『ダライアス』のサウンドは社内のサウンドチームでやりたかった──小倉久佳音画制作所×安藤武博 対談【サウンドコンポーザーに訊く!/連載第9回・後編】
『ダライアス』シリーズや『ニンジャウォーリアーズ』などの作曲を担当したほか、タイトーサウンドチームバンドであるZUNTATAの顔としてタイトーサウンドを引っ張ったOGRこと小倉久佳氏。2007年にタイトーを退社してからは、小倉久佳音画制作所として音楽に留まらないアーティスト活動を行っている氏と、ゲームDJの対談が実現! 後編となる今回は『ダライアス』の話から、小倉氏のさまざまなインプット話、そしてオリジナルアルバムのタイトルに込められた秘密などをメインにお届けします。
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小倉久佳音画制作所(写真左)
1983年にタイトーに入社し、サウンドチームに配属となる。『THE 運動会』でサウンド担当デビューし、以降『影の伝説』、『奇々怪界』、『ダライアス』、『ニンジャウォーリアーズ』など、タイトーの代表作のサウンドを多数手掛ける。2007年にタイトーを退社し、小倉久佳音画制作所と名義を改め、「俯瞰した事実と客観的な虚構 このふたつで僕は世界をつくる」や「O-parts」などのオリジナルアルバムをリリースしている。

前編はコチラ→初のFM音源を使った『影の伝説』で自由に手腕を発揮!

■『ダライアス』は各部門がやりたいことを詰め込んだゲーム

安藤武博(以下、安藤):後編ではまず『ダライアス』のお話をうかがいたいのですが、ゲームは1986年にリリースされています。わたしは当時小学生だったんですけど、ボディソニックがお尻からワーッと感じられることに心底驚きました。ボディソニックのコンセプトは、どこの部門で生まれたものなのでしょうか?

小倉久佳音画制作所(以下、小倉):あれはどこだったかな。僕は当時サウンドにいた田中さんって方なのかなと思ってはいるんですけど、確証はないです。でも、持ち掛けたのはサウンドチームからだと思いますよ。「こういうのできない?」って感じで、ハードの開発側に持ちかけたんじゃないかと思います。

安藤:ボディソニックもそうですけど、3画面のインパクトにも驚きました。初めてこのコンセプトを聞いた時はどんな印象でしたか?

小倉:すごいなとは思いましたが、まだ形として見てなかったので、実感は全然なかったんですよ。ただ、『ダライアス』だけはサウンドを外注に出すのはマズいと直感しました。これは絶対に社内でやりたいと思ったので、サウンドチーム内で直談判しましたね。それで初めてソフト開発チームの部屋に行ったら、3画面並んで隕石が流れてくる映像を見て「うおお──っ!」となりました。

安藤:『ダライアス』の筐体って、いつかは乗りたいスーパーカーみたいな特別感がありますよね。スペースとメンテナンスとお金に余裕があったら、わたしも1台購入したいぐらいです。特徴的な音域や振動を使った低音みたいな技術要件があるから、普通のゲームと違って作曲のアプローチも違ったのではないかと思いますが、特別に心掛けたことがあったらお聞きしたいです。

小倉:それが……じつはあまりないんですよね。実験というか体感したときに「あ、これは普通に作っても音が鳴る筐体だな」って思ったので、「この音域を特別に使ってこうしてやるぞ」みたいな意識はなかったですね。

安藤:たしかに、「ボディソニックとヘッドフォン」のイメージがあるからか下からズンって来る重低音が多いと思いきや、あらためて聴くとじつはキラキラしたシーケンスのフレーズがずっと流れているんですよね。どちらかというと、低音はハードが勝手に流してくれるから、ヌケのよいフレーズをいっぱい散りばめて作られている……そんな感じがします。

小倉:そうですね。ゲーセンで目立つ音作りを意識しました。

安藤:筐体にはヘッドフォン端子とボリューム調節が付いていましたけど、そこに関して意識されたことはありました?

