大人も子どもも一緒になって楽しめるコンテンツを目指して──LITALICO岸田崇志&比護賢之×安藤武博ロング対談【後編】
働くことに障害がある方の支援や、子どもたちの可能性を広げる学習教室などの事業を展開している株式会社LITALICO(りたりこ)。活動の一環として、『にゃんタップ』や『おかね星人』といったゲームアプリの開発を行っていることでも有名だ。今回は、そんなLITALICOのアプリ開発の中心人物である岸田崇志さんと比護賢之さんをお招きし、ゲームDJ・安藤武博と対談していただきました。お2人のお仕事は、ゲーム業界に新たな風を吹かせるアイデアの宝庫! その熱い想いにぜひ触れてみてください。
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▲写真左から比護賢之さん、岸田崇志さん、安藤武博。
前編はコチラ→子どもの成長を助けるためのゲーム開発を

■子どもへの「お金の教育」はニーズが高い!

安藤武博(以下、安藤):LITALICOの作品のなかでも、とりわけ『おかね星人』には驚きました。『ドラゴンクエスト』には「お財布をマネジメントする楽しさ」がありましたけど、この『おかね星人』にもRPGの買い物をする楽しさに通じるおもしろさがありますよね。でも、まさか子ども用のタイトルでお金を題材にするとは……。

岸田崇志さん(以下、岸田):お金って生活に密着するテーマですから、じつはニーズが高いんですよ。『おかね星人』は、さまざまな通貨に対応しているのですが、じつは私たちもユーロなど、海外のお金の使い方や通貨基準ってよくわかりませんよね。それは、子どもも同じです。私たちは自然に覚えましたが、できない子はできませんよね。

安藤:よく考えたら、おもちゃのお金や算数の問題など、身近なところにお金に関する題材はあるんですよね。
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比護賢之さん(以下、比護):以前、「インベスターZ」というマンガで読んだのですが、「お金が不浄」という考えは戦後教育らしいです。日本人は、じつはお金が大好きらしいんですよね。

安藤:表立ってやり取りするのを嫌う感じはありますね。僕は「アースダイバー」という本で、同様の内容を読んだことがあります。もともとは物々交換だったものが、商人が貨幣の概念を生み出した。当時の人にとっては、魔術みたいな感じですよね。日本は現金のやり取りを嫌って、手形決済をしたり、お店につけたりする習慣が残っています。老舗料亭のお会計は、今でもバックですべて終わらせますよね。じつはなかなか不思議な文化です。

比護:開発中で印象に残っていることといえば、フォトショップでお金の画像を加工しようとしたら偽造しようとしてるんじゃないかと怒られたことですね。そんな機能が備わっていること、ご存知でしたか?

安藤:知りませんでした! そんなこと、判定できるんですか?

比護:できるようですね。こちらは偽造するつもりなんてあるわけないので、とにかくめんどくさかったです(笑)。テクノロジーに、人が支配され始めているのかもしれないですね。
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安藤:比護さんが自分の顔が何かのサービスと繋がったらどうしようという思いは、そういうトリックを使って子どもたちを楽しませているというのもあるのかもしれませんね。カメラを向けて、歯磨きをさせる。こことここは繋がるなという魔法のようなアイデアが、いろいろ出てくるんですよね。

比護:最近は顔認証の技術がどんどん発展しています。そのうち、街中でスマホをかざすだけでその人の情報が出る時代になるかもしれませんよ。

■ゲームと現実の体験が重なると楽しみが大きくなる

安藤:『はみがき勇者』を見て、そのうちおしっこをするようなやつもできるのではと思いました。むかし、SEGAのゲームセンターにありましたよね。

岸田:じつは、トイレトレーニングはリクエストが多いテーマのひとつですが、今のところは難易度が高いです。

安藤:お母さんに端末を持ってもらってやるのかな。

比護:「画面に当てよう」とかですかね?(笑)

岸田:防水端末が増えてきてますからできなくはないのですが、衛生面や気持ち的な問題でね……。端末も安い買い物じゃないですし。
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安藤:「座りしょん」のトレーニングになるようなものとか、いいかもしれないですね。

比護:それはいいですね。居酒屋に置いたら、大人が喜びそうです。

安藤:アプリのアイデアは、子どもとのやり取りのなかでひらめくんでしょうか?

