都会の喧騒から少し離れたところにひっそりと佇む"ギャルゲーBAR☆カワチ"。ここは、日々繰り広げられるコンクリートジャングルでの生存戦争に負けそうになっているメンズたちのピュアハートを、ゲーム好きのマスターが「ギャルゲートーク」で癒してくれるという、シシララTVオススメのゲームBARなのだ……。
そんな体裁でお送りするギャルゲーコラム。気になる第16回目のお客様の悩みと、その痛みを癒してくれるゲームとは?
第13回目のコラムはコチラ→『インタールード』
第14回目のコラムはコチラ→『True Love Story Summer Days, and yet...』
第15回目のコラムはコチラ→『つよきす ~Mighty Heart~』
■今回はギャルゲーBARではなく“キャルゲーBAR”が開店!?
カランカラン。
カワチ:いらっしゃい。
──マスター、ジントニックもらえるかな。
カワチ:もちろん。好きなジンはあるかい?
──お任せするよ。
カワチ:そうか。じゃあボンベイ・サファイアにするかな……。
──はぁ、やれやれ。どうしたもんか……。
カワチ:おいおいどうした、なんだそのわかりやすいため息。いきなり悩みごとか?
──ん? あぁ。わたしは週刊誌で記事編集の仕事をしているんだが、交流会で出会った別の会社の人に、今度創刊する新雑誌のスタッフに誘われていてね。デスクの役職を用意してくれるそうなんだが……。
カワチ:ヘッドハンティングってことか。確かデスクって編集を統括する役目だろ? いい話じゃないのかい?
──ああ、そうなんだけど、今やっている仕事がね。ずっと作家さんと一緒に頑張ってきた連載小説が、ついに書籍化できそうなんだよな。
カワチ:なるほど……それはタイミングが悪いな。で、どうすべきか迷っている……と。
──やっぱり、書籍は後任にバトンタッチして新しい編集部に行くべきだろうか……。
カワチ:……(コトッ)。
──これはゲーム……『リップルアイランド』?
カワチ:ああ。1988年にサンソフトから販売されたファミリーコンピューター用のアドベンチャーゲームだ。名作だぜ。自分でなかなか答えを出せないんなら、これをプレイしてみるのはどうだい。
──それはいいんだが……。名作と言ってもさすがに今ファミコンのゲームをプレイするのはキツイんじゃないか?
カワチ:まぁまぁ、温故知新っていうじゃないか。こいつはソフトにプレミア価格が付くぐらい人気があって、遊びたくても遊べなかった作品なんだぜ? 今はニンテンドー3DSのバーチャルコンソールや、ゲームアーカイブスで配信されている『メモリアル☆シリーズ サンソフト Vol.4』でダウンロード版がプレイできるようになっているから、敷居はグッと低くなっているけどな。
──へぇ、そうなのか。いい時代になったものだ。
カワチ:せっかくだから今日は『メモリアル☆シリーズ サンソフト Vol.4』版を使って、巨大なモニターでプレイしてみよう。ちなみに『メモリアル☆シリーズ サンソフト Vol.4』は、『リップルアイランド』だけでなく『超惑星戦記 メタファイト』もプレイできる。ヒロインのジェニファー・コルネットが可愛いから、こっちもオススメだぜ。
──そ、そうか。でもとりあえず今は『メタファイト』ではなく『リップルアイランド』について教えてくれ。
カワチ:ああ、ただ最初に断っておくと『リップルアイランド』は厳密にいうとギャルゲーじゃない。ほのぼの系のアドベンチャーなんだ。
──ほう。わたしは「ギャルゲーじゃないと嫌だ!」なんてことはないからまったく問題ないんだが……ここはギャルゲーBARなんだろう? むしろマスター的に問題はないのか?
カワチ:それが……じつのところ、ヒロインのキャルの可愛さが人気で、当時から普通にギャルゲー扱いされていたんだよな。むしろギャルゲーというより「キャルゲー」といえる。
──ダジャレか! ……って、まさかそれが言いたかっただけじゃないだろうな!?
カワチ:ふふふ、まぁいいじゃないか。今日はギャルゲーBARではなくキャルゲーBARとしゃれ込もうぜ。
──自由だなぁ、マスターは。
カワチ:ちなみにゲーム本編のキャルのイラストは、キリタン(KIRITAN)氏が手掛けられている。ゲームサイドVol.12という本の“わが青春のサンソフト”という記事によると、このキリタン氏、現在は消息不明になっているらしい。この特集を読んでいたら、ぜひ連絡してほしいものだが……。
──かわいいイラストじゃないか。今、キリタン氏が何をされているのか気になるね。
カワチ:ちなみに、コミック版などを手掛けられていたもりけん氏も大人気でな。俺はイベントでサインをもらったことがある。
──ただのミーハーじゃないか(苦笑)。
カワチ:このもりけん氏は同人活動もされているから、ファンは必見だぜ。今はダウンロードサイトで『リッ○ルアイランド ちょっとつづき』という作品も販売されている。
──なるほど。タイトルはオトナの事情というか、いろいろなものに配慮してのことだろうな。出版関係の仕事をしているからよくわかる(苦笑)。
カワチ:うむ。じゃあそろそろゲームの説明をしようか。『リップルアイランド』はアイコン選択式アドベンチャーゲームだ。まず「移動」や「見る」、「話す」といったアイコンを選択して、画面のなかの人や物にカーソルを合わせることで行動が実行できる。
──んー、ちょっとシステム的に古いというか、めんどくさいんじゃないのか(苦笑)。
カワチ:そう感じる人もいるだろうけど。この時代のアドベンチャーは「調べる」→「何を」→「机」みたいにコマンドで指定するものが多かったから、この「ビジュアル主体のスタイル」は低年齢向けで遊びやすかったんだぜ?
