都会の喧騒から少し離れたところにひっそりと佇む"ギャルゲーBAR☆カワチ"。ここは、日々繰り広げられるコンクリートジャングルでの生存戦争に負けそうになっているメンズたちのピュアハートを、ゲーム好きのマスターが「ギャルゲートーク」で癒してくれるという、シシララTVオススメのゲームBARなのだ……。
そんな体裁でお送りするギャルゲーコラム。気になる第24回目のお客様の悩みと、その痛みを癒してくれるゲームとは?
第21回目のコラムはコチラ→『水月』
第22回目のコラムはコチラ→『車輪の国、向日葵の少女』
第23回目のコラムはコチラ→『同級生2』
■プレイヤーの行動でキャラクターの立ち位置が変わる異色アドベンチャー
(カランカラン)
──うぅぅ。もうだめだ……。
カワチ:おう……今日も迷える子羊がやってきたか。
──マ、マスター。スト●ングゼロをください。今日は酔いたい気分なんです。
カワチ:ストロング●ロだとぉ!? BARに来てストロングゼ●を頼むヤツははじめてだぜ。まるで油のようだ。
──(あ、油?)……すみません! 自分は大学生なんですが、こういうところに来るのは初体験でして……。
カワチ:おいおい、未成年じゃないんだよな? まぁウチはギャルゲーBARだから未成年でもいいんだけど、その場合はお酒は出せないよ。
──大学4年生なので20歳は越えています。って、そうなんですよ! 自分、大学4年生なんです!!
カワチ:近いよ、急に詰め寄ってくるなって! 大学4年っていうことは、就職活動のピークなんじゃないか?
──はい。自分はゲームが好きなんでゲーム業界に入りたいと思っているんですけど、ぜんぜん内定が取れなくて……。も、もうお祈りされるのは嫌だー!
カワチ:う~ん、それはなかなかたいへんだな。
──あこがれのゲーム業界だったらなんでもいいと思って、なりふり構わず履歴書を送っているんですけど、箸にも棒にも引っかからなくて……。
カワチ:それで泣きそうな顔してお店に入ってきたわけか。
──家に帰ると親のプレッシャーがハンパなくて、もう今日はお酒を飲んで帰ろうと! う~ん、どうして面接に受からないんだろう。ちゃんと市場のデータや流行も押さえて、そのうえで自分が入社することのメリットをしゃべっているのに。熱くるしいだけの熱意を語るよりも説得力はあると思うんだけどなぁ……。
カワチ:なるほどな。そんなキミには●トロングゼロよりもいいモノがあるぜ。それがコイツさ。
──えっと……『サーカディア』? PSのゲームですか?
カワチ:なんだ。ゲーム業界志望なのに知らないのか?
──す、すみません!
カワチ:まぁ、ぶっちゃけマイナーなゲームだしね。それに知らないでいてくれたほうが、ギャルゲーマスターとしては腕が鳴るぜ。ちなみにこれまでこの作品を取り上げなかったのは、こいつをギャルゲーとして定義していいものか微妙だったからなんだけど、ゲームメディアであるインサイドで“
『初代プレステの名作/迷作ギャルゲー』7選―20年前の黄金期を振り返る”っていう特集記事に取り上げられていたし、だったらいいかなと思ってな。
──すごい飛躍した理論……。単純なギャルゲーってわけじゃないってことですか。
カワチ:ああ、出てくる仲間キャラの半分は男性だし、ギャルゲーっていうよりキャラゲーに近いかもかな。まぁ、俺はギャルゲーだと思ってプレイしていたがね。
──さすがギャルゲーマスターです!
カワチ:フッフフ……。で、この『サーカディア』だが、1999年にソニー・コンピュータエンタテインメント(現ソニー・インタラクティブエンタテインメント)から発売されたアドベンチャーゲームだ。
──ソニーのゲームなんですか? ソニーのギャルゲーってなんかすごいですね。
カワチ:ああ。だからゲームアーカイブスで配信されるのも早かった。もちろん今でもダウンロードできるから、最後まで話を聞いて気になったらチェックしてみてくれ。ちなみに企画・開発は株式会社アルヴィオン(※1999年当時は有限会社)で、ジャンルはアドベンチャープラスだ。
──プラス? アドベンチャープラスって!?
カワチ:基本は物語を読むゲームなんだけど、キャラクターと仲良くなるシミュレーション要素とか敵と戦うPRG要素、あとはミニゲームのパズルなんかもあるんだよね。アドベンチャーにプラス要素があるってわけ。
──おぉ、いろいろ豪華なんですね! 単刀直入なジャンル名のセンスも嫌いじゃないです。
カワチ:RPGパートに関しては、正直練りが足りない部分も目立ったけどね。お気に入りのキャラクターを育てるのが、そりゃあ楽しいゲームなんだよ。まぁでも、『サーカディア』のすごいところはそこだけじゃないんだが。
──え? というと!?
