激動のソーシャルゲーム業界を生き抜くために必要なこと【ポケラボ前田悠太×ゲームDJ安藤武博 対談・前編】
リリース前から大きな話題を呼び、ユーザーが300万人を超えた『SINoALICE(シノアリス)』をはじめ、数々のヒットタイトルを開発している株式会社ポケラボ。その代表を務める前田悠太社長と、ゲームDJ安藤弘武の対談企画が実現! 本対談では、今年10周年を迎えたポケラボの軌跡を辿りつつ、今回のヒットに至るまでの裏側を明らかにしていく。
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■ゲーム制作は「1000本に3本が当たる」世界

安藤武博(以下、安藤):ポケラボさんは、今年で設立10周年なんですね。その節目の年に、『SINoALICE(シノアリス)』、『戦姫絶唱シンフォギアXD UNLIMITED』というヒットタイトルが出たというのは、とてもすごいことだと思っています。そもそも、ガラケーに始まった携帯電話を主戦場としたゲームの会社で、10年も存続しているということ自体が奇跡的なことですよね。

前田悠太さん(以下、前田):もう10年という思いと、まだ10年という思い、両方ありますね。安藤さんもご存知だと思いますが、この業界は非常に浮き沈みの波が激しいですよね。ソーシャルゲームの世界では、2009年にmixiがオープンプラットフォームを採用して、GREE、モバゲーもそれに続いて、たくさんの会社がソシャゲの開発に参入しました。でもあの頃参入して、今もゲームを作っている会社は本当に少ない。

安藤:そうですよね。最初に前田さんとお会いしたのは、2012年でした。僕はまだスクウェア・エニックスに勤めていて、『拡散性ミリオンアーサー』を出した頃。App Storeのセールスランキングで『パズル&ドラゴンズ』やポケラボの『運命のクランバトル』、そして『 拡散性ミリオンアーサー』がしのぎを削っていたのを覚えています。

前田:そうでしたね。懐かしい。

安藤:そして、2012年の10月にグリーがポケラボの全株式を取得して、グループ会社化した。調べてみたら、取得総額が138億8 600万円で、当時も大ニュースになりましたよね。

前田:この前年である2011年に、ガラケー向けからスマートフォン向けのゲーム開発に舵を切ったんです。そして『運命のクランバトル』や『三国INFINITY』など、ヒット作に恵まれてからのM&A……という流れだったんですよね。

この頃は、『パズドラ』などのメガヒットタイトルがばんばん出てきた時期でもありました。加えて、グリーグループに入ることで月次売上も数億ではなく、数十億レベルを期待されるようになった。社内では「ホームラン戦略」と言っていましたが、つまるところはホームランレベルのメガヒットを期待される目線に向けて変わりましたね。
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安藤:僕はけっこうゲーム作りを野球に例えるので、ホームランという表現はしっくりきますね。エニックスにいたときは、ゲームづくりは1000打席3安打、いわゆる「千に三つ」だと言われていました。これを、「そんなにヒットが出ないのか」と考えるか、逆に「1000本作れば必ず3本は『ドラゴンクエスト』みたいなヒットが出るのか」と考えるかで、クリエイターとしての適性が変わってくると。

前田:おもしろいですね。しかし、経営者としては1000打席で3安打はきつい(笑)。

安藤:ですよね(笑)。ゲーム会社としては10打数3安打だとしても、けっこう厳しいでしょう。僕は2014年に出たポケラボのアクションRPG『クロスサマナー』が好きで、これは次のスタンダードになると思っていました。これもホームラン戦略の一環として作られたんでしょうか。

■「得意を積み重ねる戦略」と「諦めなければ勝てる勝負」

前田:そうですね、『クロスサマナー』や2015年の『ポイッとヒーロー』、2016年の『激突!クラッシュファイト』あたりはホームラン戦略の文脈で作ってきました。一方で『戦乱のサムライキングダム(サムキン)』は二塁打、三塁打を狙ったタイトルです。

自分たちの得意なこと、ゲームシステム部分を「GvG(ギルドvsギルド)」をベースに作り、結果としてはうまくいきました。そして、それ以外のタイトルはなかなか難しかった。スマホのゲームに各社が軒並み力を入れているなかで、やはり自分たちだからこそできるものづくりに原点回帰しなければ、お客さまから選ばれないという実感につながりましたね。

それを踏まえて方針転換し、現在のプロジェクトを仕込みだしたのが2015年から。このあたりから、耐える時期が続きます。ちょうどM&Aから一定期間も経ち、古くからいたメンバーも2015年末から2016年頭にかけてポツポツとやめていきました。冬の時期でしたね。

安藤:つらいですね。

前田:でも、当時のポケラボとして、心の支えというかよい面もありました。ひとつは、残ったメンバーの本気度が高かったこと。みんな作品が大好きでしたし、我々を含め、グリー経営陣も信じてくれていました。もうひとつは、プロダクトの磨かれ具合。いいものが作れているという実感があると、クリエイターは救われますよね。あとは、僕自身から「諦めなければ絶対に勝てる勝負をしている」と、会社のみんなにも繰り返し言っていましたね。
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安藤:それは、「勝つまで諦めない」とは違うんですか?