小倉:そのへんは全然気にしていませんでしたね。サウンドチーム内のハード担当が忙しそうに動いているのは知っていましたので、音作りに関するソフト的なことだけは聞いていましたけど。ボリュームやヘッドフォンについては、ほぼ筐体が出来上がった時に知ったような感じなんです。ここらへんは、それぞれの部門がやりたいことをとにかく詰め込んだ作品だからこそだと思いますね。

安藤:今もってインパクトのある筐体ですからね。『ダライアス』シリーズの音楽は『Ⅱ』だけがアッパーな印象があるのですが、その理由は何だったのでしょうか。

小倉:『Ⅰ』とは違う流れにしたいっていうのがまずひとつ。あとは、作品に「光の誕生」っていうコンセプトがあったことも大きいですね。光の子が誕生するまでのストーリーの流れを作りたかったこともあって、ローのほうにはいかなかったんですよ。ドヨーンとはせずにハイの方にいった感じですね。ちょうどウチの子どもが生まれた年でもあって、自分のなかでの気持ちの変化もあったかもしれません。
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安藤:作品のコンセプトに加えて、小倉さんの私生活も組み合わさっての産物だったわけですね。ちなみに、1980年代中盤に、タイトーはレーザーディスクのゲームを作っていましたが、小倉さんはそれらのタイトルには関わられていたのでしょうか?

小倉:『タイムギャル』は演奏、『宇宙戦艦ヤマト』はデータ化で関わってますね。『忍者ハヤテ』だけにはまったく関わっていません。

安藤:『タイムギャル』の動画を久々に見たんですけど、すごく未来を感じさせますよね。セルアニメの上にスコアが載っていて、要所で矢印を押すと物語が分岐していくQTEの元祖のようなシステムを25年も前に実現させている。タイトーは最先端のテクノロジーに触れて、それに挑んでいこうという意識が強かったのではないでしょうか。技術的に、とてもハイブローなことにチャレンジしている印象が強いです。

小倉:そうですね。ただ、作り手側からすると、新しいことも普通に受け止めていた気がします。開発の内側にいると、案外「わっ、すげえ!」とかそういう驚きはあまり受けなかったりするんですよね。

安藤:新しいものが出てきても、その技術を使ってどういいものを作るか、それだけを考えていたのかもしれませんね。

小倉:ええ。レーザーディスクのゲームも、タイトーに入る前に遊ぶ側で触れてはいて、「こういうこともできるんだな」と思っていた程度です。でも、サウンドって一番最後に作業をする部署だったから、あとになって「へえー」っていうのも多かったし、だからこそ「こういうことをやろうぜ!」っていう「はじまりの場」にはいないのかもしれません。サウンドに作業が降りてくるころには、すでにゲームの大部分は仕上がっているものですからね。

安藤:作業行程的にあるかもしれませんね。サウンドが一番最後と言いながらも、ZUNTATAを結成されて、一方セガではS.S.T.BANDがライブを始めていました。先日、S.S.T.BANDの並木晃一さんと対談させていただいたんですけど、同じ時期にZUNTATAもライブをしていた。最初にやるよとなったとき、どういう印象でしたか?

小倉:あまりピンとこなかったですね。僕自身、あまりライブが好きじゃなくて、どっちかっていうとスタジオレコーディングが好きな人間だからかもしれません。だから「ZUNTATAでライブやらない?」っていわれた時も「ああ……なるほど、そうですか……」みたいな返しだったと思います(笑)。

安藤:提案した側からすると、かなりそっけない返しだったかもしれませんね(笑)。

小倉:はい。でも、その流れには逆らえないというか、乗っていかないといけないなとは思いましたよ(笑)。

安藤:わたしは『ニンジャウォーリアーズ』の音楽は、全編クライマックスだと思っているぐらい大好きで、これほどライブ映えする楽曲もないと思っています。三味線のソロやサンプリングボイスによるコーラスが入ったり、すべてがかっこいい。
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小倉:ありがとうございます。『ニンジャウォーリアーズ』では音程が変えられるチップを使えるようになりましたから、これはいけるという手ごたえはありましたね。「やっと作りたかったものを作れる時代が来た!」と思いました。

安藤:ハード的な制限で鬱積していた部分が『ニンジャウォーリアーズ』でドーンと爆発したということなのでしょうか。テンションの高さと解放感を、このゲームの音楽からはすごく感じるんです。最初からすごくハイテンション。三味線のソロを入れようというのは、どういった発想から生まれたものなのでしょう?

