信田:僕はプロデューサーになりたいと考えています。得意不得意で分けたとき、得意はPMかもしれませんが、好きはプロデューサーです。ディレクターと一緒にゲームの根幹となる部分を話し合ったり、手掛けたものをより多くの人に届けたり、いろんな方とも出会ったりと考えを深めていきたいと思います。
安藤:今回のプロジェクトでは、ある意味、信田プロデューサー誕生のきっかけになったのかもしれませんね。プロデューサーがいなかったからこそ流行らなかった…というのが分かった点においては、とても有意義なプロジェクトだったのではないでしょうか。
モノの力だけで売れるのは黎明期ぐらいだと思います。例えばコンシューマーゲームは、ハードという仕組みが家庭に入ってくるそれ自体がすごく面白かった。ファミコンなんかは、ゲーセンなど外でお金払ってやっていたものが、1万円ちょっとで家でもできるようになった。カセットを入れ替えれば色々なゲームも遊べたし、その体験自体が面白いから、今となっては何でこれが100万本売れたのか分からないものも売れたりした時代でしたね。
信田:そうですね。
安藤:その後、ROMの容量が大きくなって、ゲームデータを翌日以降に持ち越せるようになりました。そこから物語性やキャラクターデザインなどが表現できるようになり、『ドラゴンクエスト』が社会現象になった。同じくして大ヒットを記録したのがスクウェアの初期のゲームたちです。厳密にいうと、当時のスクウェアもプロデューサー不在。ディレクターが中心に制作して、考えて、戦闘システムを編み出して、たとえプロデューサーがいなくてもモノがいいからミリオンセラーになる。
こうした移り変わりはコンシューマーゲームにもあったのですが、いよいよスマホゲームもその段階に入ってきている。とくにスマホゲームのほうは重症。何故なら、ゲームのバラエティの幅がとても狭いのです。マネタイズの影響もあると思うのですが、遊びの幅を大きく分けると5、6種類ぐらい。お客様からすれば、みんな似たようなゲームばかりですし、そこで差別化するためには仕掛けが絶対必要になってくる。
ソシャゲバブルのときは、同じものを作っても売れましたけど、ネイティブシフトになってからはもうそういう状態じゃないですし、やはりプロデューサーの存在感は増してきているのかなと思います。信田さんがプロデューサーになりたいのも分かります。
信田:プロデューサーでしたら、人の動かし方や自分のやりたいことを人に伝える力も重要なのかなと思うのです。
安藤:そうですね。これに関しては何か悩みがあったのですか。
信田:直近では、プレゼン中にあまり自信がないと思われていることです。たとえば、色々な人の意見を聞いたときに、僕の性格上、「たしかにそうですね」と企画の段階からなってしまい、よく上司からは「お前の軸はどこなんだよ」と言われることもあります。
安藤:打ち合わせや会議は、「ここは現場に踏ん張ってほしいところ」「ここは出席者みんなの意見を寄せ集めるところ」とふたつに分かれると思います。
たとえば、踏ん張るようなそぶりが見えないから、偉い人は「この人に多額の予算とスタッフを与えていいのだろうか」と不安に感じるのでしょう。ただ、信田さんのアプローチも正しくて、色々な人の意見を聞いて「お前面白くないよ」という場所を作るのも大事です。
ヒット作を手がけた後は、ときに“その人がつくるもの=すごいゲーム”みたいな感じになってしまうことがあるんですよね。言わば裸の王様になりがちなんですね。
“あの人は別枠”という扱いになってしまうと、自信を持って手掛けているものでも、ほかの人の意見を聞かずにアウトプットして結局ズレてしまうんですね。だからこそ、「ちょっとイケてなかったら気軽に言ってくれよ」という環境を作るのは大事。これは信田さんがメガヒットメーカーになっても、崩すべきではないところです。
信田:はい。
安藤:一方で、ゲームの投資を判断する会議では、お金を出す人たちは大金なので内心ドキドキしているわけですよ。売れるときは売れるし、売れないときは売れない。どんなヒットメーカーでも外すときは外す。
だからこそ、つくる前から色々想定して、偉い人の前で「僕の作品は売れます」と言い切るのは難しいと思います。ただ、Aさん、Bさん、ふたりのクリエイターがいたときに、Aさんが「絶対売れる。俺に任せろ」というのと、Bさんが「いやぁ、まあ当たるときは当たりますし…」となったとき、お金を出す人はどっちに出したいかということです。
Aの場合は、突っ張って会議通したけど課題満載だから一個ずつ潰していこうぜと現場に下ろしていく感じです。少なくても僕はこっちの人間でした。「売れるかどうかは分からない」なんて一言もいったことないですし、何なら「売れるに決まっているじゃないですか。俺が作るんですよ?」ぐらいの話をしていました。
当然、そこに至るまでは定量的なデータをもとに説明しますが、最終的には気合と自信の問題。ここはハッキリと「面白いゲームができる」と言わないと、ドキドキしてお金を出す偉い人たちも張れないと思います。
信田:なるほど。おっしゃるとおりだと思います。
安藤:正直なところ、やってみないと分からないところは多分にありますし、その本質は経営陣も分かっていると思います。それでも偉い人の前では、ガン攻めされて「そうですね。考え直します。」というふうになることが多い。そうならないためには、普段から徹底してそのプロジェクトのことを考えて、想定している問答を全部頭に叩き込んで、ネガティブな意見も含めて、最悪のケースを想定しながら臨むことが大事です。
