【あやかしびと】人妖たちの悲しき運命を知ることで弱い心に打ち勝つ強さを手に入れろ!【ギャルゲーBAR☆カワチ_第12回】
都会の喧騒から少し離れたところにひっそりと佇む"ギャルゲーBAR☆カワチ"。ここは、日々繰り広げられるコンクリートジャングルでの生存戦争に負けそうになっているメンズたちのピュアハートを、ゲーム好きのマスターが「ギャルゲートーク」で癒してくれるという、シシララTVオススメのゲームBARなのだ……。
第9回目のコラムはコチラ→『ルームメイト・麻美 -おくさまは女子高生-』
第10回目のコラムはコチラ→『Ever17 -the out of infinity -』
第11回目のコラムはコチラ→『かたわ少女』
■学園伝奇モノとして注目を集めた名作『あやかしびと』
(カランカラン……)

カワチ:お、いらっしゃい。

──マスター、水をくれ!

カワチ:はいよ。で、注文は何にする?

──え、えーと……今日は水だけでいいや。

カワチ:ん? さすがに何か注文してくれないと困るんだけどな。

──……じつは今日、パチンコで負けちゃってさ。帰りの電車賃もないんだよね。てへ☆

カワチ:「てへ☆」じゃないだろ! 冷やかしなら帰ってくんな!

──いやぁ、そこまで打つつもりはなかったんだけど、やっているうちに熱くなっちゃってさ。気付いたら文無しってわけ。

カワチ:それにしたって電車賃ぐらい残そうぜ。

──勝てると思ったんだよなぁ……。あ、そうだ。マスター、お金貸してくれない?

カワチ:電車賃すら無いとか……まぁそれくらいなら仕方ないな。

──いや、これからリベンジにいってくる! 倍にして返すからさ!!

カワチ:そこまでいくとギャンブル依存症じゃないのか? そんなお前にはお金ではなく、これを貸してやろう。
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──は? なんなのこれ?

カワチ:『あやかしびと』ってゲームだよ。もともとはpropellerから発売されたアダルトゲームで、2006年にPS2、2009年にPSPに移植された名作さ。

──ふ~ん。結構、昔の作品なのか。どうりで知らないわけだ。

カワチ:やっぱり知らないか……。この夏にTVアニメ化される『Fate/Apocrypha』の著者・東出祐一郎さんの出世作なんだがなぁ。

──その東出さんって人は、『あやかしびと』で有名になったってことなのかい?

カワチ:もともとは個人のWEBサイトで『吸血大殲』というクオリティの高い二次創作の小説を書いていた人だから、知る人ぞ知る作家さんだったんだけどな。やっぱり『あやかしびと』のヒットで注目を集めたといえるだろう。

──なるほど。ちょっと興味がわいてきたけど、この作品の何が人気の要因なんだ?

カワチ:『あやかしびと』は「人妖」と呼ばれる特殊能力を持った者たちのドラマを描いているんだけど、戦闘描写がとにかく格好いいんだよね。女の子たちも魅力的だが、戦う男キャラクターがまた素敵でねぇ。お前も同じ男として惚れちゃうかもな。
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──おいおい、ここはギャルゲーバーだろ! そんなこと言っていいのか?

カワチ:バカ野郎! 男キャラを魅力的に描いてこそのギャルゲーだろ!! いや、そりゃいちばん大事なのは女の子だけどさ……。ほら、セクシービデオだって絡む男優によって作品のクオリティがぜんぜん変わるでしょ?

──うーん。めっちゃわかりやすいんだけど、ちょっと頷きたくない例えだなそれ(苦笑)。

カワチ:女の子をナンパするのがメインのゲームだったら、男キャラクターは気にしないけどね。やっぱり学園伝奇モノである以上、男も魅力的じゃないといかん!

──わかった、わかったよ。それで、具体的にはどんなゲームなんだ?