小倉:三味線のソロはいつかやってみたいと思っていたんですよ。それが『ニンジャウォーリアーズ』のときに「ついに来たか!」と。すべてのタイミングがマッチングした結果ですね。

安藤:『ニンジャウォーリアーズ』は今でもファンがすごく多いですし、実際のライブで三味線の演奏者さんとコラボしたりもされています。ものすごくライブ映えしますよね。

小倉:今年の1月のライブでもやりましたし、90年代のライブでも2回やったので、これまで三味線の方に参加いただいたライブは計3回になるのかな。ライブでは毎回一番おいしいところを三味線の方に持っていかれますので、気持ちよく帰っていただけているのではないかと(笑)。

■どの時代もすべて楽しんでサウンド作りをしていた

安藤:タイトー時代で、ほかに印象に残っているプロジェクトやタイトルはありますか? わたしは『ギャラクティック・ストーム』がすごく好きなんですよ。未来感があってサウンドも金属感があって、ものすごくキラキラしているタイトルでした。

小倉:『ギャラクティック・ストーム』は、タイトーで一番最初にオールサンプリングで作ったタイトルですね。中央研究所で歌も録ったし、オールサンプリングなるよって言われて、新たな波がやっと来たなと感じました。

安藤:FM音源の時代に音色を作っているときから、オールサンプリングの時代まで、それぞれに特有のおもしろさがあったと思います。そんななかで、コンポーザーとしてどの時代が充実して楽しかったですか? フラストレーションが溜まっていた時代や、解放された時代があったかと思うのですが。

小倉:こうして対談しながら振り返ってみると、結果的にその時代その時代なりに充実感があったと思いますね。すべて楽しんでいた気がします。まあ、PSGの時代だけはダメかもしれませんが(笑)。ただ、おもしろいなと思ったのは、チップチューンがはやったころってみんなPSGのほうに走っていったじゃないですか。シンセの人たちがみんなPSGのほうに走っていくという。でも、僕らPSGの人たちは、逆にシンセに走っていくっていう図式があったんですよね。
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安藤:お互いにないものねだりな感じなんでしょうね。

小倉:あと、タイトーを辞めたあと、中野にあるテクノを専門に扱っているレコード屋さんになにかおもしろいものないかなって買いに行ったことがあって。ほんとにアバウトな感じで店員さんに「なんかおもしろいものないですかね」って聞いたら、いろいろなCDを紹介されて。そのとき、ゲームボーイの音源を使ったCDを試聴したら「……これは違うな」って思った記憶があります。

安藤:いまだにゲームボーイの音源を使って活動しているアーティストがいて、なかなかエグイ音も出るようになっていますが、それでもやっぱり違う感じがしますか?

小倉:う~ん……そうですね。なんかダメなんですよね。どこをどうと指摘しづらいんですけど(苦笑)。

安藤:ゲームボーイの音源で思い出したんですけど、小倉さんはゲームボーイ版『サーガイア』で、サウンドの監修をやられていましたよね。

小倉:やっていましたね。あのとき、開発会社さんに「ちょっと音色がイマイチなんですよ」って相談したら、「ほかにこういう音色がありますよ」って言われて聞かせてもらった音がよかったんですよ。だから「あ、これいいじゃないか」とメロディのパートを取り換えてもらったんです。だから、やればできるじゃんっていう感じで「じゃあこの曲のここは直しましょう。この曲のここは直しましょう」って感じで、監修をさせていただきました。

■メダルゲームのサウンドでは声優さんの音声収録のディレクションも担当

安藤:小倉さんはクレーンゲームやメダルゲームのお仕事もされていますよね。これらが普通のアーケードゲームと違う点はありますか?