カワチ:順を追って話そう。まずは本作のストーリーからだ。本作の主人公は幼少期に両親を失って、叔父の茂(しげる)に育てられた片山弘樹(かたやまひろき)という。茂の仕事の都合で転校を繰り返している彼は、海底都市であるブルージェネシスにやってきたんだが、そこで謎の怪物であるナイトメアに襲われてしまう。
──海底都市? 謎の怪物? いきなり急展開だなぁ。
カワチ:弘樹はそこで、物質界を救うために精神世界の“サーカディア”からやってきたという高次元意識体・ナビと合体する。そうして一命をとりとめた彼は、超能力者として覚醒するってわけだ。
──おお……。SFっぽいストーリーなんですねぇ。
カワチ:ああ、そうだな。そのあと、弘樹はナイトメアと戦うために自分と同様に覚醒した仲間を捜すことになる。ちなみに、主人公の声は檜山修之さん。『雪割りの花』もそうだったけど、檜山さんにしては比較的めずらしいおとなしめのキャラクターの芝居を見ることができるよ。
──へぇ! おもしろそうなストーリーですね。
カワチ:ああ、覚醒した人間もクールな外科医や箱入り娘のお嬢さま、フリーのカメラマンだったりと個性豊かだよ。声優陣も田中真弓さんや井上和彦さん、緑川光さん、置鮎龍太郎さん、井上喜久子さん……ゲーム好きならすぐわかると思うけど、超豪華なんだよね。ちなみにナビの声は高山みなみさんだよ。
──おぉ、大御所ばっかりですごい。
カワチ:ちなみに個性的なキャラクターばかりそろっている『サーカディア』だけど、いちばんの萌えキャラは茂おじさんだったりする(苦笑)。
──えぇ!? ギャルゲーマスターとしてそれはアリなんですか?
カワチ:いやぁ、ゲームをプレイしてもらえればわかるんだけど、すごいズボラでおもしろいんだよ。オカルト雑誌の「うむ」で記事を書いているルポライターで、いいかげんなところも多いんだけど憎めないっていうか。
──サブキャラが個性的というのは、名作に必須の部分ですよね。
カワチ:で、話を戻すと本作には14人の仲間キャラクターがいるんだ。自動的に知り合いになることもあるけど、だいたいはフリームーブモードのマップを選んで会いに行くことになる。
──ほほう。みんながみんな個性的だというなら、できれば全員仲間にしたい。
カワチ:そう思うだろ? ただ、本作には覚醒イベントとイデアイベントっていうのがあってね。覚醒イベントは知り合った友人と協力関係になる内容で、ナイトメアとの戦闘に参加してもらえるようになるもの。そうして覚醒したキャラクターと仲よくなると、イデアイベントが発生する。これはナイトメアに寄生された仲間の精神世界に乗り込んで救出するイベントだ。よりキャラクターの持つ内面やトラウマがわかる内容で、このイベントをクリアした仲間は最終決戦にも参加してくれるようになり、エンディングにも登場するんだ。
──なるほど。その言い方から察するに、イベントになんらかの制限があるわけですか?
カワチ:鋭いな。じつは誰かのイデアイベントをクリアすると、超能力は覚醒しているけどイデアイベントをクリアしていない仲間のうち、もっとも友好度の低いキャラクターがナイトメアに自我を奪われてしまうイベントが発生してね。そのキャラは最終決戦で戦って倒さなければならなくなる。
──えぇ!? その人はもう救えないんですか!
カワチ:ああ。完全に乗っ取られているから倒すしかない。もちろん超能力者同士で知り合いや友達もいるから、彼らが戦うシーンは重いんだよね。救えなかったメンバーは2周目のプレイで救うしかないんだけど、そうなると1周目で一緒に戦ったメンバーを敵に回すしかないわけで……。
──うわぁああああ! お、重い!!
カワチ:まぁ、あえてひとりも仲間にせずにクリアする方法もあるけどね。やっぱり能力者同士の総力戦が熱いから、ぜひ体験してもらいたいところだ。
──わかりました。
カワチ:ちなみにこれからプレイしようっていう人には、混乱系の技を持つ桐生院深雪(きりゅういんみゆき)と桐生院綾彦(きりゅういんあやひこ)の兄妹を仲間にするのをオススメしておく。本作では体力ゲージである「PP」を消費して攻撃も行うので、相手を自滅させる戦略がいいんだよね。逆にこの兄妹を敵に回してしまうと、結構ツラい戦いを強いられる。
──参考にします!
