フライハイワークス・黄 政凱の「台湾人だったけど、日本のゲーム会社社長になってみた!」 【連載第9回:ゲーム会社の社長像編】
さまざまな海外のおもしろいゲームをローカライズし、日本のゲーマーに届けてくれるフライハイワークス。その代表取締役である黄政凱さんの、今考えていることをお届けするコラム、いよいよ第9回です。
もう少しで40代に突入する黄さん。改めて人生を振り返ったとき、自分の進むべき道はゲーマーとして生きる道だと悟ったそうです。そして、会社の社長として目指すべきは「すしざんまい」の社長とのこと……その言葉の真意とは?

コラム第1回目:少年期編
コラム第2回目:大学~兵役編
コラム第3回目:就職編
コラム第4回目:起業編
コラム第5回目:ゲームリリース編
コラム第6回目:飛翔編
コラム第7回目:プロデューサー編
コラム第8回目:2018年の振り返り編
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■ゲームをプレイすることが有意義だと思われる世の中に

前回も書いたように、2018年に僕は「コウシャチョーのゲームチャンネル」というYouTubeの個人チャンネルを立ち上げました。

もし僕が今大学生だったら、すぐYouTuberになっていたことでしょう。大学生のころ、YouTubeがまだなかったのが本当に悔やまれます。当時はゲームに関係する仕事がしたいから、ただそれだけのために日本に渡ってゲーム制作会社に就職し、ゲーム業界の人になりました。それはそれで楽しかったし、得難い経験ができたと思っています。

でも、そろそろ40歳になるというタイミングであらためて考えました。ゲームが好きでこの仕事を始めたはずなのに、ゲーム業界に入ってから目一杯ゲームをプレイできていないのでは……と。「本業」にフルパワーで臨んでたがゆえに、ゲームを遊ぶことに没頭できなくなってしまったのです。

自分はゲーム業界で、制作者としてレジェンドになりたいのか、それともゲーマーのレジェンドになりたいのか? そう自問したとき、答えはすぐに出ました。まぁ、レジェンドというのはおこがましいですが、やっぱり僕はゲーマーとして生きていきたい。ゲーム業界で著名人になるよりも、「ゲームがすげーうまいヤツ」として有名になりたいなと思っています。

では、今までその方向へ一直線に進んでいたかというと、そうではありません。そして、このまま回り道を続けていたら、ゲームに全力で向き合う前に、体力の衰えだったり、視力の衰えだったりが先に来てしまうかもしれない。最近、偶然にも40代、50代の著名人の訃報をよく目にしたことも、そう考える一因になりました。

そこで、2018年からだんだん、初心に戻って、ゲーマーの人生のほうに道を戻していこうと決めました。シシララTVさんでの生放送や、YouTubeでのチャンネル開設は、その活動の一端ということになります。
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僕はゲーム実況者としてはまだまだひよっこですが、少しずつ手応えも感じてきています。9月の東京ゲームショウ2018では、10組以上の方々から「ゲーム実況、見てます」と声をかけていただけました。『スプラトゥーン2』の実況を見てくださった方が多かったようです。

サインを求めてくださる方もいたのですが、僕はサインの経験がないので普通に名前を書きました。まぁ、署名ですね(笑)。まだ有名実況者みたいに「はい、こんにちは〜〜!!」みたいにはできないのですが、僕らしいスタイルを模索していければと思っています。

僕は、ゲームというものが心の底から素晴らしいものだと思っていますし、ゲームには勉強や読書、スポーツなどと同等の価値があるとも思っています。ゲームで思考力や反射能力が鍛えられましたし、選択に困ったときは何を軸に考え、何を重視すべきか、そういったロジック能力や根幹的価値観もゲームから教えてもらいました。

ゲームって、仲間を裏切ったりするとうまく進められないものが多いですよね。善とは何で、悪とは何か。そういった倫理観なども教わりました。何より、ゲームは擬似的な人生経験ができる。そこでの経験は、自分の人生にすんなりと組み込まれていきやすいと思います。

もちろん、ノメり込みすぎて人とコミュニケーションをとらず、ほかに何もしない「ゲーム廃人」になるのはいけません。でもそれはゲームに限らず、どの分野であってもそうですよね。どんなものであれ、やりすぎはよくない。
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高校生のときは、ゲームとかへの理解がゼロの先生に「ゲームなんて遊んでいてなんの意味があるんだ。そんな時間があるのなら勉強しなさい」と言われていました。そのころの僕は『バーチャファイター』に没頭していて、がんばれば誰にでも勝てると信じていました。そんな自信を持てるもの、自己肯定をできるものがあるなんて、じつはすごくイイことだと思うのに。

昔に比べたらだいぶ少なくなったと思いますが、ゲームを否定的にとらえる声はまだまだ存在します。僕は昔から「ゲームをやることが、世間的に有意義なこととして認識されるようになってほしいな」と思っていました。その気持ちは、今でも変わらず持ち続けています。

■でも、「eスポーツ」という言葉は、なんとなく気恥ずかしい

有意義であることの証明として、「ゲームを遊ぶことでお金が稼げる」ということは、ものすごくわかりやすいと思います。ゲームに理解がない人でも「すごい」って思いますよね。だから今、プロゲーマーやYouTubeのゲーム実況でお金が入ってくる人がいるという事実は、とてもすばらしいと思っています。

僕は、ゲームというモノがなぜか軽く見られがちであることをずっと不思議に思っていました。むしろ、高度な技術と情熱の結晶なのに。たとえば野球であれば、身体能力を生かしてプロ選手になることで高い年俸がもらえて、すごい実績を残すと国民栄誉賞までもらえたりします。