小倉:ファンファーレとかのジングルや音声が多い点が、ビデオゲームとは違いますね。あとそういったタイトルに関わっておもしろかったのは、企画の人間が当時イチオシの声優さんを使いたがることでしょうか。

安藤:メダルゲームでも声優さんのチョイスは重要ですよね。
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小倉:僕は全然アニメを観ていなかったので、どんな声優さんがいるのか知らなかったんですが、「ただ「大当たり!」とか言うだけじゃつまらないから、出てくるキャラクターに対してキャラ付けをしませんか?」と提案したら「それやりましょう!」と企画の人間が乗ってきてくれて。この子はこういう感じで……と性格を決めたうえで、当日スタジオに行って声優さんに「こういう感じでしゃべってください」って説明をして声録りをしたんです。あれは楽しかったですねえ。一番印象に残っているのは、浅野真澄さんです。

安藤:何か印象的なエピソードが?

小倉:浅野さんをスタジオで待っているとき、冬で雪が降りそうなくらい寒い日だったんですけど、「浅野さん来ないですね」ってスタッフと話しながらちょっとスタジオの外に出たんですよ。そしたら、まさに今来ましたって感じで黒いコートを着た浅野さんがちょこんと立っていらして。その姿がまあ可愛かったんですよね(笑)。

安藤:それはときめきますね。この話、どういう方向に行くんだろうって思って聞いていました(笑)。

小倉:(笑)。で、お会いしたこともないのに、この人が浅野さんに違いないと確信して「浅野さんですか?」と話しかけたら「はい、そうです」と。「みなさんお待ちですから中に入ってください」って言ってディレクションを始めた、というね。ちなみに『ダイノキング』っていうメダルゲームの収録でした。考えてもみると、浅野さんに限らず、アニメファンの方からすると怒られそうなほど豪華な面々とお仕事させてもらっていますね。

安藤:お話を戻しますけど、小倉さんは2007年くらいまでタイトーに所属されていました。20年強、ほぼ四半世紀です。そのまま骨を埋めるという選択肢もあったと思うのですが、新しいキャリアに進もうと思ったきっかけはなんだったのでしょう?

小倉:これというきっかけはとくに。ここを逃すと動けなくなるなという感覚に従ってのことだったんですよね。当時、もっとインプットを増やしたいという思いがすごくあって。音楽的な部分だけじゃなくて、たとえばディズニーランドに遊びに行くとか、そういうことをいろいろしたかったんです。

安藤:たとえば牛は草を食べないとミルクが出ないみたいな話がありますけど、良質な草をいっぱい食べて、いいミルクをいっぱい出していこう……といった欲求があったということでしょうか。同じところにずっといると、それはそれでおもしろさがありますけど、環境ごとガラッと変えて、新境地に進んだわけですね。そうしてタイトーから独立されてもう10年以上がたちますね。

小倉:そうですね。今は波形を渡すだけでOKなので、技術の進歩を感じます。ただ、これで本当にいいのかなって思ってるところはあって。全部自宅で作業できちゃうことに、ちょっと不安を抱いている側面があります。
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安藤:そうなんですか?

小倉:今って全部自分の耳で聴いてバランスを取り、それを完成品として渡すわけですよ。場合によってはそれがCDになっちゃうわけじゃないですか。昔はレコーディングの必要があって、エンジニアというプロの耳を持った方がバランスを取ってくださり、それで出来上がってからあらためて聴かせていただき、「ここは聴かせたいとこなんで、こっちの音は下げてもらって、そのぶんこのパートを上げてください」といった、複数の方とのやり取りがありました。そのほうが、結果的に完成度は上がる気がするんですよ。

安藤:第三者の耳を一回通すということが重要なんですね。

小倉:1人で完結させてしまうと独善的で終わっちゃうというか。よくも悪くもなんですけど、0から100まで小倉久佳の音が聴きたいんだっていう人にはいいかもしれないけど、作り手としては幅広く聴いてほしいものなので。それは安藤さんも一緒だと思うんですけど、下は中学生ぐらいから、上は同世代ぐらいまで囲い込むというのが理想じゃないですか。そうなると「このやり方でいいのか?」っていう疑問はあります。

安藤:大事ですね。小倉さんがゲーム音楽をまったく聴かないと、どこかのインタビューで読んだことがあるのですが、普段はどういう音楽を聴かれているのかすごく興味が出てきました。

小倉:本当にほとんど聴かないんですよ。一時期は音楽そのものをまったく聴かない時期もあって。

安藤:音自体をシャットアウトしていたんですか?

