「好きなことを仕事にして生きていく」──香川愛生×梨蘭ゲーム対談【シシララ女子会/第1回・前編】
将棋の女流棋士として活躍する香川愛生さんと、ゲーマータレントの梨蘭さん。二人は、ゲーム番組などを通じて知り合い、同世代のゲーム好き女子として交流を深めてきました。今回は、そんな香川さんと梨蘭さんが仕事やゲーム遍歴について、本音で語り合います。盛り上がった結果、なぜか手元にはお酒が……? 聞き手は将棋好きライターの崎谷です。
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▲写真左から香川愛生さん、梨蘭さん、崎谷実穂さん。
■将棋棋士はゲームをやりこんでいる人が多い

──まずはお二人の現在のお仕事についてお話を聞かせてください。

香川愛生(以下、香川):私は、15歳から日本将棋連盟に所属するプロの女流棋士として活動しています。仕事内容は大きく分けて2種類ありまして、一つは公式戦での対局です。女流棋士同士で、女流王位戦、女流名人戦など、6つのタイトルをかけて、年間を通して戦っています。もう一つは、将棋の普及活動ですね。将棋の指導をしたり、イベントに登壇したり、将棋番組の聞き手を務めたりと、こちらの仕事の幅は多岐にわたっています。

──香川さんは、最近コンピュータゲームやソーシャルゲームの分野でもご活躍されていますよね。

香川:それも自分としては、将棋の普及活動の一環として捉えています。棋士のメディア露出自体、この数年でものすごく増えました。発端は、対局のネット中継が始まったこと。2011年からニコニコ生放送でタイトル戦の完全生中継が始まり、それまでなかなか見られなかった棋士の対局姿が身近なものになりました。

──おやつをもぐもぐ食べているところまで中継で観られるのは、当時衝撃を受けました。

香川:そうですよね(笑)。それをきっかけに、おもしろいキャラクターの棋士などが知られるようになり、将棋以外のイベントや番組などに呼ばれることも増えました。そのアプローチの一つとして、ゲームという切り口もけっこう多いんです。

──棋士の先生は『人狼ゲーム』などのニコ生によく出演されている印象があります。

香川:『人狼』が得意な棋士は多いですね。私も『人狼』の番組でゲームクリエイターの方と知り合ったことがきっかけで、ゲーム関連のイベントに出たり、ゲームクリエイターの方と対談させていただいたりするようになりました。もともと、棋士はゲームが好きな人が多いんですよ。
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──やはりそうなんですね。少し前に女流棋士の藤田綾さんが、睡眠時間と食事の時間以外、すべての時間で『スプラトゥーン2』を遊んでいるというスケジュールを披露して話題になっていましたけど、あれは……?(笑)

香川:サービス精神旺盛ですよね(笑)。でも藤田さんが『スプラトゥーン』好きなのは本当のことで、先日、女流棋士4人と女性声優さん4人とで、ニコ生で『スプラトゥーン』の交流戦をやりましたよ。棋士は8割くらいの方が、何かしらゲームをやりこんだ経験があるんじゃないでしょうか。なので、棋士に将棋以外のことをメディアでやらせるとなったら、やはりゲームが取り上げられる機会は多いと思います。

■アイドルとは名乗れない? 「ゲーマータレント」を名乗るのワケ

──では、梨蘭さんの今のお仕事は?

梨蘭:私はゲーマータレントとして、とにかくゲームに関する仕事しかしていません。シシララTVさんの番組に出たり、イベントに登壇したり、あとはYouTubeの個人チャンネルを持っていて、そこでゲーム実況をしたりしています。

──ゲーマータレント、というお仕事があるのでしょうか。

梨蘭:いえ、私が勝手に名乗ってるだけです(笑)。芸能活動をし始めた当初、アイドルと言われるのがなんだか違うなと思っていて、自分で呼び方を決めたんです。
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香川:それ、賢いかも。

梨蘭:私達の世代のアイドルって、モーニング娘。から始まって、ももクロとかAKBとか……キラキラしてるし、すっごい努力してて、ちょっと自分の職業とは違うなと思う(笑)。

香川:わかる……! アイドルは自分を磨いて、ファンになってもらうことで成り立っている存在だけど、梨蘭ちゃんはゲームが先にあるでしょう。おもしろいゲームを紹介したいとか、それを通じて人とつながりたいとか。私も自分自身より、自分の好きな将棋とかゲームのおもしろさを伝えたいんだよね。

梨蘭:アイドルって、ファンに好きになってもらう職業だから基本的に恋愛禁止じゃん。男の人とわちゃわちゃしてるのも、あまりよく思われない。でも、ゲームをやっていたら、それはまず無理なんだよね。男の人はゲームが強いから、情報もらったり対戦したりすることでこっちも学びがあるし。

香川:そうだよねぇ。あー。なんか楽しくなってきた! 梨蘭ちゃんとこうやって話せるの、めっちゃうれしい。飲み会みたいなテンションなんですけど、なんかお酒ってありませんかね(笑)。

タダツグ:ビールと酎ハイくらいならありますけど……。

梨蘭:えー、すごい楽しい! 飲みましょう、飲みましょう!!

