都会の喧騒から少し離れたところにひっそりと佇む"ギャルゲーBAR☆カワチ"。ここは、日々繰り広げられるコンクリートジャングルでの生存戦争に負けそうになっているメンズたちのピュアハートを、ゲーム好きのマスターが「ギャルゲートーク」で癒してくれるという、シシララTVオススメのゲームBARなのだ……。
そんな体裁でお送りするギャルゲーコラム。気になる第7回目のお客様の悩みと、その痛みを癒してくれるゲームとは?
■ギャルゲーBAR初! ほのぼの系に見せかけた戦慄の鬱ゲー!!
――邪魔するぜ! ウィスキーのロックをダブルでくれ!!
カワチ:……お客さん、無茶な飲み方は身体に毒だぜ。
――うっせーな! いいから酒もってこい!! こちとら妻と娘に逃げられて、もう何も失うものなんてねーんだよ!
カワチ:……ヤケ酒か。あまり感心しないな。これをプレイして頭を冷やすといい。
――ああん? なんだこれ? 『どこまでも青く…』? なんでこんなときまでゲームやらなきゃいけねーんだ! ふざけてんのか!!
カワチ:ふざける? ……お客さん、俺はギャルゲーに命を捧げた男だぜ。ふざけてこんなことはしないさ。どうだ、話だけでも聞いてくれないか。損はさせないぜ。
カワチ:あんたにオススメしたのは、2002年にキッドから発売されたプレイステーション用ソフト『どこまでも青く…』。これは2000年にTOPCATから発売されたPC用ソフト『果てしなく青い、この空の下で…。』の移植版だ。ちなみにこれが『果てしなく青い、この空の下で…。』の公式ビジュアルブックな。
――また随分と年季の入ったものを……。しかし、オリジナル版は18禁ゲームなんだな。移植版とぜんぜんタイトルが違うのはなんでだ? 同じ作品だと気付かない人もいそうだが。
カワチ:ああ。この時代は規制が厳しかった関係でな。まだ世間に“PCゲーム=エロいだけのゲームでしょ?”という偏ったイメージが根付いていた時代でもある。実際のところはそんなことないし、この時代のエロゲーこそ、従来の型にはまらない刺激的な傑作ばかりだったと俺は思っているが……まぁ、PCの移植という言い回しを嫌がるオトナも多かったってことで。
カワチ:もう少し時間が経つと“PCからの移植作=多くの人が認める名作ノベル”という認識も広がっていくわけだが……。とはいえ逆を返せば、そんな時代にコンシューマ移植されたこと自体が珍しいことなんだ。PS2時代はともかく、PS時代に移植されたPCゲームは驚くほど少ないからな。つまり……。
カワチ:そういうこと。いろいろな魅力がある作品だが、一番の魅力はなんといってもイラスト・キャラデザインを手がけた“たかみち”さんの透き通るような絵だろう。見ていてここまで引き込まれる絵は、そうそう出会えるものじゃない。
――確かに……もともと18禁のゲームだったとは思えないくらい引き込まれるパッケージだな。雰囲気もすごくほのぼのしているし、すげえイイ感じじゃないか。
カワチ:わかってくれるか。TOPCATの作品は、どれも雰囲気や空気感がたまらないんだよ。後年はイラストレーターへの報酬の未払いが発覚するなど、かなり残念な出来事もあったメーカーだが、少なくとも作品はどれも一級だ。『果てしなく青い、この空の下で…。』も、テキストが縦書き表示だったりしてすごく雰囲気がいい。それだけに移植の『どこまでも青く…』が普通のテキストウインドウになってしまったときは悲しかったなぁ。そこにはPS版でもこだわってほしかった。……それはそうと、お前、このゲームを“ほのぼの”といったなぁ?
――タイトル名とか絵のイメージとか、完全にほのぼの系じゃないか。むしろジブリ系と言ってもいいぜ。
カワチ:まぁ、もともとの『果てしなく青い、この空の下で…。』はスタッフが「ジブリでエッチ」というキーワードを売り文句にしていたからな(笑)。お前がそう感じたのなら、イメージ戦略は成功ってことだ。
――おおおおいっ! さすがに怒られるだろ、そのキャッチコピーは!
