【水月】メイドさんを想う心の強さが自らの戦う武器を教えてくれる【ギャルゲーBAR☆カワチ_第21回】
都会の喧騒から少し離れたところにひっそりと佇む"ギャルゲーBAR☆カワチ"。ここは、日々繰り広げられるコンクリートジャングルでの生存戦争に負けそうになっているメンズたちのピュアハートを、ゲーム好きのマスターが「ギャルゲートーク」で癒してくれるという、シシララTVオススメのゲームBARなのだ……。
第18回目のコラムはコチラ→『探偵オペラ ミルキィホームズ』
第19回目のコラムはコチラ→『シスタープリンセス』
第20回目のコラムはコチラ→『雪割りの花』

そんな体裁でお送りするギャルゲーコラム。気になる第21回目のお客様の悩みと、その痛みを癒してくれるゲームとは?

■『水月』はただの萌えではない! 「文学的ギャルゲー」とも呼ぶべきその魅力とは

──マスター、こんばんは!

カワチ:おっ、ラーメン屋んとこのせがれか! 久しぶりだな。親父さんが倒れてお店を継いだって聞いたけど、順調かい?

──あぁ、親父の作った秘伝のスープのおかげでね。

カワチ:それはよかった。安泰だな。

──いやー、それが近場にオシャレなラーメン屋さんが出来ちゃって。女性のお客さんにすごく人気っぽいんだよね。ウチも経営方針を見直したほうがいいのかなぁって悩んでるよ。

カワチ:うーん。大事なことだし、引退した親父さんに相談してみればいいじゃないか。

──もうとっくに相談したよ!(笑)

カワチ:あぁ、そうなのか(苦笑)。それでなんて言われたんだ?

──「この店はとっくにお前のものなんだから、お前の好きにしろ」だってさ。いかにも親父が言いそうなことだろ?

カワチ:ハッハッハ。相変わらず格好いい親父さんだな。久しぶりに会いたくなったよ。

──腰を悪くして引退したけど、本人は至って元気だよ。ぜひ家に顔を出してみてくれ。……って、親父のことはどうでもいいんだよ! なぁ、俺はどうすればいいと思う?

カワチ:ふむ。そのヒントはこのゲームの中にあるかもしれないな。
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──これはゲーム……『水月』?

カワチ:ああ、もともとは2002年にF&C FC01から発売されたアダルトゲームだ。まぁ、今回はコンシューマ移植版となるPlayStation2の『水月 ~迷心~』を使って紹介するけどね。アダルトシーンはなくなっているけど、基本的な内容は変わらないので安心してくれ。ちなみに「おい、『水月』と言えば放尿シーンだろ! わかってるだろうな?」っていう人もたくさんいるかと思うけど、今回はスルーする!! あえてね。

──アダルトゲームねぇ。ラーメンとちっとも関係なくない?

カワチ:はぁ。キミも経営者なんだから、もっと大局的に物事を見ないと。最初から「エロゲーだから」と決めつけるのはよくない。世のなか、どこにヒントがあるのかわからないんだから。

──うーん、それはまぁね。

カワチ:ふむ。さすがに「元々はエロゲー」と聞いて尻込みするか。ちゃんと魅力を解説してあげよう。

──じゃあお願いします。

カワチ:『水月』はキャラクターやグラフィックも人気だが、やはり特筆すべきはシナリオだと思っている。民俗学や哲学を含んだ物語が文学的で読んでいて引き込まれるんだよ。

──文学的な物語か、それはちょっと気になるね。ストーリーを教えてくれよ。

カワチ:ああ。舞台となるのは海と山に囲まれた田舎町で、主人公の瀬能 透矢(せのう とうや)が夢を見ているところからはじまる。彼はその夢から覚めるために、自分を旦那さまと呼ぶ少女を矢で射抜くんだ。

──夢の中ではとはいえ!? いきなり意味深だな。

カワチ:ああ。そうして彼が目を覚ますと、そこは病室なんだ。彼は交通事故にあって重体になっていたうえに、記憶まで失ってしまっていた。

──記憶喪失なの? いきなりめっちゃシリアスじゃん!
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カワチ:そうだな。そうなんだよな……。ねぇ、なんかこのギャルゲーBAR、記憶喪失ネタが多いかな? どう思う!?

