「大丈夫だ、問題ない」あの名ゼリフの原点は世紀末救世主伝説にあった! ──『エルシャダイ』の竹安佐和記が己に課したルールとは【カヤックゲー宣部・畑佐が往く/第2回】
面白法人カヤックの新たな施策「ゲーム宣伝部(ゲー宣部)」の発起人である畑佐雄大が、自身が気になるクリエイターたちを直撃! その人となりを掘り下げていくインタビュー企画が、この「カヤックゲー宣部・畑佐が往く」である。
第2回目となる今回は、「神話構想」という世界観を軸に、ゲームや小説、コミックスなどで独自の物語をつむぐゲームクリエイター・竹安佐和記氏を直撃! 氏が運営するイラストギャラリー/ネットカフェ「ギャラリー エルシャダイ」にて、クリエイターとしての原点から作品に対する想いまでをアツく語っていただいた。
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竹安佐和記氏(写真左)
ゲームディレクション、キャラクターデザイン、プロデュースなど幅広い仕事をこなすゲームクリエイター。カプコン、クローバースタジオを経て株式会社crimを設立。代表作に『Devil May Cry』(モンスターデザイン)、『鉄騎』モデル製作、『鉄騎大戦』メカデザイン、『大神』(妖怪デザイン)、『零 ~月蝕の仮面~』キャラクターデザイン、『無限航路』(キャラクターデザイン)、『エルシャダイ』(ディレクター/キャラクターデザイン)、『GOD WARS ~時をこえて~』(モンスターデザイン)などがある。2017年8月26日には、最新作『ザ・ロストチャイルド』(プロデューサー/キャラクターデザイン)が発売予定。

畑佐雄大(写真右)
カヤックのクライアントワーク事業部(以下CL事業部)プロデューサー。大手ゲーム会社でゲームプランナーとして、企画や制作を担当していた過去を持ち、カヤックで「ゲーム宣伝部(ゲー宣部)」を立ち上げた。
■手塚治虫にGAINAXにイデオンに!? クリエイター・竹安佐和記のルーツを探る

畑佐雄大(以下、畑佐):竹安さんはカプコンでゲームクリエイターとしてのデビューを果たし、近年ではご自分の会社を立ち上げて活動されていますよね。本日はこれまでに竹安さんが手がけてこられたゲームについてはもちろん、クリエイター・竹安佐和記そのものに踏み込んでお話を聞いていきたいと思っております。どうぞよろしくお願いいたします。

竹安佐和記氏(以下、竹安):よろしくお願いします。……って、こんなおっさんのお話を聞いて、読者の方は喜んでいただけますかね?(苦笑)

畑佐:もちろんです! いまやおっさんゲーマーもたくさんいる世の中ですから。

竹安:たしかに。クリエイターもユーザーも、総じて歳を重ねてきていますよね。

畑佐:それだけ、ゲームという文化が定着して歴史を重ねたということじゃないでしょうか。いまや世代を問わず、スマホでゲームを遊ぶユーザーも多いわけですが、形は変われどゲームから離れるということはもうないんじゃないかと感じています。

竹安:おっしゃるとおりですね。僕もずっとゲームに携わって、バカをやりながら歳をとっていきたいと思っています。
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畑佐:最高の人生じゃないですか! ではまず、竹安さんがそこまでゲームにズブズブにハマッてしまった理由からおうかがいしていきたいです。……やはり、クリエイターを志すにあたって、ゲームは昔からプレイされていたんですよね?

竹安:そうですね。でも、最初からゲーム業界を目指していたわけではないんですよ。僕は大阪芸術大学の出身なんですけど。

畑佐:大阪芸術大学というと、あの『新世紀エヴァンゲリオン』の庵野秀明さんやGAINAXの山賀博之さん、赤井孝美さんらが通っていたという……。

竹安:ええ。その大阪芸術大学です。じつは僕、中学校の頃に見たGAINAX作品の「王立宇宙軍 オネアミスの翼」というアニメにものすごく影響を受けまして。正直なところ、中学生にすべて理解できるような安直な作品ではないのですが、その独特の「スゴさ」だけははっきりと感じていたんです。それで勘違いしたというか、いわゆる「この難解な作品を面白いと思える俺スゲー!!」となりまして(笑)。

畑佐:わかる気がします。いわゆる中二病というか、何かをこじらせた感じですよね?

