『ガーディアン・クルス』4年半続けて良かったこと、悪かったこと【〇〇サービス終了 – 後編】
始まりがあれば終わりもある。昨今、多くのゲームアプリが華やかにリリースされていくなか、その陰に隠れてサービス終了タイトルも日を追うごとに増加。ヒットの法則にはタイミングと運が付きものだが、クオリティの高さと期待度とは裏腹に、なかなかヒットに結びつかないことも数多い。
本企画「〇〇サービス終了 –開発現場から愛をこめて-」では、ゲームDJ・安藤武博がサービス終了に直面した開発・運営者たちに真っ向から話をうかがい、当時の状況や後世に活かすノウハウなど、ほかでは聞けない話題を展開していく。

第2回は、スクウェア・エニックスの『最強ガーディアン・クルス』。本作は、独特なバトルシステム「ハント」を通して、魔獣を捕獲・育成していくカードバトルRPG。また、ガチャを導入しなかった意欲的なタイトルとしても注目された。これまでタイトルやアイコンを変更しながら、アップデートを繰り返してきた本作だが、2017年1月11日でサービス終了を迎えた。

対談企画では、プロデューサー・田付信一氏が登場。なお、田付氏と本サイトを運営する安藤は、過去スクウェア・エニックスにおいて、同じ部署で幾度もゲーム開発を続けてきた上司と部下の関係。今回は、昔話に花を咲かせながらも、現在の心境や終了する経緯など赤裸々に迫ってみた。

聞き手:安藤武博(Twitter
企画:Pick UPs!(Twitter
文:原孝則(Twitter


【前編プレイバック】
・『ガーディアン・クルス』の開発秘話
・ガチャ無し、運営中のタイトル変更の経緯
・ユーザーからの反響について
前編の記事はこちら→ガチャ無し、運営中のタイトル変更…『ガーディアン・クルス』が挑戦したこと【〇〇サービス終了 – 前編】


■『最強ガーディアン・クルス』とは
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リリース日:iOS版2012年6月21日、Android版2013年8月5日
サービス終了日:2017年1月11日

本作は、アクティブタイムバトル(ATB)システムの考案者である伊藤裕之氏をはじめ、音楽・水田直志氏、キャラクターデザイン・オグロアキラ氏らFFシリーズに携わったスタッフが贈る、魔獣カードバトルRPG。プレイヤーは、ミッション・サブミッションをこなしながら、最強のガーディアンチームを目指していく。

なかでも特徴的なシステムが「ハント」。数多く存在する「ハント場」を探索し、ガーディアンのシルエットを発見したら、魔弾ライフルの標準をあわせ、特殊弾を打ち込んで捕獲する。制限時間内であれば魔獣が獲り放題で、捕獲すると図鑑に登録される。また、ソーシャルゲーム全盛のころに、あえてガチャを導入しなかったタイトルでもある。
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■4年半続けて良かったこと、悪かったこと
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ゲスト:田付 信一
スクウェア・エニックス所属のプロデューサー。過去、安藤武博とは同じ部署で幾度もゲーム開発を続けてきた上司と部下の関係。Facebook/GREE向けゲーム『ナイツ オブ クリスタル』でソーシャルゲーム黎明期から作品を世に送り出し、本作は2011年上半期 GREE Platform Award 優秀賞を受賞した。その後、スマホ向けにヒット作を生み出し、近年では2016年に『ガーディアン・コーデックス』を配信した。

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聞き手:安藤 武博
過去スクウェア・エニックスにて、1998年からコンシューマーゲームやスマートフォンゲーム事業に携わる。スマホ事業ではF2P/売り切り型を問わず『拡散性ミリオンアーサー』や『ケイオスリングス』など、複数のヒット作を生み出す。2015年に株式会社シシララを起業。ゲームDJとしての活動をスタートさせる。最新作は『コスモスリングス』(AppleWatch)と『ブレイジング オデッセイ』(iOS/Android )。


安藤武博(以下、安藤):最初にAndroid版を終わらせたんだよね。iOS版より遅くに始まって、iOS版より早く終わった。凪の状態であれば、もっと早く終わるという判断もあったかもしれないけど、このタイミングまで続けた狙いは?

田付信一氏(以下、田付):やはり『ガーディアン・コーデックス』(以下、ガーコー)を開発することが決まったときです。そこに繋げていくことを一番に意識しました。

安藤:最後まで『ガークル』は利益出ていたの?