──はぁ? 俺に言ってるのそれ? 正直わかんないよそんなの(笑)。

カワチ:あぁ……まぁいいか(笑)。そんななか、彼はみずからを自分のメイドだと名乗る琴乃宮 雪(ことのみや ゆき)や、友人の宮代 花梨(みやしろ かりん)に支えられて、少しずつ以前の生活へと戻っていく。

──専属のメイドさんがいるの? すごいねその設定(笑)。

カワチ:2002年当時は、メイドといえばこの雪さんというぐらいの人気だったんだぜ? ただ、透矢の記憶は依然として戻らないんだよ。また、一方で女の子を射抜く夢を見続けることにもなってな。

──ふーん。なんか、その夢が記憶のカギになりそうだね。

カワチ:おっ、察しがいいな。その後、いつもの日常に戻ろうとする透矢の前に、夢の中で射抜いた少女にそっくりな牧野 那波(まきの ななみ)が現れる。
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──えっ!? これは本気で気になってきた。いったい彼女は何者なの!?

カワチ:フフ、いい具合にハマってきたじゃないか。では、ストーリーはこれぐらいにしてヒロインたちを紹介しよう。

──なんだよ、いいところだったのに!

カワチ:お前さんがプレイする楽しみを奪うつもりはないんでね。さて、今から紹介するヒロインのキャラクターボイスだが、これはコンシューマ版の声優陣になる。もともと音声はなかったんだけど、移植のときに追加されたんだよね。さらにその後、DVD-PG用の18禁版も発売されたんだけど、そのキャストが気になる場合はネットで調べてみてくれ!

──マ、マスター、どこを向いてしゃべってるんだ? さっきも気になったんだけど、ここには俺とマスターしかいないだろ?

カワチ:あ、ああ。そうなんだけどな。たまにはこういうベタベタなヤツもやらせてくれよ。

──ええっ?

カワチ:おほん。じゃあ、まずは牧野那波から。CVは倖月美和さん。もともとは透矢の夢に現れていた少女で、実際に彼の前に現れることになる。彼女は盲目で目が見えないんだけど、普通に行動できるんだよね。古風で浮世離れしているところもある、どうにも不思議な女の子だな。
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──不思議ちゃんか。

カワチ:不思議ちゃんって言うとちょっとおバカっぽいイメージになっちゃうけどな。実際は全然そんなことはないよ。続いて琴乃宮 雪。CVは森山理来さん。透矢の世話をすることが生きがいのメイドだ。住み込みで働いているので家族同然なんだけど、本人はメイドであることにこだわっている。
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──ほほう。なんか設定だけ聞いていると男にとって都合のいいヒロインって感じだ(笑)。

カワチ:ああ。でもそこがいいんだよ……。雪さんは甘えさせ上手でな。今でいうバブみを感じて赤ちゃんのようになりたかったプレイヤーも多かったと思う。少なくとも俺はそうだった。

──気持ち悪いな! そのカミングアウトいる!?

カワチ:そんなことを言えるのはお前が雪さんを知らないからだからな!! まぁいい。続けるぞ。お次は宮代 花梨(みやしろ かりん)。主人公の幼なじみで神社の巫女をしている女の子だ。

──おぉ、幼なじみか。いいじゃないか!
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カワチ:ああ。普通はいちばん人気になってもおかしくない女の子だな。ただ、本作は雪さんの人気が高すぎるせいで、ちょっと影が薄いんだけど。

──えぇー。そうなのか。

カワチ:雪さんのバッドエンドに花梨のほうを選ぶというものがあるんだけど、それこそが本作の真のエンディングだっていう人もいるし、十分人気は高いよ。ギャルゲーって幼なじみヒロインの人気が振るわないことも少なくないんだけど、きっと最初から距離が近すぎるせいで、魅力に気付きにくいんじゃないかなと思う。

──まぁツンデレみたいな感じで、だんだん好きになっていくほうが記憶に残るかもしれないね。

カワチ:そうなんだよなー。さて、次だ。新城 和泉(しんじょう いずみ)。CVは友永朱音さんだ。透矢や花梨の友人でメガネをかけたドジッ娘だね。
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──ドジッ娘。見た目的に萌えキャラっぽいじゃないか!