小倉:あのころは川のせせらぎの音が収録されているCDばかりを聴いていました。ものすごく気持ちが落ち着くんですよね。でもあるとき、音が30分前後でループしていることに気づいちゃったんです(笑)。

安藤:ああ……見抜いてしまったわけですね(笑)。

小倉:それで何かが冷めたんですよね。全部自然の音だと思って気持ちよく聴いていたのに、それすら人工物であったわけで。

安藤:作ったほうもまさかバレるとは思ってないですよね。あれだけ揺らぎのある音源ですから。むしろ「ここでループしてる!」と気づいた小倉さんが、音のプロとしてすごい。

小倉:気が付かなかったほうが幸せだったとは思うんですけど、それからはそのCDすら聴かなくなって(笑)。最近は本当に音楽をあんまり聴いてなくなってしまいましたね。

安藤:音楽からのインプットを求めているわけではないんでしょうね。では、音楽以外で小倉さんにとって大切なインプットとは、具体的にはどういうものなんでしょうか。何からインスピレーションを得ているのかが気になります。

小倉:僕は海外のテレビドラマが好きなので、よく見ています。「ER 緊急救命室」が大好きだったんですよ。それも声が関係しているんですけど、葛城七穂さんが演じていたキャラクターがすごく好きで、それをきっかけにハマっていきました。

安藤:物語だけでなく、声の響きも込みでのめり込んでいった。

小倉:そうですね。もちろん話の筋も大好きです。吹き替え用の翻訳もおもしろくて。
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安藤:日本のドラマはご覧にならないんですか?

小倉:見ますよ。そのときは事前にタイトル、内容、出演者をチェックして、予告編なども見てから本編を見るか決めますね。法則として、タイトルが凝っている作品って大体おもしろいんですよ。それは音楽も一緒で、最初は固定タイトルが浮かんでないんだけども、曲を作っていくうちに「あ、こういうタイトルにしよう」と、不意にタイトルに意識が行くことがあるんです。大事に楽しくおもしろく作っているときというのは、タイトルにも力を注ぐものですから、このフィーリングは大切です。うまく言葉にできないのですが、ありきたりなタイトルのやつは大体ありきたりな流れになっちゃう気がしますね。

安藤:小倉さんのオリジナルアルバムのタイトルは絵画みたいで素敵ですね。「俯瞰した事実と客観的な虚構 このふたつで僕は世界をつくる」というアルバム名とか、タイトルから目を引く。ゲームミュージックコンポーザーが付けないタイトルだと思いますし、とてもユニークだなと思って聴いていました。

小倉:「俯瞰した事実と客観的な虚構」と名づけたときは、世の中のことを漠然と見すぎているなと思っていたんですよ。たとえばニュースが流れても、ほんの10秒~15秒で終わっちゃうことがあるじゃないですか。それを当たり前のように聞き流している自分がいることに気づいて。もっと情報を掘り下げるとか、考えなきゃいけないんじゃないのかと思い、そこで“俯瞰した事実”というフレーズが浮かんだんです。とりあえず事実だけを見てみて、そのなかには報道されないだけでじつは裏側でものすごいことが起こっているかもしれない。そういったことをもっと考えるべきかな、って。

安藤:その着眼点はおもしろいですね。

小倉:たとえば僕らは、今福島の原発が具体的にどうなっているのか、ほとんどの人がニュースでしか知らないと思うんですよ。そしてそこには、心理的に「詳しい情報を見るのが怖い。だったら知らないほうがいい」という側面がある気がします。そこから目を背けたいという心理が働くから、結果、嘘の情報を信用することも多いと思うんです。

安藤:耳障りがいい情報ばかりを受け取ってしまうようになる?