田付:出ていました。続けていることはユーザーさんにとってはいいことですので、『ガーコー』が出るまではやりましょうと。

安藤:『ガーコー』は、バトルが全然『ガークル』と違うから新しくなったね。

田付:そうですね。戦略としては、もっと新しいユーザー層を獲得することを考慮しました。『ガークル』の当時はスマホを持っている人口自体が少なかったと思うんですよ。「何でAndroidと同時リリースしてないの?」と思われるかもしれないですが、そもそもGooglePlayではなく、前身のAndroid Marketと呼ばれていた時代だったので。

安藤:4年半サービスしていたなかで、一番辛かったことは?

田付:だんだん衰退していくところですね。

安藤:なるほど。

田付:やはり寂しいものです。社内でも色々なタイトルがたくさん出てくるじゃないですか。そして、そっちのほうが売れているわけですよ。……何か、プロ野球でいうところの“昔はすごかったけど、今はそんなに打てなくなっちゃった先輩”みたいな感じで、『ガークル』の居場所がだんだん無くなってくるみたいなものはありました。

ただ、仕事として辛い時期は正直あまりなかったです。特に初期に安藤さんの部下だった時代は、安藤さんは、全く口を出さない方でしたので、だからこそ好きに作れたのかなと。

安藤:うん、俺は全く口出さないシステム(笑)。出してもしょうがないから。

田付:当時、プロデューサーとして成功していない僕に、すべてを任せてくれた。しかもそれで成功したのが、良い体験だったなと思います。

安藤:上の人間が口出さないで成功したのであれば、全部自分の手柄だからね。それが自信にも繋がるし。

田付:だから僕も任せたプロデューサーに対してはあまり口出さないようにしています。

安藤:そういえば4年半続けてみて、『ガークル』のチームにしか見えてない景色って、どういうものだったのかな。田付さんのチームであれば、早い段階で終わらせて、新しいゲームを作ることもできたと思うんです。KPIや『ガーコー』のことがあるから、あえてやっていたわけだと思うけど、ここまで続けて率直に良かった? 悪かった?

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田付めちゃくちゃ良かったです。ゲームはいずれ終わりを迎えますが、やはり続けること自体に意味がありますよね。信頼にも繋がりますし、4年半続けたこと自体が価値になっているものだと思います。ユーザーさんのなかには、初日から終わりまでずっとやっていた方もいましたので。

安藤:それはすごいね! その人たちの4年半と考えると、重みを感じる。終わらせ方で何か気を付けたことや、仕掛けたことはあった?

田付:最後は無限にハントできるようにしました。やっぱハントはガチャよりも楽しいわけですよ。あの瞬間はドキドキしますし、獲得できたときの達成感も大いにあります。ラストに若干の花火を打ち上げるという、安藤チームの伝統でもありますね。

安藤:そうだね。最後は派手に。

田付:『ナイクリ』の最後は派手にやりすぎて、サーバ増やしていましたからね。普通サービス終了するタイミングで減らすところを、増やしたんですから(笑)。

安藤:そうそう、ファイナルイベントを気合入れすぎて(笑)。だから最終月のランディングだけちょっと上がっているという(笑)。

田付:もっといろいろやれば良かったのかな。

安藤:たとえば、いまタイムスリップしてやりたいと思うことは?

田付:うーん。とはいえ、やっぱり後悔はないですね。あえてひとつ言うのであれば、当初の開発スケジュール通りにいけば、『パズドラ』よりも前にリリースしていたので、App Storeのセールスランキングで1位が取れていたことですね。でも無理だからしょうがない。

安藤:このタイトルが、一番ヒットしたときで3位か。

田付:iPhoneで3位、iPadで2位。上には『パズドラ』と『ミリオンアーサー』がいました。

安藤:1位を取るタイミングだったら、そこのワンチャンだったかもしれないな。

田付:いま考えるとスクウェア・エニックスのオリジナルタイトルでTOP3に入ったのは、安藤さんと岩野さんと僕だけじゃないですか。

安藤:そうなのか。そうかも。

田付:時代は違うけど、順位は順位ですよね

安藤:獲ったもん勝ちだからな。

田付:あと数ヵ月、開発スケジュールを巻ければなぁ……。

安藤:巻けた?