──では、私もおこぼれに預かって……。

一同:カンパーイ!!
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タダツグ:ええ……何この絵面……(笑)。

香川:で! 梨蘭ちゃんは、どうやってゲームに出会ったの?

梨蘭:幼稚園の頃に、お父さんが抽選かなんかでゲームのいっぱい入ったボックスを当ててきたんだよね。そこにスーパーファミコンやゲームボーイ、そしてそれらのソフトがたくさん入ってて。たぶん、型落ちしたやつを詰め合わせにしたんだと思うんだけど、当時はほんと、宝箱みたいに思えたな。

香川:そんなの家にあったら、超いいね……!

梨蘭:それからずっとゲームをやってて。3~4歳の頃から、夜中の2時くらいまで寝ない不良児童でした(笑)。で、男の子みたいな性格だったから、小学生になってからは男の子と野球やるか、NINTENDO64で『スマブラ(大乱闘スマッシュブラザーズ)』をやるかどっちか、みたいな。

香川:うわー、自分の話を聞いてるみたい。野球はやってなかったけど、私も男の子みたいだったんだよね。髪もずっとショートヘアにしてた。

■男の子に勝てないのが悔しくて……

梨蘭:私もショートだった! 男の子と遊ぶほうが好きだったし、自分も男の子になりたかった。だから、スカートを履くのも嫌いだったし、漫画雑誌も『ちゃお』とか『りぼん』じゃなくて、『コロコロコミック』を買ってた。

香川:コロコロでは何が好きだった?

梨蘭:「うちゅう人田中太郎」!

香川:わかるーー!! 私もめっちゃ好きだった。

梨蘭:内容は超くだらないんだけどね(笑)。でも、ゲームってやっぱりうまいのは男の子だったでしょ。強い子には絶対勝てないんだ。
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香川:そうなの! 悔しいよね……。

梨蘭:そう、悔しい。今でもゲームを続けてるのは、その悔しい思いがあったからじゃないかな。あそこで「あー、負けちゃった。でも、男の子は強いからしょうがないな」って納得してたら、この年齢になってまでやってない気がする(笑)。スマブラも男友達はみんなうまくて、強いキャラクターとか技とかすぐ見つけちゃうの。だけど私には見つけられない。そういうのがすごく悔しかった。

香川:そうなんだよねぇ。私も『スマブラ』は「ヘタ枠」みたいに扱われてて、それで仲間外れにされるとかじゃないんだけど、やっぱりすごく悔しかった。でも、私には将棋があったから。将棋は相手よりがんばったら勝てると思って、ずっとやり続けてたんだよね。

梨蘭:私は中学生になって福岡に引っ越したんだけど、やっぱりそこでもゲームやってて。そのときやってたのは、『ゼルダの伝説 時のオカリナ』とか。

香川:あー、名作だね。

梨蘭:兄弟とかいなかったから、そんなにたくさんハードを持ってたわけじゃなかったんだよね。家が裕福だったわけじゃないし、ソフトも基本は中古で買ってたなあ。で、高校生のときにやっとPlayStation2を買って、そこで『みんゴル(みんなのGOLF)』に出会ったの。あれは遊びまくった。それから、高校は文化服装学院(http://www.bunka-fc.ac.jp/)っていう服飾の専門学校に行くことにして。

──コシノジュンコや山本耀司、丸山敬太などを輩出している、アパレル界の名門校ですよね。

梨蘭:私はお父さんが画家だったりするので、芸術系の血筋ではあるのかなと思います。でも授業の課題がハードで、しかもそれを徹夜で頑張るタフな同級生ばかりで、ついていけなくなって……。私はそんなに体が丈夫ではなかったから、何回か徹夜で頑張ったら身体を壊しちゃったんですよね。思うように頑張れないのがストレスで、学校もあまり行けなくなって、自律神経失調症になってしまいました。

香川:それはつらいね……。

梨蘭:就職活動の時期に倒れちゃったから、就職も決まらず、卒業して何もやることがなくなっちゃったんだよね。ゲームは相変わらずやってたんだけど(苦笑)。
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香川:何をやってたの?

梨蘭:その時は『バトルフィールド』かな。洋ゲーに手を出し始めてた。きっかけはニコ動で、囲炉裏さんって人のゲーム実況をよく観ていたからなんだけど。

香川:わー、囲炉裏さん知ってる! 私も好きだった!!

