正式サービスを迎える前に終了…ポケラボ『激突!クラッシュファイト』が下した決断【〇〇サービス終了 – 前編】
始まりがあれば終わりもある。昨今、多くのゲームアプリが華やかにリリースされていくなか、その陰に隠れてサービス終了タイトルも日を追うごとに増加。ヒットの法則にはタイミングと運が付きものだが、クオリティの高さと期待度とは裏腹に、なかなかヒットに結びつかないことも数多い。
本企画「〇〇サービス終了 –開発現場から愛をこめて-」では、ゲームDJ・安藤武博がサービス終了に直面した開発・運営者たちに真っ向から話をうかがい、当時の状況や後世に活かすノウハウなど、ほかでは聞けない話題を展開していく。

第3回は、ポケラボの『激突!クラッシュファイト』。6人で大乱闘を繰り広げるリアルタイムアクションゲームの本作は、2016年6月にオープンβテスト(OBT)を開始し、意欲的な作品として注目されていた。しかし、そのOBTの結果を踏まえて「ユーザーに満足してもらうためのサービス提供が困難である」との結論に至り、正式サービスを迎える前に敢え無く終了となったのだ。

対談企画では、本作のプロジェクトマネージャー・信田郁氏が登場。現在の心境や終了する経緯など赤裸々に迫ってみた。

聞き手:安藤武博(Twitter
企画:Pick UPs!(Twitter
文:原孝則(Twitter


■『激突!クラッシュファイト』とは

リリース日:iOS版-、Android™版(オープンβテスト)2016年6月29日
サービス終了日:2016年9月30日

本作は、6人で大乱闘を繰り広げるリアルタイムアクションゲーム。バトルの時間は2分間と、隙間時間に気軽にプレイできるのが特徴。操作方法は非常に簡単で、3Dモデルのちびキャラをひっぱり操作で相手にぶつけて、場外にふっとばすだけ。与えたダメージと場外にふっとばした回数をもとに得点がつき、バトル終了時の得点で勝敗を競っていく。

バトルでは、爆弾や竜巻など行動を妨害するトラップや、巨大化、無敵になれるアイテムなどが出現。また、チームを組んで闘うバトルや、全参加者が敵となるバトルロイヤル、友達といつでも対戦できるプライベートバトルといった多彩な遊び方が用意されていた。
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■サービス終了を決断したふたつの理由
Pro
ゲスト:信田 郁
ゲーム業界歴約13年。2004年より主にオンラインゲームの開発運用を経験し、ポケラボ入社後は、スマホアプリの開発に携わる。『激突!クラッシュファイト』では、プロジェクトマネージャーを担当。

Pro2
聞き手:安藤 武博
過去スクウェア・エニックスにて、1998年からコンシューマーゲームやスマートフォンゲーム事業に携わる。スマホ事業ではF2P/売り切り型を問わず『拡散性ミリオンアーサー』や『ケイオスリングス』など、複数のヒット作を生み出す。2015年に株式会社シシララを設立。ゲームDJとしての活動をスタートさせる。最新作は『コスモスリングス』(AppleWatch)と『ブレイジング オデッセイ』(iOS/Android )。


安藤武博(以下、安藤 ):はじめに。この企画は3回目になるのですが、サービス期間が一番短いタイトルなんです。

信田郁氏(以下、信田):正確には正式サービスに至っていないパターンになります。

安藤:シシララとしては、OBT期間中に生放送番組でも応援したこともあり、思い入れがあるタイトルです(関連記事)。

信田:ありがとうございます。

安藤:1回目(『冒険クイズキングダム』)と2回目(『最強ガーディアン・クルス』)は、4年以上続いたタイトルでした。なので、ある種の「やりきった」感があり、4年続けてきたタイトルでしか見えない景色や、丁寧さも浮き彫りになりました。

今回の場合は、OBTの数字を判断して、このままお金をいただくビジネスにすると、お客様にも迷惑がかかるし、ビジネスとして成立しないということがあったと思います。

信田:はい。実質OBTの期間は3ヵ月ほどです。

安藤:4年に対して、3ヵ月。

まずは率直に。今回の対談に出ていただいて、本当にありがとうございます。とても勇気のいることだと思います。僕としては意義深いことですが、やはり同時にリスクのあることでもあります。なぜ今回の対談に出ていただけたのでしょうか。感謝とともにお伺いできればと思います。