比護:そうですね。

岸田:当事者感はありますね。

安藤:たとえば、お風呂トレーニングなんかも需要があるのでは? シャンプーを嫌がる子もいるんじゃないですかね。

岸田:おっしゃるとおりで、お風呂トレーニングの需要も高いんですよ。でも、実現するのはなかなか難しいかなとも思っています。

安藤:一人で入れるようになるトレーニングとか、ニーズは高そうですけどね。

比護:ぜひ検討したいと思います。
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安藤:気になっていたのですが、ビジネスモデルはどうなっているんですか? アプリ内課金という言葉があって、ドキッとしたんですけど。

岸田:課金しなくても、基本的な機能は使える状態になっています。課金要素はネズミの色が変更できたり、ポイントが少しよくなったりする程度のものですね。

安藤:「よかったら課金してね」というスタイルなんですね。

岸田:そこは個人の配信者と似ていますね。弊社の場合は教室もあり、そこでの収益があるわけですから、今のところアプリは「プラスアルファになれば」というくらいの意識です。もちろん、うまく両立できるのが理想的ですけどね。

安藤:ゲーム内課金だけで完結すると、体験させたいアイデアを全プレイヤーに提供できず、根本的なおもしろさから離れてしまうリスクがあります。買い切りゲームが主流の時代を知っている人は、ヘイトが溜まってしまいます。リアルとゲームを混ぜたときに、人はハッピーになるという思いがあって……。足を運んで友だちと体験することに支払うお金は、嫌な感じがしないのではないでしょうか。

岸田:そこに価値が見いだせるようなものにしたいとは、常々考えていることですね。ビジネス的には間違っている考え方なのかもしれませんけど(苦笑)。

安藤:わたしは応援したいですね、その考え方。

■女性に向けたアプリも開発していきたい

安藤:同じ猫を探してタップすることでポイントを獲得する……そんなシンプルなルールの『にゃんタップ』も、本当にゲーム性の高い作品です。

比護:子ども向けのアプリだけでは、どうしてもシェアが広がっていきませんので。お母さんにムキになって遊んでもらえる要素があれば着目してもらえるのでは……そう思って作りあげたアプリが『にゃんタップ』です。

安藤:『ツムツム』やタイムマネジメント系のゲームに女性がハマると、すごく熱中しますよね。『にゃんタップ』はOLさんや学生だけじゃなく、子どもたちもきゃーきゃー言いながら遊んでいる姿がイメージできます。
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比護:そうですね。そういうイメージで作っています。

安藤:フィーバー演出は、『ワニワニパニック』に似ていますよね。たくさん出てきてわーっとなるのは、老若男女、国籍すら関係なく楽しめる要素だと感じました。

■開発の輪を大きくしていきたい

安藤:今からゲームを作ろうという人は、お2人と組んで作るといい刺激になりそうですね。最近のクリエイター志望の学生は、運営に回されることがほとんどです。そこでイベントを考えたり、ガチャ排出率のデザインをしたりするんですよね。

岸田:懐かしい……。

安藤:でもそれはお店の棚を変えているような感じでしかなく、お店をイチから作るためのノウハウではないと思うんです。

岸田:実際、前職でもそのような状態になりつつあった時期があり、これはまずいと思ってコンテストを開催するようになりました。ゼロからイチを生み出す経験をしたことがないメンバーが増えてきていたので、危機感がありました。

安藤:いい企画ですね。私もある会社で、そのような取り組みをやっています。やるとモチベーションが高まりますし、スキルも上がります。でもできるようになると、卒業していなくなってしまう(笑)。

岸田:ジレンマですよね(苦笑)。

安藤:今、LITALICOではクリエイターの募集はしていないんですか?
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岸田:今は社内数名で作っているので、その輪を大きくしたいと思っています。パートナーやデベロッパーと一緒に作ったり、それこそクリエイターも集めていく予定です。

安藤:ニッチなものができそうですか?

