ファミコン黎明期に、突然ハドソンからスカウトされてゲーム音楽作曲家人生がスタートした国本剛章氏とゲームDJが対談! 後編の今回はPCエンジン時代の話、そして長らく休業状態だったものの、再びゲーム音楽作曲家として活動を再開された経緯などを中心にお届けします!
前編はコチラ→バンドマンな大学生がハドソンの『チャレンジャー』でコンポーザーデビュー!
国本剛章(写真左)
大学在学中の1985年、楽器屋でのアルバイト中にハドソンの笹川氏にスカウトされ、『チャレンジャー』でゲーム音楽作曲家デビュー。1987年から1989年にかけてPCエンジンタイトルを数作手掛けた後、ゲーム音楽作曲家としての活動を一旦終了。2016年より『8BIT MUSIC POWER』を皮切りに『キラキラスターナイトDX』、『協撃 カルテットファイターズ』といったタイトルへの楽曲提供をし、ゲーム音楽作曲家としての活動を再開させている。
■6音を使えることに驚き、舞い上がったPCエンジン『カトちゃんケンちゃん』
安藤武博(以下、安藤):今回はPCエンジンのお話からうかがいたいのですが、ローンチタイトルの『カトちゃんケンちゃん』からは6音で楽曲を作られていますね。
国本剛章さん(以下、国本):そうですね。『カトちゃんケンちゃん』は87年の冬ぐらいに作りました。さすがローンチタイトルということで、力の入ったグラフィックで。タイトル画面を見せてもらったときは驚きましたよ。こんなクオリティの絵が出せるんだって。音数も増えますよ、と言われて「よし。それならジャズっぽい曲が作れるな!」と思ったことを覚えています。
安藤:『カトちゃんケンちゃん』はジャズのテイストが合っていました。ゲーム内容は子どもが好きそうな、いわゆる下品な演出が多いんですけど(笑)、音楽がジャズ調なこともあって、どこか上品さと下品さが混ざり合っている。そこがおもしろかった。
国本:最初にタイトル画面の摩天楼とサーチライトの絵を見て、これは絶対にアメリカだろうと思ったんです。『カトちゃんケンちゃん』だし、きっと舞台は日本なんだろうけど、テーマはアメリカなんだと。そこからイメージを膨らませてジャズにしたんですよ。
安藤:レンガのある街のシーンは日本ではなく、アメリカ感がありますよね。しかも1930年代くらいのニューヨーク。そして6音使えるPCエンジンの作曲のおもしろさはどこにありましたか?
国本:最初、担当者からPCエンジンは4和音+2ノイズだといわれていたんです。なので『カトちゃんケンちゃん』ではそういう音の使い方で作っていたのですが、あとから調べたらPCエンジンは6和音で作ることも可能だということがわかりまして。
安藤:本当はもっと違う形で楽曲が作れたんだけど、4音+2ノイズと言われたからそれに合わせてデモ音源を作られたわけですか。
国本:そうですね。ただ、ファミコンから1音増えただけでも、音楽的には画期的じゃないですか。だから「4音も使えれば何でもできるぞ!」と舞い上がってしまいました(笑)。ただ、すぎやまこういち先生は2音あれば音楽は作れるとおっしゃっていましたから。もしかすると、すぎやま先生がPCエンジンの4音で『ドラゴンクエスト』の音楽を作られたら、ファミコンよりもっともっとすごい音楽になっていたかもしれませんね。
■2人はバンドマンでベーシスト同士。ベース談義に華が咲く!
