独立後、『黒騎士と白の魔王』のサウンドコンポーザーに抜擢──SPICA MUSICA・景山将太×安藤武博 対談【サウンドコンポーザーに訊く!/連載第8回・後編】
2006年に光田康典氏が代表を務めるプロキオン・スタジオに所属し、ゲーム音楽コンポーザーとしての道を歩み始めた景山将太氏。後に移籍したゲームフリークでは『ポケモン』シリーズのコンポーザーとして名を上げると同時に、ゲーム開発方面にも深くかかわることで、ゲーム音楽を作りあげるためのアプローチ方法を徹底的に極めていった。現在は独立してSPICA MUSICAを立ち上げ、人気スマホゲーム『黒騎士と白の魔王』のコンポーザーとしても注目を浴びている。
後編の今回は、ゲームフリークを退社し、音楽1本で勝負をかける景山氏の決意と『黒騎士と白の魔王』のサウンド制作に焦点を当てる!

前編はこちら→『大乱闘スマッシュブラザーズX』への参加で人生が大きく変わった
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景山将太さん(写真左)
プロキオン・スタジオ、ゲームフリークを経て現在はSPICA MUSICAの代表を務める、作曲家。プロキオン・スタジオ時代に『ルミナスアーク』でデビューし、『大乱闘スマッシュブラザーズX』、『ポケットモンスター』シリーズ、『黒騎士と白の魔王』などのサウンドを手掛けている。
■人生の忘れ物を取りにいくため、独立してSPICA MUSICAを立ち上げた

安藤武博(以下、安藤):すでにさまざまな媒体でお話しされていることだと思いますが、現在、景山さんはSPICA MUSICAという自分のスタジオを立ち上げ、独立されていますよね。その決断をくだすことになった理由について、お話をお聞きしていければと思います。

景山将太さん(以下、景山):話はプロキオン・スタジオ時代にまでさかのぼりますが、あの時には成し遂げられなかったことがありました。それは“景山将太に『ポケモン』や『スマブラ』といった飾りがなくても、どこまで通用するのか”っていうことです。

安藤:プロキオン・スタジオ時代の景山さんは、まだ早計であると判断されていましたね。

景山:そう、あのときはまだ早かった。そこで一旦ストップしたわけですが、ゲームフリークでのゲーム開発がすごく充実していたがゆえに、ずっと頓挫したままになってしまっていました。でも、自分の人生を振り返ったときに何か忘れ物というか、やり残していることがあるという感覚はずっと僕のなかにありまして。いつかもう一回リベンジしようと、心のなかではずっと決めていたんです。

安藤:その思いが花開くタイミングがあった、と。

景山:はい。具体的には『ポケットモンスター X・Y』の開発が終わったくらいのタイミングですね。『X・Y』の開発が終わったのは31歳の誕生日のちょっと前ぐらいでしたが、その時点ですでに、次の『ポケットモンスター オメガルビー・アルファサファイア』の開発が決まっていました。ゲーム開発ってとても期間が長いので、次のプロジェクトが終わるまで、と考えていると、独立してチャレンジできるタイミングってなかなか難しくて。リスクのある人生を賭けた大きな挑戦をするにはそろそろギリギリのタイミングだと考えまして。

安藤:20代のころに比べると、体力的に仕事も厳しくなってきますからね。

景山:それこそ過去にお金で苦労していた時期がありましたから、またお金がなくなってあのころみたいな生活になったらどうしようってことまで考えてしまう。だから、このタイミングで卒業しなかったらもう独立はできないと思い、会社を辞めることを決意しました。僕は、独立して自分1人でも作曲家として歩いていけるんだということを、どうしても証明したかったんですよ。

安藤:アツいですね。その衝動が、景山さんを突き動かした。

景山:ゲーム以外の作曲の仕事もやってみたかったんですよね。このままゲームフリークに残ったとしたら、ますます管理の仕事が忙しくなって、楽曲を書く量が減ってしまうだろうなという恐怖もありました。『X・Y』ではマネジメントとディレクターをしながら、がむしゃらに曲も書けましたけど、これを毎回やるのはもう無理だなということは漠然と感じていましたので、音楽1本で行くか、音楽も書けるかもしれないけど音楽がメインじゃない仕事を続けていくか、選択しないといけないなと。