カワチ:うーん、でも彼女もあまり人気は……。

──はぁ? そんなのばっかりかよ!?

カワチ:いや、『水月』は雪さんの人気がハンパなかったから、どうしてもほかのヒロインが割を食っちゃうんだよ(苦笑)。

──さっきも言ってたね、そんなこと。みんなどれだけ雪さんが好きなんだ……。

カワチ:ちなみに和泉の父親は地元の反対を押し切って町を開発する企業の会長なんだ。そのため、彼女はほかのヒロインのルートだと家出をしてしまい、それ以降は登場しなくなってしまう。救いたかったら彼女を大事にすることだ。まぁ、それはほかのヒロインにも言えることだけどね。

──なるほどね。

カワチ:さて、次は2人同時に紹介しよう。香坂(こうさか)アリス&マリア。CVはアリスが後藤邑子さんでマリアがあおきさやかさんだ。
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──双子なのか? これはまたロリロリッとした女の子だなぁ(笑)。

カワチ:そうだな(苦笑)。元がエロゲーだったからか、やっぱりそういう需要があったんだろうね。実際に彼女たちのシナリオはエロがメインだったから、コンシューマ版だと薄味になっちゃった部分はあるし。
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──生々しい話だな!

カワチ:まぁ可愛いことにはかわりがないからそこを楽しんでくれ! どうしても我慢できなくなったら、そのときはわかるよな……?

──PC版をプレイしろって言うんだろ? ただ、俺にはそういう趣味はないんだよなー。

カワチ:そうかー残念。次もロリッ娘なんだ。

──何人いるんだよ!

カワチ:いや、双子は2人でひとりみたいなものだから、実質2人だよ!

──どう考えても3人だと思うが。

カワチ:まぁいいじゃないか。3人目のロリッ娘で、本作最後のヒロインとなるのが、大和 鈴蘭(やまと すずらん)。CVはひと美さん。主人公の親友である大和 庄一(やまと しょういち)の妹で、元気で明るい女の子だな。
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──ふ~む。俺にそういう趣味はないが、可愛らしい女の子じゃないか。

カワチ:意固地に否定するね(苦笑)。まあ、コンシューマ版には18禁シーンがないから、逆に言うと安心してプレイできるともいえるな。ちなみに彼女の口癖である「わはー」はネットで大流行したよ。元ネタが『水月』と知らずに使っていた人も多いんじゃないかなぁ。そんな「わはー」も最近はちっとも見かけなくなってさみしいよ……。

──確かに。最近そんな書き込みはぜんぜん見ないね。
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カワチ:まぁ、2002年のゲームだからね(苦笑)。と、いうわけで『水月』のストーリーとヒロインたちを紹介してみたけど、どうだい?

──ああ、ストーリーも引き込まれるし女の子たちもかわいいし、かなり気になってきたよ。

カワチ:そうかそうか。じゃあここからはいつも通り、俺のお気に入りのヒロインを紹介してあげよう。

──いや、もういいよ。あとは自分でプレイするから。

カワチ:やだー! しゃべりたいの~!! 聞いてよぉ~!!!!

──ええ~。もう、面倒くさいマスターだな(苦笑)。

■甘え上手で甘えさせ上手! これが雪さんの破壊力だ!!

カワチ:いや、俺が語りたいだけじゃないんだよ。雪さんのことを語れば君の悩みを解決するヒントにもなると思うんだ。

──そうなの? じゃあ聞かせてもらうよ。

カワチ:きっと話を終えたころには、メイドさん好きになっていると思うぜ。

──メイドかぁ。正直ピンと来ないんだよなぁ。現実味がなくて。

カワチ:わかるよ。かつては俺もそうだった。でも雪さんと出会って変わったんだ。メイドのよさって、自分に尽くしてくれることなんだよな。献身的だったりとか一途だったりとか、そういう健気なところが最大の魅力なんだと思う。

──なるほどなぁ~。
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カワチ:あぁ……話してたら雪さんに会いたくなってきた……。もう閉店して『水月』やっていい?

