アークシステムワークス×フライハイワークス キーマン対談:後編 ローカライズへの熱いこだわりと価格設定の裏話
アークシステムワークスとフライハイワークス。コンシューマのダウンロードゲームの開拓者たる2つのメーカーから、キーマンを招いての対談企画。後編となる今回は、お2人のクリエイティブへのこだわりなどをお聞かせいただきます。
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島田聡さん(写真右)
アークシステムワークス所属。入社から数々のダウンロードソフトの開発に携わり、ディレクターも兼任しつつ、現在は『キューブクリエイター』シリーズや『サバクのネズミ団!改。』などの人気タイトルをはじめとする、ダウンロードゲームのプロジェクト全般を管理するプロデューサーとして活躍中。


黄 政凱さん(写真左)
フライハイワークス代表取締役社長。幼いころからのゲーム好きが高じて台湾から日本に帰化し、ゲーム開発に携わる。アークシステムワークスに在籍後、2011年にフライハイワークスを立ち上げて独立。現在はローカライズとパブリッシングの両方を手がけるメーカーの代表として世界中を飛び回る。ちなみにゲームの腕前はプロ級で、定期的な実況生放送でも活躍中。


前編はこちら→ダウンロードゲームの先駆者たちが語りあうゲームの過去と未来


■変わりつつあるゲームの世界──ライバルはスマートフォンのゲーム

──別会社に所属しつつも、お互いがライバルというよりはともに戦う仲間だという島田さんと黄さんに、敢えておうかがいします。コアなゲームファンになると、どうもハード同士を抗争の話題にしたがる節があるじゃないですか(笑)。ゲームハード戦争、いわゆる「ゲハード」と呼ばれたりもします。

島田聡さん(以下、島田):はいはいはい(笑)。

黄 政凱さん(以下、黄):ありますねぇ(笑)。

──おふたりの手がけるダウンロードゲームの主戦場はコンシューマ……とくに任天堂ハードだと思うのですが、今、世の中に出ているさまざまなハードのなかで、Nintendo Switchやニンテンドー3DSをメインとしてチョイスされる理由はなんでしょう?

島田:絶対にこのハードでなければということはありませんし、現にアークシステムワークスは、PlayStation4からスマホ、PCに至るまで、いろいろなハードでダウンロードゲームを展開しています。とくにメディアなどに取り上げてもらえることが多いのがNintendo Switchのゲームなので、任天堂ハードのイメージが強いのかもしれませんけどね。

僕自身はどこのハードでもいいから、純粋におもしろい、純粋に楽しいゲームをたくさん手がけて、たくさん売れたいという気持ちで仕事をしています。ゲームって、ひとりに生涯で1回しか買えないというものではない。ハードだって車や家ほどじゃないんだから、買おうと思えば複数買える。どのハードであってもおもしろいゲームさえつくれれば、どんな人にだって「じゃ、ちょっとやってみようかな」と買ってもらえる可能性がある。だから小さく競い合っても仕方がないし、視野を大きく持ちたいと思います。

黄:僕もどんなハードでも遊びますが、とくに歴代の任天堂のゲームからは大きな影響を受けて育ってきました。今はフライハイワークスの社長として、Nintendo Switchやニンテンドー3DSに可能性を強く感じていて、日本のユーザー層にとってはダウンロードゲームを遊んでもらうのにとても適しているハードだとも考えているので、ここに全力で注力しています。

とはいえ、特定のプラットフォームじゃなきゃイヤというのはなく、そもそもプラットフォームっていうのはただの媒介なハズですから、「プラットフォームとか関係なく、出したソフトは全部売れてほしいな」と思っています。基本的には島田さんと似たような考えだと思いますね。

──おもしろければどんなハードであっても売れる、売ることができる?

黄:僕たちの場合は、既存のゲームを別のハードに移植することも多くあります。スマホからNintendo Switchへ、PCゲームをニンテンドー3DSへ……ハードの適正に合わせて移植する時に工夫をするのが大事な仕事。遊びやすさってすごく大切なので、「そのハードで遊びやすいように改良して、遊びやすくすれば売れる」と考えています。逆にそこをほったらかしにすると、絶対にダメですね。
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島田:スマホならスマホ向けに、Nintendo SwitchならNintendo Switch向けに、という作り方ですよね。おもしろさを感じてもらうために遊びやすくする。遊びたいハードで気持ちよく遊んでもらえるように。

──確かにダウンロードゲームでは「買ってすぐ遊べて、すぐにおもしろい」って大切かもしれません。ユーザーとしてもお安いぶんだけ、手軽さやスピード感を求めてしまいがちですね。

