【Quartett!】プレッシャーに向き合う天然娘の生き方から競争社会を生きる術を学ぶ【ギャルゲーBAR☆カワチ_第3回】
都会の喧騒から少し離れたところにひっそりと佇む"ギャルゲーBAR☆カワチ"。ここは、日々繰り広げられるコンクリートジャングルでの生存戦争に負けそうになっているメンズたちのピュアハートを、ゲーム好きのマスターが「ギャルゲートーク」で癒してくれるという、シシララTVオススメのゲームBARなのだ……。
そんな体裁でお送りするギャルゲーコラム。さて、気になる第3回目のお客様の悩みと、その痛みを癒してくれるゲームとは……?

第1回目のコラムはコチラ→『センチメンタルグラフィティ』
第2回目のコラムはコチラ→『ダブルキャスト』
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■アドベンチャーゲームがテキストウインドウと誰が決めた!? こだわりの職人芸を見よ!
――マスター、チッス!
カワチ:おう、ずいぶん久しぶりだな。
――いやぁ、昨日までやっていた個展が終わってやっと落ち着いんたんだよ。というかマスター、個展には来てくれなかったよね? 招待状、せっかく送ったのにさ。
カワチ:すまんすまん、店が忙しくてな。といっても、お前がやっている個展ってちんちくりんなオブジェの展示だろ? 俺にはよくわからんよ(笑)。
――ちんちくりんって! 現代アートだよ、現代アート。
カワチ:ほう、現代アートねぇ……。で、個展自体はうまくいったのかい?
――まぁ、俺もプロとして食っているわけだし、そこそこ。ただ、同じ時期に開催されていた同期のヤツのほうが話題になっててね……。ちくしょう、なんだってアイツの作品ばっかり! 俺の才能が劣ってるってことなのかよ。
カワチ:なんだ、らしくもなくナイーブだな。まぁ落ちつけよ。
――ハハ、マスターに当たっても仕方ないよな。まぁここだけの話、自分のやっていることが本当に正しいのか不安になることもあるんだよ。アートっていうものに答えはないっていうか、誰にも理解してもらえないっていうか……ハァ~。
カワチ:うっとうしい溜め息を吐きやがって。だったらこいつをプレイしてみなよ。PS2の『Quartett! ~THE STAGE OF LOVE~』って名作だ。ぶっちゃけ逸品だぜ。
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――コレなんて読むの? 「カルテット」?
カワチ:ああ。 カルテットとは音楽用語でいうところの「四重奏」って意味で、同じ楽器、または違う楽器の四人で楽曲を演奏をすることを指すんだ。まぁ、主人公はヒロインたちと、この「カルテット」を組んで演奏することになるわけだな。
──音楽用語だったのね……って、これアドベンチャーゲームじゃん。俺はアクションゲームはかなりプレイするんだけど、文章を読むのはニガテでね……。マンガだったらいいんだけどさ(苦笑)。
カワチ:この『Quartett!』は文章を読むだけのノベルゲーじゃないから安心しろ。ものすごくわかりやすく言うと、「フルカラーのデジタルコミック」ってところだからな。
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――そうなの? だったら俺にピッタリかも!
カワチ:興味が出てきたか? ちなみにこいつは2006年にプリンセスソフトから発売された作品だ。もともとは2004年4月23日にLittlewitchというメーカーから発売されたWindows用の18禁ゲームだから、PS2版はまぁ移植ってヤツだな。
――18禁……元々はえっちなゲームだったってことね?