竹安:ええ。少年時代に手塚治虫作品を読んだとき以来の衝撃を受けたわけです。少し話が逸れますが、僕は手塚治虫さんから受けた影響も大きくて、『火の鳥』や『ブッダ』などは夢中で読みあさっていました。兄がオタクだったこともあり、『伝説巨神イデオン』なども見ていましたね。おかげで、人の業とか、人間の性(サガ)とか、そんな小難しいことを中学1年生の頃から考えていたりして。あれは兄による洗脳といえるでしょう。
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畑佐:洗脳ですか(苦笑)。でも、少年時代にそれらの作品に触れたことが、竹安さんのクリエイティブに密接に影響している感はありますね。

竹安:そうして高校生のとき、そのGAINAXから『トップをねらえ!』がリリースされて、またもや心を震わされたわけですよ。というか、これで人生が決まりました。「とにかくスゴイぞ! こういう世界に携わって生きて生きたい!」と。

畑佐:なるほど。

竹安:なので、最初はアニメ業界を目指していたんですよね。でも、具体的にどうしたらいいのかはわからず、また勉強もあまり好きではなかったので、なんとか別の手段はないものかと模索していたところ、とある雑誌の広告で「絵が上手ければ美大に進める」ということを知りまして。これで勝負しようと考えた高校2年生の僕は、そこから絵を描き始めることにしたわけです。

畑佐:高校2年生ですか!? そこから美大に……しかも大阪芸術大学に進むというのは、ものすごいことなのではないでしょうか?

竹安:いやいや。2年浪人していますし、ものすごく苦労しましたよ。絵の予備校などにも通っていたのですが、本当に絵の才能がなくて自分でもガッカリしたくらい。何をやっても振るわなくて、挫折ばかりを味わっていました。ただ、そうこうしているうちに数をこなすことでデッサンだけは上手くなっていきまして。勉強もできない、色彩もうまくはない。だったら、デッサンの力だけで戦える大学はないものか……と。そうして探して入学できたのが、大阪芸術大学だったわけですね。正直、結果論からのギリギリのスタートでした。
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畑佐:なるほど。GAINAXに憧れて大阪芸術大学を目指したというよりは、必要に迫られて選択した形だったわけですか。それにしても奇妙な偶然ですね。

竹安:もちろん、デッサンだけで入れたからという側面は大きいですけど、GAINAXの系譜に関しては入学後にしっかりと追いかけましたよ。近年、コミックスやドラマで人気だった『アオイホノオ』という作品で、大阪芸術大学が舞台になったりもしましたが、まさにあんな感じの学校でしたからね。

畑佐:おお! あれは作品化にあたって誇張されていたわけではなく、大阪芸大って本当にあんな大学だったりするんですか?

竹安:少なくとも、僕が通っていた頃はあの作品で描かれていたままの雰囲気でしたね。おかげで、コミックスもめちゃめちゃ楽しんで読めていました。とにかく、感性がぶっ飛んでいる人間が多い。そういう土壌があるんです。広場で畳に手裏剣を投げて、忍者の研究をしているヤツがいると思えば、体育館でちょっと古風なロックスターを目指してギターをかき鳴らしているヤツもいたりと、おかしな人間ばっかり(笑)。

畑佐:でも……失礼ながら竹安さんからも、少なからずその血脈を感じてしまうのは僕だけでしょうか(笑)。

竹安:うーん、どうでしょう(苦笑)。でも、入った学部はオシャレな人間ばかりでしたよ。僕は場違いというか、アニメを作りたいのにここで何を学べばいいんだろうって思っていました。
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畑佐:では、大学に入ってからも変わらずアニメ業界を目指しておられたと?

竹安:ええ。じつは僕は、工芸学科のテキスタイルに所属していたのですが、映像学科の友人に誘われるまま、彼らの卒業制作であるアニメーション作りに参加したんです。作品は完成しましたが、結果、僕は留年するハメになりました。

畑佐:えーっ!? って、たしかに学科が違いますから、それは仕方がないですね(苦笑)。

■アニメ制作を体験したことで新たに開かれた扉。『バイオハザード』をきっかけにゲーム業界へ

竹安:でも、そのアニメーション制作をきっかけに、エンターテイメント業界を本格的に志すことになりました。

畑佐:世界が広がった感覚ですね。

竹安:制作にかかわったアニメを見た友人に「竹安はゲーム業界が合うよ」って言われたりして。ちょうどその頃はプレイステーションの全盛期で、たまたまアパートの隣に住んでいた浪人生時代からの友人に『バイオハザード』を借りたんです。

