『シノアリス』などのヒットを連発するポケラボの制作哲学──”ファンを喜ばせるコンテンツを徹底的に作り込む”【ポケラボ前田悠太×ゲームDJ安藤武博 対談・後編】
ヨコオタロウ氏を原作に迎え話題を呼んだ、株式会社スクウェア・エニックスとの共同企画・開発・運営の『SINoALICE(シノアリス)』や、『戦姫絶唱シンフォギアXD UNLIMITED』など、数々のヒットタイトルを開発している株式会社ポケラボの前田悠太社長と、ゲームDJ安藤弘武の対談。後編は、シノアリスが生まれた背景、リリース当初の混乱、今後の展望などについて、社長自らに語っていただきます。
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前編はコチラ→激動のソーシャルゲーム業界を生き抜くために必要なこと

■「ファンを開発メンバーに入れる」というこだわり

安藤武博(以下、安藤):さて、ここからはいよいよ、直近のヒット作である『SINoALICE(シノアリス)』についてうかがっていきます。この企画はわたしがスクウェア・エニックスでプロデューサーをしていたとしても、完全にノーマークだったと思うんです。なぜかというと、原作・クリエイティブディレクターのヨコオタロウさんは、唯一無二の世界観を持っているすばらしいクリエイターですが、コンシューマゲームの人だと思い込んでいましたから。

前田悠太さん(以下、前田):ええ、わかります。

安藤:わたし自身の経験として、コンシューマゲームのクリエイターとスマホゲームのクリエイターが一緒に作品を作ろうとしても、うまく協業できなくて空中分解してしまうケースも見てきました。でも、ポケラボとしては、この企画はいけるという確信があったわけですよね。

前田:確信は……なかったですよ。でも一つ信じていたのは、熱狂的なヨコオタロウファンの存在です。これは現在ポケラボで開発・運営している他のすべてのタイトル、『戦姫絶唱シンフォギアXD UNLIMITED』、『AKB48ステージファイター2 バトルフェスティバル』、『ぷちぐる ラブライブ!』も同様で、明確に届けるべき人がいるゲームだと思いました。そして、これらのコンテンツのファンを開発メンバーに入れたんです。

裏を返せば、ファンを入れられないプロジェクトは、プロジェクトとして立ち上げませんでした。あとは、外部の一線級のクリエイターの方々との協業は、開発メンバーを確実にレベルアップさせます。やはり「気づき」の質と数が違いますので、そういう成長環境を作ることも意識しています。

安藤:なるほど。ヨコオタロウ、シンフォギア、AKB、ラブライブ!、どれもファンの顔がはっきり見えるコンテンツですね。

前田:今のスマホゲーム市場はタイトルが増えすぎて、お客さまの選択肢も膨大で、手にとっていただく必然性、続けていただく必然性のハードルがすごく上がっています。手にとっていただくには好きとか思い入れがあるとか、そういう要素が必要になる。それが薄いタイトルは、やはりうまくいきませんでした。

だから数年前からは、届けるべきお客さま、ファンがイメージできるコンテンツを軸にしたパッケージを決めました。それに加えて、作る過程でも届けるお客さまが明確にイメージできたほうが作りやすい。バースデーサプライズなどと一緒ですね。誰を喜ばせる企画なのかがはっきりしていないと、何をどう届けていいかわからないじゃないですか。
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安藤:その例え、よくわかります。たしかにそうですよね。じつは、本日同席させてもらっているゲームライターのタダツグさんも、大のヨコオタロウファンなんですよ。

タダツグ:いちヨコオタロウさんのファン、そして『シノアリス』ファンとして前田さんにうかがいたいのですが、『シノアリス』はヨコオタロウファンを「GvG(ギルドvsギルド)」のスマホゲームに誘導しようという狙いをもって作っていたのでしょうか? ヨコオタロウさんのファンは、圧倒的にコンシューマゲーム派が多かったと思うんです。僕も『シノアリス』を遊ぶまではGvGのスマホゲームをほとんど遊んだことがありませんでした。

■『シノアリス』リリース当時の混乱の真相とは

前田:はい、その狙いは明確にありました。そもそもスクエニさんからのご提案が、エンドコンテンツはGvGで、という内容でした。とはいえ、コンシューマゲームのゲーム性とはまったく違うものを提案して、ヨコオタロウさんのファンに受け入れられるのかという不安は大きかったです。なので、ゲームシステムのギャップを乗り越えるほどのヨコオ臭を出すことにメンバー一同でこだわったというか。

安藤:ヨコオ臭!