カワチ:まぁ、そういうこと(笑)。とはいえ、本質はそんな肌色な部分じゃないのさ。このゲーム、まるでマンガのように吹き出しやエフェクト、さらにはCGが画面を動き回る「フローティングフレームディレクター(FFD)システム」が搭載されているんだ。俺もはじめて見たときはビビったよ、この演出。「Littlewitchすげえええええええ!」って叫んだくらいだからな。
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――へぇ~、こりゃまた確かに新鮮だね。これなら俺のような文字を読むのがちょいと苦手な人間でも苦はなさそうだ。
カワチ:残念ながら、Littlewitchは2010年1月に無期限活動休止してしまったんだが、「FFDシステム」は本当にすごかったよ。俺はここにアドベンチャーゲームの未来を感じたくらいだ。
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――そうはいっても、結局のところアドベンチャーゲームって、今も立ち絵の紙芝居みたいなものばかりが発売されているイメージだけどね。
カワチ:言うじゃないか。じつは、2003年にageから発売された『マブラヴ』という作品が、キャラクターの立ち絵を動かして疑似的にアニメ―ションさせるという、『Quartett!』とは似て非なる進化をやってのけたんだが、どちらかというとイマドキの作品は、そちらの影響を受けているものが多いかもしれんな。
――そうだよね。まぁ好みがあるんだろうけど、俺はこっちのマンガ的手法のほうが好きだけどなぁ。
カワチ:いや、「FFDシステム」はものすごいコストがかかるんだよ。なんでもない日常シーンにもCGを用意しなければならないし、すべてのシーンに演出を入れないといけないだろ? わかりやすくデジタルコミックと表現したが、本質的にいえば、そんなに簡単なことじゃないわけさ。
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――言われてみれば、かなり手がかかってそうだねこの演出。
カワチ:わかるか? 結局のところ、『Quartett!』の後に発売された『少女魔法学リトルウィッチロマネスク』って作品は、立ち絵に吹き出しが表示されるだけの簡素な形式になってしまったくらいだし、それだけこの「FFDシステム」には労力がかかるってことなのさ。採算が合わないんだと思うんだよな。『Quartett!』が完成したこと自体が奇跡だよ。いや、社長であり原画家でもある大槍葦人さんをはじめとした、開発スタッフたちの執念の賜物とでもいうべきか。総プレイ時間が短いなんていう意見もあるんだが、それも仕方がないと俺は思っているくらいさ。
――へぇ、社長さんが自ら原画も手がけるものなんだ。
カワチ:いや、大槍葦人さんは特別。Littlewitchの処女作である『白詰草話』や、1999年3月18日にドリームキャストで発売された『北へ。』で有名なクリエイターさんなんだけどね。
――ものすごく繊細な絵を描くね、この人。同じクリエイターとして尊敬するよ。でもマスター、なんで俺にこのゲームを勧めたの?
カワチ:これを言っちゃあ野暮かもしれないが、ストーリーに触れてもらえばわかると思うぜ。『Quartett!』は由緒ある音楽の名門校「マグノリア音楽院」を舞台に、コンクールでの優勝を目指しながら、主人公のフィルがヒロインたちの抱える悩みを解決していくというハートフルな青春ストーリーなんだ。
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──青春……ますます俺と関係なくない?
カワチ:いや、そうでもないよ。お前は今、自分の感性、そしてアートに対して自信を失いかけているようだが、本作にもまさにそんな女の子が登場するのさ。このユニって女の子なんだけどな。
――ユニか……どんな女の子なんだ?
カワチ:イタリア出身の女の子で、陽気なムードメーカーさ。その場のノリで突っ走ってしまう側面もあるんだけど、そんなところもお前さんにそっくりだろう(笑)。
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――ひどいなマスター。俺はノリじゃなくて、インスピレーションで動いているんだぜ!?