それまでも『ドラゴンクエスト』や『ファイナルファンタジー』などは知っていましたけど、特別にゲーム小僧だったわけではなくて。ゲームセンターに入り浸ったりもしていましたが、それも友達つきあいの一環でしたから、ゲーム文化というものが自分のなかにはほとんどなかった。それだけに、『バイオハザード』を遊んだときは本当に衝撃的だったんです。まるで映画のような演出とか、遊びを超えた恐怖に打ち震えました。
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畑佐:初代『バイオハザード』は本当に衝撃的でしたが、そこが初のゲームカルチャーだとすると、そのインパクトは相当なものだったでしょうね。

竹安:そうして「ゲーム業界もおもしろそうだぞ」と思い、『バイオハザード』を作ったカプコンを受けようと心に決めました。大阪の企業ということで大阪芸大にも学校単位での募集が来ていたのですが、残念ながらすでに期限は終了していて、それでも諦めきれずに一般公募で受けることになりました。カプコンって当時からものすごい競争率で。数百人規模の試験をパスして次の試験会場に向かったら、いきなり僕1人しか残っていなかったりもしてビックリしました。まるでハンター試験みたいで(笑)。

畑佐:わかりやすい例えですね。それはすごい確率ですよ(笑)。

竹安:そこで運よく試験に合格して、晴れてカプコンに入社することになり、いざ入ってみたら、なんと偶然『バイオハザード』チームに所属することになったんです。初めて『バイオハザード』を遊んでから、1年も経たないうちにその開発チームに所属できたわけですから、かなりラッキーでした。

畑佐:なるほど。そんな竹安さんにとっての最初の転機は、やはり『Devil May Cry』になるのでしょうか? 
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竹安:『バイオハザード』チームに入って『バイオハザード4』の開発に携わっていたのですが、会社の方から『バイオ』らしくないということで『Devil May Cry』とタイトルが変わり、そのモンスターデザインを担当することになりました。それが終わったあと、いくつかのタイトルをこなしていたら、当時の上司がカプコンから独立されることになりまして……。

畑佐:いわゆるクローバースタジオの設立ですね。

竹安:ええ。そこでその上司に「お前もついてくるか残るか決めろ」と言われまして。僕はもともと『バイオハザード』に憧れてカプコンに入ったわけで、上司のことはクリエイターとして尊敬していましたから、ぜひ一緒に仕事をしたいと思い、クローバースタジオに移ることに決めました。

畑佐:そうして、かの名作『大神』に携わることになった、と。『大神』は名作でしたよね。今なお世界中のファンに愛されているのも頷けます。

竹安:ありがとうございます。おかげさまで、『大神』では1スタッフでありながら妖怪のデザインの多くを担当させていただきました。おっしゃる通り、『大神』はたくさんのゲームファンに今なお愛されているコンテンツですから、あの作品にかかわることができたのは、自分の中でとても大きな出来事でしたね。ただ、『大神』を発売してほどなくして、またもや上司たちが新会社を設立するというお話になりまして……。
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畑佐:なるほど。それは竹安さんからするとビックリされたわけですね。

竹安:はい。「プロジェクトが終わるたびに会社を立ち上げるの?」って愕然としましたね、いろいろな意味で(笑)。そこでまたしても「ついてくるかどうか決めろ」というお話になるわけですが……。

畑佐:そこであえてついていくことはせず、ご自身の会社を立ち上げるに至った……と?

竹安:あえてというか……会社は必要に迫られてというか、独立にかんしては上司の教えに従ってのことではあるんです。

畑佐:そうなんですか。具体的にはどういうことでしょう?