カワチ:まず世界観。本作では第二次世界大戦後に、通常ではあり得ない力や容姿を持つ人間たちが世界中に現れるようになっていたんだ。これらは世間では病気と規定され、「人妖」と呼称されているわけだが……。

──ふーん、人妖ねぇ。
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カワチ:本当は病気じゃなくて、妖を先祖に持つ人間たちなんだけどな。そして各国の政府は、人妖病患者を、ありとあらゆる方法で取り締まっているんだ。でもって、物語の舞台は現代。主人公の武部涼一(たけべ りょういち)は、5歳のときに人妖能力で人を殺しかけてしまい、隔離島の病院に送られてしまう。

──ほほう……物騒な話だ。

カワチ:まぁ、殺しかけるといっても不可抗力なんだけどね。彼が外で遊んでいるときに変質者に目をつけられて追い回され、公園のジャングルジムに追い詰められた際に、遠い祖先から受け継いだ妖怪の血と力が覚醒してしまったのさ。無意識に発現した“付喪神(つくもがみ)”の能力によってジャングルジムは捻じ曲がり、変質者はズタズタにされてしまったと……。

──ひええ、想像するだけで怖い。かなり強い能力じゃないか。

カワチ:そんな涼一は、隔離された島で年上の女性である飯塚薫(いいづか かおる)と遊んだり、師匠である九鬼耀綱(くき ようこう)に九鬼流という武術を習ったり、一匹の狐である“すず”と仲良くなったりしながら過ごすことになる。

──なんだ。隔離といってもそこまで過酷ってわけではなさそうだな。

カワチ:だが、時は流れて十数年後、薫と九鬼は居なくなってしまうし、涼一はあるケンカの罰として体内に爆弾を埋め込まれることになる。これに限界を感じ、「島を出たい」と考える涼一の前にすずがやってきて、自分と一緒に逃げようとほのめかすんだ。

──や、やっぱ過酷だったわ……それで!?

カワチ:すずの言霊の力を使って島から脱出したふたりは、 如月双七(きさらぎ そうしち)、如月すずと名を変えて、人妖が人口のほとんどを占める「人妖都市・神沢」に潜り込む。そこでずっと憧れていた「普通の生活」を始めるふたりだが、そこに政府機関や邪な存在たちが命を狙いにやってきて……というストーリーだな。

──おぉ! おもしろそうじゃないか。

カワチ:だろ? ただ、このプロローグ部分がかなり長くてさ。ゆっくり読むと6時間ぐらいかかるんじゃないかな。島から脱走した双七たちが最初に出会う“おっちゃん”との交流もしっかり描かれるしね。本編が始まるまでに時間がかかる……つまり、なかなかバトルが始まらないんだな(笑)。
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──へぇ~。それはもうちょっと短くまとめたほうがよかったってこと?

カワチ:そういう意見もあるみたいだけど。俺は日常と非日常のギャップを描くなら、日常部分をしっかり描いたほうがいいと思っているから、これで正解だと思っている。ホラ、『ひぐらしのなく頃に』とかもそうじゃない。「嘘だッ!!!」って急に言われても怖くないもん。

──うーん。確かに日常パートの積み重ねがあるからこそ、非日常パートのインパクトがデカくなるって部分はあるか。

カワチ:『月姫』ってゲームを知ってるか? あれも本当は序盤の日常シーンをもっと長くする予定だったらしいぞ……ってこれは蛇足か。とにかく、物語はこんな感じでスタートする。本作はほかのゲームに漏れず、選んだヒロインによって物語が分かれていくんだけど、選んだルートごとにキャラクターの立ち位置が変わったりしておもしろいんだよな。あちらのルートでは敵だった人が、こちらのルートで味方になったり……はたまた新しい敵が出てきたりとかさ。

──なるほど。マジで興味が出てきたぜ。

カワチ:俺はこの『あやかしびと』に、東出祐一郎さんの“おもしろいものは全部詰め込んでやろう”という、初期衝動特有の気概が感じられて好きなんだ。

──初期衝動……初めてだから無我夢中って感じなわけか。それだけ濃密ってことだよね。

カワチ:じゃあ、そろそろメインのヒロインたちを簡単に紹介していこう。まずは如月すず。裏表のない性格だが、双七以外の人間には警戒心を抱いている。ほかのルートで双七が別の女の子とくっつくとやきもちを焼くんだが、それがまたカワイイ!
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──お、おう。

カワチ:続いて一乃谷刀子(いちのたに とうこ)。双七たちが通うことになる神沢学園の3年生で、先祖の妖怪は「牛鬼」。いわゆる怪力の持ち主だな。
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──怪力か……能力自体はわりとポピュラーだな。

カワチ:じつは彼女にはもうひとつ異能の力がある。それは、魂に彼女の兄の魂も同居しているというものだ。

──へ? さらっと言うけど、どういうこと!?