島田:だからこそ、さくさくっと複数買ってもらえるチャンスが多いのが強みでもあるんです。

──ファッションで例えるなら「ちょっとトップスがもの足りないから、ちゃちゃっとし◯むらで買ってきた。着てみたら、値段の割によかったぞ」みたいな?(笑)

島田:まさにそんな感じで買ってもらえたらうれしいですね。

黄:ほとんどのダウンロードタイトルが「こっちを買ったら、あっちは買えない」というような価格設定ではありませんし、あのタイトルが売れなければ自社タイトルが売れるのに~! というようなことも、ほぼないんだと思います。

──まだまだ発展途上の市場だからこそ、伸びしろがあると。

島田:よほど似たようなジャンルで食い合ってるとかあれば、また別なのかもしれませんけどね。どのハードであれ、ダウンロードゲームのジャンルはもっといろんなメーカーが、いろんなおもしろいタイトルを出して、もっともっと活性化してほしい。そのうえで弊社のタイトルやフライハイワークスのタイトルが選んでもらえたらうれしいんですよね。どっちかというと、今のライバルはスマホのソーシャルゲームだと思っています。

黄:同感です。僕はわりとそこは公言していますよ。「ライバルはスマホのソーシャルゲームだ」って。

島田:あ、ライバルって言い切っちゃうんだ(笑)。僕はどちらも手がけているから、そこまで言い切れる立場ではありませんが……うーん。購買層を食い合うという意味では、確かに複雑なところですね。

黄:あくまで僕個人の意見ですが、ガチャが主流のソーシャルゲームの流行は、日本のビデオゲーム文化が世界から一気に立ち遅れることになってしまった原因のひとつだと考えています。

──それはかなり思い切ったご意見ですね。

黄:あくまで僕個人の意見ですよ? ただ、優秀なメーカーもクリエイターもみんなそちらに注力してしまったことは事実ではないでしょうか。そのほうが売上につながるんですから、それは仕方ない側面も大きいと思いますが、一方でその影響がコンシューマゲームの規模縮小につながったことは否定できないと思います。結果として「ゲーム全体の市場規模」は大きくなったかもしれませんが、「ゲームのクリエイティブ」に関しては、もったいないことになってしまったのでは……そういう思いは正直ありますね。

いわゆる「ゲーム業界」全体から見れば、「こいつは何を言っているんだ」という話だというのは自覚していますが、コンシューマゲームで育ち、それが好きでこの業界に入ってきた者としては、一時期みんながそっちを向いちゃっている感がちょっと悲しかったなって感じです。小さいころテレビ業界にあこがれて、大人になって晴れてテレビ業界に入ってみたら、テレビの視聴率が昔より全然低くて、Youtuberのほうが人気があって悲しいとか言ってるテレビマンみたいな感じですかね(笑)。
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──なるほど……。ただ、国内市場だけを見ると、ソーシャルゲームの時代は円熟期を迎えつつあるように思えます。ゲーム性が高いタイトルもたくさん出てきていますよね。

島田:そうなんですよね。だから、コンシューマゲームに閉塞感があるとするなら、いろんなメーカーがおもしろいゲームをたくさん出して、それを打破していくしかないと思います。相手に文句をつけても仕方がないですから、コンシューマならではのおもしろさ、得られる充実感を実力で示すしかない。スマホでは遊べない、こんなにおもしろいゲームがあるよってことで、プラットフォームごと盛り上げていくしかないのではないかと。作品で示していくしかないんですよね。

■「雑なローカライズは絶対にしない」というこだわり

──ソーシャルゲームが相変わらず力を持っているなか、ダウンロードゲーム市場が拡大しつつある点は見逃せません。とくに、Nintendo Switchでダウンロードゲームが人気を集めているのがおもしろい。これまで多くのゲームファンの間で、なかば定番のネタとして議論されてきた「任天堂のハードは任天堂のゲームを遊ぶものではないのか」というテーマは、少なくともNintendo Switchにはまったく当てはまらないと思っています。遊べるダウンロードゲームが充実していますから。

島田:アークシステムワークスでも、毎月Nintendo Switch向けに新作を出すようにしています。ダウンロードゲームで、ハードそのものを盛り上げていきたいという思いがあります。

