています。海外はそもそもマンガを読む文化がなく、マンガのためにお金を払うという意識もないんですよ。だから、まずはアプリ内広告を出すことで、読者は無料で読めるようにする。このモデルを確立できて、読者層が広がってきたら、日本のコンテンツホルダーも海外に出そうという流れになるかなと。それで今は、恋愛系に特化したアプリマンガを制作しています。

■「自分がマンガ家として食える世界」を目指して

安藤:なぜ恋愛マンガなんでしょう?

芝辻:正直にいうと、単純に市場を広げるだけならアダルトコンテンツを配信することが一番手っ取り早いと思っています。でも、さすがにIPOを目指している会社で、アダルトをやるわけにはいきませんから。その次に興味関心を引きやすく、世界中で共感を得られるジャンルとして、恋愛に特化することにしました。そうして広告モデルが確立できたら、次は低年齢層向けのマンガを作っていこうと考えています。
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安藤:低年齢層向けマンガというのは、具体的にはどういうマンガでしょう?

芝辻:「読みやすいマンガ」ということですね。というのも、海外では子どもの識字率が低いところもけっこうあって、それを向上させようという動きがあります。で、やっぱり本よりマンガがおもしろいから、マンガなら読むという子どもは多い。そこに対して、マンガを読むことで字も覚えられるし、何らかの学習もできるというコンテンツを提供していくと、これまた広まっていくんじゃないかと考えまして。そのうえで、マンガに親しんで育ったら、大人になったときに私達が提供する本格的なマンガも読むようになるだろうと。そうしたら市場のパイを大きく取れるはずです。

安藤:そこまで考えておられるんですね。

芝辻:いま、日本のマンガ市場はざっくり5000億円くらいといわれています。対して、世界のマンガ市場はかき集めたら1兆円くらいあると考えられます。日本人はマンガが大好きなんですけど、それと同じくらい世界中の人たちがマンガを読むようになったら、ポテンシャルとしては7兆円を超える市場に成長すると算出しているんです。しかも、マンガってそれだけで完結せずに、それを原作としてアニメ、ゲーム、グッズが作られたりする。ヒットするマンガを作れるようになったら、60兆のコンテンツ市場も我々のビジネスのフィールドになるわけです。

安藤:なんだか芝辻さんのお話を聞いていると、合計で3億円出した出資者の方々の気持ちがわかりますよ(笑)。
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芝辻:とまあ、ここまではビジネスサイドの話です。クリエイターとしていうと、世界進出したら、私もマンガ家として食っていけるかもしれない。だからこそ、この事業にすごく力を入れているんです(苦笑)。

安藤:おっと、ここでいきなりマンガ家・芝辻幹也が顔を出すんですね(笑)。世界進出したら食っていけるというのはどういうことですか?

芝辻:私が描きたいマンガって、たとえるなら「鳥山明の絵柄で星新一のショートショートみたいなお話が展開するシュールな短編」なんですよ。

安藤:えっと……どういうマンガでしょうね? SFで異能力バトルみたいな?

芝辻:それはまだ一般的にウケそうですけど、もっともっとシュールで、主人公が死んじゃったり、無限ループが繰り返されたり……そういうのがやりたいんです。でも、そういうマンガが好きな人はさすがに少ない。連載するなら単行本が3000部は売れないと続けられないけど、それほどの読者を得られないんです。でも、日本市場だけではその数に満たなくても、世界市場で考えればなんとかなるかもしれない。世界のどこかには、そういうシュールな短編が好きな人がもっといるはずなんですよ。つまり、日本だけだと100人しか読者がいないような作品でも、世界に出せば1万人の読者がつくかもしれない。
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安藤:なるほど! それはたしかに。

芝辻:現在、マンガ家って一部のトップしか食べていけないんですよね。ピラミッドとすらいえないような構造になっているんです。だからまず、マンガの仕事を増やして下の層を広げていく。それは分業制にして、作画に特化した人、シナリオ、ネームに特化した人を育成することも含まれます。世界進出で、世界標準のマンガをつくる、マンガを読む人を増やす。この2つを推し進めたら、きっと下の層も食えるようになる。イコール、私もマンガ家として食えるようになるということです!

安藤:芝辻さんが目指すところがよくわかりました。そして、芝辻さんの野望が実現した世の中はおもしろそうですね。わたしもそういう世界を見てみたいので、応援しています!
テキスト:崎谷 実穂(Sakiya Miho)
新卒で入社した人材系企業でコピーライティングを、転職先の広告制作会社で著名人・タレントなどの取材記事を担当し、2012年に独立。ビジネス系の記事、書籍のライティングを中心に活動。趣味は将棋で、アニメ・マンガ(BL含む)もわりとよく観る&読む中途半端なオタク。

崎谷実穂 サイト→『sakiyamiho.com』
ツイッターアカウント→sakiya@yaiask