比護:ニッチは大歓迎! 作っていても楽しいです。ちなみに、我々はゲーム業界からは少し離れてしまっていますが、今でも閉塞感のようなものはあるんですか?

安藤:閉塞感はありますね。やはり、アプリの開発に大量の資金がかかるようになったことが大きいです。多くの予算をかけても誰も成功をイメージできないものは、プロジェクトが進められないですからね。でも、本来ゲームというものは、開発者以外何が起こるのかわからない……そんなわくわく感がなければいけないと思うんです。だから、そんなわくわく感を殺しかねない資金の問題というのは、かなりマズい状況だと考えています。

岸田:なるほど……。

安藤:あとは、グラフィックがよくなければ飽きられてしまうという考えも根強いです。結果的に、資金力があるところしか作れなくなってきていますね。あとは、海外からの波も無視できません。コンシューマは欧米、スマホは東アジアが強いんですよね。オタク文化も研究していて、目利きもいい。向こうから攻められている感じがします。日本はその分野で勝負しても勝てないので、ゼロイチや奇抜なことをバーンとやるのが大事だと思います。

比護:またそのフェーズがくるといいですね。

安藤:ちなみに、LITALICOは海外展開をどうお考えですか?

岸田:アプリに関しては、すべて海外向けにも展開しています。とくに、中国ですね。日本と同じような時代の流れをたどっているので、ニーズが大きいです。ちゃんと中国語に対応することが大切ですね。
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■『マインクラフト』を遊んでいる子どもをもてなす準備が必要

安藤:シシララTVの動画や記事は、ゲーム好きな人や業界の方によく見ていただけています。そんな人たちに伝えたいことはありますか?

岸田:最近、ゲームという言葉が狭くなっている気がします。歯磨きもかけっこも、じつはゲームなんですよね。それを切り取って、ゲームとして見せてあげるのが弊社の裏テーマです。

安藤:閉塞感が漂う業界に一石を投じるタイトルに期待したいですね。『はみがき勇者』がその先駆けになってくれそうな予感があります。

岸田:我々としても、かなり力を注いで作り上げたタイトルですから、大いに期待したいところです。

安藤:ゲームは生み出されて、フォロワーが増えて、飽きられての繰り返し。そろそろ、次の動きが始まっているのかなという感じがします。スマートスピーカーが徐々に普及してきていますが、あれってダイスを振ってくれたりもするんですよ。置いておくだけで、テーブルトークが遊べるのが新鮮でした。

岸田:体験の新鮮さって大事です。ダイスが触れるなら「人狼ゲーム」だってできますからね。

安藤:できますね。言ったら調べて返してくれる存在が、すぐそこにある。遊べますよね。
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比護:デバイスが変わると、遊び方が変わる。つまり、ゲームが変わるということです。そこに新しい楽しさを見出していければ。

安藤:わざわざ買わなくてもいいもの、家にあるものがデバイスになった時が特に大きいですね。スマホがそうでした。VRも今は準備がたいへんでそれほど広がっていませんが、もっと簡単になったら確実に伸びますね。

比護:単純な話、数人が集まればじゃんけんをするだけで楽しいです。そういったシンプルな楽しさを追求していきたいんですよね。

安藤:欧米では、人が集まって話すことが最高のエンタテインメントだと認識されています。その場を提供してくれるゲームがあれば、それで十分なのかもしれません。

岸田:まずはそこがスタートラインな気がしますね。弊社のジャンルは、日本だけでは市場が広がりません。そこでできるだけ言葉を少なくし、説明がほとんどなくても理解できるシンプルさを大事にしています。それを貫いていけば、海外でも通じると思いますので。