田付:……巻けないなぁ(苦笑)。
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■プロデューサーとディレクターの役割

安藤:田付さんはいまだにオリジナルタイトルにこだわっていますよね? 『ガークル』は、オリジナルタイトルとして4年半続けたからこそ見える景色があると思うんです。

田付:自分がいいと思ったことを、思いっきりやれるところですね。だからこそ毎回チャレンジングなことができたり、ダンジョンの仕組みをガラッと変えてみたりと、色々試せたのが良かったです。また、ソーシャルゲームから学ばなくて、コンソールゲームのエッセンスを結構多く取り入れましたね。

安藤:今から大手のプロデューサーが当てようと思ったら、思い切りでかいプロジェクトしかないと思うんだよね。そうなると、若いクリエイターがチャレンジする場所がなくなってくる。『ナイクリ』は3~4ヵ月で開発していた。それが今は1年、2年が当たり前で、開発費用が5億円なんてのも普通になってきました。あの当時は入社1年目に渡してもいい予算で作れたからね。

田付:ゲーム業界で数少ない歴史における数年でした。

安藤:そうだね。こういうことは数十年に一度しかやってこない。

田付:恐らくいま歴史上3回ぐらいしか起きていません。

安藤:ソーシャルゲームとスマホゲームの黎明期には、開発しながらそれが今だって分かりながら作っていた。もう当分来ないかもしれないその時代で、完成しないタイトルも含めれば、相当数作った時期があった。そうしたなかで、4年半ひとつのものをやり遂げて、『ガーコー』にも繋げた田付さん自身がこれからどうなっていくのかを聞きたいですね。

田付:これからは……未定ですね(笑)。

安藤:まあ…わからないよね(笑)。終わる時期はバラバラだけど、始まったものはみんないつかは終わる。終わりを迎えた瞬間に、みんなが次に何を作るのかということにすごい興味がある。当然売れている人にとっては、ひとつのものしか作れないという苦しみもあるけど。

たとえば、俺がスクエニに残って、みんなを率いながら「新しいことをやってくれ」と言われたらきっと辛いと思う。それくらいスマホは激戦区でなかなかヒットが出なくなりました。相当思い切ったことをしないと未来は拓けません。当然失敗もするだろうし、みんなの給料を上げながら新しいことをやるなんて無理。だから独立したというのもあるし、外の人達とのやり取りに解があるのかなと思っていて、いまは多くのクリエイターとゲーム実況をしたり、楽しく遊びながら模索中なんだよ。

田付:ひとつわかっていることは、決して世の中のビジネスが行き詰まったわけではなく、視野を広く持つことが大事ということ。だから今後はもうスマホゲームありきで出すことはなくなると思う。

安藤:横断的に出来るプロデューサーじゃないと難しい時代になったね。それはIP抱えても一緒かな。

田付:そうですね。他社も含めてですけど、新しいタイトルは軒並み苦戦しています。だからこそ違う手を考えないといけないし、打たなければいけないとも思います。もうスマホゲーム市場は、レッドオーシャンどころの騒ぎじゃなくて沼みたいなものですよ(笑)。

安藤:そうだね。ブルーオーシャンの時代に『ガークル』を始めたからより分かる。ライバル多すぎ。かといって、可処分時間の拘束時間は先行したゲームがずっと持っているからね。

田付:それも開発費は高騰しているので、反比例するように。そろそろIPタイトルも攻めないと売れない時代に突入するかもしれません。

安藤:とはいえ、人々がゲームをやらないということはないので、またチャンスは来ると思っている。

田付:たしか安藤さんと一緒に仕事していたとき、ディレクターとプロデューサーの役割の境界線について話したことがありましたよね。「これはディレクターの仕事だろ」「プロデューサーはここまでだろう」とか。たとえば、僕は開発現場に入りすぎてしまうプロデューサーで、よく安藤さんからも「もっとプランナーを尊重しなさい」と言われたことがありました。

安藤:あった、あった。2Dのキャラクターが並んでいて、敵と味方、どちらが左に来たほうがしっくり来るかという議論で大喧嘩するという(笑)。そんなんディレクターに任せろよ!嫌です!と。

田付:そうです。結局今の僕は、自分でゲーム企画概要を作って開発会社に持っていって、こちらで作って下さいという形式をとっています。開発現場にかなり入っていくスタイルですね。
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安藤:そういう意味では、田付信一というプロデューサーの制作スタイルを固めた作品でもあるんだね。それを確認するのに4年半は十分な時間だった。ちなみに俺の場合は、システムも含めて考えてくださいとディレクターやプランナーに依頼しますね。