信田:まずひとつ、僕がゲームを作るときには、「こういう体験が世の中に生まれたら面白いな」というところから着想を得て考えるのですが、シシララの生放送で取り扱っていただいたときの体験が、まさにそのひとつのゴールであると味わえたのです。そういう意味では、今回の内容をお話する場所もシシララだと思いました。

安藤:生放送、楽しかったですね。

信田:ええ、楽しかったです。タダツグさん、めちゃくちゃ酔っぱらっていましたし(笑)。

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▲生放送の様子

安藤:初見プレイのうちのスタッフと、すでに先行して遊んでいるプレイヤーたちが共闘する内容で、大いに盛り上がりましたね。ゲームデザインとしても最大6人の対戦がとてもコンパクトで、かつ2分で終わるのもよかったです。手軽に対戦できるコンセプトは見事に実現されていましたね。

信田:それが実現できたのが嬉しかったです。そこに安藤さんが、負けたらウィスキーのショットを飲むというルールを追加した途端、さらに面白さが拡大していきました。

安藤:大人の遊び方ですよね(笑)。やはり最大2分で終わりますし、うまい人だともっと早く終わるため、とてもテンポがいいゲームでした。

信田:加えて酔っているから下手になって、また負けるという(笑)。

安藤:このゲームの良いところは、酔っぱらっても遊べるところですよね。『パズドラ』を手掛けた山本大介さんが提唱する「優れたスマホゲームの条件」も、“酔っぱらっても遊べること”です。飲みの席で『パズドラ』をインストールしていない人がいたら、そのままゲームの面白さがプレゼンできる。どこでも持ち歩けて始められるのはスマホゲームの特権なので、簡単にゲーム概要が説明できて遊べるのは優れているということです。

……にも関わらず、OBT期間中で終わってしまうのは、ゲーム作りの難しさを痛感しますね。先ほど一定の体験が実現できたということを言っていただいて、大変嬉しかったのですが、その反面、なぜ当初のコンセプトも実現できたにも関わらず、終わらなければいけなかったのか。改めて、そこのお話を伺えればと思っています。

信田:OBT期間中は、KPIやアンケート、レビューなどを通じたお客様からの声をすべて確認し、正式サービス開始後に“長期的にお客様が遊び続けられるかどうか”を測定しました。通例としては、テスト期間は数日~長くても1週間程度かと思いますが、『クラッシュファイト』では“長期的にお客様が遊び続けられるかどうか”を重視したため、運用イベントやアップデートも定期的に実施し、約2ヵ月間テストをしました。

結果としては、正式サービスを開始しないという判断に至りましたが、正式サービス(課金)を開始してすぐに停止することだけは避けたかったので、かなり厳しい判断をしたと思います。

安藤:明暗が分かれた部分は、どのように分析されていますか?

信田:大きくわけて“知っていただく方策”と“コンテンツボリュームの調整”のふたつが欠けていたと思います。

ひとつ目は、「ユーザーさんの手元に届けるためにはどうしたらいいか」…というところの考慮が企画段階から不足していたのだと考えています。僕は開発の日が浅く、そこまで多くのゲームを手掛けたことないのですが、ゲームが面白ければ、ユーザーさんにはきちんと届くのだろうと思っていたのです。ですが、じつは面白さ以外のところを誰かがきちんと埋めていたからこそ、はじめてユーザーさんの手元に届いていたことを改めて痛感しました。

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安藤:すごくいいなと思ったのは、手元に届けるという拡げ方が、広告頼みでなかったところですね。いわゆる体験を通じて、多くのお客様が遊んでくれて、そこから拡散されて流行っていく。そういった仕掛けが足らなかったのを、明快に分析されており、「広告やマーケティングの人が動いてくれなかった」とか、「予算が下りなかった」とか、全然逃げていないのは見事に肝が据わっている。

これらはいつのタイミングで気付いたのでしょうか。

信田:悩み始めたのが、具体的にマーケティングプランを詰めていく2016年1月ぐらいでした。そのときに、「今から予算を使えばこういう集客は出来る」というプランはいくつもありましたが、e-sportsなどリリース当初から大きな座組を動かすには時間が足りなかったのを覚えています。

安藤:みんな同じことで困っていると思います。とても興味深い話なので、マーケティングの話にスピンオフして続けたいと思います。

IP・オリジナルどちらでもいいですが、新作スマホゲームを売るときに、マーケティングプランをひきますが、どのタイトルでもだいたい同じになるわけです。このタイミングで事前登録を始めて、ティザーサイトをオープンして、その前後に合わせて広告商材を買って露出していく……。まるで判で押したように、みんなが同じ内容を展開していきます。

