小倉久佳音画制作所(写真左)
1983年にタイトーに入社し、サウンドチームに配属となる。『THE 運動会』でサウンド担当デビューし、以降『影の伝説』、『奇々怪界』、『ダライアス』、『ニンジャウォーリアーズ』など、タイトーの代表作のサウンドを多数手掛ける。2007年にタイトーを退社し、小倉久佳音画制作所と名義を改め、「俯瞰した事実と客観的な虚構 このふたつで僕は世界をつくる」や「O-parts」などのオリジナルアルバムをリリースしている。
前編はコチラ→初のFM音源を使った『影の伝説』で自由に手腕を発揮!
■『ダライアス』は各部門がやりたいことを詰め込んだゲーム
安藤武博(以下、安藤):後編ではまず『ダライアス』のお話をうかがいたいのですが、ゲームは1986年にリリースされています。わたしは当時小学生だったんですけど、ボディソニックがお尻からワーッと感じられることに心底驚きました。ボディソニックのコンセプトは、どこの部門で生まれたものなのでしょうか?
小倉久佳音画制作所(以下、小倉):あれはどこだったかな。僕は当時サウンドにいた田中さんって方なのかなと思ってはいるんですけど、確証はないです。でも、持ち掛けたのはサウンドチームからだと思いますよ。「こういうのできない?」って感じで、ハードの開発側に持ちかけたんじゃないかと思います。
安藤:ボディソニックもそうですけど、3画面のインパクトにも驚きました。初めてこのコンセプトを聞いた時はどんな印象でしたか?
小倉:すごいなとは思いましたが、まだ形として見てなかったので、実感は全然なかったんですよ。ただ、『ダライアス』だけはサウンドを外注に出すのはマズいと直感しました。これは絶対に社内でやりたいと思ったので、サウンドチーム内で直談判しましたね。それで初めてソフト開発チームの部屋に行ったら、3画面並んで隕石が流れてくる映像を見て「うおお──っ!」となりました。
安藤:『ダライアス』の筐体って、いつかは乗りたいスーパーカーみたいな特別感がありますよね。スペースとメンテナンスとお金に余裕があったら、わたしも1台購入したいぐらいです。特徴的な音域や振動を使った低音みたいな技術要件があるから、普通のゲームと違って作曲のアプローチも違ったのではないかと思いますが、特別に心掛けたことがあったらお聞きしたいです。
小倉:それが……じつはあまりないんですよね。実験というか体感したときに「あ、これは普通に作っても音が鳴る筐体だな」って思ったので、「この音域を特別に使ってこうしてやるぞ」みたいな意識はなかったですね。
安藤:たしかに、「ボディソニックとヘッドフォン」のイメージがあるからか下からズンって来る重低音が多いと思いきや、あらためて聴くとじつはキラキラしたシーケンスのフレーズがずっと流れているんですよね。どちらかというと、低音はハードが勝手に流してくれるから、ヌケのよいフレーズをいっぱい散りばめて作られている……そんな感じがします。
小倉:そうですね。ゲーセンで目立つ音作りを意識しました。
安藤:筐体にはヘッドフォン端子とボリューム調節が付いていましたけど、そこに関して意識されたことはありました?
小倉:そのへんは全然気にしていませんでしたね。サウンドチーム内のハード担当が忙しそうに動いているのは知っていましたので、音作りに関するソフト的なことだけは聞いていましたけど。ボリュームやヘッドフォンについては、ほぼ筐体が出来上がった時に知ったような感じなんです。ここらへんは、それぞれの部門がやりたいことをとにかく詰め込んだ作品だからこそだと思いますね。
安藤:今もってインパクトのある筐体ですからね。『ダライアス』シリーズの音楽は『Ⅱ』だけがアッパーな印象があるのですが、その理由は何だったのでしょうか。
小倉:『Ⅰ』とは違う流れにしたいっていうのがまずひとつ。あとは、作品に「光の誕生」っていうコンセプトがあったことも大きいですね。光の子が誕生するまでのストーリーの流れを作りたかったこともあって、ローのほうにはいかなかったんですよ。ドヨーンとはせずにハイの方にいった感じですね。ちょうどウチの子どもが生まれた年でもあって、自分のなかでの気持ちの変化もあったかもしれません。