安藤:ベーシストである国本さんですが、ご自身が作られるゲームサウンドではベースの音をあまり詰め込みすぎず、綺麗に置かれていますよね。そのぶん、ドライブさせるパートがあるとメリハリが浮き彫りになって、結果的にものすごく目立つ。この作り方はベーシストあるあるだと思いました。国本さんの楽曲は、とにかくベースを弾きまくった人が引き算で弾いたベースプレイになっているな、と感じたんです。
国本:フフフ(笑)。細かく聴いてくれてますね。これも初めていわれましたよ。でも、ファミコンって3音しかなくて、そのうち1音は効果音に割かないといけない局面も多いんです。メロディはもちろん大事だから、そこで1音使うのは当たり前。もう1音はベースしかないから、その2音で成立させようするときに、コード感を出したくなるんです。
ベースとメロディだけでコード感が出ないときは、ベースに和音の補助をしてもらったりもしました。例えば三角波を上の方に跳躍させると、耳の錯覚でもうひとつチャンネルがあるように聴こえたりするんですよ。
安藤:それはおもしろい技巧ですね。
国本:これは使えるな、と思いました。ただ、人間が演奏しようとすると音が飛びすぎていて弾けないんですけどね(笑)。でも、ゲームで曲を奏でるのは機械だから。1トラックにあたかも2音あるような「耳の錯覚作戦」を、よく使っていたんです。
安藤:制限があるからこそのテクニックですね。おもしろい!
国本:だから、そういう音作りをしているときはベースラインのことは考えていませんでしたし、自分がベーシストであることも忘れていましたね。
安藤:幅広く聴かせるために、音を丁寧に置いていくんですね。ノリでワーッと弾くのではなく、よく出来た詰め将棋みたいな印象を受けました。
国本:そうですね。パズル的な感覚といえます。楽譜を縦に見ていって、ここに音を入れられるなと思ったらフッと入れてみたりとか。そういう作り方です。
安藤:『カトちゃんケンちゃん』の曲でベースをドライブさせる展開は、ベーシストがコピーすると楽しそうだと思いました。静かなところからオーソドックスなフレーズや楽しいフレーズが出てきたりして、このメリハリこそが国本さんのゲームミュージックのおもしろさだと思います。
国本:聴き込んでいただいてありがとうございます。詰め将棋ってワードも初めていわれましたよ(笑)。
安藤:3音+ノイズの時代だからこそのベースラインですよね。運指が難しい部分を除いてアンサンブルで演奏したら、ベーシストは勉強になりそうです。これでも十分空間使えるし、雰囲気も変えられるよ、と。ベースのおもしろさを最もシンプルかつ効果的に体感できるんじゃないかと思いました。
国本:跳躍部分を弾かずに下段のベース部分だけを引くなら、簡単だと思いますけどね。
■ハドソンが坂本龍一氏に楽曲依頼をしたときに「自分の役割が終わった」と感じた
安藤:ハドソンからの仕事が減ってきた時期に、「それならほかのゲームメーカーに営業してみよう」と考えたことはなかったのでしょうか。
国本:まったく考えませんでしたよ。どこのメーカーに行ったとしても、最終的には同じだろうと考えていたので。じつはゲームボーイのタイトルでお仕事をいただいたことはあったんですけど。曲を作ってプレゼンもした記憶があるんですけど、その後どうなったのか経緯を覚えていないですよね。製品には入らなかったことだけは覚えているんですけど。
安藤:それはハドソンとは違うメーカーですか?
国本:そうです。東京に来たあとだから、90年ごろかな。誰かに紹介していただいた記憶はあるのですが、曲は採用されなかったという。ゲームは『テトリス』みたいなパズルゲームだった気がします。話があったのはそれくらいですね。別メーカーでの仕事を勧められて紹介してもらい、曲を作ってはみたものの結局ダメだったという、ある意味、情けない話なんですけどね。
安藤:ハドソンの仕事をメインで受けていたときに、ハドソンから「うちの社員にならない?」と誘われるようなことは?
国本:それもなかったですね。というか、そういわれてみるとそんなお話があってもよかったですよね(笑)。当時のハドソンはお抱えの作曲家が5~6人いたんですけど、恐らくそこから社員になった人はいないと思います。そういう会社方針だったのかもしれませんね。
安藤:『ドラゴンクエスト』の影響なのか、関口さんに『桃太郎伝説』の作曲を依頼していますもんね。関口さんがすぎやまさんで、さくまさんが堀井さんで……みたいな感じで、コンポーザーは外と組むみたいな流れが明示されていますね。
国本:そしてその後、ハドソンは『天外魔境』で坂本龍一さんに作曲を依頼することになりました。当時、その話を聴いたときに「これは完全に終わった」と思ったんですよ。それが決め手になりました。これはもう、自分には二度とゲーム音楽制作の依頼はこないだろう、と。
安藤:88年頃ですよね。その少し前あたりは、坂本龍一さんもそこまでギャラが高くなかったようですが、「ラストエンペラー」でグラミー賞を獲ったことで急に高騰することになったと聞いたことがあります。
国本:すでにYMOで有名でしたけど、さらにガーンとブレイクされましたからね。
安藤:ハドソンといえば高橋名人がおられましたが、当時、名人との絡みはあったんですか?