信田:ええ、そうですね。

安藤:ことマーケティングに関しては、TVCMやリアルイベントの開催なども含めると、めちゃくちゃお金がかかるわけです。たとえば『FF15(ファイナルファンタジー15)』のような大型コンソールゲームは発売直前に絨毯爆撃のようにTVCMを投下します。

ですが、どれぐらい売上に跳ね返ってくるかの厳密な費用対効果はWEBと違ってよく分からないわけです。でもやらないわけにはいかなくて、いつの間に出ていましたというのはあり得ない。いわゆるお祭りとして盛り上げるために、カウントダウンイベントを行なったり、行列が話題になったり、開発陣がテープカットしたり、そして「発売おめでとうございます」という流れが大事。

一方で今売れているスマホゲームは、いきなり出てきて、みんなが遊んで、売れて得たお金を広告に投下していくという、後天的にマーケティングする傾向があります。じゃあ事前にできるマーケティングって何だろうと考えたときに、広告費用の使い方ではなく、どのように体験を通じて流行らせればいいのかという話になるのだと思います。

仮に信田さんがタイムスリップしたら、事前に興味を持ってもらうために、どういう仕掛けを考えますか。

信田:繋がっていることを意識して展開できればと思いました。今回の場合は、ゲームがリリースされます、その前に事前登録します、ということぐらいでした。ですが、もしもその先に大会があって、攻略情報も賑わっていたら、ゲーム内とリアルの二軸を繋ぎとめていければもっと広まったのかもしれません。

安藤:大会などに向けた運営を事前にやっておけばよかったと。

信田:はい。ほかの会社さんとも連動して、言わば「この作品が世の中にあると面白い」という“雰囲気作り”の重要性ですね。

安藤:たとえば、その雰囲気は業界関係者や同業者向けに作っていく感じですか。

信田:正直なところ正解は分かりませんが、ファン同士が繋がっていくほうがイメージ付きやすいですね。

安藤:事前に「このゲーム面白いよ」という繋がりみたいなものが、出せるかどうか。

信田:ええ。友達同士で共有できるのは一番いいですね。

安藤:たとえば、秋葉原や大阪・日本橋、名古屋の大須なんかに行くとトレーディングカードゲームで対戦できるスペースがありますよね。たまに僕も後ろで将棋見ているおじさんみたいな感じで見に行くのですが、そこにはひとつの遊びに熱狂しているコミュニティが出来上がっています。

信田:まさに、そういうことですね。リアルに観客の方も加わって、ああいう場の雰囲気が好きなんだと思います。
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安藤:『LOL(League of Legends)』が世界で一番うまいプレイヤーがいるのですが、彼が先日Twitchではじめてオンエアした番組の視聴者はのべ14万人。本来ゲームでPRする際には、豪華クリエイター陣や関わった声優陣、インフルエンサーなどを集めて番組を組みますが、その作品で上手いとされているプレイヤーが、中の人たちよりも視聴者を集めてしまう瞬間がすでにリアルタイムで起こっているのです。これは面白い事象だと思います。

信田:なるほど。それは身近な人ほど嬉しいと思いますね。

安藤:たとえば、大会などを事前に設計していたら、それだけで『クラッシュファイト』のサービスは続いていましたか。

信田:いや、それ以外にも必要なものはあったと思います。

安藤:事前に地場作りをするのは、お金もかかりますし、時間もかかりますし、目に見える結果も出ないしと、草の根活動をしなければならない。結果が出るまで時間がかかると企業側も「待てない」という想いが出てきます。ならばリリース後という考えもありですかね。

信田:リリース後のほうが効果的かなと思います。いかにこちら側が情報発信するのかが重要で、ゲームのリリース前からその後まで、ずっとワクワクした気持ちを起こしていくような形です。こうした要素がないことがダメだったことに、今回の『クラッシュファイト』を通じて痛感しました。

安藤:難しいですよね。



■スマホゲームの作り直し期間はどれくらい?