安藤:海外といえば、ちょっと気になっていることがありまして。今の若い子たちは『マインクラフト』が大きなゲーム体験になっている人が多いですよね。すなわち、そのインターフェイスに慣れている子たちが、これからのゲーム産業のメインターゲットになっていくわけです。

比護:楽しみですね。

安藤:楽しみですよね。彼らおもてなしする準備をしないと、ただただ使いにくいUI(ユーザーインターフェイス)だと言われてしまいます。
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岸田:最近の小学生と話しているだけで、自分の発想の外の考え方を持っているなと思いました。動画を見て何かを作ったり、ゲームを進めたりするという文化は、自分たちのなかではありえませんから。

安藤:『マインクラフト』もレゴブロックのような形で、自由にいろいろ作れますからね。

岸田:先日、小学2年生にして『ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド』をクリアしたという子どもに会ったんですよ。あのゲームを小学生、しかも低学年の子どもがクリアするというのは、単純にすごいなって思うんです。子どもだからといって、なかなか侮れないんですよね。

安藤:褒めてもいいレベルのすごさですよね。できるんだ。よく考えれば、わたしも小学校3年生からマイコンでゲームを作っていました。ジングルベルが流れるプログラムを作って、雪をあえて赤くして、「ベルリンの赤い雨~」なんてやっていました(笑)。大人から見て、子どもにはまだまだ難しいと思えるようなものも、意外と簡単にクリアしてしまう。そんな子どもならではの柔軟さを、甘く見てはいけませんよね。

岸田:おっしゃるとおりですね。子どもを甘く見てはダメ。肝に銘じていきたいと思います。

■砂場もゲームになる楽しい時代に

安藤:これからも、お2人はアプリの開発に従事されていくのでしょうか。

岸田:比護さんはほぼ専属ですが、僕は社内の別の仕事もこなしていますよ。デジタル砂場を作ったりとかね。
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安藤:あれ、おもしろいですよね。砂場を掘ったら水が出たり、山に色がついたり。

岸田:本当は教室に作りたかったんですが、難しいのでベースだけ作ってほかの場所でおこないました。

安藤:ARや投影の分野はこれから伸びると思います。あれは、スイカ割りの楽しさに似ていますよね。やっている人のおもしろさと、周囲からはやしたてるたのしさ。

岸田:投影のよさは、肩がぶつかったり、道具を貸しあったりするのもおもしろいところです。

安藤:あぶなくないですよね。VRは絡まったり、接続が抜けたりします。子どものVRは、斜視になる危険もありますしね。

岸田:それがあるので、VRの可能性は最初から諦めました。

安藤:子ども向けには、難しい。水口哲也さんのPSVR『Rez Infinite』や『サマーレッスン』は、完全に大人向けに振り切っていていいです。きっと、装置が小さくなる前提で作っていますよね。

岸田:楽しい時代ですよね。経験が変わります。ガラケーでゲームができるんだと同じ感覚で、砂場がゲームになるんだと。

安藤:ちなみに、ライバルっているんですか?

岸田:知育は他社さんもやっていますが、ライバルだとは思っていないですね。ターゲット層が重なっていないというか。
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岸田:もっと赤ちゃん向けはありますが、この領域は少ないですね。あまりふざけすぎると怒られそうな分野でもあるので、少しずつ探りながら冒険を進めています。

安藤:今後の目標はありますか?

岸田:ともに作りましょうという輪を広げていきたいです。グリーのクリエイターともやりたいですね。お子さんのいる方もいますし、おもしろいものを生み出すきっかけになると思います。

比護:まずは『はみがき勇者』がしっかり市場に受け入れられるよう、尽力していきたいですね。そうして子どもから大人まで、遊ぶ楽しさは損なわず規模の大きなものを作っていきたいです。いつか、大人も子どもも同列で参加できる大会ができるようになったらいいですね。

安藤:お2人の、そしてLITALICOのさらなる躍進に期待しています。今日はありがとうございました!
シシララTV オリジナル記事