安藤:会社に所属して経験を積んでいくと、どうしても管理の仕事が増えてしまうことは避けられませんからね。
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景山:じつは経営サイドの仕事やマネジメント業務は嫌いじゃなかったんですけど(笑)。会社からも向いていると言われましたし、ゲームフリークに残っていたら、ゆくゆくは会社組織を動かす経営サイドを目指していた可能性もあったと思います。その思いもあって、ゲームフリークを辞める前の2~3年くらいは、会社の音楽以外の仕事もがんばりました。

安藤:ゲームクリエイターというのは、一点特化な才能の持ち主というイメージがあります。それはある意味、ほかのものを犠牲にしたがゆえに手に入れた才能なのかもしれませんが、景山さんはそういった認識に甘えることなく、さまざまな体験をしたかったわけですね?

景山:はい。僕は、両方をやれる希少な存在になりたいんです。たとえば僕は教員免許も持っていて、そういう「かっちりとしている一面」を持っています。その反面、クリエイティブでふにゃっとしている一面も持っていて、だけどその両方が僕なんです。正直、スイッチを切り変えた瞬間に片方が欠落したりすることもあるんですけど(苦笑)。それでも一応、両方を共存させているつもりです。その時々でスイッチを切り変えることができる……そうありたいと思っています。

安藤:プログラマーとコンポーザーはマルチタスクが求められますから、本質的に、そういう切り替えは得意なのかもしれませんね。とくに音楽はいろいろな音を順番に考えていかなければいけませんから、構造的には経営と似ていると言えます。ミュージシャンはそういうことを考えない……そんなイメージが固まっていますが、それも勝手に可能性を狭めているだけなのかもしれませんね。

景山:でも、僕はそれまでは感覚でものを言うことのほうが多かったんですよ。懐かしい話としては、機材を1個買うための稟議を通すのがたいへんだったことを思い出します。稟議はすごく苦労しました。なぜこの機材が必要なのかを、まったく音楽の知識がない上司の方たちに説明して、了承してもらわないといけないわけですから。

安藤:当然ですが、会社の偉い人は「この機材を導入すれば音楽的にすごく豊かになるんです」といった、ふわっとした言い方では納得してもらえません。

景山:そのとおりです。だから、なぜこの機材が必要なのかということを論理的に説明できないといけないと痛感しました。そのために論理的思考を学べる本を買い漁って、どうすれば人を納得させるものの言い方ができるかを特訓したんです。それがいい経験になって、独立後にいろいろな人に会って物事を推し進めなきゃいけない時、スイッチを切り替えられるようになりました。

安藤:自分自身でスイッチを切り替えられるんですか?

景山:ええ。スイッチが切り替わるとしゃべり方まで変わります。感覚でものを言うのではなく、ちゃんと意図を込めてお話しすることで、物事がすっと上手くいくことって多いんですよね。このスイッチの切り替えは、あのときに鍛えられたからこそです。
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安藤:景山さんは、独立されてからも引き続き『ポケモン』の音楽制作に関わっておられるわけですが、ここからは『黒騎士と白の魔王』の話をメインに聞きたいと思います。『黒騎士と白の魔王』の曲を聴いた時、『ポケモン』の景山さんが何かからの縛りを解き放たれて爆発している、という印象を抱いたんですよ。

景山:なるほど(笑)。

安藤:ドラマチックですよね。じつは以前の対談でも同じことを話したことがあるのですが、わたしがゲームプロデューサーとしてコンポーザーにお願いするのは、じつはたった2点しかないんです。「とにかくドラマチックにしてください」ということ、そして複雑な音楽理論はウェルカムですけど、「鼻歌でメロディ歌えるようにしてください」と。

景山:おもしろい! じつは、僕も安藤さんとまったく同じ部分を大事にしています。

安藤:『黒騎士と白の魔王』は、通常戦闘のドラマチックさがボス戦並です。そこまでインフレしたうえに、ボス戦ではさらにかぶせていくというものすごさ。通常戦闘でこの曲を使ってしまったら、もうそれ以上はないって思いがちなところで、さらにドラマチックな楽曲をドーンと持ってくるわけですから。やはりRPGはこうでなくては、と思いました。

