フライハイワークス・黄 政凱の「台湾人だったけど、日本のゲーム会社社長になってみた!」 【連載第7回:プロデューサー編】
さまざまな海外のおもしろいゲームをローカライズし、日本のゲーマーに届けてくれるフライハイワークス。その代表取締役である黄政凱さんの、現在に至るまでの軌跡を追う連載、第7回です。
ゲームが大好きな黄さん。念願のゲーム制作の仕事に携わるようになったある日、「自分は根っからのゲームクリエイターではない」と自覚する出来事が起こります。それでも案外がっかりしなかった黄さんは、自分の本当の夢と向き合うことに。黄さんが子どものころから本当にやりたかったこととは、一体なんだったのでしょう?

コラム第1回目:少年期編
コラム第2回目:大学~兵役編
コラム第3回目:就職編
コラム第4回目:起業編
コラム第5回目:ゲームリリース編
コラム第6回目:飛翔編
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■「自分はクリエイターではない」と悟った日

ゲームが好きで、かつゲーム業界で働いていると「自分の理想のゲームを作りたいんですよね?」と思われがちです。でも、本音をいうとそんなわけでもないんです。僕はただ、おもしろいゲームをプレイしたり、人に勧めて「おもしろいね!」と言ってもらえればそれでいい。自分の作品を作りたいという意欲は、じつのところ、それほど強くないんです。

今のフライハイワークスが手がけている事業は、僕がゲーム業界でできることを模索した結果、辿り着いた内容です。自分が「おもしろい!」と思ったゲームをほかのゲームハードに移植したり、ローカライズして日本でも楽しめるようにしたりする。フライハイワークスを創業したころは、たまたまここに力を入れている会社があまりなかったので、うまいこと生き延びられたのかなと思っています。

オリジナルゲームの開発に積極的に手を出さないのは、「自分は生粋のゲームクリエイターではない」という思いを強く持っているからかもしれません。その気持ちに自分自分で気が付いたのは、アークシステムワークスで働いていたときです。

ある日、僕が担当していたダウンロードゲームの案件で、別案件のプロデューサーさんを交えて打ち合わせをすることになりました。そのプロデューサーさんは直接プロジェクトに関わっていたわけではないのですが、なぜか参加してくれたんです。

そのプロデューサーさんが制作しているタイトルに比べたら、それは本当に小さなプロジェクトでした。でも、その方は何時間経っても、「こうしたらもっとおもしろいんじゃない?」とか「こういう世界観にしたらどうだろう」といったアイデアをどんどん出してくれるんです。その熱意に、僕は圧倒されてしまったんですね。
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さぞ打ち合わせが盛り上がって楽しかったのだろう……と思われるかもしれませんが、内心僕はヒヤヒヤしていました。その小さいプロジェクトにリーダーとして関わっていた僕の頭にあったのは、単純に人件費のこと。

そのプロデューサーは社内の人ですから、実質的に出費が発生するわけではありません。でも、このスーパークリエイターを会議室に何時間も拘束することで、結果としてどれくらいの損失になってしまうのか? 途中からそんな考えがずっと頭を離れず、ゲームのクオリティアップのためのアイデアどころではなくなってしまったのです。そんな自分の考え方に気がついたときに、「僕は生粋のクリエイターではないのだな」と悟りました。

■お金の勘定が気になってしまうから、プロデューサーになろう

僕がこういう考えを持つにいたったのは、育った環境も影響していると思います。僕は日本で生まれましたが、小学3年生から大学までは台湾人として台湾にいたので、中華系の発想が染み付いているんです。損得勘定……お金を第一に考えるのって、日本よりは中華系に多い考え方だと思うのです。

とくに僕が台湾で受験勉強をしていたころは、俗にいう「詰め込み教育」が主流で、とにかくいい学校に受かるために受験テクニックを磨くような勉強の仕方をしていました。そして、文系だったら弁護士、理系だったら医師になるのが最大の目的とされていた。

それはなぜか? 結局のところ、それが一番稼げるからなんです。僕の両親はその考えを押し付けない人でしたが、同級生は軒並み影響されていたのか、弁護士か医者、そうでなくとも大企業に就職する人が多かったですね。

かくいう僕も、「クオリティが高くなるのはいいけどコストも無視できない」という考えをどうしても頭の中から消すことができず、早く打ち合わせを終わらせることばかり考えていたわけで、ゲームをおもしろくしようと何時間でもアイデアを出し続けるような、本当の意味での「クリエイター」とは根本的な考え方が違うことを痛感しました。そしてそういう方が「○○の父」と呼ばれるような存在になるんだろうな……と、そのときに悟ったわけです。
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もちろん、これは「どっちがイイ、どっちが悪い」とか、「どっちのほうが優れている」といった問題ではありません。単純に資質や任されるべきポジションの問題。ゲームが完成して世の中に出ていくためには、どちらの人材も必要なのです。ただ、自分はスーパークリエイターにはなれない。この人たちと同じ土俵で戦ってはいけない。絶対に勝てないから。だったら、僕はプロジェクトをさばいていくプロデューサーに専念しようと考えました。僕がゲーム業界にかかわる人間としてがんばる方向性が決まったのが、まさにこの日だったわけです。