カワチ:刀子には一乃谷愁厳(いちのたに しゅうげん)という兄がいるんだが、彼とひとつの肉体を共有しているんだよ。

──二重人格ってことか?

カワチ:イメージとしては近いけど。入れ替わると外見も変わるから、やっぱりちょっと違うかな。

──それはすごい。

カワチ:続いてはトーニャ。ロシアからの留学生だ。彼女は人工的に生み出された人妖で、妖怪の名は「キキーモラ」。錘のついたヒモを自分の手足のように操ることができる。
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──めっちゃ美人さんじゃないか!

カワチ:ああ。彼女のルートに進むと、ロシアの特殊部隊と戦うことになる。ほかのルートとはガラリと雰囲気が変わるから驚くと思うぞ。
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──ほほぅ。

カワチ:続いて、さっきも話した飯塚薫。かつては双七の面倒を見ていた彼女だが、現在は警察では手におえないと判断された場合に出動する追跡部隊……第参種人妖追跡機関、通称「ドミニオン」の第十七戦闘隊隊長を務めている。端的に言えば、現在は双七を追う立場になっているんだな……。

──かつての知り合いが敵ってことかよ、しんどいな……。
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カワチ:ああ。このドミニオンには猟奇殺人鬼とか戦闘狂の破戒僧とか、ヤバいヤツが多いよ(笑)。ちなみに薫自身も人妖で、先祖の妖怪は「鎌鼬(かまいたち)」。真空を操作する能力を持っている。戦闘では拳銃「ハルピュイア」に真空の弾丸を込めて戦うんだ。
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──真空操作か……格好いいな。

カワチ:最後はコンシューマ版で追加されたヒロインの逢難(ほうなん)。九尾の狐“幻咬”の尾のひとつが意志を持った存在だ。もともとは敵として登場した人物だが、シナリオが追加されたことで違う一面が見られるようになった。……まぁ、こんなところかな。
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──ぶっちゃけ、どの女の子のストーリーも気になるよ。

カワチ:ほかにも魅力的なキャラクターがたくさん登場するから、ぜひゲームをプレイしてみてくれ。虚弱だけど不死身の愛野狩人(あいの かりと)とか、すごくいいキャラクターだぞ。
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──すごい名前だな。設定もムチャクチャだし、明らかにギャグキャラじゃないか!

カワチ:うむ。ただ、ギャグキャラや脇役キャラだと思っていた人物が意外な活躍を……むしろ生き様とすら言えるものを見せてくれるのが『あやかしびと』のすごいところ。プレイすればみんなのことを好きになると思うし、すずルートの切ないエンディングでは泣くと思うぞ。

──へえ。いったいどんなエンディングなんだ?

カワチ:双七とすずが……って、これはやめておこう。このルートは実際にプレイして確認してみてくれ。

──そんな! 気になるよ!!

カワチ:気になるなら遊べばいいだろ! それに、お前に紹介したいのは刀子のルートなんだ。

■「どちらかひとりしか生きられない」──悲しき運命を背負った兄と妹

カワチ:神沢学園の生徒会会長である一乃谷愁厳と、妹の刀子がひとつの肉体を共有していることはさっき説明したよな?

──あぁ。その設定には驚いたよ。
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カワチ:……じつは、その能力の代償にこの家系は総じて短命なんだ。生き永らえるためには、どちらか片方の魂を消さなければならない。

──なんだよそれ……。だって、兄妹なんだろ? 設定がヘビーすぎる……。

カワチ:ゲームをプレイしていない人間からすれば「愁厳が消えれば解決じゃん」なんて思うかもしれないが、彼もすごく魅力的な人間だからな。当然、プレイヤーからしてみればどっちにも消えて欲しくないと思ってしまうわけだ。

──なるほど。

カワチ:普段は優しく慎ましいけど、怒ると怖い刀子さんもカワイイけど、友人想いで照れ屋の愁厳もまたかわいくてなぁ(笑)。
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──まさか、マスターはそっちの趣味もあるのか!?