竹安:上司は当時、「本当のクリエイターというものは会社に帰属するのではなく、自らのクリエイティブで道を切り開いていかなければならない」とおっしゃられていまして。なら、僕はその教えに従って行動しようと考えたんです。もしかしたら、上司は「そんな俺についてこい」と思ってくれていたかもしれませんが(笑)。まぁ、そんな上司の教えを忠実に実行した結果ともいえますね。

畑佐:袂を分かったとか条件が折り合わなかったとかそういうことではなく、ご自身のクリエイティブで道を切り開いていくことを優先した結果だったんですね。

竹安:正直なところ、会社で絵を描くことは業務の一環でしかありませんし、それを続けることの難しさや、そもそも絵って本当は上手い上手いと技術自慢になるのではなく、自分が人生で感動したものを表現し、人に感銘を与えるツールなのではないかと思ったんです。それで、このまま絵だけを描き続けることに疑問を感じたというか……誰でも歩める人生にしかならないと感じたというか。だから、あの時はとにかく上司の顔色を見ながら技術向上ばかりを目指すような、つまらない人生を終わらせたかったんです。過去のみんなに嫌われてもいいから、新しい世界が見たかったということですかね。
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■連続して訪れる人生の転機──東京で住まいを捜す際の基準はあの有名マンガ!

畑佐:そうして新しい道を模索し、ご自身の会社を立ち上げたわけですね。

竹安:会社は結果論で、別に必要とは思ってなかったです。ただ、自分1人の力で何かを成し遂げなければ意味がないと思えたことは、自分にとって大きな成長だったと思います。当時は32歳でしたし、人生をリセットして新しいことを始めるにはギリギリかもしれないと感じていました。そもそも、たくさんの人に受け入れられて、世界中でさまざまなゲーム賞を受賞した『大神』でデザインの一翼を担っておきながら、独立したら仕事がないなんてありえないだろうという思いもありましたね(笑)。

畑佐:それは打算でもなんでもなく、そのとおりなのではないでしょうか。

竹安:とはいえ、もしダメだったときはすぐに元の鞘に戻れるよう、つま先ぶんくらいは足跡を残したりもしつつ……って感じでしたね(苦笑)。評価された仕事があるのに独立して新しい仕事がなければ、その評価そのものが虚構でしかないんじゃないかというのも、確認したかったのはあります。

畑佐:なるほど(笑)。

竹安:そうして独立し、身一つで東京に出てくることになりました。最初はあてにしていた会社もあり、また親戚の家にやっかいになるつもりでもあったので、あまり現金の持ち合わせなどもなくやってきたわけですが、紆余曲折あって仕事の話も親戚の家に住む話も全部なくなり、じつは途方にくれたんですよ。

畑佐:いきなり生々しい話になってきましたね。竹安さんにそんな苦労話があったなんて。
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竹安:とりあえず1人暮らしをしなきゃ……と家を捜すことになるわけです。じつは僕、子どもの頃に『シティーハンター』というマンガが大好きだったんですけど。

畑佐:『シティーハンター』! なつかしいですね。ということは、まさか新宿に?

竹安:そう。『シティーハンター』の物語の舞台が新宿だったので、そこに対する憧れが強くて。新宿界隈で家を捜しました。ずっと大阪が拠点だったものですから、「東京といえば新宿だろう」と(笑)。

畑佐:失礼を承知でいいますけど、それは清々しいくらいに安直ですよ竹安さん(笑)。安直過ぎていっそ気持ちいいです。ちなみに、僕も『シティーハンター』は大好きでしたから、その気持ちはものすごく理解できますし、やっぱり憧れますね。

竹安:無謀ですよね。おっしゃるとおり、我ながら気持ちいいほど安直で、とにかく向こう見ずでした(笑)。ただ、それで持ってきていた現金はほとんど吹き飛んでしまったわけで……。恥ずかしながら両親からお金を借りたりもしましたが、それだけでやっていけるわけもなく、結局はガムシャラになって働くしかなくなったんですよね。

畑佐:いきなりリミッターが課せられてしまったわけですか。ご両親も心配なされたのでは?

竹安:いえ。そこは妙に自信があったというか「当座のお金は借りるけど、絶対に金利10%を足して返すから心配するな」と話して、説得しました。

畑佐:なんでしょう……新手のオレオレ詐欺のようなお金の借り方がまたじつに斬新です(笑)。

竹安:両親を安心させたかっただけなんですけど……こんな言い方はないですよね、やっぱり(苦笑)。ただ幸いなことに、尊敬していた河野一二三さんや須田剛一さんをはじめ、すぐにいくつかのお仕事を受けることが出来ましたし、結果的に嘘はついていませんよ。

畑佐:すみません。竹安さんというととてもスマートなクリエイターというか、そういった泥臭さとは無縁のようなイメージを勝手に持ってしまっていたので、なんだか距離感が近くなった気がして、個人的にうれしいです。

竹安:スマートなんてとんでもない! 僕はそんなものとは無縁の男ですよ。人生下品であれと思っていますし、今も必死に走り続けています。ただ、距離感が近いと感じてもらえたのなら僕もうれしいです。
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畑佐:そうして個人でお仕事をなさっていくうちに、竹安さんが今なお携わり続けている『エルシャダイ』というコンテンツが生まれることになるわけですよね。おそらく、ご自身にとって大きなターニングポイントになったであろう、この『エルシャダイ』が生まれることになった経緯も教えていただけますか?