前田:違います。今やっていることには勝算がある、ということですね。2014年から少しずつ始めた開発戦略として、「1:明確に届けるべき人に」、「2:自分たちの得意な演出、アートで仕上げたものを」、「3:自分たちの得意なエンジンで仕上げる」ということをやってきたんです。1も2も3も、続けることでこそ積み上がっていく戦略です。そしてグリーグループとして、打席は確保できる。正しい鍛錬を積み重ねて、打席に立ち続ければ必ず成果が出るということから、「諦めなければ勝てる勝負をしている」になるわけです。

安藤:なるほど。それでもヒットがなかなか出ないと、モチベーションは下がりますよね。そういう状況において、どうやって士気を保ち続けたのでしょうか。

前田:得意を積み上げている実感、これは会社単位のみならずメンバーのキャリアにとってもとても重要なことです。そのうえで「諦めなければ勝てる」という戦いにおいて重要な要素の一つは「諦めの悪さ」だと思います。別 の表現で言うと、どう見ても悪い状況を楽しむことができる「カオス許容度」が高いことも大事。結果論ですが、そういうメンバーが残り密度が上がると、当然組織の雰囲気は全然違います。

また、協業先の方々からも、どんどんプロダクトが良くなってくる過程の評価や、他社様や他の原作の方々からも、例えば「GvGで一緒にこういう世界観の作品やりませんか」という相談が情報公開後にすごく増えたことも、自分たちがやっていることを肯定する要素として大きかったと思います。

安藤:「カオス許容度」って中二病っぽくていいですね(笑)。そういうステータスありそう。
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前田:荒波に揉まれても「ピンチきたーーーwww」みたいな感じで楽しめるかどうかですね(笑)。

■稼ぎ頭のタイトルを売却するという苦渋の決断

安藤:乱世をエンジョイする。わたしもそういうタイプだからわかります。前田さんはもともとカオス許容度が高かったんですか?

前田:そこは自分ではわかりませんね……安藤さんはどうですか?

安藤:わたしはもともと、場が荒れたほうが燃えるタイプです。小学校でクラスの出し物を決めるときなんかも、みんながいいって言ってる演目と違う方がいいと思ったら、俄然燃える。他の子を説得して投票までに意見を変えさせて、結果的に自分のやりたい演目に誘導する。その過程を楽しんでいました。
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安藤:でも、会社のメンバー全員が先天的にカオス許容度が高いわけではないですよね? ポケラボにいるうちに、だんだんカオス許容度が高まっていくのでしょうか。

前田:先天的に高いメンバーもいたでしょうけど、そんなに高くないメンバーもいますね。結果が出ないと不安になるのは当然です。でも、そういうときに信じられるポイントを複数つくっておくことが大事なのかなと。それは例えば、仲間だったり、プロダクトの品質だったり。

あとは、毎週月曜に全社的な朝会を開いていて、そこで私が手を変え品を変え、同じようなことを言っているんです。先程の「諦めなければ勝てる」とか、自分たちの今の戦略、なぜこういうことをするのかという理由など。そうしたことを言い続けると、「自分たちの道はこれしかない」と自然と思える。そういうものの積み重ねなんじゃないかと思っています。

安藤:さらに、2016年にはマイネットに運用タイトルを売却しますよね。これもすごい決断だったなと思います。当時の稼ぎ頭だった『サムキン』も売ってしまったわけですから。言葉を選ばず言うと、「うまくいかなくて、前田さんはやけっぱちになっているのかな?」とすら思いました(笑)。

前田:社内でも賛否両論でしたよ。売上をゼロにして開発に集中するなんて、おかしいんじゃないかと。『サムキン』ファンの方々とのつながりも強かったですし、本当に苦渋の決断でした。でも、勝負をするならここしかないと思ったんです。

安藤:なるほど。

前田:今回の『シノアリス』は「GvG」の系譜を受け継いだ作品なのですが、GvGのノウハウは『サムキン』チームにあって、このノウハウをうまく活用しないと勝てる勝負も勝てないと考えました。本当に苦渋の決断でしたが、マイネットさんの運用チームの熱量も後押しして、あのタイミングで『サムキン』を移管する判断をしたんです。そうした意図もすべて全社メンバーに赤裸々に話したら、びっくりするくらいみんな納得してくれました。引き継ぎもスムーズにできて、この決断に反対して離脱したメンバーもいませんでした。結果としては、これでよかったのだと思います。

(後編へ続く)

後編はコチラ→『シノアリス』などのヒットを連発するポケラボの制作哲学──”ファンを喜ばせるコンテンツを徹底的に作り込む”
テキスト:崎谷 実穂(Sakiya Miho)
新卒で入社した人材系企業でコピーライティングを、転職先の広告制作会社で著名人・タレントなどの取材記事を担当し、2012年に独立。ビジネス系の記事、書籍のライティングを中心に活動。趣味は将棋で、アニメ・マンガ(BL含む)もわりとよく観る&読む中途半端なオタク。

崎谷実穂 サイト→『sakiyamiho.com』
ツイッターアカウント→sakiya@yaiask
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