国本:もちろん名人の存在は知っていましたけど、ハドソンと仕事している時期に会ったことはなかったですね。私は納品とかでハドソンの本社をほぼ毎日訪れていましたけど、名人には一度も会いませんでしたね。
安藤:名人は営業というか広報担当だから、常に外に出てたんでしょうね。
国本:そのとおりだと思います。名人に初めてお会いできたのは6~7年前です。それから何度かお会いして、今は交流があるって感じですね。一緒にステージに立って「Bugってハニー」を歌ってもらい、私がベースを弾いたりしたこともあります。
■学生時代にパンクロックを志し、キーボーディストからベーシストに転向
安藤:国本さんがベーシストになったそもそもの理由はなんですか?
国本:じつは、ヤマハの楽器屋でアルバイトをしていたころは、ベースではなくてキーボードだったんですよ。大学でやっていたバンドも、パートはキーボードです。
安藤:そうだったんですね。
国本:シンセサイザーも複数台所有してましたし、当時はどんどん新製品が出ていたから、いくらでも欲しい時期でしたね。楽器屋に行くと毎回キーボードのコーナーで新機種を弾いて楽しんでいました。
安藤:それほど愛していたキーボードからベースに転向した理由は?
国本:恥ずかしい話なんですけど、大学3~4年のころに、若気の至りで歌詞重視のメッセージソングをやりたくなったんですよ。音楽性もパンクロックで。でも、パンクだとキーボードじゃカッコつかないし、パート自体必要ないじゃないですか。それでベースに転向したんです。
安藤:キーボードだとステージ上で動けませんしね。
国本:そうなんですよ。マイクも上から下に向けて、ベースのストラップも長くして。でも若いバンドマンはみんなあるんじゃないかな、そういうことをしたくなる時期が(笑)。
安藤:じつはわたしもまったく同じ変遷です。シンセサイザーからベーシストに転向しましたので。
安藤:ちなみに、国本さんのお好きなベースプレイヤーとか、影響を受けたミュージシャンは誰ですか?
国本:一番好きなのはジャコ・パストリアス(※1)です。やっぱり聴くベースと弾くベースは違うんですよね。
(※1)ジャコ・パストリアス……1970年代に活躍したジャズ、フュージョンのベーシスト&アレンジャー。
安藤:ベーシストにジャコ好きは多いですよね。以前この対談企画で、同じくベーシストである濱田誠一さんとお話したときも、ジャコの話で盛り上がりました。ベースプレイヤーとして不世出の革命的な人ですからね。
国本:そうですね。自分はジャコを生で見ている世代だから、ヒーローみたいなものなんですよ。あと、日本人で言うとは岸部一徳さん。ただ、岸部さんがベーシストってことを知ってる人も今は少ないでしょうね。
安藤:ザ・タイガースですよね。
国本:そうです。あとは井上堯之バンドですね。私は刑事ドラマの「太陽にほえろ!」が大好きで、レコードを中学生の時に買って大音量で聴いていたんですよ。
安藤:こちらも過去、この対談で話題に出たんですけど、ファミコン時代のコンポーザーがベースだけを動かして音楽をドラマチックにする手法の原点は「太陽にほえろ!」のテーマ曲だと思っているんです。ギターは変わらないのにベースだけが下がっていくじゃないですか。その展開がじつにドラマチックで。たとえば『ロックマン』とか『グラディウス』の曲にも、その手法「ベース・クリシェ」が使われているんです。
国本:ああ、確かに!
■2016年からゲーム音楽作曲家としての活動を再開
安藤:ここで話はガラッと変わりますけど、国本さんはなぜ愛称がキノコさんなんですか?