頭脳で勝負する分野でいえば、将棋はその道筋ができあがっています。将棋が強いと、それが棋士という職業になり、みんなから尊敬される。でも、やっていることは野球や将棋という一種の「ゲーム」であって、それ自体が何かを直接生産したり、人を助けたりしているわけではないんです。
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そう考えると、ビデオゲームが上手な人だって、そこに価値が生まれてもおかしくはない。『ぷよぷよ』ですごいプレイができる人や、『スプラトゥーン』がすごくうまい人は、その技術や知識を称えられるべきだと思うんです。天性の差はあるとしても、努力で培ったその技術は、血と汗と涙の結晶。ほかのどんな競技や仕事とも共通しているはずなのですから。

これは、もしかしたら文化的な歴史の問題なのかもしれませんね。歴史が浅いことは認められにくいもの。権威を与える側の大人が、体験していないことだから、判断できないという部分はあると思います。

ビデオゲームの草分け的な存在であるファミリーコンピュータが発売されたのは1983年。そこがゲーム文化の黎明期だとすれば、まだ35年ほどしか経過していないといえます。とはいえ、そのとき10歳だった子は、今45歳になる計算。これからは、少年時代にゲームに夢中になった世代が、どんどん中高年になっていく。そうしたら、ゲームの地位も変わっていくのではないかと考えています。

最近では、コンピュータゲームを「eスポーツ」と呼んで、スポーツと同等の競技として扱おうという流れも生まれていますね。将来的にはオリンピック競技になるのでは……そんな期待の声もあるそうです。

じつは、僕はこの「eスポーツ」という呼び方にはそれほどピンときていません。なんというか、気恥ずかしいんですよね。「競技」ではあります。むしろ競技性で言ったら非常に高いものですし、入りの敷居は低い。ただ「スポーツ」っていうワードで表現するものかな? っていわれると、ゲーマーな人たちはそんなことを思ってはいないのではないかな……と思うんですよ。少なくとも、僕はあまり思っていないです(笑)。
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先ほどの野球のたとえでも書きましたが、「ビデオゲーム」も「スポーツ」も並列にある概念なんじゃないでしょうか。つまり「GAME」のほうが概念としては上にあって、「ビデオゲーム」も「スポーツ」と同じく一種の「GAME」なのではないかと。……理系特有の無粋なツッコミですね。

ただまぁ、「eスポーツ」というワードを作り出し、その結果「スゴウデのゲームプレイヤーは大金が稼げるんだ!」というイメージが世間に広まったのは今までになかったことなので、その点はよかったかなと思います。

■2019年の抱負──元旦にマグロを競り落とす「すしざんまい」の社長が理想

さて、年が明けまして2019年。昨年の僕は、まだゲーマーとして振り切れないところがありました。「これをやったら怒られるかな…?」とか「あれもやったから、これもやらないと…」とか、なんというか、まだ「業界側の人」って感じが抜け切れてないというか。もっと純粋に、イチゲーマーとして、楽しんでる様をお届けできたらなと思っています。

とにかく2019年は、もっとイチゲーマーとしてゲームを楽しんでいきたいと思っています。有野課長(※1)くらい、ゲームが好きな人として有名になりたいですね。

(※)有野課長……CSのTV番組「ゲームセンターCX」のメインパーソナリティを務める有野晋哉さん(よゐこ)の、番組内での肩書。ファンの間では、すでに肩書を超えたニックネームとして定着している。

こうしたことを書くと「社長がゲーム三昧で、フライハイワークスはこの先どうなるんだ?」と心配される方もいるかもしれませんが、そういう両極端な話ではありません(笑)。
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今までは、「ゲーム会社の経営」という部分に自分の時間のすべてを費やしてきましたが、幸運にも少しはみなさんに認識いただけるようなゲーム会社になり、ある程度、スタッフにも任せられるように成長してくれたので、少しバランスを戻して、僕自身がやりたかったことも少しずつ優先順位を上げていきたいな、ということです。

もちろん、おもしろいゲームを見つけたらローカライズしたり、別機種に移植したり、みなさんに楽しんでいただけるようお届けしていくことに変わりはありません。実際、今でもそれはバリバリでやってます。たまたまですが、2019年の1月と2月だけで6つのタイトルをリリースする予定です。ただ、これらの仕事はフライハイワークスを立ち上げて7年を過ぎ、周りのスタッフに任せられるようになってきた部分でもあります。

一昨年あたりまでの僕は、いうなれば一人寿司屋でした。食材の仕入れ、運搬、ネタやシャリの仕込み、店の掃除、接客、寿司を握ること、会計、そして毎月の会計処理まで、すべて自分でやっていました。でも、最終的に僕は築地……ではなく、豊洲で魚を仕入れる担当になれればなと思っています。フライハイワークスの仕事でいえば、どのゲームをローカライズ・移植すべきかを取捨選択する役目の人になりたい……まぁ、それが本来の「社長」像だと思いますが(笑)。これからは一人寿司屋の大将ではなく、「すしざんまい」の社長のようになりたいと思っています。
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すしざんまいの社長さんとは、元旦にマグロを高値で競り落とすときに登場するあの方ですね。お店に立っていなくても、みんななんとなくあの社長さんのことを知っていると思います。そして、「あの社長さんならいいマグロを選ぶんだろう」という信頼感があります。2019年は、ゲーム界のすしざんまいの社長を目指したいと思います。

なんだかよくわからない結論になりましたが、今回はこのへんで。遅ればせながら、みなさん2019年もどうぞよろしくお願いします!