カワチ:ハハ、そりゃすまん。ちなみにユニは、ビールをひと息で飲み干したり、食べ物をほおばりながらしゃべったりして、ガサツというかおよそ女の子らしくない部分も多いんだが、その着飾っていない感じが好感触なんだ。一緒にいて楽しいっていうかな。
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――あー、わかるかも。
カワチ:ちょっと天然っぽいホワホワしたところもあって、その可愛さを彼女を演じた声優の新谷良子さんが倍増させているのもポイントなんだ。聴いているだけで脳がとろけそうになるほど可愛いぜ。風邪を引いた彼女の背中を拭いてあげるイベントがあるんだが、儚げなボイスも相まって、当時はずいぶんドキドキしたなぁ、でへへ。
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――マスターごめん、ちょっと気持ち悪いわ(苦笑)。
――おっと、すまない。ちなみにユニは双子で、メイという喧嘩っ早い妹がいるんだが……。
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――へぇ、双子とはめずらしいな。いや、今ドキ、ゲームならさほどでもないのか(笑)。
カワチ:まぁな。それにつけても双子っていいよな。同じ顔が2人いることで魅力が倍増されちゃうからさ。1+1は2じゃない。200なんだ。10倍なんだよ、魅力10倍。
――……(言ってる意味はわからんけど、200になるなら100倍じゃね)。
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カワチ:ちなみに妹のメイは、主人公のフィルやユニのライバルとなる、別のカルテットに所属している。……じつは俺、キャラクターだけならライバルチームのカルテットのほうが好きなんだよ。メイは男勝りだけど一本筋が通っていて清々しいし、姉後肌のシニーナも美人で格好いい。大富豪のジゼルもおバカキャラクターで愛嬌があるしね!
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カワチ:正直に言おう。むしろ俺は、こっちのカルテットに所属したかったんだよなぁ。ファンディスクが出ることを望んでいたが、けっきょく夢に終わってしまったよ。俺はジゼルたんとチュッチュッしたかったんだお!
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――マスターの趣味なんて知らないよ。俺とユニが重なるってところを聞かせてほしいのに!
カワチ:まぁ聞けよ。PS2版では、メイの声を池澤春菜さんが、ジゼルの声を沢城みゆきさん、シニーナの声を浅川悠さんがそれぞれ演じているんだけど、いずれもものすごくキャラにピッタリなるんだよね! PS2版はシステム部分が改悪されちゃってる部分もあって、正直不満もあるんだが、やっぱりボイスの追加はうれしかったよ。ただ、なぜ移植のときにサブキャラクターのエンディングを追加しなかったのかは問い詰めたい……! シニーナ姐さんにリードされながら、エッチッチなことしたかったのにっ!
――のにっ! じゃないよまったく。まぁ、おかげでサブキャラクターが魅力的なことはよくわかった。だからいい加減、ユニのことを教えてくれってば。
カワチ:あ、すまんすまん(汗)。
■心に劣等感を抱えたユニが見出す「自分自身を信じる」意味
カワチ:ってなわけでユニのことだよな。ユニとメイは双子ということもあって、そっくりな女の子って思われることも多いんだけど、PS2版で声が追加されて、しかも演じる声優さんが異なっているってことで、だいぶ差別化された印象がある。
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――へぇ。ちなみにカルテットって4人で演奏するんだろ? それってつまり、主人公とユニに加えて、あと2人はヒロインがいるってことじゃないのか?
カワチ:ご明察。主人公のフィルは第二ヴァイオリン担当で、ユニはヴィオラを担当しているんだ。でもって、あとは第一ヴァイオリンのシャルロットと、チェロ担当の淑花(スウファ)という2人のヒロインがいる。清水愛さんが演じるシャルロットはツンデレキャラクターで、生天目仁美さんが演じる淑花は大人しいメガネッ娘だな。
──ほほう!
カワチ:シャルロットは金髪ロリのツンデレというわかりやすいキャラクターなんだけど、表情がコロコロ変わってかわいいんだよ。主人公のフィルじゃないけど、彼女をからかいたくなるのもわかる!
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――ほほほう! じつは俺、パっと見た感じだとこのメガネッ娘が好きかな。いつもつるんでいる仲間たちが騒がしいヤツばかりだから、大人しい子がいいんだよねー。あと、やっぱりメガネが最高。
カワチ:なかなかいい趣味だな。ただ淑花のシナリオは最後にプレイすることをオススメするよ。彼女の抱えているトラウマはめちゃくちゃダークだからね。彼女のエンディングを見ちゃうと、ほかのヒロインのエンディングを見るときに「あぁ、救わなかった淑花はどうなったのだろう」って考えちゃうかもしれないぜ?
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――攻略順が決まっているとか面倒くさくない?