景山:『ポケモン』は先人の大先輩たちが作ってこられたものですから、いくら制作にかかわったとしても、僕のものではないと思っているんです。“『ポケモン』の景山”って世のなかでは言ってくれるようになりましたけど、僕としては『ポケモン』を自分のものだなんてみじんも思ったことはなくて。究極のところ、『ポケモン』は遊んでくれているユーザーのみなさんのものであり、僕は『ポケットモンスター 赤・緑』を作った先輩たちの築いてきたものを、引き継がせて作らせていただいてるっていう気持ちにしかなれないんです。

安藤:それもあってか、『黒騎士と白の魔王』では景山節が炸裂しているわけですね。

景山:僕は今まで、代表作の中に完全新規のオリジナルタイトルがなかったんです。だから『黒騎士と白の魔王』は、僕にとってはじめてのオリジナルタイトル代表作といえます。JAGMOを見に来てくれたグラニの福永さんは、「この『黒騎士と白の魔王』が景山さんの新しい代表作になればと思っていますし、僕らもこの作品に全力をそそぎます」と言ってくださいました。それが素直にうれしくて。独立したあと、そういう作品をずっと探してきましたし、同じ熱い気持ちで一緒に作品を作れる仲間も探していました。

安藤:その思いが結実し、すべてぶつけられるタイトルに出会えた。

景山:ものすごく幸運なことだと思っています。『黒騎士と白の魔王』のプレゼンを見た瞬間、「この作品はすごいものになる!」と確信したんですよ。それくらい、意気込みがすごかった。僕は生のオーケストラで音楽を録ることを独立したときの目標のひとつにしていたんですけど、『黒騎士と白の魔王』の音楽を生のオーケストラで録りたいっていう音楽にかける思いもそうだし、しかも海外での収録も構想・展望としてはありました。

安藤:実際、海外録音は実現したんですよね。

景山:はい。音楽に対して、とにかくいいものにしたいという熱意をとても強く感じたので、とても感動しました。
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安藤:ヘッドフォンがあるとはいえ、プレイヤーのほとんどが無音で遊ぶことが多いスマホゲームに対して、サウンドにどこまでのカロリーを割くのかという議論は、通常あってしかるべき。それでも『黒騎士と白の魔王』は、海外録音やオーケストラ収録にこだわった。それだけのこだわりが、景山さんにあったからこそではないかと思います。

景山:そうであるならうれしいですね。でも、最近は生で収録するスマホゲームもどっと増えているんですよ。じつは、周りが当たり前のようにコンシューマクラスの音楽を作るようになってくる未来は、自分のなかで想像もできていました。だからこそ、『黒騎士と白の魔王』のとき、早々に海外収録の決断をしてとても強いインパクトを与えられたんじゃないかなと思っています。たぶん今のところは、海外のオーケストラで収録したスマホゲームってなかなかないと思いますから。

安藤:チェコでのレコーディングですよね。

景山:はい。しかも16型3管編成オーケストラ(※1)っていう巨大編成で録ってます。これまで「スマホゲームの音楽なんて」っていうことを再三言われ続けてきた過去がありますが、開発スタッフさんには最初から音楽を大事に考えていると言っていただき、その意気込みにグッときました。「絶対に最高の作品にしましょう!」と、手を取り合って進めてきたタイトルなんです。

(※1)16型3管編成オーケストラ……最大で100人近い人数による、大規模オーケストラ編成。

安藤:景山さんの、このタイトルに対する強い思い入れを感じます。

景山:この作品に携わる前の僕には、『ポケモン』のようなかわいい音楽のイメージがあったかと思います。でも、『黒騎士』はダークファンタジーで重厚な世界観を持っているので、イメージとしては真逆なんですよね。じつのところ、「景山さんにとって、こういうタイプのゲームの曲はいかがなものでしょうか」と心配されたりもしました。でも、じつは「こういうタイプのゲーム音楽こそ、僕が次に書いてみたかった作品」なんですよね。

安藤:ずっと作ってみたかったジャンルに、ようやくめぐりあう事ができた。アツいですね!