プロデューサーでいこうと決断できたのは、「浅いけど広くいろいろなことができた」ことも大きいです。僕は大学時代、コンピュータサイエンスを専攻していたので、一応、プログラムが書けます。ディレクションもできますし、細かいところを詰めて完成度を上げていくことも得意。あとは、お酒を飲んで場を盛り上がることもできる(笑)。お酒でつながっていった人脈もあるので、これは意外と重要なことだったと思います。

大きな会社でゲームを作る場合は、プログラミングやデザインなどに特化する専門能力も必要でしょう。でもフライハイワークスは最初に僕1人、そしてしばらくは少人数でゲームを作っていました。そういう場合においては、自分がユーティリティプレイヤーとして「浅く、広く、多く」を経験してきたタイプだったのは、本当にラッキーでした。創業当初は、ゲームの移植やローカライズに際し、ディレクションや翻訳の一部、ロゴ制作、営業、プロモーション動画制作など、ほとんど1人でやっていました。

■ゲームクリエイターよりも、ゲームプレイヤーでありたい

さて、ゲーム業界に身を置きながらも「自分はスーパークリエイターにはなれない」と悟った僕ですが、じつは思いのほか、がっかりはしませんでした。よく考えたら、僕は単純にゲームをプレイすることが好きだったのであって、必ずしも作りたかったわけではないのです。
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高校時代にゲーム部を立ち上げたときも、きっとクリエイター気質の人だったらこの時点でゲームを作っていたことでしょう。そして、自作のゲームをみんなにプレイしてもらうことに喜びを見出していた気がします。

でも僕は、大人数で『サターンボンバーマン』をプレイできる環境をせっせと整えていました。みんなと一緒にゲームをしてワイワイ楽しみたかったから。結局、今やっていることもその延長線上のことなんですよね。

高校時代の僕は、「ゲームの仕事に就く」ことイコール「ゲームを作る」と思い込んでいた。「この先の人生もずっとゲームとともに歩んでいくためには、“ゲームクリエイター”にならなければいけない」と信じていたんですね。そしてゲーム制作会社に入るためには、何かのスキルが必要。僕は絵が描けないから、プログラミングができるようになろう。このようなロジックで、大学でコンピュータサイエンスを学んだわけです。

でも、いざゲーム制作会社に入ってみたら、ゲームをクリエイターとして作っている人だけではなかったのです。ゲームのまわりにはさまざまな仕事があることに気が付きました。そうして「もしかしたら“クリエイト(創造)”しなくてもゲームに関われるのでは?」と思うようになっていたことも、スーパークリエイターへの道をあきらめるに至って、それほどショックを受けずに済んだ理由ですね。

さて、ゲームそのものを作らなくてもゲームに関わっていけることに気付いた僕は、「では、そんな自分が本当にやりたいことはなんなのだろう」と考えるようになりました。欲求に正直に向き合ったことで導き出せた答え。それは、「とにかくゲームをプレイし続けたい、そして見てもらいたい。“うまいね!”とほめてもらいたい」ということ。それだけです。

つまるところ、僕はゲームクリエイターではなく、「ゲームプレイヤー」でいたいんです。ずっとずっと、死ぬまでゲームを遊び続けていきたい。ただそれだけなんですよ。

子どものころ、「世のなかのファミコンソフトを全部クリアする!」と目標を立てたことがありました。まさかゲームが発売されるスピードが、これほどまでになるとは想像していなかったもので(笑)。物理的に目標達成はほぼ無理なのですが、僕は今、改めてこの目標を「今風に再解釈して挑戦したい」と思っています。
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そして今、僕にとってはラッキーなことに「ゲームを遊ぶことでお金を稼げる時代」がやってきました。YouTubeやニコニコ動画などのゲーム実況、そしてe-Sportsの大会などで、ゲームをやることが褒められる時代。もちろん誰でも簡単にできるわけではないのですが、かつてはそんな可能性すら存在しなかったわけですから、なんて素晴らしい時代になったことか!

ゲームをやっているだけなのに、見てもらったり、褒めてもらえたりする……ゲーム好きにとって、これほど最高なことはありませんよね。これは大真面目に言っています。あえてはっきり書いてしまうと、僕はゲームが得意です。できれば、そのスキルでお金を稼ぎたい。これは、歌がうまい人が歌手を職業にしようとすることと同じだと思っています。

だから僕は今、ゲーム実況ができることがすごく楽しい。シシララTVさんに協力してもらって配信している「フライハイ黄社長の朝から晩までゲームばっかり!」で、『スプラトゥーン2』や『ロックマン』をぶっ続けでプレイしているのは、念願がかなっているということなんです。けっして辛くなんかないんですよ(笑)。

最近はフライハイワークスチャンネルのみならず、自分自身のゲームチャンネルなんかも立ち上げてしまいました。このチャンネル立ち上げの経緯や今後やっていきたいことなどにかんしては、また別の機会にお伝えしたいと思います。