黄:フライハイワークスとしても、たまたまいいペースでゲームが出せていて、マスターを提出した数だけなら一、二を争う自信がありますよ(笑)。

島田:それは弊社もそうかもしれない。Wiiのころからマスターだけはたくさん出してきましたから(笑)。

黄:弊社は、野球で言ったらいぶし銀のバント職人みたいなメーカーを目指しています。コンシューマーの本流はあくまでAAA(トリプルエー)のビッグタイトルがいいし、そうあるべきです。そういうゲームが100万本売れたりすることは絶対に必要です。ダウンロードゲームはそれとは対照的で、10万本でも売れようものなら大ヒット作品と呼べる、まだまだ小さな世界。格の違いは絶対的にあって、AAAタイトルこそが業界全体を支えていく大きな柱であるという現状は、ぜひ変わらずにあり続けてほしい。

そして、それとは別のところでカンタンに数時間でクリアできるゲームがあってはダメというわけじゃない。僕らが昔「ゲーム」と呼んで遊んでいたようなコンシューマタイトルって、そういうゲームばかりだったわけですから。

──ファミコン時代は確かにそんな感じでした。すぐクリアできるものを、何回も何回も繰り返し遊んで。

島田:カセットの時代が終わってゲームの容量が増え、ダウンロードゲームが普及する前っていうのは、いわゆるビッグタイトルになれないとただ埋もれていったタイトルや、そもそも企画さえ通せないというような小規模企画もたくさんあったと思うんですよね。だけど、今はそこに商品化の可能性がちゃんとある時代になった。これは素晴らしいことだと思います。
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──ひと昔前までは小規模~中規模のゲームに触れる機会というのは、ディースリー・パブリッシャーの「SIMPLEシリーズ」などを除けば、ライトユーザーほど少なかった気がします。

島田:今はライトユーザーもそういうゲームを遊んでくれて、スマホを持っていない小さな子どもたちから大きなムーヴメントが起こることだってある。なんの知名度もないタイトルにだって、ビッグになれる可能性がなくはない。そこが作り手としてじつにおもしろい。

黄:チカラの強い大きなタイトルは、街のシンボルたる超高層ビルみたいなもの。一方で僕らが発売するダウンロードゲームは、好きなデザインを凝らして、一軒家をぽんぽんと建てていくようなイメージです。高層ビルが立ち並べば街としては華やかになるけど、それだけじゃ物足りなくなってしまう。だからメジャーではないところで、僕らみたいな会社がライトユーザーでも子どもたちでもお年寄りでも、誰でも気軽に出入りできる小さな家を建てている。そんなイメージです。

島田:野球で言うなら、四番バッターでもないしホームランはなかなか打てないけど、かなりの確率で塁には出るぜ、でもって点に絡むぜ、みたいな(笑)。やっぱり尖ったコンセプトや、風変わりなゲーム性を持つゲームって、小規模なダウンロードゲームだからこそ形にできる側面はあると思いますし。そういう試みを大事にしながら、ビッグタイトルとビッグタイトルの合間に、ユーザーがちょこっと遊んでおけるような選択肢を増やしていきたいですね。

──あとは海外のタイトルが気軽に遊べるのもうれしいポイントかと。二社の移植タイトルはローカライズでも日本語がしっかりしていて、そこもライトユーザーには違和感なく遊べるポイントになっているように感じます。フライハイワークスの『ゴルフストーリー』など、元が海外のタイトルだと気づかず遊んでいる人も多そうです。「ローカライズなんて日本語おかしくて当たり前」だったのが払拭されて、好印象に変わってきました。

島田:我々としても、フライハイワークスのローカライズはとてもクオリティが高いと思います。さすが黄さんが統括しているだけあって、スキがない。もちろん弊社も高い意識を持ってやっていますよ。

黄:「ローカライズが丁寧だ」とよく褒めていただけるんですが、自分としては最低限のルールを守っているだけなんだけどなあっていつも思うんですよ。むしろ、そんなことは基本中の基本で、その国の人たちにちゃんと伝わるように翻訳しないまま出せるわけないじゃないか、って。
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▲写真は『ゴルフストーリー』。
──でも、コアゲーマーの黄さんこそご存知なのでは……この日本語訳じゃ台無しだよ~みたいな海外製のゲームは過去にいくつもありましたし、今もなくなったわけではない。日本語のゲームじゃないというだけで、遊ぼうという気概が削がれるユーザーもそこそこいるわけで。

島田:長いこと、当たり前じゃないものがあった昔があるから、たまたま僕らの手がけたタイトルがよく見えるというだけかもしれませんね(笑)。

黄:テキストもゲームの大切な一部です。テキストがおかしいっていうのは、ただのバグですからね。すべてのバグを取り除くことはたいへんなことですが、それでもできるだけ残さないよう細心の注意を払うというのは、開発としてやって当然のことだと思います。

島田:原作の雰囲気を壊さずにきちんと訳して、そのうえで意訳する。フライハイワークスとアークシステムワークスがそこを評価されているのはうれしいことですね。

■フライハイワークスのゲームは安すぎる!? 黄さんの功罪を問う!