景山:最初に提出したのは、トレーラーに使われている曲でした。ゲームのイメージ画を見せてもらって、イメージアルバムを作るような感じで書いたんです。テーマ曲ではなく、イメージを作るための曲を重厚でシリアスに書き上げたんですよ。それを聴いたグラニの福永さんからは、「スゴい……聴いたことのない景山さんの世界ですね!」と言っていただけて。

安藤:開発スタッフさんからしたら、ここまで重厚でドラマチックなものがあがってくるとは……と、いい意味で裏切られた部分もあるかもしれませんね。トレーラーに使われている楽曲は、ギターの音色の使い方がものすごくカッコよくて大好きです。景山さんはロックやメタルがお好きなんですか? ピアノを学んでこられたということでしたから、ちょっと遠いところにある音楽ジャンルなのかと思っていました。
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景山:正直なところ、ロックやメタルの“ど真ん中”を通ってきたわけではありません。でも、音楽を作る上で吸収していないジャンルはほとんどありませんから、自分なりに咀嚼して、自分の音として表現しているということかなと思います。僕がこれまでに見せてこられなかった引き出しをガンガン見せられているって感覚がありますね。

じつはこのトレーラー動画は、映像に合わせて楽曲を書き下ろしたのではなく、楽曲を仕上げたあとに映像が完成したものなのですが。実際に作っているときは、まさに公開された動画のような映像をイメージしていたんですよ。

安藤:イメージにぴったりと即したものが出来上がってきた、と? それは普通に考えるとありえないことですね。

景山:僕がやりたかった生のオーケストラ録音もそうだし、自分の書いてこなかったジャンルの曲を書くっていうのも全部含めて、独立した当初に立てていた目標はほぼすべて『黒騎士』で達成することができた気がします。

安藤:それほどの満足感、達成感を得られるタイトルに出会えるというのは、まさに奇跡に近いかもしれませんね。

景山:今までの作品とは違う意味での重圧もありました。『黒騎士』はオーケストラを含めてダイナミックな音楽制作を、これまで自分がやったことのない作り方でたくさんの人と関わりながら作りあげました。オーケストラ収録を完遂するために、指揮者、オーケストラの演奏者、オーケストレーターの方、譜面を管理してくださるライブラリアンさん、コーディネーターさん、エンジニアさんと……書ききれないくらい本当にたくさんの方に関わっていただいているので、自分の音楽をちゃんとしたクオリティで期日までに完パケしなきゃいけないっていうプレッシャーはすごかったです。

安藤:かなりのキャリアを積み重ねてきた景山さんをして、初めての体験がたくさんあったわけですよね。

景山:そうですね。初めてのことだらけだったので、収録の段取りとか、わからないこともいっぱいありました。そこは色々な人たちにすごく助けていただきましたよ。いろいろな方と二人三脚で走りきった感覚があります。どういう人たちとどう組んで動くのか、そういうところまで考えたのも初めてでしたから、このビッグプロジェクトの音楽をどう完遂させるのか、ドキドキ感はすごかったです。

安藤:作り手の気合いに対して、見事に応えた形ですね。

景山:そう思っていただけていたらうれしいです。今までサウンドディレクターとしてサウンドチームをまとめてきた経験が、ものすごく生きたお仕事でした。開発スタッフさんたちにとっても、ここまで大規模なスマホゲームを作られるのは初めてのことだったらしく、SEやボイスなどの組み込みや鳴らし方など、サウンドのいろいろな部分を補わないといけないってときに、僕が信頼しているクリエイターに声をかけて環境を整えたりしたんです。これは前職で得たノウハウがあったからこそ出来たことなんですよね。
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安藤:まさに、景山さんにしかできないお仕事であったわけですね。

景山:僕は表向きには、コンポーザーしかやってないように見えているかもしれませんが、音楽以外のことも色々とサポートさせていただきました。ちょっとだけなんですけどね。音に関する部分で困ってることがあったら何でもやりましたし、曲を書くだけじゃないというのも僕の売りだと思っていますので。

安藤:それはコンポーザーという職種としては、ものすごくめずらしい関わり方ではないでしょうか。

景山:そうなのかもしれませんね。コンポーザーは本来曲しか書きませんし、曲しかやりませんって方が多いと思います。でも、実際にゲームメーカーのインハウスのクリエイターとして、ゲームというエンターテイメントがどういう風に成り立っていて、音をどういう風に流せば気持ちいいかにこだわってきたからこそ、今回のような関わり方が可能だったと思うんです。