カワチ:いやいや(笑)。でも、男が惚れるタイプの男っているじゃない。先割れスプーンさんの声も格好いいしさ。

──え、今なんて?

カワチ:先割れスプーンさん。

──なんだよ、先割れスプーンって。

カワチ:愁厳役の声優さんだよ! エロゲーの男性声優さんにはこういう名前の人も多いの! 先割れチョップスティックさんとか、先割れ丼さんとかね!!

──先割れだらけじゃねーか! 余計気になるっつーの!!

カワチ:いや、俺も感動的なエンディングで先割れスプーンって出てくると正直気になっちゃうけどさ……って、話を戻すぞ。つらいのは、この兄妹がお互いのことを大事に思っていることなんだ。じつは、お互いがお互いのほうにこそ生き残って欲しいと望んでいる。

──マジかよ……。でも、それじゃ決着がつかないんじゃないか?

カワチ:ただ、とあるきっかけでその想いに変化が起きるんだ。刀子はなんでもできる兄が生きるべきとあきらめていた節があるんだが、双七と出会い惹かれていくうちに、彼ともっと一緒にいたい、死にたくないと思うようになるんだよ。

──……つまり、恋を知って死ぬのが怖くなってしまったわけか。
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カワチ:そして、その欲望を神社で封印していた逢難につけこまれ、体を乗っ取られてしまう。

──おいおい、大丈夫なのか!?
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カワチ:逢難は愁厳も取り込もうとするんだけど、激しい抵抗にあってな。そこにちょうどよく駆けつけた双七へと乗り移ってしまうんだ。

──なんだって? まさかの展開だなそれは!
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カワチ:そして双七は逢難に肉体を明け渡し、彼らを捕縛にきたドミニオンのメンバーを嬲り殺しにしてしまう。
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──ひええ……どうなっちまうんだ。

カワチ:……まるで暴走状態。自分をまったく制御できず、破滅していく。……どうだ、パチンコに取りつかれたときの自分に重ならないか?

──お、おう……ってそれは強引すぎるよ! まったく共感できないよ!! でもたしかにちょっと怖いな(苦笑)。

カワチ:さすがに今回は強引すぎたか(笑)。まぁ、話を続けるぞ。荒ぶる双七を救うために、刀子は「魂振りの儀」をおこなって、ふたたび逢難を自分の体に取り込む。
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──そ、それで?

カワチ:愁厳の助けもあって、刀子は逢難の駆逐に成功するよ。

──おぉ。よかった。
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カワチ:しかし愁厳の魂はその戦いによってボロボロになってしまい、最終的には妹の幸せを願いつつ消えていくんだ……。
──なんてこった。そんな結末ってあるかよ! 悲しすぎるぜ……。

カワチ:どうだ、これでわかっただろう?

──え? なにが?

カワチ:兄を失った刀子は愁厳の想いを引き継いで、自立して生きていくことになるんだよ。失ったものは大きかったけど、それでも誰を頼るでもなく、前を向いて進んでいかなければならないんだ。それが大人になるってことじゃないのか? だが、お前ときたらどうだ。

──うっ!

カワチ:安易にギャンブルに興じて散財し、困ったら誰かに頼る。それで自立しているといえるのか? よく考えてみるといいさ。

──マスター、なんとなく言いたいことはわかったよ。ギャンブルに挑もうっていうのなら、自制する心は大切だよな……。俺、自立できてなかったわ。

カワチ:まぁ、それがわかっただけでも違うと思うぜ。今日ぐらいは電車賃を出してやるが、次はないからな!?

──わかったよマスター。また来るわ。その時に電車賃はしっかり返すからさ。今日はありがとう!

カワチ:やれやれ……本当に大丈夫かな。
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テキスト:カワチ(Makoto Kawachi) 1981年生まれ。ライター。ビジュアルノベルに目がないと公言するが、本当は肌色が多けれななんでもいい系のビンビン♂ライター。女性声優とセクシー女優が大好き。
ツイッターアカウント→カワチ@kawapi

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