■『エルシャダイ』にまつわるエピソード──男が男を口説くときのルール

竹安:『エルシャダイ』についての話は様々なメディアさんに取り上げてもらったこともあって、新鮮味はあまりないかもしれませんが……。この作品は、イギリスに本社を構えるイグニッション・エンターテイメント・リミテッドの元日本法人代表であった竹下和広さんにお声掛けをいただき、動き出したプロジェクトです。当時、僕は5本以上の仕事を抱えていて、肉体的にも精神的にパツンパツンで。そんなときに竹下さん経由で、イギリスの本社から「ぜひ一緒にゲームを作りたいので、スタジオの立ち上げから関わってほしい」というオファーをいただきました。今にしてみれば、神降臨の瞬間でしたね。

畑佐:スタジオの立ち上げ……それはものすごく大きなプロジェクトってことですよね? ご自身としてはどんな心境だったんでしょう。やはり、とてもうれしかったのでは?

竹安:どちらかというと「ありがたいけど、しんどいな」って気持ちのほうが強かったですよ(苦笑)。ただ、当時のイグニッションのCEOだったVijay Chadhaさんが、わざわざ僕を口説くために来日してくれまして。これがまた、マンガのイベントのような出来事だったんですけど。
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畑佐:ここでなぜマンガが? いったいどんなイベントでしょう?

竹安:それが……なんとこのChadha氏、わざわざ自分の誕生日にイギリスからこの東の島国までやってこられまして。「今日は僕の誕生日だから、一番欲しいものをもらいに来た。それが君との契約なんだ」とか、歯の浮くようなことをズバッと言ってきたわけですよ。

畑佐:すごい! それはもうプロポーズみたいなものじゃないですか!(笑)

竹安:もうね……僕としてもそれ以上に神の啓示かと思ったくらい(笑)。こんな口説き方が現実にあるんだなって感心してしまって、その時点で僕の負けなんですよね。もう契約書にサインを書くしかないだろうと。

畑佐:覚悟を決めたわけですか。竹安さん、男ですね! というか、そんな口説かれ方をして、落ちないのは逆に男じゃないですよね。

竹安:そこからすぐに既存のお仕事を終わらせて、先ほどお話しにも出た、元イグニッション日本法人代表の竹下さんと一緒に仕事をすることになりました。

畑佐:ちなみに、竹安さんはそれまでおもにデザイナーとしてのキャリアを積んでこられたかと思うのですが、『エルシャダイ』ではディレクターや世界観設定など、これまでとは違った畑のお仕事も手掛けられたわけですよね?

竹安:はい。正直、求められているものが自分のキャパを大きく超えていることは自覚していまして。「これは信頼できる仲間がいないと絶対に成り立たない」と考え、最初はずっとスタジオのメンバー集めのことばかり考えていました。

畑佐:今度は竹安さんが口説く側に回ったわけですね。

竹安:僕、『JINGI(仁義)』ってマンガが好きなんですけど。その物語では大事な話をするとき、決まってサウナで裸で話すっていうのがセオリーだったんですよ。

畑佐:なるほど……早くもオチが見えてきた気がします(笑)。

竹安:もうね、ご想像のとおりなんですけど(苦笑)。スタジオのメンバーを口説くとき、決まってサウナで裸のつきあいをする……そんな流れが出来上がっていました。今思えば何をやっていたんだ俺はと思いますが、当時はそれにハマっていたんでしょうね。何かをこじらせていました。
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畑佐:とはいえ、古来から裸のつきあいというものは重視されてきたものでもあるわけですし。実際に、その口説き方で落とせたメンバーも多かったのでは?