安藤:そのとおりですね。

景山:曲を書いて納品して終わり、完成したゲームのことは気にならないって人もいるかもしれませんが、僕はゲームがどういう仕上がりになるのかまで、ちゃんと責任をもって見届けたい。だから独立後も、基本的にはゲームのROMを見せてほしいって言っています。曲しか作らないって関わり方はほとんどないですね。できるだけ最後まで責任を持つ。向こうが望まない場合は別ですけどね(笑)。

安藤:ゲームは総合エンターテイメントなので、そこの垣根は超えるべきだとはわたしも思います。

景山:僕の曲がゲームとすごくリンクしてると思われたら、こんなに幸せなことはありません。楽曲がゲームに組み込まれ、実際にプレイしたときの感覚を曲に反映させ、またチューニングをするからこそ、僕の曲はゲームと乖離することがないという自負があります。ただ発注書に書かれたイメージの曲だけを書いて納品するやり方だったら、そこまでゲームとリンクできませんから。

イントロの長さがバトルの開始の長さにきっちり合うようにとか、プレイヤーの動きに合うようにとか、そういう視点で音楽が組み込まれたときの気持ちよさって大事だと思うんです。

安藤:『黒騎士』の、ボスのHPと連動して曲が変わるっていう演出には鳥肌が立ちました。あれはゲームに深く関わっている、景山さんならではの演出ではないでしょうか。

景山:やっぱりゲーム音楽って、そういうところに気を配れるかどうかで変わってきますよね。単品としていい曲でも、ゲームに組み込まれたときにゲームと音楽の間で距離があるとか、あんまりマッチしていないってことがたまに見受けられるんですけど、きっと曲を書いて組み込んだものを聴いてチェックして直したりしてないんだろうな……とか、時間がなくて直せなかったんだろうな……とか、僕目線でプレイしてて思うことが結構ありますからね。
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■ゲーム音楽コンポーザーであることを誇りに思う気持ち

安藤:ここまで『黒騎士』の音楽制作のお話を聞いてきましたが、最後にこれからの話をおうかがいしたいと思います。独立されてからの景山さんは、今までやってこなかったことを徐々に開放していっている印象なんですけど、まだまだ開放してないものがたくさんある気もするんです。今後やってみたいこと、どんな未来を創造していきたいのかを聞かせてもらえますか?

景山:ひとつは、アニメや映画、ドラマなどの劇伴音楽の制作でしょうか。アニメとか映画とか、実写を含めて、物語や映像に音をつけることをこれからもっと本格的にやっていたいと思っています。

あと、これまでは僕がどういうところでどういう人に必要とされるのかわからないところがありましたが、独立したあとにわかったのは、僕の音楽をゲームというフィールドで必要としてくれる人が想像以上に多かったこと。なので、“ゲーム音楽を書くプロフェッショナル”っていう立場はこれからも継続していきたいですね。やっぱり僕はゲームに育てられたし、ゲームにお世話になってきましたから。

安藤:この先、たくさんの分野で活躍されるであろう景山さんですが、いつまでも「ゲームコンポーザー」としてあり続けたいという宣言ですね。

景山:昔はゲームミュージックコンポーザーっていう肩書きに抵抗がある時期もあったんですよ。ゲームの音楽だけを書いているわけではないのに、そう呼ばれることに違和感を覚えていました。でも、今ではそれが、ものすごく専門性が高いジャンルだからこそだと思えます。ゲームサウンドって、ゲームに組み込んで、ゲームに落とし込んでっていうところこそが重要。誰にでもゲームの曲が書けるとは思えないんですよね。

そう思えたとき、ゲーム音楽は極めて専門性の高い音楽であり、それを作るという仕事のおもしろさを、プライドとして自負するようになりました。

安藤:今はゲーム音楽を楽しんでくれるファンもすごく多いですし、ゲームの音楽がもたらす影響はすごく大きくなってきていますから。ゲームサウンドコンポーザーの仕事は、ますます重要になっていくと思います。ゲーム音楽って特殊だし、特別なものであるってお話がありましたけど、景山さんにとってゲーム音楽ってなんなのでしょう?

