「日本発のエンターテイメント」を生み出すためにやるべきこと──セガ新小田裕二×DeNA田中翔太×ゲームDJ安藤武博 プロデューサー鼎談
『コード・オブ・ジョーカーPocket』のプロデューサー・新小田裕二さんと『デュエル エクス マキナ』のプロデューサー・田中翔太さん、そこにゲームDJ安藤武博が加わった本鼎談。後編は、お二人が好きなゲームタイトルの話に。『エイジ オブ エンパイア』や『ウィザードリィ』など、往年のPCゲームの魅力から、現代のゲームにつながるヒントを見つけていきます。
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前編→ゲームセンターの血脈が受け継がれた「TCG」の魅力とは?

■衝撃的だったブラウザゲームの柔軟性

安藤武博(以下、安藤):田中さんはDeNAに入って何年目になるんですか?

田中翔太さん(以下、田中):アルバイトの時期も入れると9年になりますね。アルバイトをしていた頃は、DeNAのオフィスが初台にあって、そこで『怪盗ロワイヤル』に関わっていました。

安藤:初台ですか。そのあたりに元々は旧エニックスの本社、最近まではスクウェア・エニックスのキャラクターグッズショップがあったんですよ。

田中:そう、その隣の隣のビルにいたんですよ! 先ほど「セガ文化」のお話を聞いていて、思い出したことがあります。自分の同期に、Webの会社だと思ってDeNAに入り、ゲームの部署に配属されて、ブラウザゲームを楽しみながらずっと作ってきた人がいて。

でも、4年目くらいのとき、二人で飲みながら話していたら、根っからのゲーム会社への強いリスペクトとコンプレックスがあふれてくるんです。自分はブラウザゲームの領域がすごく好きで、運用しているとたくさんの人が喜んでくれる。でも、ここからゲーム制作を極めていったときに、ゲーム会社の人たちに勝てるのか、と。

安藤:なぜそんなコンプレックスが? DeNAさんはいろいろな事業をやっていて、ゲーム一本ではないからですかね? そんなこと言ったら、エニックスの創業者はもともと公団の空き情報誌の配布事業をしていたし、『ドラゴンクエスト』がヒットするはるか前はロボットが寿司を握る回転寿司屋を経営したりもしていたんですけどね(笑)。

新小田裕二さん(以下、新小田):セガだって、もとはジュークボックスの輸入とかしていましたからね。最初からゲームメーカーってわけではない。
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田中:そうなんですか(笑)。僕はずっとやってきたブラウザゲームの運用が、意外と武器になるということを『デュエル エクス マキナ』を作っているときに感じたんです。例えば、コンピュータ戦をこまめにアップデートしたり、特殊なルールを盛り込んだイベントを月に数回やって、ユーザーさんに飽きられないようにしています。

安藤:この手のゲームにしては、初期から縛りのあるプレイを導入しているのが特徴ですよね。

田中:それは明確に、ブラウザゲームの影響なんですよね。ブラウザゲームをやっていた頃は、毎週違うルールのイベントを開催したりしていたんです。先週は陣取りをしていたから、今週は的当てをしてもらおう……みたいな。

安藤:Webから出てきたゲームの衝撃は、その柔軟さにありましたね。有名なのはドリルで穴を掘って財宝を探す『探検ドリランド』から、「ドリルをなくす」というアップデートがおこなわれたこと(笑)。あれには驚きました。

田中:ただ、そのやり方に慣れてからアプリゲームを作ろうとすると大変なんです。クライアントを毎週アップデートするのは、さすがに厳しいですからね。

安藤:アプリゲーム制作の構造は、ブラウザゲームと比較すると相当複雑になりますよね。ここでものすごく根本的な質問になるんですが、田中さんはゲームが作りたくてDeNAに入社したんですか?

田中:じつはそうではないんです。大学の専攻は法学で、弁護士になろうと思っていました。だから、DeNAのアルバイトも、当初はeコマースに配属される予定だったそうです。でも『怪盗ロワイヤル』が盛り上がってきたので、こっちの事業に配属しようとバイトが始まる数日前に変更になったそうで……。もし、eコマースの事業部でバイトしていたら、今こうしてゲームを作っていることはなかったでしょうね。人生の分岐点だったと今でも思います。
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■「ゲームは人生だ」と思わせてくれた名作たち

安藤:もともと、ゲームは遊んでいましたか?

田中:はい。高校までは『エイジ オブ エンパイア』や『シヴィライゼーション』などの戦略系ゲームがすごく好きでした。

安藤:渋いですね(笑)。なぜそのあたりのゲームをやるように?

田中:きっかけは友達の家に遊びに行った時、その友達のお父さんのパソコンに入ってた『MYST(ミスト)』をプレイしたことです。

新小田:『MYST』! 懐かしい!!