竹安:そうですね。裸のつきあいうんぬんというのもあるかもしれませんが、何より「新しいことをするために、キミの力が必要なんだ」ってところが大きかった気がします。僕自身、これまでにやったことがないものへと挑戦するわけですし、何もかもが新しいことだらけだったので、そのチャレンジ自体を楽しんでくれるような人でなければ一緒にやれないなと思っていました。実際は、新しいもの好きがたくさん集まってくれたこともあって、苦労話もたくさんありつつ、とても楽しいプロジェクトでしたよ。

■「大丈夫だ、問題ない」=「お前はもう死んでいる」!? あの名ゼリフが生まれるまで

畑佐:『エルシャダイ』は興味深いプロジェクトでしたね。発売前から多くの話題を集めていたことがとくに印象に残っています。「そんな装備で大丈夫か?」「大丈夫だ、問題ない」は、ゲーム好きなら誰もが知っているといっても過言ではないほど有名な掛け合いになったわけですが、あのへんのプロモーション展開は狙って火をつけたものなのでしょうか?

竹安:そうですね。当時のゲームメディアのインタビューでもお話ししたことなんですけど、火種は狙ったところに投下して、狙ったとおりに着火させることができました。「大丈夫だ、問題ない」は、マンガの『北斗の拳』でいうところの「お前はもう死んでいる」のような、強烈なインパクトを残す決めゼリフを作りたいと考えて生まれたものなんです。

畑佐:ルシフェルやイーノックのセリフの原点は『北斗の拳』だったんですか! それは知りませんでした。

竹安:ただ、「お前はもう死んでいる」ってセリフは言葉の意味が不健全というか、ぶっちゃけ親とか目上の人に言った日には、怒られることが目に見えてますよね。だから、僕のなかで「親に言っても怒られない言葉を決めゼリフにする」という目標のもとに生まれたセリフなんですよ。
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畑佐:なるほど。子どもが親に「大丈夫だ、問題ない」って言っても、それで怒られたりはしませんよね。

竹安:そのセリフを発するにあたって、「大丈夫じゃないシチュエーションだけど、あえて大丈夫だと言い切るカッコよさ」は意識しています。けっして茶化しているわけではなく、本人たちはいたって真剣なんですけど。ただ、見ているこちらからすれば「いやいや、大丈夫じゃないだろう」ってツッコミたくなるシチュエーション。笑ったらいいのか、それとも笑ってはいけないのか……そんな感じで印象に残ってもらえればと考えていました。

畑佐:あそこで「大丈夫」と言い切るところが主人公であるイーノックのカッコよさであり、やっぱり大丈夫じゃないあたりが彼のカッコ悪さでもあるわけで、そのある種「シリアスな笑い」が人気を呼んだポイントだった気がします。あれは当時、すごく新鮮でした。

竹安:ただ、自分の中に「ニコニコ動画」という文化がなかったものですから、そこでいわゆる「MAD」として人気が出ることは、唯一予想外でしたね。僕としてはインターネットの掲示板、「2ちゃんねる」とかまとめブログなんかで話題になることを予想していただけに、あの動画文化には驚きました。
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畑佐:当時、ものすごく盛り上がっていましたよね。あれはプロモーションする側にとって、どのようにとらえられていたのでしょう?

竹安:盛り上がってファンのみなさんに喜んでもらえたことはありがたい反面、開発側としては複雑な側面はありましたね。何より、著作権を持つ側としてどう動くべきかというのは、これまでにない文化であっただけにとても悩みました。正直なところ本社にはあのニコニコ動画での盛り上がりについてはまともに報告しませんでしたからね。

畑佐:なるほど。報告したらどう転がるか予想できませんもんね。

竹安:当時のゲーム業界は、Youtubeやニコニコ動画などの、いわゆる動画文化に厳しかったですから。実況動画がアップされたりしても、削除依頼が出されていましたからね。

畑佐:そう考えると、現在は動画がプロモーションの主流になっていたりして、時代の流れを感じますね。あとは女性人気が爆発したというのも、とても大きかったのではないですか?

竹安:そうなんですけど……じつは女性をターゲットにして制作していたわけではないんですよね。そこも予想外だった部分です。じつは昔からそうなんですけど、僕自身はめちゃくちゃ男性的なセオリーに基づいて、とくに女性の目を意識することなくコンテンツを手掛けているんですが、なぜか熱狂的な女性ファンがついてくださるんですよね。女性の目を意識していないというより、意識しようにもできないというか、僕にはわからない部分だと思っているんですけど。

畑佐:何か無意識のうちに、女性ユーザーの心を刺激するスパイスを盛り込んでおられるってことなんでしょうね。

竹安:もちろんうれしいんですけど、自分としてはむしろ男性に向けて発信したコンテンツのはずなのに、多くの女性ファンに受け入れてもらえるというのはやっぱり不思議ですよ。

畑佐:ご自分のなかに男性的な感性だけではなく、女性的な感性も兼ね備えておられるといった自覚はあります?