──あぁ、小さい子も遊べるのはいいね。
カワチ:ただ、難易度が低かったかというとそうではなくてな……。とにかく理不尽なんだよ。なんの変哲もない茂みを調べて木の実を手に入れるということを、ノーヒントでやらなければならなかったりとかな。
──昔のゲームならではの理不尽さだな。でも、ちょっと気になってきたよ。地道にコツコツやるのは嫌いじゃない。
カワチ:ならよかったよ。お爺さんに「赤い花を取ってきてくれ」と言われるイベントもひどいから見ものだぜ? 崖にある赤い花が必要かと思ったら、キツネから白い花をもらってそれを赤い実で着色して赤い花にするんだよ。詐欺じゃないか(笑)。
──赤い花は関係なかったのか。その手のひっかけ問題は、当時の子どもには難しそうだな。
カワチ:今からプレイする人は、素直に攻略サイトを見るのをオススメしたいね。
──―いやいや、本当に便利な時代になったもんだな。
カワチ:あと、面倒だったのはセーブがパスワード入力だったことだな。「あ~な」行しかないとはいえ、メモるのが面倒だった。
──なるほどね。
カワチ:その点、3DS版なら「まるごと保存」や「まるごと復元」を使ってサクサクとプレイできるからオススメだよ。
──システムのことはだいたいわかった。そろそろ、どういったストーリーのゲームなのか教えてもらえないか?
■王女を選ぶのか、それとも!? プレイヤーが選ぶ最後の選択は……!
カワチ:物語の舞台は人間と動物が共存する小さな島「リップルアイランド」。そこに闇の皇帝・ゲロゲールが現れて島の平和を乱しはじめ、リップルアイランドの王であるドテーラ王の一人娘、ナサレル姫を捕らえてしまうのさ。王はゲロゲールを倒したものには褒美と姫との婚約を約束するというお触れを出し、それを見た若者・カイルが一攫千金を夢見て旅に出かける……というのがプロローグだな。
──絵本のような世界だな。プレイヤーはカイルを操作していくわけか。
カワチ:まさにその通り。ほのぼのとした絵柄やストーリーが魅力のゲームさ。ドテーラ王がどてらのようなものを着ていたり、ゲロゲールがなぜか名古屋弁でしゃべったりと、さまざまなおとぼけ要素が盛り込まれていて和むんだよ。
──なんで名古屋なんだろうな……。
カワチ:わからん(笑)。そういえば、封印を解く呪文の「トモヨノダイピンポン」も意味不明だった。どうやら、当時流行していた原田知世さんが元ネタらしいんだけど(笑)。
──おお~、時事ネタってことね(笑)。
カワチ:ともかく絵本のような温かい雰囲気や臨場感のあるアニメーションなど、世界に引き込まれる要素はたっぷりあったわけさ。
──で、キャルとはどうやって出会うことになるんだ?
カワチ:ゲロゲールに家を破壊され、ひとりたたずんでいるキャルを見かけることが出会いのシーンとなる。そのCGがすごく印象的でな……。ファミコンでこんな表現が出来るんだと驚いたもんだよ。
──確かに、これは可愛いな。
カワチ:そうだろう、そうだろう。そんなキャルとカイルが力を合わせて、一緒にゲロゲール退治の旅に出るわけだな。ちなみに、このあとゲーム画面にはカイルではなく、キャルのセリフが表示されるようになる。
──ほう。
カワチ:でも冒険を進めるためにいろいろ調べていると「やめなさいよ」「だれも いるわけないじゃない」「いやよ きもちわるい」とか辛らつな言葉ばかり言ってくるんだよね、キャルって。正直、もうちょっと柔らかいニュアンスでしゃべって欲しかったよ……。ファミコンだからテキストに容量を割けなかったのかもしれないけど……。
──いきなりディスってないか?(苦笑) なら、マスターはキャルのどんなところに惚れたんだ?
カワチ:ちょいちょいカワイイところは見せてくれるんだけど、やっぱりエリア4クリア後に弱音を見せるところなんだよな。ここはビビッときたね。
──弱音?