また、『ガークル』といえば海外展開も好調だったよね。恐らくスクエニのスマホゲームの中で海外タイトルの運営を日本でコントロールしたほぼ唯一のタイトルでしょ。

田付:初めてです。ただ海外展開に関しては、もともと『ナイクリ』でいきなり海外から始めていたので、英語に対応したり、海外で配信したりするのは当たり前の考えでしたね。

安藤:そうだね。それにスマホ黎明期だからこそ、英語圏を取らないと商売にならなかったのも理由だね。

田付:海外版を運営していると、季節イベントも同時にやるので、そこのことも考慮する必要がありましたね。たとえば、日本独特の風習や要素として、干支や桜をモチーフにしたキャラクターを出しても、海外ではピンとこないんですよね。

安藤:でも同時に運営できることで、独自のノウハウもたまっていくし、売上も倍になっていくのだと思う。

田付:ちなみに『ガークル』をリリースした当時は、1ドル78円ぐらいだったのですが、円安の影響で『ガークル』の売上も上がりました。こうした為替も売上に影響がありますね。


■遊んでくれたプレイヤーにメッセージ

安藤:ちなみに『ガークル』はハントの部分だけオフラインで残すという要望はなかったの?

田付:ありました。

安藤:残さなかった理由は?

田付:結局、自分のカードを使って戦えるのがモチベーションになっていたので、ハントしてカードを獲得しても使えないのはちょっと……という理由で残しませんでした。

安藤:どうしようもないことだけど、この手の商売は終わると構造的に二度と遊べないよね。

田付:そうです。何も残らないじゃないですか。

安藤:売り切りのタイトルは大丈夫だろうと思っていたけど、俺が辞めた後ついに『ケイオスリングス』もⅢを除いて遊べなくなってしまった。OSアップデートの問題とのことですね。

田付:PS Vita版があって良かったですね。

安藤:本当、作っておいて良かった。アップデートである程度お金などもかかると思うけど、プレイヤーのことを第一に考えたとき、残しておくという解が出てくると思うんだけどなぁ。もう配信終了してしまったら、頭の中でしか手繰れないというのが……。二度と見られないライブの良さもあるから、それでいいのかな。

田付:寂しいものですね。

安藤:話を聞けば聞くほど、田付さんからはオリジナルのメソッドを感じる。田付さんはスクエニに入社して10年が経過したけど、今のスクエニで働く良さって何?
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田付:すごく人を育てるパブリッシャーであることですかね。

安藤:なるほど。たとえば、さっきの話みたいに最初の2年はコミットするけど、そのあとはプロデューサー2代目、3代目のチャレンジの場があって、そうして次はまた別のタイトルに巣立っていくわけだよね。

田付:そうですね。

安藤:そういう意味では、この4年半はスタッフにとっても大きな学びがあったと思うよ。まるで2012年から2017年だけに開校された“良い学校”のように。

田付:はい。あっという間ではありましたが。

安藤:さて、そろそろ時間も迫ってきたので最後の質問です。4年半という長期タイトルが続いたのは、それもこれも多くのプレイヤーが遊んでくれたからだと思います。ぜひ、最後はお客様に一言お願いします。

田付:そうですね……。どう受け入れられるかよく分からないなか、このチャレンジングなゲームを遊んでいただき、本当にありがとうございました。ユーザーさんの声に支えられましたし、さらにそこから学んだことも多々あって、僕自身も成長させてもらいました。

僕やチームメンバーとも一緒にゲームをプレイしたり、毎週アリーナでランキングに参加したりしていましたが、本当に楽しい時間をありがとうございました。

現在、iOS/Androidで関連作品の『ガーディアン・コーデックス』を配信中です。『ガークル』のキャラクターが多数登場しますので、ぜひダウンロードしてプレイをお願いいたします。


■『ガーディアン・コーデックス』
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【〇〇サービス終了 バックナンバー】
第1回『冒険クイズキングダム』
第2回『ガーディアン・クルス』

テキスト:原孝則(Takanori Hara)
Pick UPs! 代表 / 編集者 / ライター / APPアナリスト 過去、ゲーム会社でマーケティング、広報、WEBプランナーなど多数のPR業務に従事。その後、Social Game Info 副編集長、Social VR Info 編集長を担当。現在は、ゲームとビジネスの観点で執筆・企画に尽力するほか、アプリデータ分析サービス「Sp!cemart」の編集長も兼務。
ツイッターアカウント→原 孝則@ha_tatsu
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