竹安:いや、正直まったくわからないです。ただ、単純明快なエロスよりも美しいもののほうが好き……といった感覚はあるかもしれません。たとえば水着で多くの肌を露出しているグラビアアイドルより、キリッとした衣装を身にまとったファッションモデルのほうに目がいくというか。エロよりもオシャレが好き……とでも言えばいいんでしょうか。

畑佐:なるほど。それは竹安さんが描かれるイラストを見ると、なんだか納得してしまいますね。
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竹安:単純に露出が多いものよりも、布で隠してなお隠しきれないところに艶というか、美しさを感じてしまうんです。

■これからの「神話構想」、そしてこれからの竹安佐和記

畑佐:では、このへんで真面目なお話も。現在、『エルシャダイ』はイグニッションから竹安さんの個人会社であるcrimに権利が譲渡されていて、名実ともに竹安さんのコンテンツになっていると思います。この『エルシャダイ』、そして世界観を共有している最新作の『ザ・ロストチャイルド』、さらには小説やコミックなども展開している「神話構想」というものについてお話をお聞かせいただけますか?
竹安:「神話構想」というものは、先ほどお話に出てきたVijay Chadhaさんと竹下和広さんという2人の神から「10年続けられるコンテンツを生み出してほしい」とオーダーを受けて考え出したものなんです。10年続けられるものとなると、当然物語としての厚みは必要で、そうなると9章構成から成る「サーガ」を作るのはどうだろうと考えまして。そこから生み出されたもののほんの一部分が『エルシャダイ』で描かれた物語なわけです。

ただ、『エルシャダイ』がゲームとして続編が作れないとなったときに、構想していた物語は宙ぶらりんになってしまったわけで、それになんとか血と肉を与えてあげられないかと考えていました。そんなとき、仲のいい出版業界の方などに「構想があるのなら本にして出版しませんか?」と声をかけていただいたことをきっかけに、ゲームのラストも描いたPHP研究所の『エルシャダイ』原作小説をはじめ、さまざまな神話と絡めたりしながら物語を展開し、複数の見せ方で発信していくことになったわけです。

畑佐:そんな経緯があったんですか。
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竹安:これは『ザ・ロストチャイルド』にかんしても同じで、竹下さんから角川ゲームスの代表である安田善巳さんをご紹介いただき、そこから始まったお話しなんです。当時僕は、スクウェア・エニックスGファンタジーコミックスから出ている「El Shaddai ceta」という漫画の連載を始め、わりと忙しく働いていたので、ゲームの開発は出来ないなと思っていました。しかし、安田さんは社長でありながら自らもディレクションする「プレイングマネージャー」を務めるという珍しい方で。この安田さんと一緒なら、また面白いことが出来るのではないかと思い、お仕事をご一緒させていただきました。

畑佐:竹安さんにとって、新たな刺激がある出会いだったわけですね。

竹安:おかげさまで『ザ・ロストチャイルド』はエルシャダイの系譜を引き継ぎながらも、角川ゲームス独自の色をしっかりと持った、新たなIPとして完成出来たのではないかと思います。僕も今はプロデューサーという肩書きで関わらせていただいてますが、実際は安田さんをはじめ、角川ゲームスの長谷川さんなどが汗を流して頑張ってくださったものですし、今は僕としてもそういったところをとても応援したいと思いながら関わらせてもらっています。ということで、8月24日発売の『ザ・ロストチャイルド』も、ぜひともよろしくお願いします!