景山:ゲーム音楽は背景音楽ではなく、ゲームの中の主役のひとつだと思っています。能動的に聴く音楽だと思いますし、ゲーム音楽が好きでゲーム音楽のコンサートへ聴きに来てくれる人も増えているわけですし。
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安藤:消費されている感じはまったくないですよね。むしろ、思い出が刷り込まれて蓄積していってる点では、他の商業音楽と比べて全然違うというか、ファッションにならないってところはあるかと思います。

景山:ゲームサウンドほど繰り返し聴く音楽ってないんですよね。ゲームをしながら聴く以上、ループ音楽っていうのが一番の特徴だと思うんですけど、刷り込まれるほど聴くがゆえに、いろいろな思い出体験だったり、音楽を超えた体験──聴くだけではなく、ゲームと連動した思い出体験だったり、音楽を聴くだけであのころの体験がよみがえるっていう力が、ゲーム音楽には備わっている。

安藤:これだけ何度も音楽を聴いて、自分の身に染みる、吸収される音楽というのは、ゲームだけかもしれません。

景山:そうなんです。映画を例に出しても、2時間のお話を観るなかで、同じ音楽をループして繰り返しずっと聴くってケースはありませんよね? とはいえ『黒騎士』ではアニメ映像のシーンで流れる劇伴曲を書いているんですけど(笑)。それって通常のゲーム音楽とは全然違うんアプローチなのでめちゃくちゃおもしろくて、改めて映像に音を付ける快感を知った瞬間でもありました。

安藤:音楽を手掛けるにあたって、監督さんとも綿密にやり取りを交わされたんですか?

景山:じつは、映像監督に「僕の音楽はメロディが強い」ってすごく言われました。つまりは映像との距離が全然違うってことなので、最初は適性な距離感をつかむまでにかなりのやり取りとリテイクがありました。やりとりを何度も繰り返すうちに、自分のなかで足し算引き算、距離の取り方みたいなものをつかんでいった感じです。

メロディを色濃く出す音楽、まるで背景のように溶け込ませて、存在はするんだけど極めて背景に徹するさりげない音楽とか……いろんな音楽の足し算引き算、駆け引きみたいなものの感覚が分かってきました。もちろん『黒騎士』のアニメ映像シーンに使う劇伴曲を作るにあたって、徹底的に研究したんですけど。

安藤:お話をお聞きしていると、景山さんのお仕事はゲームに軸足を置きつつ、今後は映像系にも広がっていくのではないかと感じました。その場合は、またイチから営業ですかね(笑)。

景山:そうですね(笑)。この対談を読んで、ゲームにとどまらず映像のお仕事などで、僕と一緒にやってみたいって人がいたらうれしいです。

安藤:JAGMOでの出会いみたいに、景山さんだったらまた人と人との出会いがあって、奇跡的な流れで映像系の仕事が始まる気がします。

景山:返す返すも、人と人との出会いなんですよね。このタイミングでこの縁があって、そこからさらに広がっていくものがあって……そうやって引き寄せ合っていくものなんでしょうね。

安藤:作品が独り歩きして、いろいろなところに広がっていくという側面もあるのでは。

景山:今は、目の前の仕事を最高のものに仕上げていけば、それが幸せな仕事にめぐりあう道へとつながるのではないかと感じています。あとは、最近はあんまり焦ってないというか。今こうやって僕の音楽を必要としてくれる人がいて、その人と作品を一生懸命誠心誠意作るっていうことで、だいぶ気持ちは安定しているんです。独立したばかりの頃は、仕事がなくなったらどうしようと必死だったんですけどね(笑)。

安藤:そのあたりの心情も語っていただけて、価値のある対談になったと思います。本当は外に飛び出していったほうが新しい可能性があるのに、二の足を踏んでる人にとって、勇気を与える内容でした。

景山:僕は本質的に心配性なので、たぶんこの業界に向いてないタイプなんですよ。ぶっちゃけ攻めるタイプの人間ではないので、独立にも向いていないと思いますしね(苦笑)。でも、この仕事をやるようになってちょっとは肝が座ったというか、昔ほど臆病ではなくなった部分もあります。