国本:若いときの髪型が由来です。マッシュルームカットだったから(笑)。大学時代の音楽仲間からキノコって呼ばれていました。
安藤:ストレートですね(笑)。そして、しばらくゲーム音楽から離れられておられた国本さんですが、2016年にリリースされた「8BIT MUSIC POWER(※2)」で久々にゲーム音楽作曲家として活動を再開されました。あのソフトはわたしもよくBGMとして聴いていましたけど、アイデアがおもしろいですよね。2016年という時代に、ファミコンの実機で鳴らす音楽アルバムというのは。
(※2)8BIT MUSIC POWER……2016年1月30日にコロンバスサークルから発売されたチップチューンアルバム。ファミコンで起動するソフトであり、ファミコンの内蔵音源チップを利用して音楽を再生させる。
国本:そうですね。ファミコンにカセットを差して音楽アルバムを聴くという趣向は、とてもおもしろかったと思います。
安藤:こちらには国本さんのほかにも、さまざまなコンポーザーが参加されたわけですが、当時のファミコンに搭載されていた音源では出せなかった音や仕掛けが組み込まれていたりするのでしょうか。
国本:DPCM(※3)のチャンネルを工夫して使われている方が多いようですね。DPCMに隠し味的なデータを入れて、矩形波を変調させているそうですよ。
(※3)DPCM……サンプリング音を鳴らすことができる拡張音源。
安藤:デチューンした最近流行のEDMっぽいベースが鳴っていたりしますからね。ファミコン音源なのにすごいと思いながら聴いていましたが、まさか30年以上が経過してなお、テクニックが磨かれ続けているとは。
国本:ファミコン音源を突き詰めるのが大好きな人たちがいるんです。私は全然わからないんですけど(笑)。ちなみに「8BIT MUSIC POWER」は、ハドソン時代同様に作曲だけをして、データを渡して別の方に打ち込んでもらうスタイルで制作しました。最初からそういう条件で受けましたので。「自分は作曲しかできないけど、いいですか」とね。
安藤:かつての国本さんは知る人ぞ知るコンポーザーというか、ミステリアスな存在でした。いつからこうして『スターソルジャー』などの作曲者として表に出られるようになられたのでしょうか?
国本:12~13年前にブログを始めたときからですね。じつはそれまではパソコンを持っていなかったこともあって、ネットを始めたのが遅かったんですよ。そうしてブログを始めてすぐに、hallyさん(※4)がブログを見に来てくれて、そこから交流が始まったんです。
(※4)hally……ゲーム音楽研究家、ゲーム音楽作曲家、ゲームライターとして活動している。現在は休止中だがチップチューン情報サイト「VORC」の管理人でもある。
安藤:おもしろいですね。
国本:ブログを始めた直後は閲覧数が1週間で10件程度の、誰も見てないブログだったんですよ。ただ、3カ月くらい経ってhallyさんがご自分のサイト「VORC」で私のブログを紹介してくれたんです。そしたら次の週からアクセス数が100倍になって(笑)。あの時はビックリしましたね。
安藤:チップチューン愛好家の方々が大挙して集まってきたわけですね。
国本:そうみたいです。ニュースサイトで紹介されると急にアクセス数が上がるんだとわかってビックリしましたね。
安藤:ハドソンでのゲーム音楽制作時代は、国本さんにとって青春の一瞬を彩ったものだったと思うんです。そこから長い時間が経過したことで、それを歴史的に掘り返して楽しみつつ広める人たちの力によって、再びゲーム音楽制作の現場に甦るというのは、不思議な感覚なのでは?
国本:今の自分とお付き合いが一番多い友だちやバンド仲間って、平均すると35歳ぐらいなんですよ。上は40~45歳ぐらいで、下は25歳ぐらいかな。だから35歳がピークになっている印象ですね。
安藤:育って受け取ったときの年齢っていうことなんですかね。
国本:そうだと思います。そういう人たちと20歳も違うのに仲良くできるっていうのは、ファミコン時代に手掛けた音楽のおかげだなって思いますね。
安藤:そうして昨年の2月には、久しぶりにゲーム音楽を担当した『協撃 カルテットファイターズ』がNintendo Switchでリリースされました。本格的なゲームのコンポーズってことになると、どれくらいぶりになるのでしょうか?