『ザ・ロストチャイルド』公式サイト:http://thelostchild.jp

畑佐:なるほど。それにしても、「神話構想」のような広がり方を見せる作品というのも、なかなか珍しいかもしれません。

竹安:自分としては「やってやるぞっ!!」とものすごく前向きに生み出したというよりは、気が付けば色々な展開が動き出していた側面もあって。「神話構想」は結果的に、これまでにないコンテンツになったなぁと感じています。僕は基本的に新しいもの好きなので、あまり同じものに執着しないタイプなんですけど。この「神話構想」のようなコンテンツの広げ方というのは、ゲーム業界を見渡して僕以外にやっている人はあまりいないと思うので、自分の存在も含めて新しいことをやれているのかなと自覚しています。それがモチベーションにつながっている部分はありますね。

畑佐:なるほど。

竹安:じつのところ、このまま「神話構想」が広がっていくとして、そこから生まれる作品に必ずしも自分が携わっている必要はないと思っているんですよ。それがおもしろいものでさえあるのなら、誰が作ったものであっても構わない。究極の話、それがエンターテイメントの発展に、ひいては人類の未来につながるものであれば、そこに僕という人間が介在している必要はないな、と……。
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畑佐:それはある種、神のような視点で物事を考えておられますね。クリエイターというものは、少なからず「俺の作ったものを見てくれ! 評価してくれ!」という側面があると思うのですが、竹安さんはそこを超越している感じがします。

竹安:超越というのはおこがましいですね。どちらかというと枯れているっていうか……。そういった「俺が俺が」という部分は、若いころにさんざんやってきたものですから。

畑佐:そういわれてしまうと、こちらとしてはなんだかさみしいですけど。

竹安:先ほどもいったとおり、常に新しいことをしていたいと思っているがゆえに、過去にさほど固執しないって部分はあるかもしれませんね。今は自分の作品うんぬんというよりは、ゲームというエンターテイメントそのものが、もっと高みにのぼるにはどうすればいいんだろう……なんてことを考えていたりします。それに自分が貢献できることはなんだろうかと、まだまだ模索している段階ですけど。

畑佐:ただひたすらに作り続けてきた10年から、次の10年に向けて新しい動きを模索しておられるんですね。それは後進を育てることなのかもしれませんし、もっと新しいムーブメントを生み出すことなのかもしれません。

竹安:具体的なことは何も決まっていませんけど、少なくとも『エルシャダイ』にかんしては、あと3年とかそれくらいで節目はつけたいですね。たとえば『エルシャダイ』にはセタとリュタという二つの世界があるのですが、ゲームに関わるセタの物語は原作小説で終わっているものの、リュタはまだ手をつけてもいません。ですので、リュタの最後に関わる物語を描いた新たな小説を1冊書き上げるなど、なんらかの落としどころは見つけたいなと思っています。これは僕がVijay Chadhaと最初にかわした約束を守るという意味でも成し遂げたいですね。
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畑佐:なんだかカッコいいですね。男と男の約束を守るというのは。

竹安:誰もしらないような、僕だけのなかで生き続けている約束なんですけど(苦笑)。でも、そこに殉じたいとは思っています。

畑佐:今日はどうもありがとうございました。お話しできて光栄でした。それにしても、竹安さんはとても人間くさい方ですね。正直なところ、お会いする前に抱いていた印象とはだいぶイメージが異なっていて、お話ししていてとても楽しかったです。

竹安:そうなんですか? ちなみに今日お会いする前って、僕はどんなイメージだったんでしょう?

畑佐:もっと前衛的というか、先鋭的というか、なかなかコミュニケーションもままならないような方かもしれない……そんなふうに思っていました。お気を悪くされてしまったらごめんなさい。

竹安:いやいやいや、じつはよく言われるんです。でも、全然そんなことはありませんよね? なんでだろう、作風のせいなのかな……。

畑佐:それはあるかもしれませんね。「神話構想」というコンテンツ自体、ちょっと先鋭的なイメージをかもし出していますし。

竹安:ただの中二病ともいえますけどね!? 僕のことをものすごいインテリだと思っている方もおられるようですけど、根は生粋の関西人ですから(笑)。ガッカリさせてしまったなら申し訳ないです。
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畑佐:ガッカリなんてとんでもない。また今度、じっくりお話を聞かせてください!

(インタビューロケ場所:ギャラリーエルシャダイ
テキスト:タダツグ(Tadatsugu) シシララTV編集部、電撃編集部などで活動中のゲームライター/編集。生放送にも出演中。いつまでも少年の心を忘れないピーターパン症候群を自認するケツ合わせ系テキスト書き。好きなゲーム:『ニーア』シリーズ、『ヴァルキリープロファイル』シリーズ、『ペルソナ』シリーズ、『パズル&ドラゴン』など多数。

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