学生時代に「プロになりたい」って言っていたとき、先生から「音楽の世界は弱肉強食で、蹴落とし蹴落とされ、裏切り裏切られの業界で生きていかなきゃいけないんだよ」と諭されたことがあるのですが、僕みたいな人間でもこうして10年やってこられたわけですから。これから業界を志す人には、希望を持ってほしいなって思います(笑)。

安藤:こうして対談で振り返ってみて、実際のところはどうでしたか? 食うか食われるか、裏切り裏切られる世界でしたか?(笑)
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景山:競争が激しいことは間違いないですけど、人がこうだから自分もこうだっていう変な競争意識は年々薄れてきていますね。僕にしかできないやり方があるし、それを求めて僕にオファーをしていただけるんだから、そこは自信を持っていいと思えるようになりました。

安藤:景山さんはサウンド全体を見ることができるし、ゲームそのものを大切にして音楽を仕上げていくスタイルは、誰にでもできるものではないと思います。

景山:まさに、安藤さんがおっしゃられたスタイルは僕にしかできないことだという自負はあります。コンポーザーにとっていい音楽を書けるのはもはや当たり前で、それにプラスアルファは必要な時代。作品の音楽全体、ひいては作品全体を最高のものにするっていう意識でやっていくくらいの気概が必要ですよね。

安藤:景山さんは本当にアツい人柄。そのアツさはこれからも変わってほしくない部分です。先ほど心配性だから経営者に向いていないタイプだとおっしゃっていましたが、じつは心配性のほうが経営者に向いている側面もありますよ。事実、大きい会社の経営者って大体不安症の人ばかりですよ。

景山:そうなんですか?

安藤:わたしが昔所属していたエニックスの創業者である福嶋康博さんも、「仕事の原動力は不安でしかない」とおっしゃっていました。毎日不安なことばかりだから、それを解消するために仕事をやっているのだと。

景山:その言葉、すごく励みになりますね。起業するためノウハウ本などを読んだ時も、自分に向いてる部分と向いてない部分がすごくはっきり出ていて。やっぱりメンタル的には、限りなく向いていないなって本を読むたびに悩んだりしてきたんですが、今のお話を聞いて救われた気がします。

安藤:独立して起業すると、自分が止まった瞬間に会社も止まるというのが、サラリーマンとの大きな違い。そのとき、人間にとって一番の原動力になるのは、「やばい」と思う不安感、「このままだと死ぬかもしれない」という危機感なのではないでしょうか。そういうメンタルでいるときこそ、ここ一番の精神力を出せるというのはわたしも一緒ですね(笑)。

景山:今のスタイルだからこそ、これだけ日々をストイックに過ごせるのかなと思いました。楽をしたいというか、ちょっと甘えたくもなる瞬間もあります。でも、僕が止まったらお金の収入がゼロになるというのは、ある種のピリッとした刺激。そして刺激がある毎日というのは、やっぱり楽しいですよね。いろいろな世界を見せてもらえるので。

安藤:景山さんはそうして日々を楽しみながら、よいものを作ってアウトプットし続けている。それが本当にすごい。「しんどいわー」って状況もあると思うんですけど、それをまったく感じさせないところが景山さんの魅力だと思います。いつか一緒にお仕事をさせてもらえればうれしいです。

景山:こちらこそ! そのときを楽しみにしています。

安藤:いつか実現させましょう! 本日はありがとうございました。


■景山将太 最新サウンドトラック『黒騎士と白の魔王オリジナルサウンドトラック』が好評発売中!

2017年4月にリリースされた『黒騎士と白の魔王』のサントラ第一弾が待望のリリース。コンポーザーは景山将太と下村陽子が担当しており、生のオーケストラ演奏を録音したダイナミックなサウンドが聴ける。もはやスマホゲームの域を超えたクオリティで迫る1枚だ。
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テキスト:風のイオナ(FLOOR25) ゲームと音楽と旅と自転車が好きな東京在住フリーライター&エディター。最近は地下アイドルグループDORCAのプロデューサー業もやってます。
ツイッターアカウント→風のイオナ@ハイパーいおなぴ@ionadisco
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