カワチ:全員のシナリオをクリアすれば、全体をまとめる清々しいエンディングが登場するようになっているから、そこまで気にする必要はないけどな(笑)。
――なるほど。じゃあ、マジでそろそろユニのことをくわしく説明してくれよ。
カワチ:あぁ。最初に彼女を天真爛漫だと説明したが、じつは違うんだ。彼女はずっと天性の才能を持ったな妹をはじめ、ほかの人間の才能と自分の才能の差に劣等感を感じていたんだよ。それを隠すため、通り過ぎるのを待つためにピエロを演じていたのさ。明るく見えるのだって、じつは取り繕った表面的なものでしかないんだ。
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――そ、そうなの? いやでも、周りのメンツが天才ばかりだっていうなら、そりゃあ劣等感を感じちゃうかもしれないな……。
カワチ:なまじ、双子の妹であるメイが天才だからな……自分の才能に限界を感じて、ヴァイオリンからヴィオラに転向した過去も持っている。
――それってつまり、同じヴァイオリン奏者の妹と比べられたくなかったから……とか?
カワチ:そうだ。ただ、コンクール前にユニが指を怪我をしてしまったことで、メイがこっそりヴィオラを担当することになってね。ここは話をちょっと端折るが、メイたちのカルテットもとある理由からコンクールに出られなくなっていたこともあり、周囲も入れ替わりに賛成するんだが……。しかし、結果的にこれでメイがヴィオラも上手に弾けることがわかって、ユニはますます自信をなくすことになってしまう……。
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――なんてこった。せっかく道を逸れてまで居場所を作ったってのに、またそこで才能の壁にぶち当たるなんて……そりゃツラいな。
カワチ:ショックを受けたユニは、指こそ完治したものの、そのままコンクールをメイに任せようとしてしまう。そうして逃げ出した彼女を主人公は追いかけるわけだが、見つけたときには自暴自棄になっていてな……。ここではじめて、“ただの天然な元気少女”ではない、本当のユニの姿が見られるってわけさ。今まで無理して笑っていたんだと思うと、重いよな……。
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――……それで?
カワチ:主人公はそんなユニを説得するのさ。彼女が抱えている不安や劣等感は、ユニだけのものじゃなくて、誰しもが持っている感情なんだと。そしてそれでも、自分や認めてくれる誰かがいると信じるしかないんだってな……。
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――なるほど、才能に不安を感じるなんてことはきっと誰にでもあることなんだよな……。俺だって、そんなことぐらいはわかっているさ。
カワチ:そうだろうよ。ただ、ずっと我慢して耐えてきたユニは、世間がそんなに甘くないことも知っていて、主人公に反論するんだよ。「結局は結果がすべてじゃないか」ってね。
――チェッ。俺もまさにそう言おうとしてたよ……先を読まれているみたいで恥ずかしいな(苦笑)。じゃあ、結局主人公はユニのことを救えなかったのか。
カワチ:いや、そうでもない。主人公はユニに、彼女が頑張っている姿をいつも見ているってことを伝えるのさ。自分もユニを信じるから、ユニも自分自身のことをを信じてほしいってね。
――そうか……。
カワチ:そのあと、メイもユニの才能を尊敬していたことが明かされる。隣の芝生はなんとやら、悩みなんてみんな持っているものなんだろうよ、多かれ少なかれな。きっとお前が負けたと思っているライバルだって……。
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――……。
カワチ:俺だってそんなに人生は甘くないと思うよ? でもまずは自分のことを信じないことにはなにも始まらないんじゃないのかな。
――うん……そうかもしれないな……。それにしても、あ~あ! まさかこんな形で慰められることになるなんてなぁ。ありがとうマスター。俺、もう少し自分を信じて頑張ってみるよ。ユニのように、さ。今日はごちそうさん。
カワチ:おう、またな。
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テキスト:カワチ(Makoto Kawachi) 1981年生まれ。ライター。ビジュアルノベルに目がないと公言するが、本当は肌色が多けれななんでもいい系のビンビン♂ライター。女性声優とセクシー女優が大好き。
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