梨蘭:それで『零 ~zero~』っていうホラーゲームをやってたのを見て、私もやりたいって思ったの。それで、ホラーゲームに手を出して『サイレントヒル』を遊び、そのあたりから洋ゲーのほうに移っていったんだよね。21~22歳あたりはゲームで人を撃つか、バイトするか、酒を飲むか以外は何もしていないという……じつにダメな生活を送っていました(笑)。

──—おおお……。

■詐欺師のおじさんとの出会いから芸能の世界へ

梨蘭:このあたりから、人生を踏み外し始めましたね(笑)。何もやる気が起きないし、好きなことも見つからない。正直、何をすればいいのかわからなくなった。でも、連日お酒を飲んでいたら、さすがに身体のほうが悲鳴をあげて、この生活を続けられなくなったんです。で、ちょうどそのころ、詐欺師のおじさんに会いまして……。

香川:詐欺師!? いやもう、波乱万丈すぎる。話を聞けば聞くほど、梨蘭ちゃんのこと好きになるわ(笑)。そのおじさんとはどこで会ったの?
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梨蘭:バイト先の飲み屋さん。で、そのおじさんに芸能的な仕事をやってみないかと言われたんですよ。その時は本当に、何もやることが決まっていなかったから、軽い気持ちで「とりあえず乗っかってみようかな」と思って。それでネット番組をやらせてもらったら、これがすごくおもしろかったんですよね。

──今につながる道がひらけて来ましたね。

梨蘭:でも、そのおじさんは詐欺師だったから(苦笑)。お金持ちを装ってるのに、実際は全然お金がない人だったんだよね。番組を作っても、制作陣にも出演者にもギャラが支払われない。そんな生活を送っているうちに、マジでドン底の貧乏になってしまって。米と調味料だけは人からもらったのがあったから、毎日米に塩かけて食べてました。

香川:「米と調味料はあったから」って、それもうスゴ過ぎるよ(笑)。

梨蘭:ほんとにね(笑)。電気が止まるのとか、日常茶飯事。電気って、3カ月くらい支払えないと止まるんですよね。そんな日々があったから、今ではちょっと貧乏になったくらいじゃ全然動じません(笑)。で、さすがにその詐欺師のおじさんの仕事はもう受けられないと思い、縁を切りました。それから自分で芸能事務所を探して、いまのゲーマータレントの仕事にたどり着いたんです。

香川:途中が壮絶だったね……。「これから何をしたらいいのかわからない」っていうのは、すごくつらい状態だと思う。私は、たまたま好きになった将棋というものがあって、中学生でプロになれたから、生涯をかけられる仕事になったんだよね。これはすごく恵まれてことなんだって、改めて感じた。私が一番しんどかったのは、高校生のときに将棋をやめてしまおうかなと思ったときだったもん。

梨蘭:そんなときがあったんだ。なんでやめようと思ったの?

香川:対局で全然勝てなかったから。将棋はすごく好きなのに、自分のダメなところを総合して考えると、「要するに、将棋に向いてないってことなんだな」と思っちゃって。でも、自分から将棋をとったら何も残らないんですよね。そこから数年後に「女流王将」というタイトルを取ることができて、結果を出せたから、続けてきてよかったと思えたけど。

梨蘭:好きなことって、やめたらどうなっちゃうんだろうね?
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香川:どうなるんだろうねぇ……。その時は「何もなくなっちゃう」という不安しかなかったな。

梨蘭:きっと、愛生ちゃんが将棋やめたいと思っても、完全にやめられるわけじゃないと思うよ。だって好きなんだもん。私もゲーム、仕事にしなかったとしても、ずっと続けてると思う。「好きなことを仕事にしないほうがいい」っていう人もいるけど、私はそれは違うんじゃないかなと思ってて。好きなことを仕事をして食べていけるなんて、こんなに楽しくて幸せなことはないよ!

タダツグ:好きなことを仕事にして生きていく──それって香川さん、梨蘭さん、そして崎谷さんと、この場にいるみなさんに共通している側面かもしれませんね。

(後編へ続く)

後編はコチラ→いつだって「好き」が最大のモチベーション──香川愛生×梨蘭ゲーム対談


テキスト:崎谷 実穂(Sakiya Miho)
新卒で入社した人材系企業でコピーライティングを、転職先の広告制作会社で著名人・タレントなどの取材記事を担当し、2012年に独立。ビジネス系の記事、書籍のライティングを中心に活動。趣味は将棋で、アニメ・マンガ(BL含む)もわりとよく観る&読む中途半端なオタク。

崎谷実穂 サイト→『sakiyamiho.com』
ツイッターアカウント→sakiya@yaiask