景山:それまでの『ポケモン』にはそういう曲はなくて、音楽がシナリオに寄り添い過ぎず、ある種淡々と進んでるのが“らしさ”でもあると思ったんです。ですが、増田さんが『ブラック・ホワイト』ではシナリオを今までより濃厚にしたいとおっしゃられて。今までは音楽がシナリオに寄り添って、感動するシーンに泣きのメロディを入れるということをやってこなかったんですけど、ここで新しい音楽アプローチをしたら、ユーザーへの響き方も変わるだろうと思ったんですね。
実際にやってみたら、これが大当たりしまして。たとえば、ゲーム中盤で女の子のトレーナーとお父さんとの親離れ子離れみたいな泣きの物語があるんですけど、そのシーンのために作った「揺れぬ想い」って曲は、このシーンで初めて流れるんですよ。
安藤:今までの『ポケモン』にはなかった演出。
景山:ええ。ここでこの曲を流した瞬間、シナリオにより感情移入できるようになり、多くのみなさんに「これは新しい!」と評価してもらえました。
安藤:そういうエピソードがあったんですね。ちなみにわたしは『ポケットモンスター X・Y』のエンディング曲「KISEKI」が好きなんです。『X・Y』は『ブラック・ホワイト』以降の、物語に音楽的な演出が組み込まれた『ポケモン』って感じですよね。初代の『赤・緑』をクリアしたときには、ああいう感じで音楽が鳴ってなかったことがよくわかります。
景山:「KISEKI」は中川翔子さんにも歌っていただけました。
安藤:アニメのエンディング曲にもなっていましたよね。『ポケモン』の曲を書いてるときの楽しさとか、心がけているようなことはありますか? 『ポッ拳』まで含めると、シリーズタイトルは相当な数にのぼると思いますが。
景山:ゲームフリークから独立しても、『ポケモン』のお仕事はやらせていただいていて、『ポケモンコマスター』なんかは本編とは違うアプローチでやらせてもらったりもしました。でも、ユーザーさんが遊んだときにどう響くのかとか、ユーザーさんのことを想像して作るとか、これをやったらユーザーさんが喜ぶだろうなってことは常に考えています。
安藤:常に遊んでくれるお客さんのことを意識して楽曲を作っているんですね。
景山:ゲームの発売日には毎回視察に行っているんですよ。うれしそうな顔で何時間も並んで、ゲームを買っていただくシーンにはグッときます。そういう姿を見ると、どんな辛いことがあってもがんばれるというか……。こんなにたくさんの人に自分の曲を聴いてもらえて感動してもらえるってのは、自分にとって天職だと思いましたね。
安藤:開発にあたって辛い瞬間や苦しい瞬間はあると思いますが、それもすべて吹き飛ぶ瞬間ですよね。
景山:開発のみんなはすごく楽しい雰囲気で明るいですし、作っていて辛かったことって、じつはあんまりなかった気がします。肉体的に辛かったことくらいかな……(笑)。会社に行くのが嫌だってことは一回もありませんでした。
安藤:別のインタビューで拝見したんですが、「ゲームフリーク時代の将太はめちゃめちゃ楽しくて、すごく円満に辞めたし、ほんとにいい思い出ばかり」と言われていましたね。
景山:ゲームを作るということ──ゲームフリークではプログラマー、デザイナー、いろいろなスタッフと話し合いながら仕事ができましたから。しかもゲームフリークって「サウンドの人も企画を出しなさい」って会社なんですよ。「言ってもいい」くらいのレベルではなくて、「職種に関係なくどんどんゲーム作りに参加しなさい」ということを求められる会社だった。だから常に、みんなでおもしろいことを追求していけたんです。本当に楽しい雰囲気だったんですよね。
安藤:ゲームフリーク時代に過ごした時間が、景山さんにとっていかに貴重であったのかがよく伝わってきますね。
景山:ちなみに、最後の『X・Y』のときにはマネジメントの役職にもなっていたんですよ。そのうえで、全体をまとめるサウンドディレクターって肩書ももちろんあって。音楽の方向性を決めて、SEとか鳴き声とかいろいろな音のリソース全部を管理し、ほかのスタッフに指示も出して、納期も管理する。これらのことをやらなきゃいけないなかにあっても、僕はどうしてもコンポーザーでもあり続けたかった。この仕事の物量があると、たぶん、普通の人間にはもう曲は書けないんですよ。
安藤:肉体的にも精神的にも難しいと思います。そこまで景山さんを突き動かしていたものはなんなのでしょう?
景山:僕はずっとコンポーザーであり続けたいと思っていたので、どれだけ忙しくても時間を捻出して曲を書いていましたし、それこそが楽しかったからでしょうね。あとは、それぐらいギリギリまで追い込まれても、世界のみんながこのタイトルを待ってくれていると思えば、がんばるエネルギーが沸いてきました。なぜあそこまでがんばれたかと言われたら、究極のところ、それしかないんですよ。見えない何かが力となって、背中を押してくれていたとしか言いようがないんですよね。
(後編に続く)
後編はこちら→独立後、『黒騎士と白の魔王』のサウンドコンポーザーに抜擢
■景山将太 最新サウンドトラック『黒騎士と白の魔王オリジナルサウンドトラック』が好評発売中!
2017年4月より配信されている『黒騎士と白の魔王』のサントラ第一弾が待望のリリース。コンポーザーは景山将太と下村陽子が担当しており、生のオーケストラ演奏を録音したダイナミックなサウンドが聴ける。もはやスマホゲームの域を超えたクオリティで迫る1枚だ。