カワチ:寛容な時代だったんだよ(笑)。いいからストーリーを説明するぞ。『どこまでも青く…』の主人公は、生徒数わずか6人という安曇学園に通う戒田正士(かいだまさし)。彼は先生から、1年後に自らの母校が廃校になることを伝えられるんだ。そこには村の開発に便乗して金儲けをしようとする元代議士・堂島の悪巧みが絡んでいてな……。
――なんだなんだ。重たいっていうか、また随分きな臭い話じゃねーか。
カワチ:ああ、この堂島が絵にかいたような悪でな。ヒロインのひとりである芳野雨音(よしのあまね)は、家系の都合から彼の屋敷にメイドとして働くことになるんだが、コイツに執拗な性的なイタズラを受けたりとかしていて、こう……。
――ひでえな。堂島か、俺のもっとも嫌いなタイプだ。
カワチ:久々に主人公が彼女と会ったとき、雨音が彼の名前を間違える……というか認識できなくなるほど障害を持ってしまったことが判明するイベントが起きる。これは本作が鬱ゲーと言われる理由のひとつだな。
――おい、そんなのアリかよ。ここはギャルゲーBARなんだろ? 鬱ゲー!? マジで超重たいストーリーじゃねえか。
カワチ:利権を得て村を開発しようとする悪人たちの存在もそうだが、因習に縛られた村の雰囲気だったり、人知を超えた魔物たちの存在だったりと、『どこまでも青く…』はかなりダークだ。でも、そういうキレイごとだけじゃないところが、リアルな恐怖を演出していていいんだよ。見たくないけど見てしまうっていうか。ホラーの鉄則だな。
――いや、今、サラリと魔物とか言ったけど! え、これってそういうファンタジー系の話なの? なんか俺、さっきからビックリしっぱなしなのだが。
カワチ:うーん、どちらかというと伝奇系かな。舞台となる田舎町には雪の夜に降りてくる“ヤマノカミ”の伝承があって、これが作品のキーワードにもなっているんだ。村の神社や家屋にもじつはヤマノカミに関する隠された役目があったりして、それが物語の後半のほうで明らかになってくる。『どこまでも青く…』は春・夏・秋・冬という4つのパートに分かれているんだけど、物語が進むにつれて平和だった日常がどんどん侵食されていくんだ。牧歌的なプロローグからは予想できない壊れっぷりだぞ。夏の終わりからみんな段々とおかしくなっていき、秋には完全に壊れてしまう。その徐々に変わっていく各キャラクターの心理描写とか言動に、心をえぐられてしまうんだ。後半からは話が気になってヤメ時が見つからないぞ。
――すごいな。ここまでくると、ちょっと遊んでみたくなるから不思議だ。
カワチ:そうかそうか。じゃあヒロインをひとりづつ紹介するからお気に入りの女の子を見つけてくれ。あ、ちなみにオリジナル版にはキャラボイスが存在しないんだが、『どこまでも青く…』では追加されている。2009年には『果てしなく青い、この空の下で…。[完全版]』が発売されているんだが、こちらにはボイスが収録されているんだけど、『どこまでも青く…』とのキャストとは違うんだよね。気になるのなら、両方をプレイして声優陣の演技の違いを比べてみるのも面白いかもしれん。
カワチ:まぁ『完全版』は置いておいて『どこまでも青く…』のヒロインたちを紹介しよう。最初のヒロインは芳野雨音。声は川上とも子さん。残念ながらすでに亡くなってしまっているが、『少女革命ウテナ』の天上ウテナ役や『BLEACH』の砕蜂役で知られていた方だな。ギャルゲーBAR的には『AIR』の神尾観鈴役や『トゥルーラブストーリー2』の七瀬かすみ役なわけだが。
――あー、声優さんのことはよくわからんが……とにかく、最初のほうに説明してくれた女の子だね。
カワチ:大人しい女の子なんだが頑固なところがあってな。両親が数年前に夜逃げしてからは、現在は自分で生活費を稼ぎながらひとり暮らしをしているんだ。
カワチ:それで村いちばんの金持ちである堂島の屋敷に、メイドとして働きに行くことになるんだよ……。さっきはそのせいで人格が壊れると説明したが、専用ルートでは声が出なくなったり、殺人を犯してしまったり、さらに……。
――ちょちょちょ! さ、殺人って言った今!? そんなに重たいわけ!? わかった、もうそれ以上は聞きたくない!!
カワチ:うむ……そうだな、これ以上話しても鬱々しちゃいそうだもんな……。続いて穂村悠夏(ほむらゆうか)。安曇村にある穂村神社の一人娘だ。雨音と違って活発な女の子だ。お姉さんぶったりしているけど、じつは依存心が強くて誰かに頼りたがったりもする。まぁ、甘えん坊だな。ちなみに声は菊池志穂さん。『犬夜叉』の紅葉役や『機動戦艦ナデシコ』のアマノ・ヒカル役だ。ギャルゲー的には、何と言っていっても『ときめきメモリアル』の館林見晴役だな!