国本:ハドソン時代の最後は89年にPCエンジンでリリースされた『ブレイクイン』っていうビリヤードのゲームなので、約30年振りになりますね。
安藤:なかなかおられないと思いますよ。30年振りにゲーム音楽を担当される方って。たぶん国本さん以外いないのではないでしょうか。
国本:そうかもしれませんね(笑)。その間、ずっとバンド活動はしていたんですが、それきっかけでレトロゲームが大好きな「ゲームインパクト」っていう広島の団体と知り合いになったんですよ。
安藤:じつはゲームインパクトに出演された方々のなかには、過去にシシララTVの番組に出演していただいたことがあるんですよ。『アイドル八犬伝』というゲームを遊んだときなんですけど。その際に「ゲームインパクトに当時の仕様書を展示します」というお話が出て、当時のファイルを見せていただいたりもしました。
国本:そうだったんですね。私も「ゲームインパクト」の方たちと仲よくなりまして、そのなかに『協撃』を開発したハッピーミール(※5)の関社長がいらっしゃったんです。ハッピーミールでは『協撃』の前に『電子艦隊ナック』というゲームをリリースしてるんですけど、そのゲームがどう見ても『スターソルジャー』の系譜なんですよ。
国本:関社長も『スターソルジャー』などのキャラバンシューティングが大好きで、色々話したときに「国本さん、次のゲームの曲をよかったら作ってもらえませんか?」って言われて。そりゃあ『スターソルジャー』みたいなグラフィックのゲームを喜んで作っている人だったら、自分の作る曲を求めているだろうなと思って(笑)。それで「この平成の時代にファミコンみたいな曲しか作れないですけどいいですか?」って聞いたら、「まさに、それを作ってほしいんです!」と断言されました(笑)。
(※5)ハッピーミール……関純治氏が代表を務めるゲーム開発会社。代表作に『協撃 カルテットファイターズ』や『伊勢志摩ミステリー案内 偽りの黒真珠』などがある。
安藤:熱いですね(笑)。関社長には『伊勢志摩ミステリー案内 偽りの黒真珠』の実況で番組にも遊びに来ていただきました。ゲーム愛にあふれた方ですよね。
国本:30年経ったからこそ、今の若い人には新鮮に聞こえるのかもしれませんね。それならファミコンのPSGで鳴らしましょうと意気投合して。今回も作曲だけですけど、お引き受けしました。ハッピーミール社内になんでもできちゃう方がいて、その方にMIDIデータを送ると、あっという間にPSG版になって返ってくるので、ものすごくおもしろかったです。
安藤:その方の手にかかれば、楽曲が『スターソルジャー』みたいな感じに仕上がってくるんですね?
国本:そう『スターソルジャー』だったり『ヘクター’87』だったりね(笑)。
安藤:30年前に作ったオリジナル曲を、30年後にオマージュというかセルフサンプリングするみたいな作り方が、逆に今っぽいですね。どっちかというとヒップホップ的な感覚でしょうか。古いようで新しいし、おもしろい切り口だと思います。
国本:ウケればOKみたいなノリってあるじゃないですか。例えば先日のイベントで曲を流した時に「これ、『ヘクター』じゃん!」ってみんな笑うんですよ。
で、曲が変わってパワーアップの曲になると、最初は違うフレーズで始まるんですけど、曲の途中から『スターソルジャー』風の曲になったりして。そしたら、またみんな笑いだすんですね。「今度は『スターソルジャー』じゃん!」って。こちらとしては「よし、ウケた!」ってニヤリとできたりして、そこが一番うれしいんですよ。
安藤:わたしも作り手として「売れたいな」と思っていた時期がありましたが、今は「ウケたいな」というほうが強いですね。ウケたほうが絶対いいです。お金があるのにウケない人生って嫌だなと思いますから。
国本:ありがとうございます(笑)。
■これからもリラックスしながらゲーム音楽を作っていきたい
安藤:最後に、国本さんが今考えていることや、ゲーム音楽やゲーム音楽以外でやりたいと思ってること、仕掛けたいと思っていることなどをお聞きしたいです。