前田:アート部分を作るメンバーにも、ヨコオさんの作品が大好きな人間をアサインして、「ヨコオ作品ならこういう影の付け方をする」とか、シナリオの部分も「ヨコオ作品はここで体言止めはしない」とか、徹底的に細部にこだわりました。「ファンにとって超魅力的なコンテンツを作れば、ゲームシステムのギャップは乗り越えられる」という仮説があったんですね。

タダツグ:これまでヨコオさんのゲームで追いかけていた質感が再現されていたから、初めてのGvGでもすんなり受け入れられたんだと思います。やってみるとギルドバトルって、すごくおもしろいんですよね。

前田:ギルドバトルは初めてプレイする人にとってはけっこうレベルが高いので、そこに行き着くまでの階段を用意することも心がけました。階段を登って行く過程で、必ずシナリオ、キャラ、ジョブなどを用意して、それが見たい、それが欲しいから階段を登っていくという仕組みを作りました。「ファンにとって魅力的なコンテンツか」ということを開発メンバーが考え抜いたからこそ、ヒットしたのだと思っています。
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タダツグ:もうひとつ、聞いてもいいでしょうか。リリース当初のことなんですが……。

前田:はい。それは聞かれると思っていました(苦笑)。

タダツグ:「想定を遥かに上回る未曾有の同時接続数により、各種サーバーが臨界点を超えた」ということで、だいぶゲームを遊べない時期がありましたよね。その間、僕らユーザーはけっこうヤキモキしていて。

安藤:ヤキモキというか、タダツグ、怒ってたもんね(笑)。「ああもう、『シノアリス』今日も遊べないッス!」って毎日言ってた。

前田:その節は本当に申し訳ありません……!

タダツグ:いやいや、怒ってないです! バラさないでくださいよ(笑)。でも、ヨコオさんと公式さんがTwitterで「リリース延期したほうがいいんじゃないの」みたいなやり取りをしていたじゃないですか。

安藤:そうそう、しかもリリース延期するときに「僕達が思っていた接続数はこれくらいだけど、これくらい来ちゃったから、サーバー増やさなきゃ」みたいに冷静に説明してましたよね(笑)。あのあたりで、ヨコオさんとポケラボさんが狙って創り出した世界観みたいなものを感じました。

タダツグ:そうなんですよ! そう考えると、サーバーダウンすらすべてマーケティング戦略だったんじゃないかな、と邪推しているんですけど。そのあたりはどうなんでしょうか。

前田:いやいや、それはまったく狙いじゃありません! 確信犯的にやっていたら罪深いですよ……。

■地下アイドルがメジャー人気を獲得したような驚き

タダツグ:でも、カオス許容度が高いほうがゲーム開発をがんばれるみたいな話もありましたし……。

前田:そんなカオスは許容していません!(笑) 一応説明しておくと、リリース前の「事前登録が想定以上に集まった」ということに関してのヨコオさんとのTwitterのかけあいは、一定の狙いがあったと聞いています。でも、リリース後のサーバーダウンは本当に申し訳ないとしか言いようがないです。自分たちの想定の何倍もになって、グリーの過去の全タイトルでもあんなトラフィック見たことがないというレベルだったんです。
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安藤:リリース前の、「思ったより人気になっちゃった」みたいな打ち出しは、いちプロデューサーとして見ていてもうまいなあと思いました(笑)。修羅場で死にそうなのに、あいつ笑って戦ってるぞ……? みたいな、マンガチックな印象を受けましたね。

ヨコオさんの作るゲームを前から見てきた身としては、『シノアリス』と『シノアリス』の数カ月前に出たPS4向けの『NieR:Automata(ニーア オートマタ)』の大ヒットは、ただただ驚きなんです。熱狂的なファンがいることはわかっていました。作品も素晴らしい。ただ、ここまで陰鬱さと中二っぽさを地獄の釜の底で煮詰めたようなコアな世界が、全世界何百万人という人に受け入れられるとは……と。

タダツグ:僕はヨコオさんの作品が大好きなんですけど、それでも今の状況はびっくりです。地下アイドルがワールドワイドで売れたみたいな感覚があります。

前田:我々もキックオフの時点では、コアな濃いファンの方々を想定していました。でも、今となっては思った以上に多くの方々に広がったなと実感しています。それは、キャラクターデザインをお願いしたイラストレーターのジノさんの力もあると思っていて。ジノさんが描いたキャラクターのデザイン画をTwitterで公開したときに、大きな反響があった。そういうところから少しずつ広がっていきました。