カワチ:ああ、ゲロゲールの居城へ向かう船を手に入れたあと、その先に進むのが怖くなったキャルは「もう やめましょう カイルがやらなくても ほかのだれかが あいつを たおすわ」「このふねで ゲロゲールのてのとどかないところを さがしましょう。そして ふたりで しずかに くらしていこうよ! ね?」と提案してくるんだ。ここの本音で、いつも強気だったキャルも本当はかよわい女の子なんだな……と愛おしく感じてしまってさ。
──ギャップ萌えってヤツか! マスター、頬が緩んでるよ。
カワチ:おっと、すまない。ところで、じつはこの『リップルアイランド』は当時としてはめずらしいマルチエンディングを採用していてな。プレイヤーが「ゲロゲールと たたかう」「キャルと にげる」という選択肢を選べるんだ。
──えぇっ? 逃げるとどうなんるんだ!?
カワチ:ふたりはリップルアイランドから遠く離れた小島を発見し、そこでそれなりに幸せな人生を送ることになる。
──うーん。それなり……ねぇ。妥協しただけあって、なんだかバッドエンドっぽいな。
カワチ:自分はこのエンディングもコレはコレでアリだと思っているけどね。あと印象に残っているのは、やっぱりゲロゲールとの戦闘のときのキャルの行動だな。
──どういうことだ?
カワチ:ゲロゲールのところまで辿り着いたカイル。彼は冒険の途中で、ゲロゲールを倒す神器を手に入れたんだけど、その力を発動できずに負けそうになってしまうんだ。
──ごくり。
カワチ:ゲロゲールが最後の一撃を繰り出した、そのとき! なんとキャルが身を挺してカイルを守るんだ……。
──お、おぉ……なんという。
カワチ:なんの力も持っていないキャルが! カイルのために!!
──きっと一緒に旅をしていくうちに、彼に惚れていたってことだろうな……。
カワチ:ああ。キャルが傷つけられた怒りで神器の力を引き出したカイルは、見事ゲロゲールを撃退。ナサレル王女を救い出す。もちろん、キャルも命に別状はないから安心してくれ。
──そうかそうか。ならよかった。
カワチ:ちなみに、途中で神器を取り忘れているとカエルにされてしまったナサレル王女を人間に戻すことが出来ない(笑)。
──うおお、なんともシュールだな。
カワチ:カエルと結婚してエンディングってことだからなぁ。
──おいおい! もちろん別のエンディングがあるんだろ?
カワチ:ああ、神器があれば彼女を人間に戻すことが出来るよ。そして王様のところに戻ると、ナサレルといっしょになってこの島を治めてほしいと頼まれるのさ。
──玉の輿ってヤツだ。
カワチ:ここで「はい」を選ぶとナサレル王女と結ばれることになる。キャルばかり取り上げられがちな『リップルアイランド』だけど、ナサレルもかわいいんだよね。いいエンディングだよ。
──ああ、そうだな。
カワチ:だが、「いいえ」を選ぶことで断ることもできる。
──え? それはちょっともったいなさすぎないか? せっかくのチャンスなのに。
カワチ:キャルにも同じことを言われるよ。ただカイルはこう言うのさ。「すきでもないやつと いっしょになんかなれるかよ」と。
──ッ!! まぁ、ゲロゲールから救い出すまで面識はほとんどなかったわけだし、恋愛感情もくそもないってことか。
カワチ:そしてキャルにこれからどうするのか聞いたカイルは続けてこう言うんだ。「おれの むらに こいよ」って。
──それってつまり……。なるほどやるじゃないか、カイル。正直、俺はそっちのエンディングがあるのかないのか気になっていたんで、安心したよ。
カワチ:キャルがカイルに抱き着いて坂道を転がっていくエンディングムービーは、本当に鳥肌が立ったものだよ。これこそ、真のエンディングってことさ。
──カイルにとって大事なのは、交流もなにもなかった王女さまと結婚して玉の輿に乗ることじゃない。ずっといっしょに旅をして、ゲロゲールから身を挺して守ってくれたキャルだよな。これ以上ないエンディングじゃないか。
カワチ:……。
──ハッ!
カワチ:気付いてくれたか。
──そうか、そういうことか……。わたしは自分のことばかり考えていて、長年いっしょに作品を作り上げてきた作家さんの気持ちなんてちっとも考慮していなかった。
カワチ:それもひとつの選択肢、もちろん間違ってはいないと思うけどな。ただ、カイルの行動を見て、あんたも思うところがあったんじゃないのか?
──あぁ。おかげで自分が本当にどうしたいのか、ようやく気づくことができた気分だ。少なくとも書籍が完成するまでは、今の会社に残ろうと思えたよ。きっとそのほうが、後悔しないと思うからな。
カワチ:そうかい。そいつはよかった。
──ああ。本が出来たら真っ先にマスターのところに持ってくるよ。今日のお礼もかねてね。じゃあマスター、ごちそうさま。
カワチ:おう。次に来店してくれる日を楽しみに待ってるぜ。