国本:じつは、すでに今後リリース予定になっている新作ゲームの音楽を作り始めています。1曲は過去に自分が作ったとあるゲーム音楽のイントロから始まる新曲を作ってくださいと言われたので、その方向で作っています。イントロでそのメロディを鳴らせばみんな知ってるから、そこから違う曲に展開していけばウケるだろうと考えています。
安藤:それは楽しみですね。
国本:もちろん、自分の過去作品の一部を引用して発想を広げるタイプの曲のだけじゃなく、全部新しいメロディの曲も作りますよ。でも、その手掛かりとして過去曲の引用を使ったりすると、やわらかくなる気がするんですよ。まずボーンと鳴らしてから「次はこういくか」って作っていくと、リラックスできるんですよね。
あと、ゲーム音楽以外では歌モノのバンドは続けていきたいです。のこいのこさん(※6)とやってるバンドは年に2~3回ライブやってるんですが、のこいのこさんは素晴らしい歌手なので、そういう方と一緒に演奏しているとやっぱり楽しいので。
(※6)のこいのこ……CMソングや児童ソングを多く手掛けるボーカリスト。代表曲は「オノデン」のCMソング、「サッポロ一番カップスター」のCMソング、「パタパタママ」、「まるさんかくしかく」、「はたらくくるま」などがある。
安藤:誰もが、その歌声を聞いたことのある方ですね。最近ののこいのこさんの歌声って、そこまでは拾えてないんですけど、「まるさんかくしかく」のころから変わっていませんか? わたしは「ポンキッキ」直撃世代なので、「まるさんかくしかく」が大好きなんですよ。
国本:よくご存じで! たとえば音域で高い方が出なくなったりっていうのはあるんですけど、その代わりに昔は歌っていなかったシャンソンとか、低域を生かした迫力ある歌を歌われていて、それはそれでまた違った魅力がありますよ。
安藤:ライブも国本さん語るうえでは欠かせない感じですね。実際にずっと演奏活動を続けられてますし、それが一番の軸なのかなぐらいの感じにお見受けしました。それで行くと打ち込みでファミコンの音楽を作っていた時期っていうのは、国本さんのなかでは異色の数年間だったのかもしれませんね。作曲家兼ベーシストとしてもう40年活動されてきたなかの、ほんの4年程度のことですし。
国本:そうですねえ……(しみじみと)。
安藤:今年『協撃』でゲーム音楽コンポーザーとして本格的に復活されましたけど、40年のなかの4年って、例えるならマイケル・ジョーダンがちょっと野球をやっていたみたいなものですよ(笑)。
国本:おもしろいたとえをしますねえ(笑)。でも、技術の進歩のなかで自分が活躍できる、8BITの時代が短かったってことなんでしょうね。そこにヒマな大学生だった自分がピッタリ重なったという。しかも札幌に住んでいてハドソンも札幌にあったという、時間と空間が偶然に一致したからこその4年間だったと思います。
その後ハードが進歩して、自分が必要とされなくなる時代が来てしまいましたけど、そこから30年が経ってまた文化が一周し、8BIT音楽を好きな人が支えてくれる時代が来て、自分がまたその片隅で活躍できるようになった。ある意味運命的ですし、世の流れのなかで自然に起こったことなんじゃないかと思います。
安藤:今回の国本さんとの対談は、これまでの対談とは違った毛色のお話を聞けて楽しかったです。本日はどうもありがとうございました!
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国本剛章氏のインディーズレーベル「ギャフンレコード」より2019年7月に発売された最新アルバム。国本剛章氏とマツケん氏の手による、2枚組のゲーム音楽アレンジアルバムとなっている。
■国本剛章オフィシャルサイト
キノコ国本剛章 HP
■国本剛章オフィシャルtwitter
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テキスト:風のイオナ(FLOOR25) ゲームと音楽と旅と自転車が好きな東京在住フリーライター&エディター。最近は地下アイドルグループDORCAのプロデューサー業もやってます。
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