信田:じつは現在、新作の企画について経営陣と4回ほど話し合いをしています。「もっとこうした方がいいんじゃない?」という提案に対して、自分の考えをうまく表現できなかったり、実現性の面からできないと切り出してしまうこともあり、自信をもって話せていないとみられる場面が多くありました。
安藤:考え抜くことも必要ですね。会議って面白くて、「こんなの売れない」「やめておけ」と言われるなかでも、「いや絶対売れる」という問答を繰り返していると、「もう分からん。お前が売れると言うんだったらやったらいい」と、ずっと止めていたにも関わらず、最終的に「やれ!」ってなることがあるんですね。新規で1位を取ることが目標であれば、初めてのことだから理詰めで来られても最終的に「初めてなので一回俺に賭けてください」というしかないのです。
それに会議で反対されたプロジェクトほど、成功するという法則はある。逆に偉い人全員が「これは鉄板だから売れるよね」というプロジェクト自体は、失敗するケースが多い。予定調和すぎるものはお客様を良い意味で裏切れない。むしろ誰かが異物感を抱くくらいがちょうど良いのです。ですから企画を突き返されたときは、「おぉ、反対意見が来た来た!」とチャンスだと思うほうがいいです。むしろ何も言われずスムーズに通るほうが心配になる。
そういう意味では、信田さんの次回作はヒットの流れがきているのかもしれません。だからこそ偉い人も気になるんでしょう。このタイトルに関しては“しつこく言ったほうがいいんじゃないか”という匂いがあるのだと思います。失敗した人のほうが、すごい果実が手に入るものです。
それを経て信田さんの次回作はどういうものになるのでしょうか。まだまだ話せないところもあると思いますが、構想だけでも聞かせてくれませんか。
信田:スマホゲームを作るのは変わらないです。日常や体験のほうがしっくりくるので、たとえIPタイトルを手掛けるうえでも、お客様が持っている思い出をきちんと掘り起こせるような体験を与えるのが大事だと考えています。内容は簡単かつ手軽にしていきます。
安藤:簡単、手軽、すごく大事だと思います。当然コントローラーで遊べるゲームには、なかなか勝てない部分もあると思います。携帯電話をゲーム機としてみる見方も当然あるのですが、じつはもっと手軽に楽しめるほうが、すごく広がるのではないのかなと。
スマホゲームはもっと簡単でもいいのかも。結局ソーシャルゲームの発明も、コンシューマで考えさせることを、考えさせずに省力してすっ飛ばしたというところが発明だった。これまでのゲームであれば、バトルシステムにはからなず駆け引きやすくみがあったなかで、ガシャーンとぶつかっただけでバトルが終了する。なんならぶつかる前から勝ち負けの演算が決まっているという衝撃的なゲームデザインでした。
近い将来、ゲームだけど、もはや見ているだけでも楽しいじゃんという時代になるのかもしれません。そのくらいの視点を持ちながらやらないと厳しいのかなと思います。
信田:恐らくスマホゲームでいうと、やはり簡単・手軽な部分はゲームコアになると思います。また、サイクルの部分で少し発明が必要になってくるのかもしれません。
安藤:というと?
信田:リアルと絡めるなどゲーム内外で継続してもらうための、“流れ”を作る必要があると思っています。リアルで1週間後に大会があるから頑張ろうみたいな、ゲーム内のみならずゲーム外で継続を促すような施策ですね。
安藤:いいですね。平日はゲーム内で練習、休日はリアルで大会。
信田:そうですね。どんどんゲーム外の継続率の伸ばし方は絶対あると思っています。ゲームは1プレイ数分以内に終わるのですが、サイクルのところでどんどん広がり、継続していくようなものを作っていくというイメージがありますね。
安藤:面白い。それは、最初に言っていたe-sports的な大会をしておけばよかったという話と、まさに繋がりますね。
信田:ええ、そうですね。
安藤:……さて、そろそろお時間も迫ってきましたので、最後の質問をさせていただきます。OBTとはいえ、『クラッシュファイト』をやり込んでいる方も多くいました。ぜひ、お客様に向けてメッセージをお願いします。
信田:まずは期間中遊んでいただいた方、本当にありがとうございました。正式サービスまでたどり着けなかったことは、大変申し訳なく思っていますが、正直なところあまり悲観的にはなっていません。
僕自身としては短い時間ではありましたが、お客様と一緒にプレイできたことが、ひとつひとつの体験として思い出みたいに残っています。遊んでいただいた方のなかに、ひとりでも「あのとき楽しかったね」と言ってもらればとても嬉しいと思います。僕もまたそんなゲーム作りをしていきます。
ポケラボでは一丸突破をスローガンに、各プロジェクトの振り返りを横展開し、よりよいゲーム作りができるよう取り組んでいます。今後も様々なタイトルの準備をしておりますので、ぜひご期待ください!
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安藤:信田さんの新作は、いつぐらいですかね?
信田:1年~1年半以内には出したいですね。
安藤:楽しみにしています。本日はありがとうございました!