――巫女さんかぁ。いい感じじゃないのよ、嫌いじゃないぜ。
カワチ:さて、次は双子の姉妹だ。まずは松倉藍(まつくらあい)。雑貨屋の娘で活発な女の子だな。猫好きでいろいろなネコグッズを身に着けている。何気に彼女のシナリオがいちばんホラー色が強いな。クトゥルフ神話とかに興味があるなら、絶対にハマれると思う。声優は前田愛さん。『ゼノサーガ』シリーズのシオン・ウヅキ役や『Yes!プリキュア5GoGo!』の水無月かれん役だ。以前、このBARで取り上げたことがある『センチメンタルグラフティ』の永倉えみる役でもある。
カワチ:で、続いて双子の片割れである松倉明日菜(まつくらあすな)。本好きのおとなしい女の子だ。将来は物書きになるのが夢なので、主人公の父親であり小説家の宗介に自作の小説を添削してもらっている。ちなみに彼女のシナリオは、次に紹介する文乃と2つで1つのシナリオになっていると言っても過言ではない。相互に謎と答えを補っている形だな。声優は西口有香さん。『FLOWERS』小御門ネリネ役や『ニュールーマニア ポロリ青春』のナナナ役だ。そして彼女も『センチメンタルグラフティ』に七瀬優役で出演している。
カワチ:最後は八車文乃(やぐるまふみの)。物語開始の1年前に安曇学園に転校してきた少女でシュールレアリズム派の画家を父親に持っている。都会的な雰囲気で仲間のなかに溶け込むこともなく、いつも我が道を行くといった感じでひとりで行動しているぞ。クール系ってやつだな。声優は清水香里さん。『ブギーポップは笑わない Boogiepop Phantom』のブギーポップ役や『咲-Saki-』の亦野誠子役だな。ギャルゲー的には『serial experiments lain』の岩倉玲音役だ。これも名作だからいつか紹介したいな。というわけで、以上が『どこまでも青く…』のヒロインたちだ。
――おっとり美人に活発な幼なじみ、性格が正反対の姉妹、クールビューティとよりどりみどりだな。
カワチ:ああ。ただ『どこまでも青く…』のキャラクターはものすごく人間くさいというか、よくいう“属性”みたいなカテゴリーの枠に簡単にはおさまらないんだよ。悠夏は嫉妬が激しすぎるし、藍は妙に計算高いし、明日菜は作り笑いでなんでも誤魔化すし……と、ほかのギャルゲーのまるで透き通った水のような女の子たちに比べると、かなり生々しいんだよ。不純物を含んでいるとでもいうか、端的にいえば現実の女の子を相手にしているようなリアルさがあって、人によってはちょっと取っつきにくいかもしれない。
――でもさ、それってゲームとしては……もっといえばギャルゲーとして致命的じゃないの? 俺でもわかるよそんなこと。
カワチ:甘い、甘いぜ。そこらへんもシナリオをプレイすれば、どうしてそういう性格が形成されたのかわかるようになっているし、何よりその謎を紐解くのが面白いんじゃないか!
カワチ:さて、ちなみにアンタはこの5人の中でいえば、どの女の子が気になる?
――プレイしてみないことにはわからんが、話を聞いた限りではやっぱり雨音だろ。放っておけないぜ……。
カワチ:そうかい。しかし、お前におススメするのは文乃だ! 文乃なんだよ!!
――なんでだよ! というか、決まってるんだったら聞くなよ!!
カワチ:それもそうだな(笑)。ストーリーを全部説明しだすと長くなるから、かなり端的にその理由を話そう。じつは、春の遠足で山へ入った正士が、文乃に導かれて、明日菜とともに山腹の井戸を訪れるエピソードがあるんだが……。そこで彼は文乃の言う未来を映すというその水面に、血まみれの雨音の姿を見るんだ。
カワチ:まぁ、その答えは雨音ルートでわかるから、ここでははしょるけど……。
──はしょるんかい!! というか、1つのルートですべての謎が明かされるわけではないんだな。意外と奥が深いというか……。
カワチ:ちなみに、PC版では雪の降る夜の血にまみれたメイド服が印象的なシーンなんだけど、『どこまでも青く…』では、規制の関係でCGに血は描写されていない。個人的に残念ポイントだ。それはひとまず置いておくとして、ともかく文乃は、幼少時に失踪した母親の清美について思いを寄せるとき、この井戸が思い浮かぶことを主人公に明かすんだ。
カワチ:そうだな。その後、2人は井戸とそれにまつわる山ノ神について調べ出す。そのなかで冥府の神と、その復活を阻止する役目を持つ山ノ神のしもべの存在を知る。そして文乃は、母の清美が父の斉臥の手によって、冥府の神のしもべである“踊り子”の生贄にされたことを確信するに至るのさ。さらに彼女は、清美をよみがえらせて斉臥に復讐してもらおうと考える。
――突拍子もない展開だな! めちゃくちゃドロドロじゃねーかよ。
カワチ:はしょっていると言っただろ! 本編では村に冥府の入り口が存在する理由とか、斉臥が狂気に囚われるきっかけとか、ちゃんといろいろ語られるよ。そこは自分の目で確かめてみてくれ!