小倉:ええ。でも、危機感を感じるためには敏感にならないとダメで、敏感になるためには嘘っていうものを見抜く力というか、そういうものを養っていかなきゃダメなんだと思います。そういう世のなかの嘘、おそらく自分も騙している、自分も嘘をついているっていうことを含めたうえでのタイトルを付けたいなと考えて、“客観的な虚構”と続けました。

安藤:哲学的ですね……。大学で哲学科をご卒業されている小倉さんならではの観点だと感じました。

小倉:いやいや、それはもう、タイトルだけです。

安藤:今日の対談は極めて哲学的だとも思っているのですが。

小倉:いやー、少なくとも大学は関係ないと思います(笑)。当時は全然学校に行かずに、ピアノばっかり弾いていましたからね。

安藤:今後もゲーム制作者から小倉さんに楽曲制作のオファーがあると思いますが、周りが小倉久佳というコンポーザーに求めているものはなんなのか、考えたことはありますか?

小倉:あまりないですかね。求められている音楽ばかりを作っているわけではない気がします。これは失敗話なんですけど、以前、古代祐三さんから『みんなでまもって騎士』の楽曲制作のオファーをいただきまして、リクエストとして「おどろおどろしい曲」って書いてあったんです。でも、僕が勘違いしちゃって、全然おどろおどろしくない曲を作っちゃいまして。
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安藤:今、その音楽をかけてみましょう……たしかにおどろおどろしくはないですね。むしろノリノリの曲(笑)。

小倉:そのリクエストに気づいたのはもう曲が完成してからで(笑)。「しまった!」と思いましたが、もう作り直す時間もなかったので、正直に古代さんにメールを書いて、音源をお渡ししました。どうなることかと不安だったのですが、古代さんからは「イメージに合うのでこれでいきましょう!」ってお返事が来て。そういう意味ではリクエストというよりは、僕自身のフィーリングを重視していただけているのかもしれませんね。まあ、このエピソードについてはしっかり反省していますので、以降はちゃんとリクエストを見るようにはしていますけど(苦笑)。

安藤:(笑)。

■「俯瞰した事実と客観的な虚構」の続編を早くリリースしたい

安藤:今後、作曲家としてやってきたいことや「O-parts」に続くオリジナルアルバムの制作だったり、それ以外に企まれていることのお話とかがあったりすればお聞きしたいです。

小倉:今、自分の中で最も大きなウェイトを置いてるのは「俯瞰した事実と客観的な虚構」の続編制作ですね。早く出したいんですけど、ちょっと難しいテーマなので作ってはボツ、作ってはボツを繰り返しています。このシリーズはすごく大切に作りたいんですよ。なので、この作品をお待ちいただいている方は気長にお待ちいただければと思います。あとは、来年の「東京ゲーム音楽ショー」に出展していくつかの新作を出せればと思っています。音モノもあれば、そうじゃないものもあるかもしれない。

安藤:コンセプトアルバムを待っている人は、きちんと出来上がるまで待ち続ければいいということですね。

小倉:はい。ちゃんと作ります(笑)。

安藤:今日はいろいろ考えさせられました。哲学的な示唆に富んでいた。この連載は毎回違う色合いが出るんですけど、今日は何だか自分と照らし合わせて、普通にお話を聞くこと以外のことをいろいろ考えました。とてもおもしろかったです。ゲーム業界の黎明期からずっとブレずに考えられているのがすごいです。それを理解すると、この作品がこういう音になってるっていうのがすごく腑に落ちました。今日はすごく実りのある対談でした。本当にありがとうございました!

小倉:こちらこそありがとうございました。またよろしくお願いします。

■ニューアルバム『O-parts』が好評発売中!

小倉久佳音画制作所の活動10周年を記念して今年2月にリリースされた企画アルバム。タイトー在籍時代の2000~2007年に制作された楽曲の中から未CD化となっていた楽曲を音源化し、全28曲が収録されている。
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小倉久佳音画制作所 オフィシャルTwitterアカウント→小倉久佳音画制作所@H_Ogura

テキスト:風のイオナ(FLOOR25) ゲームと音楽と旅と自転車が好きな東京在住フリーライター&エディター。最近は地下アイドルグループDORCAのプロデューサー業もやってます。
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