前編はコチラ→制作の黒幕はクーロンズ・ゲートさん!? 木村央志×井上幸喜×蓜島邦明ロングインタビュー【前編】
■女性にこそ喜ばれる? 独特でどこか淫靡にクーロンズ・ゲートは濡れている
安藤武博(以下、安藤):先日配信された『クーロンズゲートVR Suzaku』は、クラウドファンディングであっという間に資金が集まりました。ファンの想いがうかがえる形で制作がスタートしたわけですが、仕切っていた井上さんは、どんな思いはあったのでしょう?
井上幸喜さん(以下、井上):僕だけのことではないので言いにくい部分はありますが……率直に言って、たいへんなことに関わってしまったなと思いました(笑)。
木村央志さん(以下、木村):2016年のライブのときに、当時のファンの方にお会いしました。そこで「新しいシナリオを20年待っています」と言われてビックリしましたよ。
井上:正直、ファンが熱狂的過ぎて怖いとすら思っていました。思い入れが強いぶん、美化されているところもあると思うので、それに今の我々が太刀打ちできるかというと、なかなか難しい側面もあります。ただ、近年でこのような動きがあるのは、またクーロンズ・ゲートさんが呼んでいるからだと思うんですよね……。
蓜島邦明さん(以下、蓜島):ある。ムクムク来ているものがあります。呼んでいるなぁ、また来たなぁって感覚。
安藤:ゲームが発売されてから約20年の時を経てライブが開催されるというのも、そうとう稀有な例ですよ。
木村:あのライブは、当時シティコネクションに所属していた有田シュンさんがお話を持ってきたことから始まりました。彼は高校生のころに『クーロンズ・ゲート』を知ってくれたらしく、当時から何とかして関わりたいと思ってくれていたそうです。
蓜島:シティコネクションの社長と一緒に、『クーロンズ・ゲート』のサントラを出したいというお願いをしに来てくれて。せっかく出すのであれば、どうせだから新曲も入れようと。あと、LPのアナログ盤を出したいというお願いもしてみたら、「それも出したいですね」というお返事をいただいています。
井上:それ、言っていいの?(笑)
蓜島:いいの。言っちゃう。
井上:たしかに、内輪にも何人か「アナログ盤が欲しい。レコードにしてくれ」って言ってる人がいる。
蓜島:ちょうどレコード1枚、45分で収まるボリュームなんですよ。ぜひ実現させたいなぁ。プレスごとに音が違うのも『クーロンズ・ゲート』っぽくていいと思うし。
井上:そういうところに価値を求めるのも、今どきのゲームクリエイターとは全然違う気がしますね。
木村:そこから設定本も出して、お台場でイベントもやって。イベントにはおっさんばかり来ると思っていたら、女子がほとんどでした。ファンも世代交代してるというか、若い人が多かった。
安藤:何故、女性ファンが多いのでしょう? 当時から女性に受け入れられていたんでしょうか。
木村:女性のほうが妄想がお好きなんでしょうか? そういえば発売当時、関西のキャビンアテンダントの方から手書きのお手紙をもらったことがあります。レコード店でゲームのパッケージを見かけて、気になってハードごと購入し、有休を取って遊んだそうでした。彼女は冷蔵庫を担いで入国してくるマレーシア人など、ある意味『クーロンズ・ゲート』に似たパワフルな人たちと接する場所で働いていたこともあって、世界観にどっぷりとハマったという手紙でした。そういうパワーを持った作品だったということでしょう。
安藤:確かに、東アジアのオリエンタルな場所を旅した気持ちになれる作品です。しかも、今はなくなってしまったようなところを。
井上:あと、作品が淫靡だというのも理由だと思います。今思うと、女性向けのエロスを描いていたのかも……そう思える部分はあるんです。男性が好む直球でわかりやすいエロスは描きたくなかったのですが、ある種独特の淫靡な雰囲気はありました。その感じが、女性に響いたのかも。
安藤:登場人物たちは何かを隠している部分がありますが、そこが目に見えない淫靡さをかもし出しているところはありましたね。蓜島さんもエロスはイメージしつつ曲を作られたのでしょうか?
蓜島:井上さんの淫靡さは、言われてみればそうですね。全体的にウェット。濡れているんだよね。絵が濡れているというよりも、雰囲気が濡れている。怖くはないんだけど、とにかく奇妙なのがいい。住民が牙を持たないっていう話も、女性が入り込みやすい部分だと思う。そういえば、当時うちのかみさんもずっと遊んでいましたからね。
安藤:今はもう見かけることもありませんが、見世物小屋的な雰囲気がありますよね。あったらつい覗いてみたくなる。たとえそこがエログロの世界であったとしても。