田中:当時ゲームボーイのタイトルばかりやっていた子どもが、PCゲームを初めて見たものだから、「これは何なんだ!」と衝撃を受けたんです。なんかこれ、やばいぞって。

安藤:『MYST』は衝撃的なタイトルでしたよね。当時にしてはCGクオリティがものすごく高いし、ヒントも出ないし、遊び方もよくわからなかったのでは(笑)。

田中:そもそも「PCでゲームができる」ということをはじめて知ったわけでして。「こんな高度なゲームがこの世にあるんだ!」とびっくりしました。そのときはまさか、ゲームを作る仕事につくとは思っていませんでしたけどね。でも、『エイジ オブ エンパイア』に出てくる兵種などを今回の『デュエル エクス マキナ』を作るときの参考にしたりして、まさかゲームで遊んだ日々が役に立つとは、と(笑)。

安藤:たしかに、『デュエル エクス マキナ』の文化圏の違いの描写などは、『エイジ オブ エンパイア』や『シヴィライゼーション』を感じさせるものがありますね。そのほかに好きだったゲームはありますか?

田中:プレイステーションの『高機動幻想ガンパレード・マーチ』ですね。
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安藤:あのゲームは、ホームページのBBS(掲示板)がすごい盛り上がったんですよね。それを体験されたんですか?

田中:いえ、じつは中古で買ったので、一足遅くて体験できなかったんです……。その盛り上がりをあとで知って、すごく悔しかった。だから、「ゲームは流行っているときにやらないとな」って感じるようになりました。そして、ゲームを作っている今となっては、ああいう盛り上がりを作りたいなと思っています。

安藤:新小田さんは子どもの頃、どういうゲームで遊んでたんですか?

新小田:小学校低学年の頃からゲーセンで遊んでいましたね。当時は本当にアーケードゲームの黎明期だったので、『ドンキーコング』に『マリオブラザーズ』、『ギャラガ』や『ディグダグ』とかが現役で動いてました。で、小学校高学年からはPCゲームもやってたんですよ。それで、『ウィザードリィ』にめちゃくちゃハマったりしました。

安藤:不朽の名作ですよ、『ウィズ』は。

新小田:『ウィザードリィ』は、「ゲームは人生だ」と思わせてくれた名作です。このゲームって、パーティが全滅したら、そのパーティの死体を回収しに行かないといけないんですよね。当然、全滅するくらいだからけっこうやり込んだ最下層にいる。そこまで行くのに30時間かけてパーティを育てたなら、それを救えるパーティを育てるのにもまた30時間かけなくてはならない。そうして苦労して回収した最初のパーティの死体に、蘇生魔法を試みるものの……二回失敗してしまうと、そのパーティのメンバーは完全にいなくなるという。

安藤:そう、ゲームデータからプレイヤーキャラが消えちゃう。すごいシステムですよね。

新小田:せっかく一緒に戦ってきた仲間が消えちゃったときに、「ああ……人生はどんなにがんばっても思いどおりにいかないことがあるんだ」と悟りました。こういう体験は忘れられませんよね。
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■「悔しさをマネジメントする」という考え方

安藤:度を越して難しいとか、頭を使わなければ進められないゲームって、スマホゲームからはなくなりつつあるんですが、その揺り戻しはかならずあると思っています。それは、お二人の作ったゲームにも表れているんですよね。簡単にクリアできないゲームって、ゲームをやってないときもずっと攻略方法なんかを考えている。

田中:考えますねえ。

安藤:「あそこでこうやればよかったんじゃないか」ということが、ずっと頭の中にあって離れない。そういう部分こそが魅力でもあるんですよね。だから僕は、ゲームってもっと難しくていいんじゃないかと最近思っています。

新小田:僕も同意見で、最近「難しいゲーム」への揺り戻しが起きていると思っています。「クリアできないからこそおもしろい」というものの再評価が始まっている。初期の「リアル脱出ゲーム」を手伝っていたことがあるんですが、あれは脱出成功率が10%を切るように基本設計されているんです。創始者の加藤隆生くんが「悔しさをマネジメントするんだ」と言っていて、クリエイターとして至高の名言だと思いました。悔しいという感情は、強いんですよね。続けていくモチベーションになる。

田中:『怪盗ロワイヤル』を運用してたときに、すごく大事にしていたKPIがあるんですよ。それを僕らは「タッチの差エラー」と呼んでいました。あるお宝を一人のユーザーが持っていて、それを数人で同時に盗りに行った時、タッチの差で取れない人が現れる。画面には「そのお宝はもう奪われています」と出るんです。これが、ある一定数値を超えていると、不満になっちゃうんですよ。でも、逆にこの数値が低すぎると簡単に盗れてしまっておもしろくなくなる。だから、僕らは「タッチの差エラー」の数値で、『怪盗ロワイヤル』のおもしろさを測っていました。

新小田:盗られてたら悔しいから、そりゃ毎朝5時に起きますよねぇ(笑)。

安藤:わかります(笑)。ちなみに新小田さん、『ウィザードリィ』のほかにも、好きなゲームはあります?
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新小田:比較的最近の作品ですが、『STEINS;GATE』は好きですね。