──おい、アンタが話したいって言ったんだろ! まだ雪さんの魅力がまったく伝わってきてないぞ!!(笑)

カワチ:ごめんごめん(苦笑)。雪さんはとにかく甘えさせてくれるんだ。記憶が戻らなかったり、夢のせいで部活の弓道ができなかったりしても「大丈夫ですよ」、「雪がついています」って言ってくれるんだ。
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──それに甘えちゃうのは男としてどうなんだろうな(苦笑)。

カワチ:確かに。対する花梨は弓が引けるようになるまで一緒に練習をするストーリーになっている。成長物語としてはそっちが正しいよな。でも人間、疲れちゃうときもあるじゃん? 雪さんはそういう弱い部分も受け止めてくれるんだよ!

──うーん、確かに休息が必要なときもあるかも。

カワチ:寝ているときに頭を撫でてくれたり、暑い日に団扇で扇いでくれたり……雪さんの献身でどんどん自分がダメ人間になっていくことがわかるよ、でも、それがたまらなく心地いいんだ……。
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──そこまで熱弁されると、ちょっと気持ち悪いなぁ(苦笑)。

カワチ:それに雪さん自身も甘えん坊でな。彼女が熱を出したときのイベントとかよかったなぁ。あと、さみしくて透矢の布団で泣いちゃうシーンね! 彼女は涙で枕を濡らすんだけど、原作のPC版ではちょっとニュアンスが違うんだ。

──どういうシーンなんだ?
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カワチ:彼女が枕を濡らすことに変わりはない……。ただ、ここから先は大人の時間だ!  自分でプレイして確認してみてくれ!!

──わ、わかったよ。

カワチ:じゃあ、そろそろ核心の話をしていくよ。覚悟はいいかい?

──ああ。むしろ早くしてくれ。

カワチ:じつは雪さんは、主人公の透矢が作り出した幻なんだ。

──はぁ~~~~!? ウソだろ、いきなりぶっ込んできたな!

カワチ:詳しい説明は省くけど、この『水月』では世界は曖昧なものなんだ。そして、ちょっとしたきっかけで世界が変貌していく。んで、眠りから目覚めた透矢がいる世界は、いろいろな可能性が多様に重なっているんだ。

──難しい話だな。全然わかんねえ。

カワチ:母親がいない透矢が求めて作り出した母性の対象、それが雪さんだったんだ。でも彼女は不安定な存在だから、ある日消えてしまうんだよ。しかも、誰も彼女のことを覚えていない。
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──わぁ、ツラいなそれは!

カワチ:ちなみにバッドエンドでは、透矢でさえ雪さんのことを吹っ切って現実の仲間たちと生きていく道を選ぶというものなんだ。最初のほうに話したけど、このエンディングも評価が高いよ。主人公が物語を通じてきちんと成長するからね。でももちろん俺たちギャルゲーマーはそんな選択をしない! 雪さんの存在を最後まで信じ、彼女を追い求めるんだ!!

──まぁ、主人公まで彼女のことを忘れたら、彼女は本当に存在しないことになってしまうもんな……。

カワチ:これでわかっただろう?

──え?

カワチ:新しいラーメンを模索するのもいい。でも、これまでの味をないがしろにしたんじゃ、親父さんだって悲しむんじゃないのかな。この世でたったひとつの味を守っていくのも、ある意味君の使命なんじゃないのかい?

──そうだな……そうだった! 俺、ラーメン屋の今後のことを相談してたんだっけな。危うく忘れかけていたけど、今の話を聞いてちょっと思うところはあったよ。俺自身も常日頃から食べてきたあの味を、ほかならぬ俺が忘れることになるのは、なんだかしのびない。

カワチ:その判断、信じてみていいんじゃないのか。

──ああ。ありがとうマスター。マスターと雪さんに感謝しないといけないね。そうと決心したら、さっそく帰って仕込みをしなきゃ。また来るぜ!

カワチ:いいねぇ。今度、俺もラーメン食べさせてもらいに行くよ。頑張ってな!
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テキスト:カワチ(Makoto Kawachi) 1981年生まれ。ライター。ビジュアルノベルに目がないと公言するが、本当は肌色が多ければなんでもいい系のビンビン♂ライター。女性声優とセクシー女優が大好き。
ツイッターアカウント→カワチ@kawapi

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