カワチ:とはいえ、そこまで大きな性能差はないから、基本は好きなキャラクターでいいと思うけどな。
──わかりました。じゃあ、家に帰ってさっそくプレイしたいと思います!
カワチ:そうしてくれ……って、ちょっ! 待てよ!! まだなんで俺がこのゲームをキミにオススメしたのか説明してないだろ! ちゃんと語らせてよ!
──あ、すみません。自分のなかでもうプレイすることは確定したんで、つい……。
カワチ:さすがはゲーマーってところだな。でもこっちだってギャルゲーマスターだ!! 今回もヒロインのことをたっぷり語らせてもらうぜ!
■才能に悩む少女が心の奥底から見つけ出した答えとは?
カワチ:今回『サーカディア』を紹介したのは、ヒロインのひとりである杉浦泉(すぎうらいずみ)と今のキミが重なったからなんだ。
──へぇ……彼女はどんなキャラクターなんですか?
カワチ:音楽科に所属していて、ミュージシャンを目指している女の子さ。演じているのは安達忍さんだ。
──へぇ、ミュージシャン志望。僕と全然違いますけど……。
カワチ:ライブハウスでバンド活動に励んでいるよ。性格的には勝ち気で意地っ張りなんだけど、仲がよくなると意外と素直なところや繊細なところをみせてくれて、そのギャップが可愛いんだよね!
──うわー、マスターのテンションがいきなり上がった!(笑)
カワチ:オススメはいちばん友好度が高いときに見られるイベントだな。彼女はタロット占いが得意なんだけど、相性占いをしてもらうと自分がいちばんだとわかって、めちゃくちゃ照れるんだよね。そのあとにうれしそうな顔を見せるのがまたいいんだよ~。
──マスター、顔がゆるんでます!
カワチ:あとね、あとね、最終決戦前に仲間になったキャラクターが家に集合するイベントがあるんだけど、いちばん友好度が高い女の子が夕飯を作ってくれるんだ。泉さんの場合はハンバーグなんだけど、彼女は普段料理なんてしないから、ぶっちゃけ生焼けなんだよね。でも、その不器用な感じがいい! 料理が得意な優美ちゃんが作った美味しいハンバーグよりも、泉さんの生焼けハンバーグを推すね、俺は!
──ちょっとマスターの唾が飛んでくるんですけど……。た、確かに男ならイチコロのシチュエーションですよね。
カワチ:ああ。後輩の麻衣ちゃんとか先輩の智美さんとかも破壊力抜群のイベントがあるんだけど、やっぱり俺は泉さんを推すね! ほかのヒロインがほのめかすだけなのに対して、泉はきちんと「好きだ」と告白してくるのもまたよし。
──なるほど。で、そろそろ自分と泉が似ているっていう部分を……。
カワチ:ああ、本題に入ろう。プロデビューを目指す泉さんはライブハウスにやってきたプロデューサーに認められようと曲を作るんだ。しかし、なかなかうまくいかない。そこで彼女は流行を取り入れた曲を作ることにする……。
──自分を曲げる、と? それでどうなるんですか!?
カワチ:曲に個性がないと、やっぱりダメ出しを受けてしまうんだ。傷心する泉さんだが、さらにタイミング悪くナイトメアに襲われ、寄生されてしまってね。
──あわわ。たいへんだ!
カワチ:弘樹は泉さんのサーカディアへと入る。そこで聴こえてくるピアノの音を頼りに彼女を見つけ出し、ナイトメアを倒すんだ。
──おぉ、よかった! でもその音ってなんだったんでしょう。
カワチ:それは彼女がはじめて作った曲でね。彼女はそれで思い出すことになる。自分がかつて楽しんで曲を作っていたこと、対して今は流行ばかりを気にしてしまっていたことをね。
──そうですか……。
カワチ:意識を取り戻した彼女はもういちど自分の曲を聴いてもらうようにプロデューサーに会いに行く。ちゃんと自分を見つめ直してね。
──自分を見つめ直して……。マスターが言いたいこと、わかってきました。
カワチ:そいつはよかった。内定が決まらずに焦る気持ちもわかる。面接のマナーを勉強しているのも偉いよ。ただ、なぜゲーム業界に入りたかったのか。もう一度自分自身のことを振り返ってみれば、キミならきっと大丈夫さ。
──確かにちょっと焦りすぎていたのかもしれません。自分がなぜゲーム会社を受けるのか、受かったあとにどうしたいのか。じっくり考えてみます。マスター、ありがとうございました。
カワチ:ああ、就職が決まったらお祝いされてくれよ。またな。