田中:おお! 僕も好きです、『STEINS;GATE』。

新小田:あれは、主人公への感情移入の仕組みが頭抜けてるんですよね。ストーリーとしては、タイムリープもので、幼なじみが何百回と死に続けるんですけど、その悔しさを共有しているのはプレイヤーである自分と主人公だけなんです。ほかのプレイヤーは全員記憶が残っていないので。この構造がすごいと思うんですよ。

主人公の辛さと、何百回と試行している自分の辛さと孤独感がものすごくシンクロする。「セーブする」というゲームならではのシステムを逆手に取っているんですよね。1回セーブして、また戻って同じことをやるというのは、便利でもあるけど辛いことなんだと再認識させられました。

安藤:ゲームシステムを、そのまま感情移入につなげるというのは見事なクリエイティブですよね。

新小田:あと、PC黎明期のアドベンチャーゲームはすごく印象に残っています。僕はしつこいようですが(笑)、ゲームって人生だと本気で思っていて。ゲームの中で違う人生を経験することで、結果的に自分自身の幅を広げてくれるものだと思っています。本や映画にもそういう側面がありますが、ゲームはインタラクティブ性や、自分が主人公であるというところで、他のメディアを超える可能性があると考えているんです。

そういう意味では、自分が主人公となって物語を進めるアドベンチャーゲームがずっと好きなんですよね。黎明期のPCアドベンチャーゲームって、今の選択式と違ってひたすら言葉を探すゲームなんですよ。ひとつのワードが思いつかないだけで、1カ月や2カ月、平気で先に進まないという。

安藤:わたしも『サラダの国のトマト姫』とか、コマンドがわからなくて全然進みませんでしたよ。

新小田:何を入力しても「?」が出てくるなかで、ある時ふと正解が見つかって、ぱっと画面が暗くなり、次のシーンの描画が始まったときの感動。あれは何物にも代えがたかったですね。あの感動を求めて、今でもずっとゲームをやっている気がします。
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■ 次世代のゲームセンターと「セガ学園」が実現する?

安藤:では最後に、お二人にこれからやってみたいことをお話いただければ。

田中:『デュエル エクス マキナ』を作っているときに、「我々はテーマパークなんだ」と言ったことがあるんです。

安藤:テーマパークですか? 具体的にはどういうことでしょう?

田中:わかりづらいですよね(笑)。世の中にはすごいテーマパークがいくつもあるけど、そういうゲームは作れないと正直思っています。でも、それでいいんです。僕はTCGを作っているという意識なので、TCGじゃないものになったと言われてはいけない。でも、そのうえで「TCGでこんなこともできるんだ」とは言われたいんです。

安藤:なるほど。その肌感覚はなんとなくわかります。プロデューサーがゲームの軸をブレさせることなく貫きとおすというのは、大事なことですよね。ぜひ貫きとおしてください。では、新小田さんはどうでしょうか。

新小田:僕は5年後くらいに、新機軸のゲームセンターを作りたいですね。それは、日本という国はエンターテインメントにおいては、まだまだ後進国だと思っているから。大きなテーマパークは外国にあるものの輸入ですし、「劇団四季」は日本の劇団だけど演目はブロードウェイなどから借りてきている。世界に誇れる日本発の場のエンターテインメントがない、と思っているんですよね。

でも、ゲームセンターはその「日本発のエンターテイメント」になれる可能性があるんじゃないかと。ゲームセンターをお酒が飲める大人の場にして、もっと新技術とかも入れるなど、次のレベルに引き上げるというのが僕の野望ですね。
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安藤:それはわたしも見てみたい未来です。

新小田:あと、10年後には学校を作りたいです。

安藤:学校ですか!

新小田:ゲーム業界は慢性的に人不足と言われているので、これからは自分たちで見込みのある人材を育てていかないといけない。だったら、セガの中に学校を作れるのはどうかと。とはいえ、育てた人がみんなDeNAさんに就職しちゃったら困ってしまうんですけど(笑)。なので教えることと、うちの会社のことを伝えていくコーポレートエバンジェリスト的な活動、その両方が必要だと考えています。

安藤:そうして10年後に「セガ学園」が生まれるわけですね。

田中:その学校、むしろ僕が通いたいです(笑)。

安藤:お二人の夢は壮大でおもしろい。新しいことに挑戦していこうという部分が共通していてとてもおもしろい。わたしもゲームDJとして、ものすごく刺激を受けました。本日はどうもありがとうございました!

テキスト:崎谷 実穂(Sakiya Miho)
新卒で入社した人材系企業でコピーライティングを、転職先の広告制作会社で著名人・タレントなどの取材記事を担当し、2012年に独立。ビジネス系の記事、書籍のライティングを中心に活動。趣味は将棋で、アニメ・マンガ(BL含む)もわりとよく観る&読む中途半端なオタク。

崎谷実穂 サイト→『sakiyamiho.com』
ツイッターアカウント→sakiya@yaiask
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