安藤:ジノさんの起用も英断でしたね。ヨコオタロウというベテランのクリエイターが、若いクリエイターと組んで相乗効果が出る。『ニーア オートマタ』のヒットの後、ちょうどいいタイミングで『シノアリス』がリリースされたことも含めて、全体がヒットのストーリーとしてうまくいったように見えます。
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■スマホゲームの可能性に今もワクワクしている

前田:『シノアリス』はポケラボのタイトルとしては、初めてApp Storeのセールスランキングで1位をとったんです。そのとき夜10時くらいだったんですけど、『シノアリス』チームのあたりから「うおーー!」と雄たけびが聞こえてきた。「どうしたんだろう?」と思ってたら、『シノアリス』のプロデューサーが私のところに来て、「すごい! 売上1位ですよ!!」と本当にうれしそうに言ったんです。その成果よりも、メンバーらが本気で喜んている様子に、リリース後初めて心の底から喜ぶことができました。

安藤:ポケラボ設立10年目にして、初めての1位だったんですね。本当におめでとうございます。

前田:ありがとうございます。数字はただの数字です。でも、苦しいなかでも自分たちの道を信じてやってきた開発チームが、手放しで喜べるっていうのはやっぱりいいなと。そして数字とは別で、「ファンの期待を超える」という成果の到達点の高さは、クリエイターみんなを成長させます。

安藤:いま絶好調のポケラボですが、今後の展開としてはどういうことを予定されているのでしょうか。

前田:『シノアリス』は、グローバルナンバーワンGvGを目指します。世界中の人達に、ヨコオさんの世界観でGvGを楽しんでもらいたい。あと『シンフォギア』はスマホゲームを通じてもっとこのコンテンツのファンを増やしたいですね。原作といろいろなコラボ企画を進めて、『シンフォギア』 というコンテンツを「すごい!」、「おもしろい!」と思ってもらえるようにしたいです。

ポケラボは冬の時期を経て、今は自分たちの得意なことで、届けるべきファンに届けるという道が見えてきました。おかげさまで、これら作品やポケラボの得意なことをご理解いただき、様々な原作者の方やプロデューサーの方々から、「こんなこと一緒にできないか」というご相談がすごく増えています。今後も世界中のファンを驚かせることができる作品を仕込んでいく予定です。ファンの期待を超えた分が自分たちの価値だと思っているので、期待を超えるべく、これからもがんばります。
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安藤:ファンの期待を超えた分が自分たちの価値、というのはいい言葉ですね。昔は携帯電話のゲームも数人でスモールスタートができたけれど、今の時代、そうはいかなくなりました。人員、スキル、お金、期間を投入しないと、スタートラインにも立てない。大量のリソースを投入するため、毎回の打席でヒットを出さなければ成り立たない。これからより厳しい状況になるとかんがえられる中で、それでもゲーム会社を経営し続けるのはなぜかなのか。今日の対談のシメとして、最後にお聞かせいただけますか?

前田:一番は、持てる夢が大きいことかなと思います。ボタン一つで自分たちの作ったゲームが、世界中の人に直接届けられるようになった。このことがもたらすインパクトってやっぱりすごいと思っているんです。

二つ目は、ゲーム開発は本当に難しいということ。変化が常に求められる環境や、因数分解できない事業として「面白い」を科学する奥深さは果てしないですよね。三つ目は今の我々のミッション。「ソーシャルアプリで世界と人を変える」というもの。世界中の、直接会うことは一生できないかもしれない人たちが、自分たちの作品で興奮したり、喜んだり、感動したりする。そういうものをつくる仕事をしているというのは、素敵なことです。青臭いですけど、こういう夢を持てることが、スマホゲームの開発会社を経営するモチベーションの源泉ですね。
テキスト:崎谷 実穂(Sakiya Miho)
新卒で入社した人材系企業でコピーライティングを、転職先の広告制作会社で著名人・タレントなどの取材記事を担当し、2012年に独立。ビジネス系の記事、書籍のライティングを中心に活動。趣味は将棋で、アニメ・マンガ(BL含む)もわりとよく観る&読む中途半端なオタク。

崎谷実穂 サイト→『sakiyamiho.com』
ツイッターアカウント→sakiya@yaiask
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