──しかしダウンロードゲームは低価格の作品が多すぎるようにも思います。ユーザーとしてはありがたいかぎりですけど、それでいいんでしょうか? ぶっちゃけ儲かるんですか?

島田:うーん、儲かる儲からないで言えば、少なくとも儲かっているからこそ部署として成立しているわけです。そこはご安心ください。とはいえ、低価格の功罪というのはありますよね。僕自身、フルプライスのパッケージを買うことに躊躇する機会が増えたような……。

──値段のつけ方ってどういう基準なのでしょう?

島田:このタイトルがどれくらいの価格だったら、市場でどう見えるだろう? というのを部署内で検討しながら決めていく感じです。似たようなジャンルのゲームがこれくらいの値段だから、これより高くはできないだろう……とか。でも、ぶっちゃけて言うと黄さんの会社のタイトルはね……安すぎると思うんだ!(笑)

黄:ええっ!? そこですか!?

──わかります。正直、安すぎて不安になるときがあります(笑)。

島田:こんな機会は滅多にないから言いますね。載せられるかどうかわかりませんけど、黄さん……安すぎるとね、それはそれでね、みんな困るっていうかね……(笑)。

黄:そんなことないですって! ちゃんと適正価格でやってますよ!!
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──黄さんの適正価格って、どこを基準にしているんですか?

黄:バーチャルコンソールはひとつの基準にしていますね。過去の名作が500円とかで買えるわけですよ。あの『ロックマン』がほぼワンコインで買えちゃうんですよ!? ロックマンと比べたら、この新作を800円で売っていいわけないじゃん! ってなったりしまして……。

島田:『ロックマン』大好きな黄さんが、名作『ロックマン』を基準にしちゃってるのか! なるほど、それはつらいなー(笑)!!

──島田さん、これはとんでもない仲間であり、とんでもないライバルですね。

黄:僕の仮想敵は常にバーチャルコンソールです。1000円も出さずに、あの『ファイアーエムブレム』がまるっと遊べちゃうんですよ!? それらと同じ棚に、商品としてフライハイワークスのゲームも並んでいるんですから、比較して意識するのはおかしくないでしょう。

──お得なバーチャルコンソールも昔はフルプライスだったんですよっていう理屈が、今のユーザーに届くわけじゃないですからね……。黄さんの攻め方というか、その目線はある意味正しいのかもしれません。

島田:とんでもない人を相手に立ち回っているのかもしれないって、今、ちょっと思い始めました……。

──価格競争があることによって、私たちユーザーが恩恵を受けられるのは間違いないですからね。各ゲームのクリエイターさんや開発会社をきちんと支えられるような価格帯で、これからもいろいろなゲームを配信していただけるとうれしいです。

■いっちょコラボで盛り上げましょう!!

──さて、最後に。せっかくの機会なので、この対談をきっかけにアークシステムワークスとフライハイワークスのタイトルがコラボなどという流れにも期待したいわけですが。

黄:たとえばアークシステムワークスのタイトルの名曲を『VOEZ(ヴォイズ)』に入れる、なんていうのはわりと現実的かもしれませんね。

──いいですね! ぜひ期待したいです。

島田:要検討案件として、弊社に持ち帰りますね。あとはスピーディにできそうなことでいったら、弊社で定期的にオンエアしている生放送「あーくなま」へ、黄さんにゲストで来ていただくとか、どうです?

──おもしろそう。これは木戸岡さんとの再会の日も近そうですね。

黄:ぜひ呼んでください。呼ばれたら喜んで駆けつけますから!

島田:こちらこそ。言ったからには、ぜひ実現させましょう! 機動力と実現力が強みの僕らですから。有言実行で!!

──期待していますね。本日はありがとうございました!!
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テキスト:サガコ(Sagako) フリーライターときどき小説家。ゲームやアニメ、テレビが好きだけど腐女子にもなりきれず夢女子にもなれず、すべてにおいてハンパな人生を謳歌中。不思議なご縁で「水曜どうでしょう」関連の書籍も手がけています。
ツイッターアカウント→サガコ@sagakobuta

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