――わかったわかった。とにかく、父親が母親を殺した犯人だったわけね。なんともやるせない事件だな。
カワチ:いや、真相は違う。文乃の儀式によってよみがえった清美が語るよ。清美は斉臥を恨んでなどいない。なぜなら清美を殺したのは……文乃自身だったんだからな。
――はあああああああああ!? どういうことだ? そのとき文乃は赤ん坊だろ!?
カワチ:ああ。じつは文乃は、自分が山ノ神への生贄として、雨音の両親である芳野夫妻にさらわれた赤子であること、そして流産で子を失った八車夫妻が茅野夫妻から彼女を奪って、儀式の生贄にしようとしたことを知るんだ。
――わかったわかった。とにかく、父親が母親を殺した犯人だったわけか。なんともやるせない事件だな。
――さらわれて、またさらわれて、儀式の生贄にされそうになって……!? ってこれまた複雑すぎぃっ!! ワケわかんねぇ。
カワチ:つまり、そもそも八車夫妻は文乃の両親じゃないし、ふたりとも彼女のことを愛してなどいなかった、と。
──そんなことってあるかよ! 孤独……孤独じゃねーか! 孤独……? そうか、今の俺と同じなのか……。
カワチ:清美は語る。踊り子が宿った文乃が、自分のことを殺したのだと。
カワチ:そのことを文乃に伝えた清美は、身体を崩壊させて消えていく。その後、文乃は冥界と繋がった井戸に斉臥を突き落とすことを決意する。自分の身体ごとな。そのときの彼女にはもう、失うものなど何も残っていないからね……。
――あのさマスター、それって救いがなさすぎるよ。俺はてっきり、最終的には幸せになるものかと思っちまったぜ。
カワチ:話は最後まで聞きなよ。じつはそこで、主人公が文乃の手を掴むんだ。そして、2人は井戸の中に落ちてしまう……。
カワチ:いや、気付いた時にはふたりともヤマノカミの神社にいたんだ。
――マジかよ、ふぅ~よかったぜ……。でもまた、いったいなぜ助かったんだ!?
カワチ:地獄に引きずり込まれそうになったとき、文乃は斉臥に「お前は絶対に幸せになれない、だから逆らわずに大人しくこっちに来い」と言われたんだ。でも彼女は「あなたと同じにしないで。私は絶対にどんな事をしてでも幸せになる」と言い返した。これはきっと、主人公が彼女の腕をつかんでくれたからこそ言えたセリフだと思うんだ。
――孤独だった自分を受け入れてくれる存在に出会えたからこそ、生きていく強さを手に入れられたってことか……。
カワチ:回りくどい伝え方になってしまったが、俺はアンタにもあきらめないで欲しいんだよ。今はすべてを失ったと思い込んでいるかもしれない。でも、そんなアンタを受け止めて、受け入れてくれる人がこの先現れるかもしれない。そう思えば、自暴自棄になるのはもったいないだろう?
――フッ、ありがとうよ。そもそも、孤独にさいなまれているのは俺だけじゃないって再確認できただけでも収穫だったぜ。しかし、随分としめっぽい感じになっちまったな。
カワチ:まぁ『どこまでも青く…』の作風がダークだから仕方がないさ。本当はもっと文乃の萌えポイントも語りたかったんだがな。母親属性を持っているからバブみを感じられるとか、主人公のパンツを見ただけで恥ずかしがるぐらいシャイでかわいいとか……なんなら今から語ってやろうか?
――いや、長くなりそうだからまた次の機会に話してくれ(苦笑)。今日はありがとな、マスター。俺も幸せを見つけてみせるぜ。
カワチ:おう、元気でな。幸せとやらを見つけられたら、また来てくれ。