安藤:そして明暗が分かれたふたつ目が……。

信田:コンテンツボリュームの調整ですね。OBT期間中では、正式サービス開始後、いわゆる実際に365日24時間を動かすことを考えたときに、果たしてきちんとお客様に対して楽しいコンテンツを提供し続けられるのか、という視点で測定していました。

物量もそうですが、どういう形でイベントを作成して体験させていくか、制作や準備期間、お客様のサイクルをもろもろ加味したとき、2週間に一度ぐらいのペースでしか、イベントを提供することが難しかったのです。実際にお客様が飽きるのは、3日~7日のあいだ。どうしても1週間足りないということに陥ったのです。

安藤:事前に制作するうえでは難しかったと思いますが、会社として「どうしてもこの月までには出してほしい」という話もあったのではないでしょうか。

信田:正気なところ弊社は“待ってくれる”会社だと思います。これでも2ヵ月刻みで3回ほど延期していますので。

安藤:ちなみに遅れた原因はなんですか。面白くないから…という作り直しですか。

信田:1回目が面白くないから、2回目がスケジュールの見積もりミス、3回目が一度完成したときの最後の調整というパターンですね。

安藤:毎回、どのように作り直ししていますか?

信田:作り直しを考えるのは、実際に動かしたときの一回と、すべてが出来上がったときの一回です。大きくゲームコアを壊すとしたら、実際に動きがみえるプロトと設計の段階です。

安藤:私の経験でいうと、スマホゲームの作り直し期間は、総制作期間に対する33%だという統計があります。要するに、18ヵ月のプロジェクトがあったら、6ヵ月間は作り直していましたね。

とはいえ、延期に関しては何回もしていると、会社も「はよ」となる。別に作り直すことは悪いことじゃないですし、ゲームの面白さを上げるためには必要なことだと思いますが、これらを踏まえて今後スケジュールの見積もりはどのようにやっていくのでしょうか。もう少し作り直しの期間を、安く見積もっていた部分を正確に見積もったほうが、最終的にはコンテンツボリュームの点でも良かったなと思いますが。
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信田:「バッファを持ちましょう」という話は、経営層にすべきだと思います。個人的な考えですが、作り直す期間があるから「スケジュールを決めなくていいや」ではなくて、100までやったけど「この100を壊してもう一回作り直して、もっと面白いものにする」という意思を伝えることが大事だと思っています。

安藤:それだと会社の経営陣に対しての印象も変わるかもしれないですね。先ほどもおっしゃっていましたが、そこに関してポケラボさんは“待ってくれる”会社なんですね。とても理解がある。スケジュールを安く見積もるのはいけませんが、100%やりきって、さらに磨くところがあればスケジュールを伸ばしてもいいじゃん、というのはポケラボさんならでは良さですね。これは作り手にとっては良い環境ですよね。

信田:そうですね。ただプロジェクトによっては、どうしても守らなければいけないところもありますが。

安藤:OBTで色々な数値を見て、撤退の判断をされたと思いますが、具体的にどのような数字を重要視されたんですか。正式なサービスを開始していないので、売上は見れないですもんね。

信田:スタッフ全員に判断基準として伝えやすかったのは継続率です。継続率の目標は、まず弊社のほかのタイトルや過去のタイトルと比べてどうだったのかという点。そのほか、ゲーム進行中どこで離脱しているのか、その離脱を改修するためには、どれほどの開発工数がやり直しで必要になるかという点ですね。あとは先ほどのイベント運用の件もそうですが、お客様のコンテンツ消費速度なども調査していました。

そして、OBT期間中は毎月アンケートも取っていました。単純に「面白い」というコメントも、我々が届けたかった面白さと合致しているのかを確認したり、逆にダメだったところは改善していったりと、すべてを複合的に見て判断していきました。

安藤:先ほど我々の番組でコンセプトが実現できたとおっしゃっていましたが、アンケートでは想定とは異なる意見が寄せられたということでしょうか。

信田:どちらかというと、ポジティブな意見は7割ぐらいでした。内容も「スカッとする」「吹き飛ばしが気持ちいい」など、爽快感に関する内容が多かったです。ネガティブな意見は3割ぐらいでしたが、その内容はどれも一緒でした。

安藤:それは興味深いですね。どういう部分がネガティブだったのでしょうか?

(※この続きは後編の記事で)

【後編予告】
・ユーザーから寄せられたネガティブな意見
・信田氏が目指したのはコア向け? ライト向け?
・理想の開発現場に必要な職種とは
・最後にユーザーへメッセージ




テキスト:原孝則(Takanori Hara)
Pick UPs! 代表 / 編集者 / ライター / APPアナリスト 過去、ゲーム会社でマーケティング、広報、WEBプランナーなど多数のPR業務に従事。その後、Social Game Info 副編集長、Social VR Info 編集長を担当。現在は、ゲームとビジネスの観点で執筆・企画に尽力するほか、アプリデータ分析サービス「Sp!cemart」の編集長も兼務。
ツイッターアカウント→原 孝則@ha_tatsu